第二十一話 別の道 -Tanis Side-
私の体は不適合。だからフュリンはエルフに進化しなかった。分かってるの。でもこうしてまともに言われると……私って一体何の為に生まれて来たのかしらって思ってしまう。
ふふ……そうだったわね……。フェアリーはアーキノフが造った生物。あいつの都合の良いままにこの世に生まれただけの醜い魔物よ。
だけど同じ境遇のフュリンが、とても輝いて見えた。
大長老の孫で、大精霊の称号を持つ才能溢れる勇者のパートナー。
その上、その力を自慢する訳でもなく、自分を貶して笑いを取るから自然とみんなが好きになる。
私は本当に真逆で……陰気だし、嫉妬深いし、大精霊どころか普通の精霊の称号さえ与えられなかった、落ちこぼれ。
人気者で才能もあるフュリンにいつも嫉妬してた。正直消えて無くなれば良いと思ってたわ。
だからユリウスから誘われた時、ひっくり返せると思ったの。
結局ユリウスとは相性悪かったし、無理やり魂の契約を結んだから、勇者としてもポンコツだったし……。
考えたら私ってずっと不適合だったんだわ。
目の前で今、フュリンが一つになって完全体とも呼べる状態になった。これでエルフに進化出来るのね。
とは言っても悲しいわね。フュリンが進化プロセスを進める為に指定の進化モデルの中に入った丁度その時、ヴェルグラが姿を現したの。
次のループまで残り二十三分。
私一人でヴェルグラと戦うの?
死ねば即座に次のループに時間が戻る。それってつまり、私が殺されたらせっかくフュリンがエルフになれるチャンスを逃してしまうって事。
「くっふっふ。何をしてるのかと思ったら、まだフェアリーの秘密にアクセス出来た者がいたのですね」
「あなたね、毎回毎回どうしてタイミングバッチリなのよ!」
「はぁいぃ? 何を言ってるのか分かりませんが、貴方達を進化させる訳にはいきません。情報をどうやって知ったのか知りませんが、葬って差し上げないとね」
「ねぇ、私達を葬ったら大勇者の誕生に支障が出るんじゃない? あなたは大勇者を誕生させる為に多くのフェアリーの魂を必要としてるんじゃないの?」
「あぁ、そんな事ですか。くっふっふ、その事ならご心配には及びませんよ。貴方の仰る通り、フェアリーの魂が必要なので生きていようがいまいが、関係ないのですよ」
「……あっそう。だけどここで死ぬ訳にはいかないのよ!」
まともに戦いを挑んで勝てる相手じゃないし、かと言って逃げる事も出来ない。私が逃げてもフュリンを殺されたらその時点で時間が巻き戻っちゃうわ……。
八方塞がり。そんな時〝あの感情〟がフラッシュバックのように脳裏に浮かんできたの。
……そもそも、なんで私がこんな事する必要あるの?
フュリンに説得されてずっと協力してたけど、結局私は不適合でエルフには進化出来ない。
いつも活躍するのはフュリン、みんなにチヤホヤされるのもフュリン。
嫉妬、恨み、そんな感情が溢れて来た。
「なんか……もうどうでもよくなっちゃった」
「ほうほう、そうですか。随分と諦めるのが早いんですね」
「フュリンはあそこで進化中よ。私の事も殺したきゃ勝手にどうぞ」
「貴方のお仲間でしょう? お仲間を売るだなんて、貴方最低ですねぇ」
「仲間? いいえ、もう違うわね。よく考えたら、あんな奴別にどうなろうと構わないわよ。どうせこの記憶も忘れるし」
おかしい。いつもなら直ぐに殺されていてもおかしくないはずなのに、まだ何の攻撃も仕掛けて来ない。
そればかりかヴェルグラは、何故かニヤニヤと笑いながら何かに頷いてたの。
「なるほどなるほど。貴方、劣等感を感じていらっしゃいますね?」
「な!? ……何でよ」
「いえね、昔の私と似たような懐かしい負のオーラを感じたんですよ。ひっくり返したいと……ね。くっふっふ」
何でこんな魔族なんかに見透かされてるのよ。
初めは軽蔑と言う感情だけしかなかった。魔族や魔物なんてこの世界の害でしかないから滅びるべきだって。
だけど、なんだか不思議なの。私はヴェルグラの次の一言を待ってる。
言って欲しい言葉。期待とは違う。ヴェルグラならこう言うだろうと言う感覚。
「貴方も進化させてあげましょうか?」
私はヴェルグラのこの一言で自分の歩く道が照らされたの。断る理由なんてない。私の心は既に決まってたけど、引っかかる事があった。
「私は不適合だからエルフには進化できないのよ」
「貴方は〝ダークエルフ〟になるんですよ」
「ダークエルフ?」
「フェアリーには進化の道が複数ありましてね、ダークエルフはその内の一つ。しかも不適合の貴方でも問題なく進化出来るんです。くっふっふ」
フュリンと同等の、いや……それ以上の力を手に出来るなら何でも良かった。
「それで? その見返りに何が欲しいの?」
「ほうほう、貴方よく分かってますね」
と、言いながらニンマリと優しく微笑む。
「私の部下になりなさい」
そう来たか。でも想定内。
「……分かったわよ。あなたの言う通りにしてやるわよ。一つだけ聞かせてちょうだい。ダークエルフになったら本当にひっくり返せるの?」
私のその質問にヴェルグラは笑顔でひっくり返せると断言した。
「フュリンはもちろん、その気になればこの世のどんな者をも超える存在になれるでしょう。あのアストさえもね。くっふっふ」
あーなるほど、そう言う事ね。
ダークエルフには何か〝裏〟がありそうだわ。
その事について私が口を開こうとした時だった。
「ただね、ダークエルフには少々〝おまけ〟がついていましてね。膨大な力を手にできる代償として〝精神的な渇き〟が必要となるんです」
つまり、と言いながらヴェルグラは指を立てた。
「貴方自身が精神的に満足した瞬間、灰となってこの世から消えて無くなるんですよ。逆に言うと、貴方が精神的満足を得る事なく常に渇いた状態であるなら、不死身と言う訳です。くっふっふ」
何よ、別に大した問題じゃないじゃない。
要するに心が満足しなければ、私は不死身だし、強大な力を得られるって事でしょ?
何で詳しくこいつが知ってるのか疑問だったけど、もう今はそんな事よりも〝力が欲しい〟〝ひっくり返したい〟と言う思いの方が強かった。
「それで? そのダークエルフに進化するにはどうすればいいの?」
「収容所にいる貴方のお仲間を、全員殺しなさい」
普通はここで躊躇うのかしら。それともそこまで非情になれないと答えるのかしら。
私はやっぱり何処か普通じゃない。はみ出しもの。落ちこぼれ。いつも輪の外にいた私。
「いいわよ」
私は即答した。
フュリン、私は別の道を歩む事にしたわ。
あなたに対して特に感情をぶつけた事もなかったけど、今の私ならあなたに言える。
今から私達は〝敵〟よ。




