第五十八話 親友の真意
「よかった、まだみんな無事みたいだな」
直ぐにレインベルに指示を出す。
「あそこにリーベルト王子が倒れてる。行って生死を確認して欲しい。僕達でシャドウを引きつけたから、まだ憑依はされてないと思う」
「分かりました! 任せて下さい!」
エスハイム城下町の中央広場にワープで戻って来た。
レインベル、リラ、ヴェルグラも一緒に連れてきたんだけど、ヴェルグラまで連れてきたのは、取引を持ちかけてみようと思ってるんだ。赤鬼の動きに注意しつつ話を振ってみた。
「ほうほう……シャドウですか。確かにこんな魔物は見た事がありませんね。くっふっふ。それで? 私と取引したいと仰ってましたが何でしょうか?」
「リラの呪いを完全に解いてくれ」
「見返りは?」
「その手足の拘束魔術を解いてやる」
「つまり自由にして下さると? とは言いながらわざわざこんな所に連れて来て、貴方……一体何を企んでるんですか」
「シャドウと戦ってもらう。断ればあいつらの餌になるだろう」
「私の条件が厳しいように思えますが……人間にしては残酷な事をなされるんですね……くっふっふ。分かりました、もうアーキノフも人間界にはいませんからね。貴方と取引させていただきますよ」
これでリラが目覚める。リラ、随分待たせてしまってごめんよ。
ヴェルグラは怪しい笑みを僕に向けてブツブツと呪文を唱え始めると、リラの頭から黒い煙が一気にバッと飛び出しヴェルグラの体に吸収されて行く。
「これで解除しましたよ。お次は貴方の番です。くっふっふ」
「う……ぅ……ん。せ……んせ……?」
リラが目を覚ました。呪いにかかって苦しんでた事実が綺麗さっぱり無くなったようにムクッと起き上がる。
目をパチパチさせて僕を見ると「せんせー」と言っていきなり抱きついてきた。
そういやこの娘……こう言う娘だった……。
「だ、大丈夫か?」
「うん⭐︎ ここ……どこだ? 親父の領域じゃない」
「ここは人間界だよ。詳しい事は後で説明する。まずは目の前の敵を倒すのに君の力を貸してくれ」
「うじゃうじゃいやがる黒いヤツの事? いいぜ先生! 戦いたくて体がウズウズしてたところだったし⭐︎」
「その前に……リラ、僕とメルトナを結ぼう」
「え……? き、急にどうしたんだよ先生……」
「メルトナを結んでおけば、もう二度とこいつの呪いにはかからなくなる。もう二度と君に辛い思いはさせないよ」
「先生……」
「なるほど〜メルトナですか。考えましたね……」
僕達は小指を絡め誓いの呪文を口にする。
魔族の文字がシュルシュルもお互いの指に巻きついた。
よし! これでリラは大丈夫そうだな。なら約束通りヴェルグラの拘束を解いてやるか。
僕はヴェルグラの手足にかかっている拘束魔術を解いた。
「ほうほう! 魔力が戻りましたよぉぉ〜!」
拘束魔術で魔力を封印されていたヴェルグラが、拘束を解いたと同時に勢い良く魔力を放出した。
凄い魔力。周りのシャドウが波紋のように吹き飛んで行ったけど、その倍の速さで一気にヴェルグラへと集まって来る。
「私を食べようと? くっふっふ、違いますよ。私が頂きますね」
ヴェルグラも上手く戦わせる事が出来た! よし、作戦開始だ。
シャドウは相変わらずの不死身だけど気になったのがメアだ。黒いシャドウに囲まれてずっと静観してるだけ。
僕がここを離れる前と全く同じ所に立って、攻撃を仕掛ける素振りもない。
多分、僕達の技を観察してパターンを読んでるんだろう。何か企んでると見ておいた方が良さそうだ。
ゼノス達に声をかけると、直ぐに僕の周りへと集まった。
「おっせぇよアスト! 何やってたんだよ!」
「時間がかかってすまない! でもあいつらを倒せる方法が分かったんだ」
「本当ですか!」
「待て、リミアとネファーリアがまだのようだ。……あそこでシャドウと戦っている……あれは……ユリウスか?」
ユリウス……そう言えばゼノス達とエスハイムに僕を捕まえに来たんだって言ってたな。
「アスト! ユリウスさんはシャドウに憑依されてます!」
「何だって!?」
周りにウジャウジャとシャドウが群れ、視界を埋め尽くして中々確認出来ないけど、水色の長髪がチラッと見え隠れしているからあれがユリウスで間違いなさそうだ。
「フシュシュシュ」
「ウマソウナニンゲンダ」
「マテ、ワタシノエモノダ」
「ヨコドリハサセナイゾ」
周りのシャドウが僕を囲い飛び掛かって来た。
バキィ! ドガァ! バシィ! ドムッ!
「リベンジバースト!」
ギュオォォォォォォォォーーーー!!
咄嗟にクウォンからバーサーカーを回収し、僕の中に宿して【リベンジチャージ】で数十体のシャドウの乱撃を全て受け止めた後、【リベンジバースト】で反撃。吹き飛ばされたシャドウは全て消滅した。でもすぐにまた復活するし周りのシャドウになんて構ってられない。僕が進路を作り、クウォン、ヴァール最後にゼノスと後に続く。
「みんな! まずはリミア達を助けよう!」
「おう! 分かってんぜ!」
ユリウスはシャドウに取り憑かれてるって言ってたけど、どれぐらいの時間が経ってるんだろうか。
と言うのも、僕が以前に憑依された時は自分が消えてしまいそうになったんだ。〝死ぬ〟とはまた別の感覚。きっとあれが憑依なんだと思う。僕はギリギリのところでネファーリアやフュリンに助けてもらえたけど、ユリウスも早くシャドウを追い出さないと二度と自分に戻れなくなってしまう。
ネファーリアの魔力なら霊神術で一発浄化出来るのに何で撃たないのかと、空に目を向けると複数のシャドウにしつこく纏わりつけられていた。詠唱を邪魔されて撃てなかったんだな。
「ゼノス! クウォン! 君達はネファーリアの詠唱をサポートしてあげてくれ! 霊神術でシャドウをユリウスから追い出す!」
「了解した。クウォン、私の後に続け」
「体も随分温まって来たし、そろそろ奥義をお見舞いしてやるぜ!」
僕とヴァールでリミアと合流してユリウスを相手をする。
リミアも殺さない程度に上手く手を抜いて戦えてるのは凄いな。
ユリウスの事を恨んでるだろうってゼノス達が言ってたし、色々あってパーティーから外れたって聞いてたからもしかしたらって思ったけど、あの戦い方を見たら大丈夫そうだな。
僕は大きく跳躍してリミアの前へと降りた。
「リミアよく頑張ったな! 加勢するよ!」
「アスト、今のユリウスは」
「分かってる!」
「アスト……なるほど、お前が憎きアスト・ローランか。この男の動機の根源にある人間。お前をこの目で見てるだけでこいつの心の中が憎しみ、嫉妬で溢れ返る。お前が憎い、絶望の底に落としたいと常に思ってる」
「……僕が……憎い……?」
ユリウスが僕に憎しみを抱いてる? あのユリウスが?
僕とユリウスは、幼い頃から同じ孤児院育ちでいつも一緒だった。その頃からお互いをライバル視していた事はあったかもしれない。だけど僕を憎んでいたなんて……知らなかった。
いつも人に優しかったし、喧嘩も一度もしなかった。
「デタラメを言うんじゃない! そんな嘘で僕を翻弄しようとしても無駄だ!」
僕はユリウスに向かって走りながら魔力を両手に集中させる。地面にいくつか転がってる武器の中から二つの斧を引き寄せ、空高くジャンプしながら両手に握った斧を振り下ろす。
でも僕の攻撃は簡単に避けられてしまう。
そう、それでいいんだシャドウ。ユリウスの体には傷はつけたくない。
時間を稼げればいいんだ。
「そんな大振りの攻撃当たるかよ。もっと本気でやれよアスト」
「そう言うお前は、ユリウスを盾にしてるじゃないか。なら正々堂々と戦えよ」
「感じるぞ、お前への憎しみが。そしてその憎しみを感じる度に俺自身が強くなっていくのがわかる」
そう言いながら、僕の真前に現れ顔面に頭突きを入れられる。
その後両手に魔力を集中し、近くの武器を吸い寄せた。
こいつ……僕の真似をしたのか。
「お前は弱い、力、魔力、全ての能力がこいつよりも弱いのに、何故勇者に選ばれたんだ? 何故だぁ!!」
ビュン! ビュン!
吸い寄せた二本の剣を素早く斬り払い、後方にササッと回避した。
その時、ネファーリアが僕の名前を叫んだ。
これは霊神術が放たれた合図だ。霊神術は対象以外は全て結界によって守られるからユリウス以外に影響を与える事は全くない。ゼノスとクウォンが上手くサポートしてくれたんだな。
霊的な生物に大ダメージを与える霊神術【昇天閃光柱】がユリウスに命中、聖なる眩い光の柱が足下から空に向かって駆け抜ける。
「お……お前……が憎……い……。何で……おま…………が勇者なん……だ。導師…………な……んだ」
ユリウス……。本当に君はそんな事を……。
「あがががぁ……ア……ストォォ! おま……えさ…………え……いなけ…………れぇばぁぁぁ!!」
ユリウスの体から黒い霧が水蒸気のように噴き出した。
「ユリウス!」
地面に倒れたユリウスの体を抱きかかえる。
気を失ってはいるけど息はしてるから生きてる!
よかった。人格はまだ消えてなかったんだな。
―― お前が憎い、絶望の底に落としたいと常に思ってる――
ユリウス……何で君が僕をそこまで憎んでいるのか、未だに僕は分からない。
もし本当に君が僕を憎んでいるなら……きっと君を傷つける事をしたんだよ。
だって君はとても素晴らしい人間だから。
幼い頃、孤児院のみんなが君に憧れ、その中でも僕は君と親友になれた。そしてこれからもずっと親友。
そう……思っていたんだ。
第五十九話は9月6日を予定してます。




