8.私は神の代理人。正義の地上代行者。
「はーい。ストップ!」
僕の黒歴史を煮詰めてできた存在、正義の戦士『黄金の黒騎士』は恥辱を孕みながら突貫した。
「見ない面だなぁ?」
「誰だ、てめぇ?」
「誰だと言われて名乗った人はいないと思うよ。君たちはただ、私はか弱き乙女の味方であることを覚えればいいのさ。」
名前を名乗ってしまったら明日から普通の生活を送れなくなるじゃないか。後、僕の幸せを壊したお前らは駆逐する。この世から一匹残らずにな。
「あ、あの。わ、私のこと覚えていますか?前に一度助けて貰ったことのある」
すると、今度は愛莉の方から声をかけられる。言われるとなんとなく2年前に助けたことのあるようなそうでないような...。駄目だ、ぼんやりと雰囲気だけで詳しくは覚えていない。
「ん?残念だけど私は君については初見かな?もし初見じゃなければ、君みたいなカワイ子ちゃんなんて忘れないからね。」
「はぅぅぅ。」
ん?愛莉の反応が若干バグっているような、チョロすぎるような...。普通、覚えていない(ガチ)ならば乙女としてはキレて然るべきものだと思うけれど。
いや、幻覚だろう。とにかく一刻でも早くこの変装を解除して学生寮に閉じこもりたい。
「生意気だな。ムカつくなぁ。兄貴ぃ、もうやっていいかなぁ?」
「いいぞ。やれ。」
目の前の男子その1が殴り掛かってくる。単調な動きにワンパターンな拳。容易く回避できる攻撃だ。1秒で回り込んで首トン!はい、一人目撃沈っと。
「曽野市ィ。てめぇ、よくもやってくれたなぁ。」
え?そのいちという名前だったの?なんてポジションの分かりやすい名前なんだ。そうしている間、男子その2は懐からハサミを取り出して攻撃してくる。うわ、あぶね。
「てめぇはこの俺、園尼がぶちのめしてやるぜ。」
それはこっちのセリフだ。やっと愛莉という嵐から抜け出し鉄平できたというのに、それを再び呼び寄せやがって。
絶対に許さんぞ。乙女神召喚者め。ゴリゴリと殴り564にしてくれる!!!後悔させるまで逃がさんぞ覚悟せえやぁぁぁ!!!
園尼が大きく振りかぶった隙をついて、僕は1秒間に100発くらいの突きを放っておいた。これは怒りと怒りを乗せた必殺の百裂拳。食らえば、気絶あるのみ。
「あの、助かりました。」
鬱憤が晴れてスッキリしていると声がかかる。見ると、頬を赤く染めている落とし神がいた。誰だ、お前?
「気にするな。私はただ乱暴にされそうなか弱き乙女を助けるという当たり前のことをしただけだ。それ以上でも以下でもない。それと、そんな乙女がわざとらしく誘惑なんかするのは関心出来ないぞ☆。もっと自分を大切にしたらどうだ?」
出会った男子を片っ端から落とすという行為がそもそもの原因だからな。これを機に、僕を落とすみたいな迷惑行為から足を洗ってほしい。
「あの時と同じことを...。やっぱりあなたは」
「後、こんなことで頬染めてたらチョロすぎだぞ☆。」
「んなぁぁぁ。」顔面リンゴ飴
「それじゃあ、また逢う日までgood☆night!」
その日は二度と来ないがな!一生、正義の黒騎士という架空の幻想を追いかけてろ!後、もう二度とモブの僕なんかに構うんじゃねぇぞー!
僕は荷物をかっさらって学校から突風のごとく去った。
◇◇◇
「ああああああああ///」
転校初日の夜、私こと、早乙女愛莉はベッドの上で悶え、足をバタバタと動かして恥ずかしさを発散させていた。その原因は言わずもながな、ピンチに颯爽と現れては消える金髪の彼である。
今にして思えば、1日でも忘れたことのない騎士様から覚えていない宣言され、普通ならそこでキレないといけないのに、まさかの
『はぅぅぅ。』
って。チョロすぎにも程がある!!乙女か!乙女神だよ!挙句の果てには当人からそんなことを指摘されて
『んなぁぁぁ。』
とか。乙女神以前に駄女神だわ!堕ちると書いて堕女神ですってか、やかましい。コラ、そこ座布団持ってくるな!
ええ、ええ、そうです。こんな私にも唯一未だに落としていない男子という者がいるんです。それが黄金の黒騎士。彼にボコボコにされる者からは『北中の鬼』と呼ばれている、女子に恋心を抱くばかりか恋愛に興味さえ示さないような男子。それこそが、あの彼だ。
救出されるまでの私は誰彼構わず男子を誘惑する。そんな荒れた日常を送り、ツケが回る形で一度、暴力団に捕まって危うく一生消えない傷をつけられる寸前までいったことがあった。そんな時に颯爽と登場したのが彼である。
相手は暴力団。対して彼は武器を持っていない生身の人間。無謀であることは誰から見ても明らかだった。しかしそんな戦場でも、彼は一騎当千のごとく立ち向かい、瞬く間に私を救った。その時は彼に鬼のように説教されたが、荒んだ日常を送っていた私にとってそれが何よりも欲しかったものと分かると嬉しさで一杯になった。
だから一度救出された後は、再びあなたに出会うために、恋愛に興味を持たない男、落ちない男をあぶり出すために落としていった。それこそ、『誰彼構わずに誘惑するな』というあなたの言葉を裏切ってさえも。
そして今日、私達は巡り合った。再会は私にとって一番最悪な形になってしまったけれど。それでも私はあの時よりは後悔していなかった。何故なら、私は彼のことが
大好きだから。
お読みいただいてありがとうございます。短編版ではすぐに気づきますが、この連載版では鈍くて気づきません。
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次話から短編版の続きになります。