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第五十一話 選択


 セシル!? セシルが僕のあの一撃を受け止めたのか!?

 いや、そんな事は今どうでもいい! 君なのか?

 これはアーキノフが幻術か何かで夢を見せているのか?

 最大限まで高まっていた僕の復讐心、殺意がまるで火事になった家屋に大量の洪水が一気に流れてきたかのように、僕の心も鎮火した。



「セシ……ル? 本当に君なのか?」


「ええそうよアスト! 会いたかったわ」



 僕は思わずセシルを抱きしめた。そして抱きしめて分かった。分析士を使わなくても、この感触、匂い、そして抱きしめた時の僕の感情が本物であると言ってる。

 アーキノフがかけた幻術でもない。正真正銘、今目の前にいるのはセシルだったのだ。

 だけど僕はあの時、確かにこの目で見たと言う現実がある。



「セシル……君は生きていたのか? でも君は……」


「アスト……ごめんなさい。アストにずっと隠してた事があるの」



 そう言ってセシルは僕からゆっくりと離れると、目を閉じて魔力を解き放つ。

 前のセシルは魔力は使えなかった。でもその事には別に驚かなかったんだ。魔力はその辺の一般人でも訓練すれば誰でも使える。

 僕が驚いたのは、セシルは姿が魔族の姿をしていたからだ。

 だけどもっと驚いたのは別にあるんだ。

 それと同時にずっと疑問だった答えがそこにあった。

 セシルが露わにした魔族の姿は、紛れもなくネファーリアだったんだ。


 二本のツノに四枚の黒いコウモリのような翼、蛇のような尻尾。ネファーリアとそっくりだったんだ。



「セシル……君はもしかして」



 と、僕が核心に迫ろうとした時だった。

 謁見の間の大扉が大きな音を立てて開き中に入って来たのはリラを抱えていたレインベル、そして拘束魔術で手足を拘束したヴェルグラを地面に置いたネファーリア。

 ネファーリアはセシルは姿に言葉もなく驚いている。そうだよな、自分と瓜二つの姿をした者が目の前にいるんだもんな。



「アスト…………そこにいるのは」


「ネファーリアね。私はセシルよ」


「わ、わたくしの事を知っているのですか!?」


「勿論よ。だって私の……姉さんなんですもの」



 セシルとネファーリアは姉妹、だったのか?

 でも疑う余地はなかった。

 じゃあ僕は……ずっと幼い頃から魔族のセシルを好きになっていたって事なのか。

 魔族だから何と言う訳じゃない。そうじゃないけど、裏切られたような気がして……。



「わたくしには……確かに妹がいました。けれども生まれて間もなくお母様と一緒に亡くなったと聞いておりました」


「私はね、捨てられたのよ。お父さんに」


「お父様に!? そ、そんな……」


「お母さんはね、私を生かす為に死んだの。その事がお父さんは許せなかったんでしょうね」



 姉妹の会話、聞きたい事話したい事あるだろうけど、僕も君に聞きたい事があるんだ。話を割ってごめん。



「セシル、それじゃあ……あの時、君は死んでなかったと言う事なのかい?」


「ううん、私はあの時殺された。でもその後お父さんの力で蘇ったの」


「お、お父様!? どう言う事ですか!?」



 僕も同じ疑問があった。セシルがネファーリアと姉妹なら、父親は魔王ザングレス。だけどザングレスは僕……いや厳密にはシードを与えたゼノス達が確かに倒したんだ。

 〝お父さんの力で蘇った〟ってセシルは言ったけど、何かの比喩なのか。



「お父さんはまだ生きてるわ。この下で」


「「「!?」」」


「そうだ。ザングレスは儂の管理の下で預かっておる」



 僕達が倒したのが偽物ダミーだった事、セシルはザングレスの魔力によって復活した事。

 ザングレスが地下で捕らわれている事。アーキノフは僕達に淡々と語る。


 あの魔王ザングレスをただの人間のアーキノフが、捕獲して連れて来れるとは到底思えない。

 必ず協力者がいるはずだ。と考えた時ふとヴェルグラの事を思い出した。

 今思えばラムリース城に魔族がいる事自体おかしいんだよ。

 アーキノフは魔族ヴェルグラと通じてる。それも昨日今日の話じゃない。アーキノフは魔族と手を組みザングレスをどうにか捕獲したんだ。



「お父様が生きてる……。お父様を解放して下さい!」


「解放……う〜む。それは難しい要求だな」



 少しずつ後退りしながら様子を伺うアーキノフの姿が目に入った。

 ここから逃げられると思うなよ。

 ただ、今の僕はオーバードライブも全てが解除された状態だから、と考えていると【烈炎弾レギア】が僕の後ろから飛んできた。

 そしてアーキノフの退路先の地面に当たる。



「ぐぅ……」


「まだ話は終わってませんよ。アーキノフ国王」



 ネファーリアが放った魔術を見たセシルは一瞬の内にアーキノフの前に移動し、僕達の前に立ちはだかった。

 セシルはアーキノフを庇ったのだ。



「セシル!? 何でアーキノフを庇うんだよ!? 君のお父さんを地下に閉じ込めてる張本人なんだぞ」


「アスト……とても悲しいわ。やっぱりアーキノフ様を殺そうとしてるのね。私はこうして生きてる。なのに……どうして」


「セシル……アーキノフは僕に嘘の罪状を宣告して、追放した人間なんだ。僕が真実を話してる事を分かった上で大罪人として国外に追放したんだぞ」



 そして、と僕は続ける。



「僕から導師の力を奪い取ろうとしてるんだ。君のお父さんだって何か理由があって閉じ込めてると思う。もしかしたらお父さんの力も奪い取ってるかも知れない」



 僕の話にセシルは首を横に振る。



「違うわ。アーキノフ様は私を生き返らせてくれた。こうしてアストにもう一度会わせてくれたじゃない。そんな人をどうして貴方は……」


「目を覚ませセシル! アーキノフは君を殺した男なんだぞ! 君を生き返らせたのも、利用する為に決まってる!」


「そ、そんな事……」



 セシルはチラッと後ろのアーキノフを見る。



「ば、馬鹿も休み休み言え! 儂が其方を生き返らせたのは過ちだと思ったからだ。あの時殺すべきではなかった。アストを犯罪者だと決めつけていたからだ。だが今は信じておる。勇者の力が失われ、導師の力に目覚めた奇跡の男だとな」


「アスト……私は……」


「セシル、こっちに来るんだ」



 僕はゆっくり近づいてセシルに手を伸ばす。

 セシルも僕の手を握ろうと手を差し出す。

 セシルが魔族だった、裏切られた気持ちになったのは確かにそうだ。でも、もう二度とセシルは失いたくはないんだ。

 差し伸べられた君の手を、今度こそもう二度と……離しは……。



「ふふ…………うふふふふ」



 手を握る寸前で不気味に笑い出した。



「ど、どうしたんだい?」


「私なんかどうでも良かったのね」


「急に何を言い出すんだよセシル!?」


「その小指の紋様……誰かとメルトナを結んだって事でしょ?」


「あ、あぁ……。これか、これはそうだよ。そこのネファーリアとメルトナを結んだんだ」


「アスト!! あ、あの……」



 ネファーリア? 僕を呼んだまま次の言葉が出てこないのか、躊躇っている様子だった。



「よりにもよって姉さんだなんて……あんまりだわ」


「な、何がだよセシル!? 僕はただネファーリアの戦力アップの為に」


「メルトナは…………人間の……世界では……」



 ネファーリアが声を震わせながら続ける。



「結……婚です……」


「結婚!?」



 セシルは僕の手を取る事はなかった。

 グッと握り拳を作った彼女の手を、僕も強引に触る事はなかった。またアーキノフの元へ戻り、僕とネファーリアを強く睨む。

 そうだよな、僕とネファーリアとの事で疑ってるんだよな。



「わ、わたくしは知らなかったのです! アストにそのような方がいらっしゃるなんて……申し訳ありません!!」


「いや、僕が悪いんだよネファーリア。きっと君は僕の負担にならないように敢えて言わなかったんだろ?」


「ど、どうしてその事を……」


「何で姉さんを庇うの……アストは騙されたんだよ……」



 セシルは悲しい表情を浮かべながら、僕から遠ざかろうとしてる。

 せっかくこうしてまた出会えたのに、ごめん……君を傷つけてしまったね。なんとか修正をしようとすると、セシルはこれ以上近づくなと拒絶の念を僕に送る。



「私が生き返ったって知った時も、貴方はそれでも私の事を見ずにアーキノフ様を殺す事だけを考えてた。貴方は私の知ってるアストじゃない。……姉さんの影響ね」


「影響なんてない! 僕はただ君達」


「ねえ、今でも私の事を愛してるの?」


「もちろんさ! 君が殺された時、どれだけ悲しんだと」


「だったら……今から私がする事を黙って見ていてね」



 するとセシルはネファーリアに向かって走った。

 何してるんだセシル!? 君の姉さんだろ!?

 僕はすぐに殴りかかろうとするセシルの腕をガッと掴んだ。



「姉さんが……姉さんがアストの心を変えたのよぉぉ!」



 ぐぐ……凄い力だ。セシルは地を這うような怒声を撒き散らしながら、ネファーリアへ今も殴りかかろうとしている。

 今はこんな事をやってる場合じゃないんだ。



「セシル! この事は話し合いが必要だ。改めて落ち着いた時に」


「それは誰の為なの!? アストは……アストは! 姉さんを庇ってるように見える!」


「僕は二人とも傷ついて欲しくないだけなんだ! とにかくセシル! 一旦落ち着こう!」


「ふ……ざけないでっ!!」



 大きな魔力の衝撃波で吹き飛ばされる。

 セシルは魔力は想像以上に強かった。咄嗟の行動だとは言え、いつもは対処できるはずなのに全く油断していたんだ。

 セシルが変わったのか? それとも僕か? 以前までのような愛おしさが溢れてこないんだ。

 魔族だと知ってしまったからか? 分からない。

 恋人の為なら何でもできると思ってた。セシルがそう望むのなら何でもしてあげたい。

 

 それこそネファーリアを殺せと頼まれたら僕は応じていたと思う。

 それほど僕はセシルは事を愛していたんだ。


 セシルはまた周りに衝撃波を放ち、僕らを威嚇する。



「アーキノフ様に指一本でも触れたら、私が貴方達全てを消す。アスト、貴方が姉さんから離れて私と一緒に来てくれるんだったら、他の人には一切危害は加えないわ。約束する」


「セシル……」


「お願いよアスト! 私と一緒に来て! アーキノフ様の事は誤解してる事があるはずだから、それこそ話し合えば分かり合えるはずよ」



 セシル……ごめんセシル。僕は……。



「僕はやっぱり、あの時に君を殺したアーキノフの事は信じられない。それに僕は……ネファーリアを置いていくつもりはないよ。大切な仲間……いや家族だから」



 裏切られた。流れる涙がそう訴えて来た。

 僕を憎んでもいい。僕を殺したければ殺せばいい。



「そう……じゃあ今日から私達は敵同士と言う事ね! 姉さん、私は貴方を絶対に許さないから!」



 セシルはアーキノフと共にこの場から去ろうとする。

 ダメだ、ここで逃がす訳には行かないんだ!



「君がそこまで本気なら、そして僕の大切な仲間や家族に指一本でも触れたら僕は君を許さない」


「!?」



 次の瞬間、セシルは素早くゲートを作ってアーキノフと共に黒い渦へと消えて行った。


第五十二話は28日を予定しております。


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