10.パワハラ裁判(鬼)
授業は終わって昼休み。僕は現在、他の男子達に詰問を受けている。イメージとしてはFが3つつく名称の異端審問会が近い。
「気がついたかね?桂馬先生...。」
「は?僕の名前はなぎさじゃないし、先生でもないんですけど。」
「まず君を乱暴に音楽室へ連行したことを詫びよう。」(申し訳ない程度の紳士)
代表として僕の親友だったはずの西村がこの議会を仕切る。貴様、さてはこれに興じて逃げ道を塞ぎにかかっているな!?
「取りあえず、帰っていいかな?お腹が減ったから早く購買に行きたいんだけど。」
「質問は許さないっ...!君は今から『珠羅瑠星人』になるのだ...!」
うわぁ、なりたくねー。すっごい嫌なんですけど!?メイデンって訳して『乙女』だよな?何故か漢字表記が地球よりも500年進んだ科学力を持つように見えるんだが。
「まぁ、それは冗談として。」
冗談かよ...。危うく光線銃で一発KOさせるところだったぞ。
「我々は『乙女神に落とされ隊』、略して乙女隊である。東山桂馬、貴様は知らぬだろうがすでに昨日のうちにLINEまで作成している。ちなみにこの親衛隊の隊長は俺だ。」
は?マジかよ。どうして僕だけ除け者に、いやそんなグループに微塵も入りたくないから逆に助かったというべきか。後、西村はこのグループの一番地位の高い人らしい。
「次におまえは『どうして僕だけ除け者にするんだ?仲間外れだぞ!』、と言う! 」
「いや、むしろ除け者にしてくれてありがとうございますだけど。それで、どうして僕はこんなことになっているんだ?」
本当は『除け者に』まで一瞬出かかったけれど。しかし僕がそんなグループに入ってしまうと、『僕は愛莉に落とされたいんです』みたいでなんだか嫌である。
「被告人、東山桂馬。これから君には我らの質問に答えてもらう。」
あくまで無視するスタイルなのね...。いちいち気にしてはアウトなやつなんだね...。ハァ...。
「黙秘権を行使する。」(そもそもそんな事を僕に言われても)
「『そもそもそんな事を僕に言われても』。何だ?言ってみろ。」
「教えを乞う人はもう少し物腰低くしているとは思わないですかね?」(思考読めんのかよ?)
「黙れ。俺は何も違わない。俺は何も間違えていない。」
「おいっ!」
「全ての決定権は俺にあり、俺の言うことは絶対である。君に拒否する権利はない。俺が正しいと言ったことが正しいのだ。」
お前はどこぞの鬼の首領か!昨日は確かその三番目に強い部下を演じていたな。そこのお前達。どうやらこのグループは世の中のブラック企業すら裸足で逃げだすくらいにブラックな団体だぞ。
「早乙女愛莉がご乱心なされた。我々の教祖様だ。」
宗教かよ。これの語頭に『統一』とかついてないだろうな?
「故に我々が問いたいのは一つのみ。昨日の放課後に何かあったのか白状せよ。なお、拒否した場合は『乙女神に落とされ隊』第3条により、強制告白の刑とする。」
きょきょきょ強制告白!?とどのつまりは嘘告というやつか。それだとまるで、『僕は早乙女愛莉に惚れました』ということを嘘とはいえ表明することになるのか...。
考えよう。現在、僕は早乙女愛莉に絡まれている。その理由は単純に僕を落としたいからである。そして僕がそれを阻止しようとする理由はズバリ、恋よりも卒業後の進路に向けた勉強を優先したいからである。
それに加えて、彼女の中身はスイセンみたいに黒い自己愛がある。あれはマイナスだ。『バレなければマイナスじゃないんですよ』という理論に当てはまらない、つまりは僕みたいに人の本質を注意深く観察しようとする癖を持つ者にとっては印象のダダ下がりとなる箇所である。
嘘の告白をしてその自尊心を嘘で満たせばいいじゃないか。そんな作戦も浮かばなくはないのだが、正直の所、今はそんな作戦をとるほど彼女に対する印象は悪くはない。(未だに0以下だけれども)
なぜなら、昨日の放課後の一件で彼女の中身が全て黒いわけではないことが分かったからだ。彼女にも僕と同じように、他人に言われても決して曲げたくない何かがあると分かったからだ。
そうでなければ、一度ならず二度も片っ端から男を落とす『落と女神』を続けている筈がない。彼女をそう駆り立てるものがどのようなものかは分からないが、少なくとも彼女のあの『落と女神』は生まれつきのものではないことはハッキリしている。
「僕はただ彼女の頼み事で学校を案内していただけだ。それ以上でも以下でもない。」
故に、僕の答えはこうである。とどのつまり、真相は東山桂馬ではなく黄金の黒騎士が握っているということにしておく。そもそも昨日の件は学校案内の途中で急用ができたということにしているのだからな。
「...それは真か。監査員、調査の結果と違いはないか?」
「はい。被告人は学校案内を引き受け、その途中で急用のために他の生徒に代理を依頼して以降は関わりなしと出ています。彼の言う通りということになるかと。」
うわぁ、昨日の出来事がバレテーラ。僕は親衛隊に始めて恐怖というものを覚えた。
「いいだろう。被告人は本件の関わりなしとみなし、無罪とする。本日の裁判はこれにて閉会」
「というわけにはいかんなぁ?西村ぁ?」
僕への疑いが晴れ、ようやく昼飯にありつける所に第三者が介入した。それは紛れもない、僕のクラスの担任の先生だった。
「めぐみん先生、え、っと?」
「取りあえず、『親衛隊』は吹奏楽部に謝罪だ。分かったな?」
「「はいいいい!!!」」
こうして、親衛隊による茶番劇は幕を閉じたのであった。
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