第四十二話 油断大敵
バトルの回です。
「先生、あたしら次の次らしいから、ちょっと特訓しようぜ!」
「ほんとリラは修行が好きだな。分かった、付き合うよ」
バトルアリーナは、トーナメント形式で行われる。
僕達は第二試合でまだ時間があるし、ウォーミングアップ程度にやるならいいかな。
と言っても控室でやる訳にもいかず、コアバトルエリアを使わせてもらう事にした。
僕達の相手はマディラ、イェフニールペアだ。
コアバトルで四位だったな。
リラの攻撃を受け止めながら、会話を進める。
「僕達の相手、マディラとイェフニール。リラはどう見てる?」
「連携が凄く決まるペアだな。前回戦ったんだけど、普通に強かった」
回し蹴りを避けると、ニ撃目が飛んでくる。聖騎士のゴーレムアームで弾き返す。
う〜ん……リラは自分の攻撃が防がれた時に隙が出来る。〝攻撃は最大の防御〟的戦法なんだよな。
それで仕留められれば別にいいんだけど……。
「連携か……リラを集中で狙ってきそうだな」
「先生が魔術で援護してくれるから⭐︎」
僕は拳聖の【ブライトダッシュ】で近づき、回し蹴りを放った。
「あぐぅ!?」
「防御面以外にも君の弱点はあるんだ。こうして、変化をつけられる攻撃に弱い。大抵の場合、大技を繰り出す時は魔力の流れを追うんだ」
「魔力の流れ……」
「君は目とこれまでの経験から予測して動いてるけど、それだと強敵には対応出来なくなるんだよ。僕の攻撃を食らったろ?」
魔力がどの方向から感じ取れるのか。
自身への強化なのか、技に注いでいるのか、魔術なのか、魔力には色んな用途が存在する。
リラは一切魔力を使わずにここまで成長してきたから、中々魔力を使った戦い方は難しいと思う。
訓練するのもたった三日しかなかったけど、魔力の基礎も全部は教え切れてはないから、大会で変に魔力を意識してしまうと、本来の実力が出せなくなってしまう事は避けないといけない。
だから今回は僕がなるべくサポートすると言う連携の取り方で臨もうと思ってるんだ。
丁度僕は援護者だ。
そうこうしてる内に僕達の出番になった。
アナウンスが流れる。
バトルアリーナ第二回戦、VSマディラとイェフニール。
連携が得意、ならその連携を僕達で潰す。
「さぁさぁ! この対戦も皆さん注目していたでしょう!
第二回戦です! リラティナス&アスト・ローランペア 対 マディラ&イェフニールペアでーっす!」
どうでもいいけど、このホストずっとそのテンションを保ってられてるのか。感じるべき時じゃなかったかも知らないけど、プロ根性を感じてしまった。
「さぁ! さあ! 準備はよろしいですね? 第二試合開始です!!! はじめぇぇぇ!!」
カネの音と大歓声で鼓膜が破れそうだよ……。
攻撃の主体はファーストであるリラだ。
僕は少し距離を取って、回避力と行動力を上げる魔術でリラを援護、まずはどう動いてくるのか見てみよう。
「先生、サポート頼んだぜー!!」
「ああ、任せとけ!」
僕は賢者で【烈炎弾】を数発敵前の地面に放って砂埃を舞わせた。
この間にリラが背後に回り、鉄拳制裁が当たるかどうか。
コアバトルでは彼らは四位、でもそれとこれとはまた別の話。
油断してたらすぐに敵の罠に嵌ってしまう。
「イェフニール! 人間はほっとけ! リラティナス集中でいくぞ!」
「おう!」
狼の耳に太い尻尾、上半身は人間で下半身は虎のシマシマ模様の獣脚。
彼らも戦獣族だな。身体能力が高い。
やはり予想通りリラを集中攻撃か。恐らく弱点を狙ってくるはずだから、【サモンシード】で相手のファーストとセカンドが連携を取れないようにするか。
「サモンシード!」
僕は聖騎士を召喚し、イェフニールに向かわせる。
マディラは砂埃の中にいて視覚で捉える事は難しい状況。この状況で相手の攻撃者が取る行動は一つ。
上に跳んで、空中からリラを狙う奇襲攻撃。
僕の読み通り数秒経つとバッと姿が現れる。マディラだ。
「へっへっへ! 馬鹿め! そんな子供騙しで」
「氷結大槍!」
「へ?」
ズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウーーーーン!!!
読めていた分タイミングはバッチリだな。
跳び上がったマディラの更に頭上から氷の大槍がマディラに命中し槍と共に落下する。
その下にはリラが力を溜めて待ち構えてる。
「うぐぁぁぁ!? ……うそだろぉぉぉー!」
地面に叩きつけられたマディラは、直ぐに起き上がったけど、リラを捉える事は出来ないな。
「おかえり⭐︎」
「う、うしろ!?」
「うぅぅりゃぁぁぁぁ!!!」
「おごぉ!?」
よし、決まった! リラの拳がマディラの背中に直撃した。
当たればまず耐えられないだろう。
コアバトルで一位の破壊力だからな。
「マ、マディラ!! くそ!! あの人間が何かを召喚しやがったせいで作戦が狂いやがったぜ!! とりあえずマディラを回復させて仕切り直すか」
「そうはさせない」
「な、なに!? あの距離を一瞬で……」
「氷結波」
「こ、これ……は」
【氷結波】は初級氷属性魔術。
さっき使った【氷結大槍】よりもランクは下に位置する魔術だけど、必ずしも上位魔術が下位より強いとは限らない。
使い方次第で下位魔術が有利になる事もある。
今回で言うと【烈炎弾】で砂埃を巻き上げ敵の視界を奪った。
相手は読み通り下位魔術だからと言う目で油断した。
そして【氷結波】には相手の行動力を鈍くさせる鈍足効果が付与出来る。
「くそぉ! し……まった!」
「リラ!」
「分かってるぜ先生!! そぉぉらぁぁぁ!!!」
バッキィィィ!!
リラの拳がイェフニールの頬を捉えた。
余りの破壊力にイェフニールの体がコマのように高速回転し吹き飛んでいく。
「マディラ選手、イェフニール選手共にダウン!! 気を失って起き上がって来ませぇぇん!! ……勝負あぁぁり!!!」
僕とリラの勝利。相手がリラに集中してくれたおかげで、油断を作れた。
「せんせ〜⭐︎」
「うん! 良い連携だった!」
僕とリラはハイタッチをして勝利を噛み締めたのだった。
第四十三話は本日20時を予定しております。
お気に入りいただければブックマークをよろしくお願いします。