第八話 極大励起
僕はある時から導師の力をセーブする事にした。
それは戦獣祭の時まで遡るんだけど、あの時、僕は自分でも計り知れないくらいの力がある事に気づいたんだ。
恐ろしく強大な力。どんなに相手が憎くても決してその力を使わないように、僕は自分に結界を設け、力を封じたんだ。
〝極大励起〟それは感情のレベル制限を解放する為に結界の封印を解く事。
ただ、今の僕がこれを使ってしまうとあいつの命が尽きるまで二度と力を抑える事は出来ないだろう。
極大励起を引き起こすトリガーとなるのは僕の〝感情〟だ。
アーキノフと対峙した時、僕は確かに怒りに支配されていて、だけどその時でも結界を解く事はしなかった。
ゼーロットは……こいつはレインベルやセレスティア様の命を奪ったんだ。あいつを止められる力を持ちながら僕は止められなかった。
だから、使わなければならない。ゼーロットをこのまま放ってはおけないから。
怒りと憎しみと言う感情で極大励起を引き起こすと、そのマイナスの感情のエネルギーに支配されてしまい、感情のままにめちゃくちゃな戦いをしてしまうんだ。
今の僕じゃ極大励起した自分自身を制御する事が出来ない……。
恐ろしい程、余りにも強大な力をコントロールする事にまだレベルが足りてないんだと思う。
だけど、魔神の力を得たゼーロットを倒すには、極大励起を引き起こすしかない。
「ついて来い!!」
近くに倒れてるネファーリアと、リラを巻き込んでしまうかも知れないから彼女達に影響がない所までゼーロットを誘導する。
それは簡単だった。あいつは僕を殺す事しか考えてない。
二人の事なんて眼中にないのは分かってた。
「これで巻き添えを食らわずに済む……か」
「……知っててついて来たのか」
「あんな魔族なんぞには興味がない。あるのは貴様の力だ。貴様はまだ力を隠しているだろう? 楽しみだ、今の俺とどちらが上なのか」
「僕はお前を絶対に許さない。殺したい程お前が憎いけど、この力はそんなお前でも使うかどうか迷うぐらい、とんでもなく恐ろしい力なんだよ」
想定内だけど、そんな事で戦いをやめるような相手じゃないのは分かってる。でも一応忠告はしておいた。
それはあくまでも僕は導師だからだ。お前のような強さを求める為に誰かの命を絶つなんて事は絶対にしない。
出来るならお前を止めて、この戦いを終わらせたいと思ってる。
だけど……。
「もう……それもどうでも……いいんだよ」
「どうでもいい? 何を言ってる?」
どうでもいい。
「どぉぉぉぉぉぉでもぉぉいぃぃぃんだよぉぉぉぉぉぉぉ〜!!!!!」
ブチィィィン!!!!
堪忍袋の緒が切れた。
マイナスの感情で極大励起する事を例えるのなら、この言葉が一番しっくりくる。
極大励起を引き起こした瞬間、僕の中の正義や愛などのプラスの感情が怒りや憎しみ、悲しみなどのマイナスの感情で塗り染められた。
マイナス極大励起状態になると、闇を操る事が出来る。
光と闇は全ての次元で一番強いエネルギーだ。
憎い、憎い、憎い、憎い。
目の前のあいつを今すぐに殺したい。
そう強く感情が昂っていると、いつの間にかゼーロットに凄まじいスピードで殴り続ける自分に気がついた。
だが、別に驚きはしない。
「よくもぉ! よくもぉ! よくもぉ! よくもぉぉ! レインベルを殺しやがったなぁぁぁ!!!!」
「がぁ!? ぐぉ!? うぐぁ!? ぐはぁ!?」
魔神の魂を喰らって醜い化け物になったゼーロットを、〝悪魔〟と呼称するならば、怒りと憎しみの負の感情で極大励起した僕もまた〝悪魔〟と呼ぶべきだろう。
僕は一方的に何発も何発も殴り続ける。
憎しみが、怒りが、悲しみが、溢れてくる。その度に力が増していく。それは際限なくどんどんと膨れ上がっていく。
僕の体の周りには闇のオーラと黒いスパークが纏わりつき、力を増す度に大きく激しくなる。
「このぉ! このぉ! このぉ! このぉぉぉ!!!」
何千、何万、数え切れない程殴り続けた。
ゼーロットは何の抵抗もなく、ただの的のようになっていた。
闇のオーラを凝縮し、魔力に乗せてあいつに向けて放出。
ただ今の僕は膨大なエネルギーを制御する事が出来ず、手元がブレてしまった。
ギュオォォォォォォォォーーーー!!!
悪魔と化していたゼーロットだったが、実は悪魔の姿は鎧のようなもので、放出した魔力によって右半身が剥げて僕の肉体が見えたんだ。
だがまたすぐに黒い霧が覆い隠し、醜い悪魔の姿へ戻ってしまった。
「ちっ、あの黒い霧をなんとかしないとダメージを与えられないか……」
そう、さっき僕が数え切れない猛撃を繰り返してたのに大したダメージが入ってなかったんだ。
全部あの悪魔の鎧みたいなのにダメージが吸収されてしまう。
「ふ、ふははははは〜! 中々効いたぞ! そうだ、もっとこい! ふふふ、ふははは!」
「喚くな。言われなくても殺してやるから待ってろ」
こんな奴に、こんな奴に、レインベル、セレスティア様は……。
また怒りが、憎しみが溢れてくる。
ドォォン!!
怒りが込み上げてくる。目の前の相手を殺したくて、ずっとどうやって殺そうか考えてる自分がいる。
そしてその感情が、闇のエネルギーを増幅し力が増していく。
肉体を持たない意識体で、これだけの威力を出せるんだから、肉体を取り戻し本来の姿で使ったらゼーロットレベルの相手でも一瞬で片付くだろう。
「……何を笑ってる?」
「くくく、まさかここまでやるとは……な」
ニヤニヤ笑ったかと思えば急に僕を睨み出す。
「悪魔め!」
そう言ってゼーロットが仕掛けてくる。
僕は真正面で攻撃を受け止め、また何発も殴り続けた。
「お前を殺す為なら何にだってなってやるさ」




