29.デート・ア・トラクト さあ、僕たちの勝負を始めましょう編
28話の続きです!
早乙女愛莉。彼女は確実にこのデートで勝負を仕掛けるつもりだ。何故なら服装が制服ではなかったからだ。7月の上旬の今、この地は未だに梅雨前線が横断している。そんな天候が曖昧なこの時期に彼女はなんと白の、それもウエストが絞られているノースリーブワンピースを着てやってきたのだ。
一見、梅雨が続いて夏をまだ迎えていないこの時期に適する服装と思わないかもしれない。しかし今日の天気が彼女を味方する。
実は今日の1時間毎のピンポイント天気予報において今日の雨は午後4時にぴったりと止むと出ている。すると何が起こるのか?
答えは薄明光線である。太陽が雲に隠れているとき、雲の切れ間あるいは端から光が漏れ、光線の柱が放射状に地上へ降り注いで見える現象。それを利用して、彼女はノースリーブワンピースの白さを際立たせているのだ。その様はまさに薄明光線の別名として知られている、『ゴッドレイ』に相応しいくらいの輝きを帯びていて、キレイに見えるボディラインをより丁度いいくらいに強調させている。
そしてスカートはひざ丈まででありこれもまた足の細長い脚線美を訴え、しかも履いているのは防水サンダル。これらは敢えて濡れても良い格好をすることで、相手をこれから起こることに想像を膨らませる方向へと誘導する、いわばトラップ的な要素を兼ね備えている。
まさに対男子用迎撃装置として相応しい、計算し尽くされたデート服であろう。僕を除いた男子どもはな!
「時間は大丈夫だった?」(さぁ、初撃はどうかしら?)
この場合、彼女の求めるものは『動揺』であろう。その証拠に僅かながら脇をしめてより体のラインというものを強調してきている。そう、デートという名の勝負は既に始まっているのだ。
「大丈夫だ。問題ない。...そして非常なまでに繊細なデート服をしているな。」
「へぇ~。具体的にはどのポイントが気に入ったのかな?」(さらに、SUICA攻撃!)
愛莉はそう言うと、くるっとその場で一回転する。
恐ろしく気付きにくいチラリズム!僕でなきゃ見逃すだろうな...!!何故なら普通の男子なら、デート服で意表を突かれて相手を注視する余裕をなくすからだ。
見てほしい所を見逃していくと次第に相手側は『自分のことをちゃんと見てくれていないんだ』と幻滅するだろう。このレベルは少々難易度は高いだろうけれど。
...ここは別のベクトルで褒めちぎろう。デート服は女性にとって、選びに選び抜いた苦悩の表在化だ。無難な評価を下すよりも、ここは評論家じみてるくらいの褒め方をするくらいが丁度いい。相手があの落と女神ならなおさらだ。
数学でも完答まではいかなくても、部分点を貰って嬉しいことがあるだろう。つまりは、
「そうだな。まず天気の効果を巧みに利用している所が素晴らしいかな。普通、この梅雨の時期のデートの服装だと泥はねや雨を考慮した生地の色の服装を選ぶだろう。少なくとも濃い色をしたものを着てくる筈だ。しかしながらこの時間が雨上がりの時刻だと予め踏んでいたためか調べてきたためか、雲から漏れ出す陽光という相乗効果を狙おうとする意志が伺える。デートをする相手のためにここまで考えてくれることは称賛に値する。僕もデート冥利に尽きるというものだよ。」
「ふぇ!?ちょ、待っ」
デートの服装より、無限に近い選択肢から最適解を選ぼうとする姿勢や意識しているポイントなどの過程を褒めちぎる。答よりもその導き方を、業績よりも日々の努力を評価してもらえた方が相手は嬉しいに決まっている。意表を突く攻撃に有効なのは...それを上回る意表を突く攻撃だ!!!
これにより、デート相手の異性の頬に簡単に赤色の楕円を描くことが出来る。ほら、愛莉もドギマギした様子で慌てふためいている。
というより、今まで落とした男子どもはそういうことをしなかったのか?いや、しなかったんだろうな。じゃなければ、こんな風に皆の前でふしぎなおどりをするほどに動揺することはない筈だ。
ひがしやまけいまのほめちぎり!
こうかはばつぐんだ!
そこに更なる攻撃を加える!
「そしてスカートの丈もひざくらいまでに、履物もサンダルにとどめているだろう。その狙いは」
「あー。あそこの喫茶店に行きたいなー。ほら、ケーキとかクレープとかいろいろあるから食べたいかなー。」思考回路ショート中につき棒読み
ああ。彼女の中ではこの役を演じるのは僕だった筈なのに。男性の心の操り方を熟知している落と女神も、不測の事態が起こってしまうとこうもハプニングを起こすものだろうか...。僕の服装に対するツッコミもすっかりと忘れてしまっている。普段はつけることのないメガネくらいはツッコんでくれてもよいのに...。
ともかく、最初の勝負はこっちの圧勝だったな。空からの光が今は僕の序盤戦の勝利を祝福する福音へと見えた。ただそれと引き換えに『乙女神に落とされ隊』の隊員と思わしき周囲の人は、なんか驚愕したような目で見ている。それはそれで怖いんだが。
「最初からスイーツって、飛ばし過ぎていないか...?」
「いいの!スイーツ関連は別腹なの!食べたいものくらい食べさせなさい!」(もう!もう!もう!なんでこんな風になるのよ!頭がクラクラする!こうなったらアイツの財布を空にしてやるんだから!でも...何だろう?不思議と嫌な気分じゃない。寧ろ嬉しい気持ち...かも?いやいやいや、駄目!駄目なんだから!エネミーに落ちるとかあってはならないんだから!)
「...了解しました!マイマスター。」
まだまだデートは始まったばかり。周りにも少々、いや大多数から『乙女神に落とされ隊』の刑がするだろうが、変装のおかげでまだバレてはいない感じだ。そういえば、愛莉に誘惑されても帽子には異常は見られなかったな。まぁ、警戒するに越したことはないだろう。
僕は幾つかの不安を抱えながらも、愛莉の後ろをついていった。
◇◇◇
あ。前話に引き続き、やせいのセーラー・月・ナレーターが現れた。
「落と女神、愛莉。乙浜高校より現れ出ずる謎の少女。その無垢なる別腹に断固抗うか、愛を以て食べさせるのか。今、桂馬の胃袋が試される。」
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