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第九話 真実に向かって -Julius Side-


 鳥のさえずりで目が覚めた俺は起き上がって辺りを見渡してみると……俺達が設営したキャンプじゃないか。

 リミアめ、キャンプまで逃げて来たんだな。

 雑魚相手に勇者パーティーが、逃げたなんて知られたら笑いもんになるだろうな。

 想像しただけでも耐え難い屈辱だ。



「目が覚めたのね」



 テントの出入り口の扉が捲られ、中に入って来たのはリミアか。

 このアマ〜勝手に逃げろなんていいやがって。

 ちょっと綺麗だからって調子に乗るなよ。

 従順に従っていれば俺の彼女にしてやろうと思ってたのに、お前はそのチャンスを逃したんだよ。



「話があるの」



 そう言ってリミアはテントを出て行ってしまった。

 ふ、ふん……今更ごめんなさいとか言っても許してやらんぞ。

 まぁ……幸いあの場所には俺達だけのようだったから

 この秘密をそれぞれが墓場まで持って行くと言う誓いを立てられるのなら、また勇者パーティーとしてやり直す事は考えてやらん訳でもない。

 俺は心優しき勇者、真の勇者様だからな。

 

 お前達次第だな。



「早く」



 おい……何だか知らんがリミアの奴、俺に冷たくないか?

 テントを出ると、メンバーが深刻な顔つきで話し合っていた。

 おいおい冗談だろ。たったゴブリン三匹から逃げて来た反省をしてるんじゃないだろうな。

 冗談でも笑えんぞクズども。



「私から話すわ。貴方も分かってると思う。さっきのゴブリン戦の事よ」


「……あぁ、分かってる。あんな屈辱的な思いは初めてだよ。今回は各々が絶対に誰にも言わないと、墓場まで持っていくと俺に誓うのなら、この件は目を瞑ろうと思う。

君達は俺を試したんだ。勇者としての判断ができるかどうか、素質があるのか。だから、あんな雑魚にわざと苦戦しているように見せかけた訳だな」


「……ユリウス、何を言ってるの?」



 リミアが何か口を挟んできたが、いいんだと言って話を続ける。



「前の勇者、アストの件があったからだよな? あいつは、勇者を偽り君達を騙した。にも関わらず、君達は魔王討伐の旅を共にした。無能な勇者でさぞ、辛かっただろう。いや、勇者じゃないからただの無能か」


「ユリウス、話を聞いて」


「俺は分かってる。分かってるよちゃんとな。だがこれだけは安心してほしい。俺は正真正銘フェアリーから選ばれた勇者だ。この聖剣を見てくれ。聖剣ギグドラーンだ。勇者にしか装備することが出来ない剣だ」


「ユリウス! そんな話は今どうでもいいの!」



 な……なんだと。



「ユリウス、私達がゴブリンに苦戦した理由はわざとでも演技でもないの。ましてや、貴方を試そうとも思ってないわ。私達の能力は、戻ったんだと思う」



 戻った? どう言う意味だ?

 それに俺を試そうとしてないだと?

 だったらあのザマはなんなんだ?

 

 これは私の勝手な憶測だけど、と言ってリミアの話はまだ続いてる。



「アストの話が仮に本当なら、アストは導師の力を得たんだと思う」


「いや! それはねぇよリミア! 最後に導師に覚醒した人物はもう遥か古の時代なんだ。それに導師は数万年に一度現れるかどうかと言うぐらいの確率だぞ?」


「だけど、私達の能力は封印されたとかじゃなく綺麗さっぱりなくなった感じじゃない? アストが私達に能力を与えていたんだとしたら?」


「ならアストは勇者にも選ばれて、導師にも覚醒したって事になるぞ? そんな奇跡を信じる方がどうかしてるぜ」


「私はそう思ってる」


「リミア、何故そのように思えるのだ? クウォンの言う通り、勇者と導師の力を得るなど、とてつもない確率だ」


「根拠はアストがいなくなったら、私達の能力が衰えたからよ」


「まぁ、確かにタイミング的にはそうなりますねぇ」


「でもあいつは、嘘つきじゃねぇか! 忘れたのかリミア!

アストの野郎は、勇者を偽ってたんだぜ! おめぇも言ってただろ? フェアリーを見た事がねぇって!」


「そうですよ。私達一度もアストのフェアリーを見た事がないんですよねぇ」


「確かに。真の勇者ならフェアリーと契約し、常に一緒にいるはずだ。遠くに追いやる事もできんしな。やはり、勇者は偽りと見た方が良いだろう」



 クズどもの話から察すると、フュリンは死んだという事か。

 いや、だったらアストも死んでいるはずだ。

 勇者とフェアリーは契約をした瞬間から一心同体の存在。

 片方が死ねばもう片方も死ぬはず……どう言う事だ?



「アストは間違いなく勇者よ。正確に言うと勇者だった……かしら?」


「お……おま」



 タニス……お前まさかここで話す気か!?

 それがどう言う事になるか分かってるのか!

 俺達も追放、下手すら死刑だぞ!?



「知るもんですか!」


「勇者だった? どう言う事?」



 リミアが食いついて来やがった。

 まずいぞ……。

 このままだと、全てが終わりになる…………。

 何とかタニスの機嫌を取らないと。



「あら、機嫌なんて取らなくても結構よ。元々私達は〝合わない関係〟なんだから」



 合わない関係? どう言う事だ?



「アストは、大精霊の称号を得たフェアリーと契約を結んだの。だけど、その直後に巨大な魔物に襲われてフェアリーは瀕死の状態になった。アストはね、そのフェアリーを助ける為に自分の精神と融合させたのよ」


「な、なに……?」



 そんな話は初めて聞いたぞ。

 タニスの奴、黙ってやがったな。



「……アストは、人を騙すような人間じゃないわ。だからきっと導師の話も本当の事よ」


「ではアストは、そのフェアリーを助ける為に勇者の力を失ったと言う事なのだな? タニス殿」


「ええそうよ。勇者の力は失ったけど偽ってはいないわ」



 タニスの話を元に、リミアは確証を得たと言わんばかりの表情で再び議題を導師の話へと持っていく。



「私達の初戦を思い出してみて。アストの話を聞いて、半信半疑だったけどあの時、何となく違和感を感じたでしょ? みんな、戦闘が終わると急に道が開いた感覚がなかった?」


「……あ、あぁ。違和感……確かにあったな」


「私もありましたねぇ。私の場合、戦闘中に急に術の閃きが起こったりしました」


「では、私はアストから才能を与えられていたと言う事なのか。自分で身につけたと思い込んでいたが……何と言う事だ」


「私達はアストから離れ、元に戻ったのよ」



 導師の力だと……。アストが導師……。

 お前は何で俺の前へ前へ出てくるんだ。

 勇者の座を手にしたと思えば、今度は導師だと。

 何故だ……。なんであいつばかりが……。


次の第十話は8月16日朝8時頃を予定しております。


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