1.転校生が来るぞ、気をつけろ
しばらくは短編版と展開は同じになりますかな...。
「今日も設定した時間より10分早く起きてしまった。」
今朝はピピピッというアラーム音とともに起きず、10分というボーナスを残して目を覚ました。アラームの設定時間を延長して二度寝でもしようかと一瞬思ったけれど、そこは気合で何とか乗り切った。
何故かと言えば、僕が学生寮で暮らし始めて早1年の学生で、親の手を借りずに登校に間に合わなければならないからだ。それに僕は二度寝を決めて、1限目をすっぽかしてしまった苦い経験がある。体がそれを染みこんでしまったのか、この日以降は二度寝をしないように努力をするようになった。
制服に着替え、いつものように寮の入り口の自動販売機でブラックコーヒーを買っていると後ろから声がかかる。
「よう、親友。」
「おはよう。西村くん。」
「今日も相変わらず寂れた顔をしているな。」
「一言余計だ。」
彼は西村慧。僕こと東山桂馬の数少ない学友の一人だ。いや、現時点での唯一の友人である。
彼とは入学式の時に学校に遅く残った時に昇降口で知り合い、そのまま話が合ってからの付き合いだ。
「それで数学の所なんだけど」
僕達は通学路を通りながら他愛もない勉強話をする。僕達は勉強好きという特殊な趣味を持つ者達で、言うなれば趣味が合ってできた2人組だ。周りからはよく変人と呼ばれるが、僕にとっては勉強に没頭できる時間、そして愚痴を言い合う程の友さえいれば良いと思っているので気にはしていないし、それだけで充実した学校生活を送っていると自負している。
しかし、親にそのことを話すと
『この調子で彼女ができるかなぁ~。お父さんは心配になるよ。』
『私たちは高校で知り合ったのにねぇ~。』
『はっはっはっ。廊下で食パンくわえながら俺の胸にダイブしてきたのはどこの誰だったかな~。』
『いやんあなたぁ~。』
と何故かイチャイチャし始める。いや、高校生の時点で恋愛とかは早すぎる。よしんばなったとしても、進学や就職で遠距離恋愛になる危険性がある。最悪、自然的に消滅とかなったら一生もののトラウマだ。そもそも恋愛については今まで興味を抱いたことはなく、これからもそんなふうに過ごしていくだろう。恋愛よりも優先してしまうものがある限りは。
「ああ、そういえば今日は我が南海高校に転校生が来るらしいぜ。」
だが今日は勉強の話以外にもトピックスがあるようだ。僕はこれでも情報収集に乏しいアナログ派で、ノートや本なら僕が一枚上手である。これに対し、西村はデジタル派で、彼はインターネット関連についてはこの学校の右に出る者はいない。僕が逆立ちしたとしても手に入らない彼の特性の一つと言えよう。そんな彼は最新の情報を一番にゲットする情報収集力を持ち合わせている。どうやってその収集能力を獲得したかは僕の中での永遠の疑問点である。
「転校生?こんな6月の微妙な時期に...。」
「な?謎だと思うだろ?俺の情報の中ではまず珍しい転校例だ。と言われても、その転校生は俺たち男子高校生ならば誰しも知っているアイドルなんだけどな。」
「興味ないね。」
「アナロガーは恋愛につれませんなー。俺をも落とす女神様だってのに。ま、告白して玉砕したけれどな。あれはビターチョコレートくらいの苦い青春の一時だったぜ。」
あの西村をも落とすならば、それはそれは美しい女神様なのだろう。しみじみと過去の世界にと飛び立つ親友を見つつも、自分にとっては縁もゆかりもない話として僕の頭は処理していった。
「そんなだから、みんなに『お前の彼女はシャーペンシル』なんて言われるんだって。」
「だから一言余計だ。僕はいたってノーマルだ。余分な情報を付け足さんでもよい。」
梅雨の降る横断歩道を渡り、僕達は学校の門を通る。木製の板は梅雨の雨水で濡れ、上履きのような水に弱い靴は下手をすれば水気を帯びてしまう。今日一日はテンションがどことなく下がる一日を予感しそうなものだった。
「転校生はあの乙浜からだぜ。」
「マジかよ!?隣町の有名校じゃねぇか。」
「しかもあの女神様だそうだ。」
「ヒャッハー。俺、今日の授業が終わったら告白するぜ。」
「やめとけ。やめとけ。あいつは高嶺の花すぎるんだ。」
「そうかな。やってみなきゃ分かんねぇぜ。」
「乗るしかない このゴッドウェーブに!」
今日の学校は一時的なお祭り騒ぎだった。あっちにいってもこっちにいっても転校生の話だらけだった。珍しい出来事に舞い上がってしまう気持ちは分からなくもない。
しかしだ。出来るならば教室の扉の前で陣取るのは止めてほしい。女神様を拝みたい気持ちはやまやまだと思うが、ご通行の方たちの意志を可能な限りでいいので汲み取ってもらいたい。見積れば、
迷惑:困惑:プラスのなにか=5:5:0
という状態である。
僕達は何とか興味半分下心半分の人垣を越えていつものように席へとこぎつける。周りを見ると、男子で構成された垣根とそれを見てヒソヒソ話をする女子、そしていつものように駄弁る僕達と3つに分かれていた。
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