17.ONE PRINCESS FILM LEAD
東山桂馬がテイザー銃により気絶している間、学校のグラウンドでは反乱が見事に鎮圧されていた。
「もしもし、こちら北七。鼠どもの始末は終えました。...お嬢の方は...なるほど...既にそちらへとお戻りになられましたか。」
私の名前は北七陽葵。一姫お嬢の栄誉あるお付きをしている。そして先ほどまで、西村率いるレジスタンスを殲滅し終え、こうしてお嬢にご報告しています。騎士様は早速、西宮家の洗礼(玄関のテーザー銃)を受けて気絶をしているようです。まぁ、初見のほとんどは引っかかるトラップなので仕方が無いでしょう。
「え?東山桂馬の力を見極める!?当主様自らが!?...我々は西村をこちらの方への護送を...。了解しました。」
どうやら2年10か月前の拉致事件を通して目に留まったのは我々だけではないようです。だからこそあの事件の後、『黄金の黒騎士』がいる北中出身の私がその尻尾を必死に掴んだ甲斐があるものです。
隠密担当である私でさえ、その正体を掴むのに骨が折れましたが...。
「うぐぐぐぐ。本当に戦いを終わらせることがあるかよ?」
「おや。まだ息の根があるようですね。さすがは物理と生命力は軒並み外れていることで。」
「し、親友はこれからどうなるんでい?さっきの会話から察するに、もう西宮家に迎えられたみたいだな。...本当はそれを阻止したいためにアイツと愛莉をくっつけさせたかったんだがなぁ。」
「無駄ですよ。あの御方がお嬢に気に入られた瞬間にこうなる運命にあるのです。西宮家は『欲しいものを必ず手中に収める』一族。そこに例外はないことは、あなたの立場なら嫌ほど知っているでしょうに。」
そう。西宮家は『貪欲な』一族。欲しいものが手に入れるまで絶対にその手足を緩めることはないのです。
それがたとえ、神でさえも。
◇◇◇
僕は現在、一姫に手を引っ張られながら西宮家の屋敷内を探索している。途中途中で床が少し沈んだり何かのワイヤーぽい金属線に引っかかったりしたが、トラップが発動することはなかった。
どうやら指輪の効果は本物のようだ。『八番隊隊長の証明機能』という最悪なオプションもついているけれど。
「新婚生活はこの未来だ。取り巻く女どもは全部変えてもうたら 変えてもうたら~♪」
一姫は今年大流行中の映画の主題歌の替え歌を歌いながら、西宮家初心者の僕を案内している。
「ジャマネコ メスネコ なんて消して うちとメタモルフォーゼしよ♪マリッジ キミと起こす ドリームデイ~♪」
そしてその歌詞の所々からにじみ出る狂気がたまらなく恐怖をそそる。なんという電波ソングなのか。そして『うちとメタモルフォーゼしよ』とか表現として大丈夫だろうか?
放っておくとそろそろBANされそうなので適当な質問で食い止めることにした。
「一応聞いておきたいが、時々案内からすっ飛ばした部屋があるよな?そこはどんな部屋なんだ?」
「ああ、それらの部屋どすか?例えば2つ前にスルーした部屋は『落とし穴』に引っかかった不埒者落ちる場所やったり、3つ前にスルーした部屋は7番隊の機密資料保管庫やったりとおもてなしには少々刺激の強いものになってます。」
「OH...。」
「他にも危険な薬品の保管部屋やったり、拷問器具オンパレードな部屋やったり、今スルーした部屋やらはその...刺客をおもてなししてその、い、い、色仕掛」
「良し。分かった。ブレーキだ。それ以上は言わなくていいぞ。今度こそ規制的にBANされる可能性が出てくる内容になってしまうから。」
「あ...あうう...。」
駄目だこりゃ。高校生の範疇を超えた内容に思考がショートしてしまったようだ。ああ、崩れるな。崩れるな。
「きゃっ!」
崩れる拍子に着物のすそを踏んで転倒しそうになる。僕はとっさに一姫の肩と腰を抱いて支える。
「ふぃぃぃ。危ねぇ~。」
こんな所で怪我なんてしてくれたら、第三者は『犯人が僕である』と判断しかねない。後はゆっくりとかつ1秒でも早く姿勢を正さないとこの態勢はまるで、『僕が一姫を無理やり襲おうとしている』ふうに見えてしまう。
「け...桂馬はん...。」
「...。」
沈黙。時が停止したかのように辺りの音がかき消えるような感覚を覚える。そう感じるとともに、一姫は両手を僕の首に回してゆっくりと瞼を閉じる。
「は、離してくれ。」
「...女の勇気をわやにする気どすか?あんさんは騎士で、うちは姫。騎士は姫に口づけするのがお決まりどすえ?」
「だからと言って、手の甲を飛ばして最初から唇にする奴がいるか!!」
僕は別に首を動かしていない(むしろ離れようとしている)にもかかわらず、1秒毎に唇同士の間が埋まっていく。
ズリズリズリズリッ!
「くそぅ、なんて力を発揮してやがる!?こ、このままでは...。」
ズリズリズリズリッ!
うん?さっきから鉈を引きずる音が近づいてくるような...。後ろを振り抜くと、鉈を頭上から今にも振り下ろそうとする、一姫をそのまま成長させたような女性がいた。
そしてそんな彼女の左目は黒い眼帯で覆われていた。
「総ての不埒者に4を。ほんで、永遠の苦しみを与えたる。」
危険を感じた僕はそぉーと迅速に一姫を横たえさせ、全速力で逃走した。
「待ちなはれ。うちの娘を『穢』しとってただで済む思わへんどぉくれやす。」
「違う。むしろ『怪我』を防ぐよう立ち回った結果としてああなっただけです。」
「問答無用。そんなんを言う人に限って本性は狼と決まってるんどすえ。ほら、ちゃっちゃと腹決めてあんさんの罪を認めーな。」
うわぁ、早い。あっという間に距離つめて鉈を高速で振り回してきた。あ、あかん。全力で避けないと
D☆E☆A☆T☆H
しちゃう。
やむを得ない。金髪のカツラも緑色のカラーコンタクトもないが、緊急事態だ。『自分の命を守る!』ためにはやむもなし。
今の渾身の身体能力じゃ足りない!その百倍の才覚を捻りだす!!
「な!?黒髪から金髪に変化してもうた!?それだけでのう別人のように身体能力が跳ね上がって、うちの鉈を蹴り崩してもうた!?」
そう。何故か僕は『何かを守ったり助けたい』という正義感を持つと、こんな風になってしまう。そしてこれは、私にとって周囲の皆にはバレてほしくない事実であり、それを隠ぺいするためにもあの変身セットを購入する必要があったのである。
即発性才覚埜神病。それが生まれつき神が僕にかけた病気である。
お読みいただいてありがとうございます。
ブクマやこの下の星でポイントをつけて応援していただけるととても嬉しいです。
どうぞ、よろしくお願いします!