25.勉強部侵食リアルホラーにしみや
残りの6月が事後処理に消えて早1日。最低でも夏休みまでにはかかるとみこまれていたこの後始末も、西宮家の援助により7月始めには終わり、僕はようやくバイト持ちの普通の高校生へと戻ることが出来ました。
そして、遂に来てしまった7月。梅雨も明ける月。学生は来月に来る輝かしい夏に向けてラストスパートをきる月。ある人は、梅雨でかなりお世話になった傘とか雨具には完全とまではいかないが、バイバイする必要だって出てくるだろう。
そんな7月の南海高校のメインイベントは1つ。それは、全部活が活動休止になるほどのビックイベント。学校生活にとって熱気を込めなければいけない超重要案件。それは
期末試験である。今年の6月は2大イレギュラーが介入して普通ではない高校生活となったが、この月は絶対に普通なものにしてみせるぞ!
ふふふっ。今月はアルバイトでお金も入るからな。夏休みは少し遠出した場所で勉強するのも悪くはないだろう。よし、今年の夏休みはその線で行こう!
さて、現実に戻そう。僕達は現在、テスト勉強に向けて勉強部の活動場所で期末試験の勉強をしている。そこは更に西宮家の侵食が進んだのか、ヒノキの床は井草の香る畳に張り替られ、ポリ合板の閲覧テーブルは座卓に、ブナ製の閲覧椅子は座椅子や座布団に差し替えられている。
単純に言って、この勉強部だけが学校からは全くかけ離れた空間になってしまっている。
「桂馬はん。横になりたいさかい後ろから抱きかかえとぉくれやす。」
「了~解~。」トオイメー
僕は後ろへと倒れ掛かる一姫へと回り込み、リクライニングシートの背もたれ代わりに支えていく。誰も知らない人からは普通にイチャイチャしているように見えるかもしれないが、実際はアルバイト。西宮家護衛部隊八番隊隊長、お付き担当の仕事である。
え?お付きは七番隊隊長である北七さんの担当だったんじゃないかって?彼女は元々隠密担当で、お付きは兼任でやっていたに過ぎなかったという。そして僕という新しい部隊が6月に出来たため、そのお付きをこっちに回したんだそうだ。勿論、この担当を決めたのは一姫本人で今こうしてお付きという名目で彼女は僕にやりたい放題しているわけだ。
「ねぇ、あなた達は何しているの?一応ここにリクライニング機能付きの座椅子があるんだけど。」(今日も邪魔が入る!というより、バイトの姿か?これが...。)
そんな一姫と僕の所に待ったの声がかかる。乙女神で落と女神の異名を持つ早乙女愛莉である。彼女とは転校当日からなんだかんだ言って半月の付き合いである。付き合いといっても交際の方ではないから悪しからず。
「あれぇ~?そんなんいつのあいさに用意しとったんでっしゃろか?うちはこの部屋についてあまり知らへんさかい分からへんかったで。」(どうや?羨ましいやろ?『黄金の黒騎士』の正体すらろくに掴めへん奴が桂馬はんを誘惑するんとちがう!)
え?ちょっ?体をグルリと回すな!?おい、ついには東山桂馬という名の座椅子の背もたれに抱き着きにいったぞ!
「なぁ、この状態はいつまで保っていればいい?僕としてはそろそろ自席に戻って勉強を再開したいんだが。」
僕はこれ以上、愛莉を刺激するとマズイことになると思い、一姫にどうにか命令の停止を申し出る。一姫はそれを受け、耳元に囁く。
「おや?あかんえ~。もし席に戻りたかったら、桂馬はんのハジメテをうちに捧げてほしいかな~。」
「ご主人様。その命令は雇用内容をオーバーしますのでノーカンにさせていただきます。」
「あーもーイケんと~。イケずやで~。」
言った筈だ。お付きというのは『徒弟制度などの育成の仕組みがある業界や組織で、常に師匠や先輩、上司など上位の者に付いて、身の回りの雑務をする係』だ。キスとか結婚みたいな恋人関係になって始めて許されることはもうお付きの仕事の範疇を超えている。なので、その命令は無効だ。
「もう。桂馬はんは徹底してるなぁ~。」(どうしたらさりげのうハジメテを奪えるんかいなぁ~?)
思考にツッコミするようで悪いが、高校の僕にはファーストなキスも恋愛もありえへんからな。それに、ハグまで許している時点で充分に妥協をしてあげているんだぞ?これ、重要!!!
「ウフ。」(チャーンス♡)
そしていつものパターンだと今度は一姫と双璧をなすイレギュラーが仕掛けにかかる。
「あっ、ごめん。消しゴム落ちちゃった!」(拾って!拾って!!さぁ、早く!!!)
成程。あの西宮家での勢いはお酒のような特異的ななにかを借りて初めて発揮できる火事場の力のようだったな。取りあえず、高校生の間にあんな勢いを発揮することはないだろう。その証拠に、毎日の学校ではあのような勢いを感じられないからだ。それにな、
「はい、愛ちゃん。消しゴムを拾いました。」
僕の親友兼同僚がしっかりと堤防の役割をしてくれている。ふっ、西村。やはりお前は僕の一番の友だよ。お前とは今後ともよろしくやっていけそうだぜ。
「あ、ありがとう。ア、アハハ。」(この野郎!)
愛莉の西村に対する好感度を墓地に捨てて、僕の西村に対する親密度を存分に上げていってね。
「あ、そうだ。俺、こんなもの持って来たんだけど今から皆でヤラナイカ?」
最後の部分をカタカナに変えるな!最後の部分をいい男のようにイケボで囁くな!
それはそうと、筒に入った4つの割りばしか。まあ大方、次の展開は予想出来ている。断固拒否させていただこう。
「西村。今は勉強ちゅ」
「やりましょう。息抜きに。」
「やりまひょか。息抜きに。」
「はい。多数決で王様ゲーム開催決定で。」
どうやら、僕の西村に対する親密度は100から0へと急降下したみたいだ。
と言うわけで本日の18:00、王様ゲーム開催!
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