第十九話 宣戦布告 -Julius Side-
「暫く見ない間に、随分出世したな。ユリウス殿」
「い、い、生きておられたのですね。アーキノフ……様」
「うん? ユリウス殿とアーキノフ殿は、お知り合いなのですかな?」
ヨハネスがアーキノフに尋ねる。余計な疑問は持たなくていいんだよ。
それにしても生きていたのか。アストに殺されたとばかり思い込んでいたが、これは厄介だぞ。
「知り合いも何も、以前はラムリースに仕えていた。最高司令官の地位を与えて我が片腕となっておったはずだがな。いつの間にか、主君を裏切りエスハイムについたか」
「い、い、いえ……裏切るなどと決してそのような事は……」
くそ……アーキノフがここに現れるなんて完全な誤算だ。
だがラムリースは滅び、地下に捕えられていた魔王ザングレスもいなかった。
今まで何処に隠れていやがったのか。ハイグランドに来れるって事はまだラムリースの王として認められていると言う事だ。
「皆、色々と気になる事があるだろう。儂が今何処にいて何をしているのか」
みんなアーキノフの話に耳を傾けている。
ラムリースは世界でも勇者を多く誕生させている国だからな。勇者システムなんてものがあるなど、ここにいる中でその事実を知ってるのは俺ぐらいだろうし。
ん? そうか、まだみんなは事実を知らないんだった。
くっくっく。俺は何をビビってたんだ。
魔王ザングレスを地下で飼い慣らし、勇者システムとか言う最低最悪のシステムで、ヴェルグラを強化してた事、何一つ知らない。
よし、頃合いを見てぶちまけるぞ。くっくっく。
と、思ってたんだが……。
「儂は今、魔界のグランベルクと言う領域におる。魔界を支配する王としてな」
「な!?」
「な、なんですって!?」
魔界の王だと? 人間のアーキノフがどうやって魔界の王なんかになれたんだ? こいつはただの人間じゃないか。
勇者でもなければ導師でもない。こんなジジイが何故……。
「人間界は今、ユリウス殿の話題で盛り上がっておるようだが」
こいつ……何を言うつもりなんだ……。
「儂の〝幻術士〟を使ったのか? ユリウス殿」
「!?」
「ん? 答えられぬか? まあ良い。あんなガラクタなど今更興味はない」
「幻術士……?」
「ユリウス殿、幻術士とは何なのですか?」
「…………」
各国の王達は俺が世界の英雄王となった事と、幻術士と言う存在が何か関係があると思って純粋な疑問として、俺に聞いているとは思う。
だが俺は答えられなかった。額から汗がツゥーっと流れ落ちた。
その俺の心の声をまるで聞いているかのように、フッと軽く笑い、手に持つグラスに口をつける。
「その事はもう良い。それよりも、今日はここにいる各国の王達に伝えなければならない事がある」
伝えなければならない事? みんな同じ疑問を心に持ち、俺でさえもアーキノフの次の言葉を待ってしまってる状態だ。
どうせこいつの事だ。何か良くない事を言うつもりなんだろ。
悪い予感はいつもよく当たるからな。
「魔界の王として人間界に住む諸君らに告げる。時は来た。本日をもって人間界に住む諸君らを一掃する事に決めた。儂の言葉は、実質の宣戦布告と捉えよ」
な、なに? 人間界を一掃するだと?
「な、何を言っておるんじゃアーキノフ殿。我々を一掃する?」
「これは何の冗談ですかな? アーキノフ殿」
俺も同じ意見だ。アーキノフ、何を血迷ったのか知らんがあんたの敵は魔族のはずだ。
何故、人間界に対して宣戦布告をするんだよ。
もしかしてあのヴェルグラって魔族に何かされたのか?
「近いうちに魔界から多くの魔族が現れるだろう。覚悟せよ」
「ちょっ、ちょっとまだ話が見えん! アーキノフ殿、何故魔族の味方になって人間界を滅ぼそうとしているのじゃ!? 何が目的なんじゃよ!」
イヴァークの王エメリッヒが、アーキノフの席に駆け寄って問い質す。
「魔族の味方になった訳ではない。人間を一掃し、世界そのものを無に還す必要がある」
「無に還す……? 何を言っておられるのかアーキノフ殿! 何故人間を滅ぼす必要がある!?」
デルメシアの王コンラッドもエメリッヒに続く。
アーキノフは全く顔色変えずにワインを片手に冷静に話を進める。
俺は自分の席から立ち上がる事も出来ずにいた。
余りにも唐突で、余りにもスケールが大き過ぎて、正直アーキノフが何を考えてるのか理解する事が出来ない。
心の底からこう思ってしまった。
〝アーキノフには勝てない〟と。
「命が惜しければ、魔界へ逃れるんだな。最も、魔界で生きていけるのならばな」
そう言い残し、スッと光と共にアーキノフはこの場を去ったのだった。
人間界を無に還すだと? そこに何のメリットが奴にあるんだ?
それと、幻術士を使った事も見抜いていたようだ……。
魔物も厄介だと言うのに、魔界から魔族だと?
どうする? ここにいる王達はアーキノフが去った後、暫くの間誰一人として口を開く者はいなかった。
くそ……俺は必ず生き残ってやる……。




