第五十九話 悪は悪と手を結ぶ
お待たせいたしました。
ゼノス、クウォン、ヴァール、リミア、ネファーリア、リラ、レインベル、そしてヴェルグラ。
人間、魔族、竜族の混合パーティーは、約二万体にも増殖したシャドウ達を圧倒した。
戦力自体は僕達が断然有利、でもあいつらは何度も何度も蘇ってきてこれじゃキリがない。
やっぱり僕の作戦を決行するしかない。ここにいるシャドウ、そして中心にいるメアを幻竜神界へとワープさせる。
「だけど、これだけの数を一度に飛ばすには次元術の範囲を拡げる必要があるから魔力を溜めるのに時間がかかる……みんなで何とか時間を稼いで欲しいんだ」
「分かりました! アストさんの詠唱の邪魔はさせません!」
「そうだぜ先生! 指一本……いや! 視界にも入れさせねーぜ! 先生、終わったらギューしような!♡」
「……わたくしも、初めてバーサーカーとして戦いますが任せておいて下さい!」
「改まって頼んでんじゃねぇぞアスト! 俺達はおめぇの力に救われたんだ! 今じゃ誰よりも信じてるぜ! 導師様をよ!」
「くっふっふ。私もこの仲良しパーティーの仲間入りですか? 虫唾が走りますが、一応取引なのでね」
ユリウスとリーベルト王子は影響を受けない城門前に次元術でワープさせておいた。これでこの場にいるのは僕達だけ。シャドウは学習能力が高い。何度も同じ手は使えない事から一回で成功させないといけない。
確実に全部を飛ばせるように魔力を集中しないと。
僕は次元術に集中する為、戦線離脱し少し離れた所までワープする。
ゼノスが注意を引きつけ、クウォンとリラが接近、少し離れてレインベルが竜言語呪文と呼ばれる特殊な術で近距離と中距離で戦っている。
空にはネファーリアが霊神術で狙っていて、妨害しに来たシャドウにはバーサーカーの【リベンジチャージ】でパワーを溜めて反撃し、隙をついて霊神術を放つ。
その後ろから魔術を撃ちながら補助魔術でパーティーをサポートするヴァール。
彼らとは独立して、一人で数千のシャドウを相手するヴェルグラ。
そして、傷ついた者はリミアの治癒が飛んで来る。
まるで昔からの戦友のように全く無駄の無い連携が取れている事に僕は魔力を高めながらも、その事が嬉しかった。
みんな一つの目標の為に、そこには過去のしがらみや種族、敵味方関係なく僕に協力してくれてるんだから。
「いいぞみんな、このまま上手く時間を稼いでくれ」
「アスト、何を企んでるか知らないがワタシを甘く見ない方がいいぞ」
シャドウに囲まれずっと静観していたメアが突然消え、背後に姿を現す。
メアのこの動きは予測できていたんだ。
でも、ここで次元術を止める訳にはいかない。そしてメアもこの事に気づいてる。振り向く事も出来ない状態で手は出して来ないと。
いきなり何かが僕の首に巻き付き締め付けられる。
「君さえ倒せば、後は雑魚ばかりだ!」
「あ……がぁ……」
腕を伸ばして首に巻きつけたのか。
そうだ、こいつは自由自在に変形させる事が出来たんだったな。
ただ、こんな無防備で無抵抗の僕をあっさり絞め殺す事が出来るのにこいつはそうしなかった。
「キミはとても危険な人間だ。戦闘能力だけじゃなく指揮官としての能力も非常に高い。だから普通はここで殺しておくべきなんだよ」
「ぐぐ……ぅ……何が言いたい」
「キミはワタシをさらに成長させるキッカケになってもらう。あの時のようにね」
あの時の……? 共食いした時の事か。
「そ……このシ……ャドウでも……食べ……てろ……よ」
「ふむ、それはもう既に試したよ。どうやらワタシの進化の原因は〝食べた〟事ではなかったようだね。だからキミに協力してもらいたいんだよ」
「僕……が……、そん……な事に……協……力する……と……お……思ってる……のか」
それよりも、と続ける。
「早く……締め殺さ……ないと……チャン……スを逃して……しま……うぞ」
たった一回の進化で信じられないぐらいレベルアップした事を考えると、次の進化は導師と同等かそれ以上になる可能性がある。
だから絶対に進化させてはいけない。
メアは術の妨害をしに来ただけのようで、どうやら僕を絞め殺すつもりはなさそうだ。
甘く見てるのはお前だぞメア。
どんなに妨害して来ようが、この次元術で幻竜神界に飛ばす事が覆る事はない。
お前が僕の背後に現れた瞬間からもう既に仲間は気づいていたんだからな。
その中でも早く駆けつけてくれたのは、ネファーリア、レインベル、そしてリラだった。
僕達が会話をしてる間にまずネファーリアがメアの更に背後から尻尾を使って同じように首を締めつけ、同時に竜紋剣を片手に握ったレインベルが伸びた腕を切り裂いた。
「あたしの先生に触んなぁぁぁ〜!!」
バキィィィ!!
リラが魔力を乗せた一撃をメアの懐にぶち込んだ。
ヴェルグラの呪いから解放されて魔力が使えるようになった事でパワーがまたグンと上がったリラの一撃はメアの胴体を貫いてしまった。
「おごぉ!?」
「覚悟しなさい! その程度では許しません!」
ネファーリアが詠唱する。
「サドゥク・ラインズ・ドゥク・サン・ドゥーク。アドデラ・イズィン・サドゥク・ラア・マラインズ……。汝、我が前の邪悪なる闇を打ち払え! 霊神カイザムンド! その声は天空を割り、その腕で大地を引き裂く! 不死鳥疾翔滅!!」
グオォォォォォォォォォォォォォォォォォー!!!!!
空に青白く光る魔方陣が走ったかと思えば、天空から巨大な不死鳥がその魔方陣の中から飛び出してきた。
大きな翼をはためかせて光り輝く風を巻き起こすと、全てのシャドウを輝く風の刃で切り裂き、黒い霧に分解され周りに漂った。
シャドウが消滅する中でも、やっぱりメアだけはしぶとく生き残っていた。
「ネ……ネファ……リア。ずい……ぶん……と、魔力が……上がってる…………ようだね」
だけど、相当のダメージを受けてる。
ここしかない! 僕に気を取られていたおかげで、ネファーリアがノーマークになり強力な霊神術を撃つ事が出来たのは良い誤算だった。
このチャンスは絶対に逃さない! ここが次元術で飛ばすチャンス!
「みんな! 僕の所に集まってくれ!」
掛け声に次々と集まって来る。
「次元術、ついに発動するのだな」
「うっしゃあ!! アスト!! かましてやろうぜ!!」
シャドウは人型に姿を変えようと宙を漂う霧が集まる。
でももう遅い。メアも傷の再生で身動き取れない状況。
この絶好の機会、幻竜神界へ飛ばすのは今しかない!
「よし! 行くぞー!」
と、僕が次元術を今まさに発動しようとしたその時だった。
「おーーっと! そこまでですよ」
ヴェルグラがメアを背に僕の前に立ちはだかったんだ。
元々アーキノフと組んでた魔族だったし、僕達を裏切る事は簡単に予測出来てた。だけど……。
「ア……アスト! すみません……」
ヴェルグラの隣には拘束魔術で体を縛られたネファーリアの姿があった。
僕が次元術を詠唱する僅かな隙をついてネファーリアを縛ったと言うのか。
ニヤついた笑みを見せつけながら、ヴェルグラは倒れているメアに向けて言葉を落とす。
「メアさん、私の部下になりなさい。そうすれば貴方を助けてあげましょう。くっふっふ」
差し伸べたられたヴェルグラのその手にゆっくりと重ねたメアであった。