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第三十七話 追い詰めた先に -Arkinov Side-


 無魂蘇生……それは、魂を入れずにその者の思いや念だけを入れて、肉体蘇生させる蘇生法である。


 〝あのセシル〟は、かつてこの世に生きていたセシルではなく、思いや念で儂が蘇らせた、謂わば人形。

 ザングレスの膨大で質の良い魔力があってこそ、成し遂げられたが、無魂蘇生は時限式なのだ。

 セシルの魔力がなくなり次第、肉体は消滅する。


 勿論、通常の蘇生も可能だった。だが儂が何故、無魂蘇生を用いたのか、それはアストへの寝返りを懸念しての事。


 セシルはアストを深く愛しておった。深すぎる程に。

 生き続ければ、やがて真実に気づきアストの元へ行く事は分かっておった。

 故に儂は時限式の蘇生法で蘇らせる事にしたのだ。


 無魂蘇生は時限式ではあるが〝術者への絶対服従〟〝蘇らせた者の潜在能力を驚異的なまでに増幅させる事が出来る〟と言う特徴を持つ。

 儂のメルティシア計画には圧倒的な力が必要だった。


 しかし蘇生法は、この世の因果律が崩壊してしまう為、遥か昔から禁術とされて来たが、無魂蘇生は時限式である故因果律に影響を与える事はない。

 人間界、魔界、幻竜神界、この三界で蘇生法を知るものは限られているであろう。


 かく言う儂も、欠落した記憶の一部が戻った事により知ったのも事実。

 セシルとネファーリアが、魔界の〝コアスピリタス〟にアクセス出来るキーとなる存在である事も、一部の記憶により気づけたのだ。


 メルティシアを再誕、そしてその先の目的には……こやつの、導師の力が必要だ。


 闇の極大励起まで操れる様になり、更なる先の力にまで手がかかろうとしておる。それを感じ取れる事は、今の儂でも十分だった。



「悪魔を統べる魔王ロズよ。其方もまた闇の力を使い熟せる者。アストから導師の力を取り出すのに協力すれば、導師の力を与えよう」



 とは言ったがそのつもりはない。

 そもそも導師の力を、闇のオーラが使えるだけの悪魔などが、扱える代物ではないからな。

 身に宿した時点で魂ごと消え去ってしまうだろう。


 ロズは、ただの噛ませ犬なのだ。

 導師の力を取り出す僅かな隙を作る為の道具。



「こ、こうなりゃやってやるぜ!! お前ら一斉にかかるぞ!!」



 ゲリュムスだったか。悪魔達と一斉にかかって行ったのはいいが、〝蟻と太陽〟と言う比較するに値しない程の差があるお前達が束になろうが、一捻りと言う言葉通りに葬り去られる。



「邪魔だどけぇぇぇぇぇ!!!」



 ゲリュムスやゾアを含む、数十体の悪魔達は、何の悲鳴を上げる事も許されず、まさに太陽に焼かれたかの様に一瞬の内に消えてなくなったのである。


 まあ、当たり前だ。



「ま、待て……断じて有り得ん!」


「どうしたのだロズよ。まさか戦ってもいないのに怖気付いたのか?」


「悪魔は闇の力を発揮できる。少なくともゲリュムスやゾアは相当な熟練者であった。なのに……一瞬で消え去ってしまった……。同属性ならダメージは入らないはずなのに……何故なのだ!?」



 なんだ、そんな事か。



「そんな簡単な事も分からんのかロズよ。この時代の魔王が、まさかここまで馬鹿だとは思わなかったぞ」


「な、なんだと!! 我を侮辱するつもりか!」


「見失うなロズよ。敵はあっちだぞ」


「ぐぬぬぅ……」


「……同属性同士でも圧倒的な力の差があれば、属性の決まりを無視出来る。この世にある魔力の法則だ」


「そんな……法則が……」



 ロズは恐らく最初の魔王。知らなくて当然か。

 儂がこの時代に赴き、こやつに法則の説明をする。これも歴史上ちゃんと記録されている事実なのだ。


 儂やアストが過去に飛ぶ事も、全て神によって描かれたシナリオだ。


 そうであろう? 神よ。



 ジュドォォォォォォォォォォォォォォン!!!


 と、戯言を唱えてる間に戦いが始まっておったか。

 中々に練られた闇のオーラだ。それでいて体への負担も少ない。

 悪魔が生み出した力であるのも頷ける。

 しかし、アストはその何倍も先の領域にいるのだ。

 ロズが放つ攻撃を寸前のところで見事にかわし、かわしたと同時に反撃を入れてくる。


 あの戦闘のセンス。あれは導師の力ではなくあやつ自身の持ってる力によるものであろう。


 導師の力を十二分に発揮する為には、アストそのものの力も必要か……。



「そんな馬鹿な!? 我の攻撃は通じないのに、何故奴の攻撃は闇のオーラを貫通するのだ!? こんな事……こんな事あってはならんのだ!!!」



「だったら、さっさとあいつと代われ。お前の様な雑魚には用はない」


「な、なな……なぁんだとぉぉぉ〜!?」



 ほう。怒りの感情により更なる励起を引き起こしたか。

 魔王ロズ……タダでは転ばんか。



「調子に乗るなよぉぉぉぉ!!! おぉぉぉぉー!!!」


「苛々させるなよ……お前には、用はないって言ってるだろぉぉぉ!!!」



 大きな闇の炎と大きな闇の炎がぶつかり合った。

 そろそろか。導師の力を取り出せる隙があるとしたら、この瞬間しかないであろう。


 ロズは間も無く倒される。今の儂がこの力を使えるのもこの一回のみ。

 アストを追って過去にまで来たのは、ここしかチャンスはないからだ。

 神が描くシナリオ通りか、儂が描き直したシナリオとなるか……


 儂が天使であった時の記憶を一部でも取り戻す事を、神が許す訳がない。

 しかし今儂は記憶の一部を取り戻し、残りの記憶も取り戻しつつある。これはつまり、神が描いたシナリオではないと言う事なのだ。



「いよいよ……あの力が儂のものに……!」



 そうだ、いよいよ、いよいよなのだ。

 完璧。この言葉を口に出した時、その時が儂の笑う時である。

 そして儂は今まで誰にも見せた事のない、大きく吊り上がらせた口元で、勝利の笑みを浮かべる。


 術を詠唱し、儂が今持てる最大の魔力量でアストの周りに赤い結界を張り巡らせた。


 捉えたぞ。



「………完璧。くくく……そうだ、これこそ完璧と言えよう! この瞬間の為に儂がどれ程の時間をかけたのか……ふふふ……くくくく!」


「ぐぅぅ……アァァ……キノ……ふ……ぅぅぅぅあぁぁぁぁぁぁぁぁーー!!!!」



 バチィィン!!!



「な、なんだと!?」



 儂の結界を弾きよった……。



「お前には使わせないって、言っただろぉぉぉ!!!」



 グオォォォォォォォォォ!!!

 アストの放つ闇のオーラが生き物のように辺りを暴れ回る。



「ぐぅ……ぬぅぅ」



 何と言う力……いや、だが抑えられない訳ではない。

 〝あれ〟を使うなら今か。


 そう、儂は念の為に予め準備しておいたのだ。

 こうなる事も予想済みなのだよアスト。



「そ、そんな……なんで君が……」


「アスト……」



 無魂蘇生で再びセシルを蘇らせる。

 魂が消滅しない限り、この様にセシルは何度でも蘇る。

 セシルの魂は儂だけが知る領域に隠しておるから、アストに救い出す事は不可能。


 つまりアストは永遠に苦しむ事になるのだ。

 あの驚いた顔、流石のアストも蘇生法にそれ程詳しくはなかったのだな。


 そしてアストもまたセシルを深く愛している。

 闇の極大励起状態が解除され、元に戻ってしまったぞ。勝利は揺るぎないものに確定した瞬間であった。



「さあ! 今度こそ、その力を貰うぞぉー!」



 ドスゥゥン!!!



 時が止まったとはこの事。何かの衝撃と音が間近でしたのだ。

 思考も止まる。


 何故?


 と言う疑問が頭に生まれてきた時は地面でその痛みを感じている時であった。

 腹が捩れる重い一撃。

 その次に、何故? と言う疑問が浮かんで来た。


 衝撃の正体は、セシルが儂に向かって何かの攻撃を仕掛けたもの。


 何故お前は儂の命令を無視出来たのだ?

 何故お前は自分の意思でアストの味方についたのだ?

 何故お前は殺せたはずの儂を殺さなかったのだ?


 ずっと、いつまでも儂の脳裏にグルグルとこの疑問が回る。

 

 何故……何故……何故なのだ……????



 

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