11.勉強部は勉強ができない!
放課後、僕は勉強部の活動をしている。前にも言った通り、僕は西村(『乙女神に落とされ隊』の隊長)とともにこの図書室の奥の部屋でひっそりと切り盛りしている。
この部のことを簡単に説明すれば、予備学校や塾の真似事である。そしてその活動内容を大きく分割すると次の2つに分かれる。
1つ目は分からない所や不明な点の質疑応答である。その内容の通り、 勉強で困って行き詰った時に助けをする駆け込み寺的役割であり、現状はマニアックな層の者が利用する機能である。
2つ目はこの空間という学習場所の作成である。これだけ言えば、ただ場所を貸し出しているだけで図書委員や読書部でもできることかもしれない。しかしながら、この部との違いはその客層。そのほとんどはこの場所や雰囲気でしか勉強できない者たちである。
...所々奇妙な注意書きが見受けられるかもしれないが、とにかく以上の2つがこの部の活動内容である。
あらゆる学生の疑問点を解消し、南海高校の教育水準の上昇に貢献する。
...それがこの部の活動目的である。
...筈だったんだ。
「今日はあんさんとうちの2人きりやなぁ~。」
「...。」
「誰の目にも入らへん場所で男女の2人がこうして逢う。まるで逢い引きみたいやなぁ~。」
「...。」
「せやけど昨日はうちを差し置いて噂の転校生はんを学校案内させたらしいなあ。もしかして誘惑されたりしてへんでね?もしそうやったらうち、あの娘に話を聞かなあかんのやけど...。」
「...。」
「悩める一生徒の質問やで?勉強部の一員として、うちの目ぇ見てしっかりと答えなあかんえ?」
「大丈夫だ。昨日は何もやましいことは起こしていない。」(本当はガッツリ誘惑されたけど...。)
「そら良かった。もし誘惑やらされとったら、うちの権限でこの学校から追い出すつもりやったけど、杞憂に終わって一安心したわ。」
それがいつからか、こうして目の前の彼女のお忍びの場と化してしまっていた。
彼女の名前は西宮一姫。あの乙女神に敗けないくらいに黒く長い髪。どこか奥ゆかしいような表情。もしあの女神と正面切って戦える女子を出せというなら、間違いなく彼女をおいて他にはいないとまで言えるほどの、底知れない美少女である。
それもその筈、彼女は僕や西村と同じ学年であるにも関わらず、その権威は現生徒会長よりも上。南海高校に多大な資金を寄付する名家『西宮家』のお嬢様であり、この学校の真の支配者は彼女とされているのだ。
僕は現在、そんな大層な肩書きを持つ彼女に西村とは違うベクトルで詰問されていた。僕の隣の席に座って、しなだれかかる様に僕にその身を預けている。
言っておくけど、ここは夜のお店じゃないんだよ?接客のお店じゃないんだよ?ごくごく健全な部活の場だよ?
「他に質問がないのでしたら、自分の席に戻って下さい。」
「ここがうちの席どすえ?桂馬はんも冗談を言うのが好きなようやな。」
「いや、そこ西村の席だから!彼がパソコンを使って様々な参考書や問題集を検索したりする重要な席だから!」
「そのパソコンを出資したり、この部をつくるように学校側にお願いしたりしたのはどこの誰かさんかいな?」
「すみません。何でもないです。どうぞゆっくりと勉強していって下さい。」
「よろしい。それとうちの前で軽々しゅう他の男や女の名前を口に出さへんようにしてや。...勢いあまって抹殺しそうになるさかい、その点もよろしゅう。」
抹殺って何するの?社会的、それとも物理的?どちらにしても、目の前の御方なら本当にやりかねないからガチでやめてほしい。そして異性ならともかく同性の名前もアウトなのかよ、救いはないのか!?
だからこそ、誰か助けて下さい。この御方が重すぎて胃もたれを起こしそうになるんです。僕は今こうして生殺与奪の権を握られているんです。
ー西村。親友のピンチだ助けてくれ!
『生殺与奪の権を他人に握らせるな!!惨めったらしく誰かに助けを求めるのはやめろ!! 奪うか奪われるか以前に、我らの愛ちゃんの学校案内をすっぽかした大罪人のお前が助けを求める?笑止千万!!大罪人には何の権利も選択肢もない。悉く裁判で断罪人にねじ伏せられるのみ!!』
ー京宮先生。生徒の風紀が乱れそうになっています。注意しに来てください!
『お前は転校生の学校案内係をすっぽかしたんだ。大人しく西宮のお嬢様に喰われて来い!それでチャラにしてやるのは、ある意味私達なりの慈悲というものだ。昨日は西村が身を削ってでも奴の介入を阻止したんだ。異議は断じて許さん。』
Noooooo!ここに来る前に言われたことが僕の助けを拒んでくるぅぅぅ!そして自業自得だから拒否されても何にも言えないっ...。
「昨日は久々にあんさんに逢おう思たのに。逢おう思たのに。うちやなしにあの転校生はんをエスコートなんてして。あんさんはうちの騎士。エスコートせなあかん姫はうち。今日は昨日の分まで、うちに付き合うていただきます。」
野梅系の香りが漂ってこの部屋を僕と彼女だけのものへと変え、それに伴い、一姫が手と手を重ねていく。覗かせたその顔を見て、僕は自身の周囲にジャスミンの花が咲き乱れる気配を感じた。
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