第ニ話 名もなき少女
「ここ……は?」
僕は、ヴェルグラやメアと一緒に幻竜神界へとやって来た。と思ってた。
だけど今目に映してる場所、物から見て幻竜神界じゃない事が分かる。
今僕が寝ているのはベッド、そして何処かの部屋……か?
周りに設置されてる家具らしきものの作りが人間界のものでも、魔界のものでも、幻竜神界のものでもないんだよ。
セレスティア様から記憶を共有してる僕の記憶だと、やっぱりここは幻竜神界じゃない。
「おはようアスト!」
「うわぁ!?」
びびビックリしたぁ……。
な、なんだ……いきなり目の前に少女が現れた。
今部屋のドアから入って来たのか? でもそんな気配はなかったし……。
少女と言っても、年齢的には僕と同い年ぐらい。ストレートの綺麗な金髪に白いワンピース、そこから細い手脚が伸びる。
ニコニコしながらじーっと僕を見てるんだけど、何故か目を逸らす事が出来なかった。
と言うかどうして僕の名前を……?
「知ってるかって? うふふ」
「き、君は?」
「そんなに怖がらないでいいよ。ここが何処か、私が誰なのか知りたいんでしょ?」
凄く不思議な感覚がした。僕の心を覗いてるみたいに……何でも知ってるぞと言わんばかりの表情、雰囲気を感じる。
こんな感覚、生まれて初めてだよ。
「ここはね、アストの世界で言う〝天国〟かな」
「と言う事は、僕は死んだのかい?」
「う〜ん……そうじゃなくて意識だけこっちに来てる感じだね」
そうか……じゃあネファーリアと僕の位置を入れ替えたあの術が失敗したんだな。
と言う事はネファーリアも、意識と切り離されてしまった可能性がある。一刻も早く元に戻らないと!
「大丈夫! アストの術は成功したよ。ネファーリアも無事だしね。彼女は今……リラティナスとレインベル? お友達かな? みんなpK七百って言う所にいるみたいだよ」
「……ピーケーななひゃく……?」
「あ、ごめんね! ネファーリア達は幻竜神界にいるよ」
「幻竜神界!? どうして!? あの時、ネファーリア達には影響がなかったはずなのに……」
もしかして次元術さえも失敗したって事なのか?
いや、そんなはずは……だって次元術は成功したってこの子も……。
ちょっと待て、冷静に考えよう。
そもそもこの子は何者なんだ? 名前とかどうしてそんなに詳しく知ってるんだろう。
ここが天国って言ってたけど、この子はまさか神様なんだろうか……?
「うん、アストの世界の言葉で言うと、そうだね〜神様になるかな!」
もしかして……この子。
「も、もしかして……心が読めるのかい?」
「うん、読めるよ!」
「ほ、本当に神様なんだな……」
「アスト、ついて来て。見せてあげるよ」
見せるって何を?
まるで僕がその疑問を持つ事が分かってるかのように、ニコニコとしながら、部屋のドアを開けてこっちを見た。
なんだろ。不安や警戒心はあったけど、神様ならと言う安心感も同時に持っていて……なんだか
「心が賑やか? ……うふふ!」
「え? あ、う、うん……」
な、なんかやりにくいな……。
心の中でも下手な事は考えられないな。
余計な事を考えないように、僕はさっさと彼女について行く事にした。
部屋を出ると廊下があって、いくつかのドアが見える。
少女はそのどのドアも通り過ぎ階段を降りていく。
僕がいた部屋は二階だったんだな。
階段を降りてすぐ近くのドアを開けて中に入ると、そこには長いソファーと見た事もないデザインの家具、そして板のようなものが立てられてある。
「色んな世界を映せるんだよ。アストの世界にはないものだね」
「世界を……映す?」
僕がポロっと落とした言葉でも、また心を読んだのか少女はニコニコしながら言葉を拾って僕へと返すんだ。
「これを使って、ネファーリア達が今何処で何をしてるのか見られるんだよ」
ソファーにちょこんと軽く座り、手招きして僕を呼ぶ少女。
あの板に? ネファーリア達が何をしてるのか見える?
流石天国、流石神様だな……。全く何を言ってるのか訳が分からないよ。
この板を使って、どうやってネファーリア達を見るんだろう。
何の素材で出来てるのかは分からないけど、それでもただの板じゃないか。
そう思いながら少女の顔を見る。相変わらずニコニコと僕に微笑んでる。
それから直ぐにパッと光が黒い板から放たれた。
「ね、ネファーリア!?」
僕の目の前で、ネファーリアがリラやレインベルと何かの話をしている。え!? 部屋にいたはずがいつの間にか外……? どうなってるんだ……まさかワープして来たのか……?
「みんな無事か!? ネファーリア! リラ! レインベル!」
名前を呼んだけど全く反応がなかった。
どうやら僕の声は届いてないばかりか、存在にも気づいていないみたいだ。
「うふふアスト、これは見るだけのものなんだよ。呼んでも届かないからね」
「そ、そうみたいだな……」
見たところ、三人共無事みたいだな。ゼノス達の姿が見えないって事は、幻竜神界にいるのはこの三人だけなのか?
この少女に聞いてみよう。そう思って僕が喉元に用意した言葉は外には出なかった。
少女の口からゼノスや他の仲間の名前が出てきて、みんな無事だと言った。
気がつくと僕は少女を神様と呼び、敬語で話すようになっていたんだけど、その呼び方は嫌だと言われた。
「色々疑問があるみたいだねアスト。答えてあげてもいいけど、神様と敬語はやめて普通に話そうよ」
「わ、分かった。じゃあ君の名前を教えてくれるかい?」
「名前……」
え? まずい事聞いたかな……?
ずっとニコニコと微笑んでいた少女の表情が重く悲しいものになって、俯いてしまった。
そんなつもりはなかったんだ。ごめんよユシア。
「ユシア……それは私の名前?」
「あ、いや……」
全く何も考えずに勝手に浮かんで……ここに来てから本当に不思議な事ばかりだよ。
自分でも何でそんな名前が浮かんだのかも分からないし、名前かどうかも……。
「私の名前、ユシアにする! せっかくアストが付けてくれたんだもん! ユシア……うふふ」
「だけど、君の本当の名前は?」
「私……名前ないんだ。ここにやって来たのもパパ以外だと、アストが初めてなんだよ」
「そうなの? それで君のパパは今どこに?」
「……ねえアスト! そんな事よりもっと楽しいお話をしようよ!」
「え、あ、うん……」




