第三十三話 戦獣王からの条件
それは僕の想像を遥かに超えていた。
神殿が何故こんなに大きく建てられたのか、やっと意味が分かったんだ。
戦獣族の長、ライミフォン。
その姿は銀色に輝く狼。
だけど、その大きさはこの巨大な神殿の天井に届くのかと言うぐらい大きかった。
計り知れない程の魔力、そして魔力の波動による圧迫感が押し寄せてくる。
魔族と言うよりは〝神様〟のように感じてしまった。
「ライミフォン様、こいつらが例の奴らです!」
「ほう。ザングレスの娘に、人間か。まさかこんな組み合わせで、俺の前に現れるとはな」
「この人間は勇者のようです!」
「なるほど。不思議な匂いがすると思ったら、キサマは導師の力を持った勇者だったか。ふっふっふ。アラベル、面白い玩具を持ってきてくれたな」
「は、はい! 喜んでいただけたようで光栄です!」
「オマエは下がっていいぞ」
アラベルと呼ばれた男は深々と礼をして去って行った。
《それにしても、何ちゅうでかさや……あたいら、食べられへんかな?》
「まあそう緊張するな。別に食ったりはせんから安心しろ。この姿じゃ威圧感を与えるか……ならもう少し魔力を抑えてやる」
ライミフォンはそう言うと、体が白く輝き出した。
シュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーン。
光がどんどん縮んでくる。容姿も獣の姿から人型に変化する。
「これなら、話しやすいだろう」
あんなに大きかった白銀の狼が、僕と同じぐらいの大きさまで小さくなった。
人型になったライミフォンの姿はアラベルの容姿にどことなく似てるな。
ただ顔立ちはより人間だった。
銀色の長髪に赤い瞳、人間の僕から見ても美形と思える程整った顔だ。
狼の耳に、太い尻尾、虎の脚のようなシマシマ模様の脚。
同じ戦獣族なら当たり前か……じゃあ戦獣族と言うのは、みんな人型モードと狼モードがあって変身するんだろうか。
と、言うより魔族は基本二つのタイプに変化出来る傾向があるよな。
ネファーリアも初めてモードを作ったって言ってたけど、元々備わってた魔族の特性なのかも知れない。
そんな事を色々と考えているとライミフォンから話を切り出してきた。
「ネファーリア・ミリエティリス・ラアダ。ザングレスの娘よ、キサマは俺の領域に無断で侵入した。キサマの領域を渡すか或いは、この領域のルールに則って解決を探すかどちらかだが……」
「貴方の領域に勝手に侵入した事は、お詫び致します。しかし、申し訳ありませんがわたくしは自分の領域を手放す訳には参りません。ですので、この領域のルールに則っ……」
「よし、分かった。なら俺の領域のルールで解決するとしよう。おい、あいつをここに呼んでくれ」
ライミフォンは側近の戦士にそう言った。
ネファーリア達の領域を狙ってるって聞いてたから、もっと要求してくるのかと思ったけど、思ったよりこっちの要求を通してくれたのは意外だったな。
魔族は傲慢で自分の仲間であっても平気で裏切るような悪魔のような連中だと思ってたのに、予想の斜め上をいくから何か企んでるんじゃないかって思ってしまう。
ネファーリアの言った通り、魔族にも良い魔族がいてるんだな。
奥の扉が開き、側近の戦士が誰かを連れてきた。
その姿を見て僕は口が閉まらなかった。
上半身は人間、顔はライミフォンと比べてまたさらに人間寄りで、耳元まで隠れるシルバーショートヘア。
赤い瞳、キリッとした顔立ちから甘さは見えない。
それは戦闘民族である戦獣族だからなのか。
だけど言葉を失うほど美しい。
この女性が、ライミフォンの娘である事は初めてここに来た僕でもすぐに分かってしまうぐらい似ている。
《うっひゃぁー! まーたべっぴんさんな女やな〜アスト〜。ネファーリアとは正反対の雰囲気を出してる!》
「俺の娘のリラティナスだ」
「んだよ親父、あたし修業あるんだけど」
「まあ待て。オマエを強くする先生が見つかった」
紹介する、と言いながらライミフォンは僕の方を向いた。
え、まさか先生って……。
「アスト・ローランだ。聞いて驚くなよ、彼は人間ではあるが、導師の力を使い熟す事が出来る伝説の勇者だ」
「勇者!? マジかよ!? あんた! そうなのか? 強いのか!?」
リラティナスが両手でガッチリと僕の肩を掴んで言い寄ってきた。
力が物凄く強い。そして服の隙間から大きな谷間が見え隠れしてるんだけど、この娘例え全部見えても気にしなさそうなぐらい、〝そこ〟に関しては無防備過ぎる。
ネファーリアとは全く真逆の性格。
「強い……? まあそれなりには……うん、自信はあるかな」
「マジかぁー♡♡♡」
目がハートマークになってるぞ。やっぱり戦闘民族なんだな。
「おやじー、この先生にする! てかコイツがいい♪」
「という訳で、キサマ達に頼みたい事がある」
って、ライミフォンは言うけど、ほぼほぼ話聞いてるから何を頼んでくるのか答えは知ってるんだよな。
ただ知りたいのは、娘さんを強くしたい理由だな。
戦闘民族だから強くなきゃならないのは分かるし、自分の娘だもんな。強い方がいいんだろうけど、なんか引っかかる。
嫌な予感がするんだよな……。
「娘を出来る限り強くして欲しい」
「あの、何で僕なんですか? ここの長なら、貴方も相当に強いはず。どうして自分で教えないんですか?」
「まあ待て。順を追って説明してやるから。キサマは娘と一緒に戦獣祭に参加してもらう」
「せんじゅうさい……?」
「毎年、戦獣王の王座をかけて大会が開催されている。この戦獣祭で優勝した者を、次の戦獣王としてこの領域を支配する事が出来るんだ」
「その大会に、僕と娘さんが参加する?」
「そうだ。その大会で優勝してくれ。俺が娘の指南が出来んのは大会のルールの一つとして、そうあるからだ。戦獣王からは指南を受ける事は許されないとな」
「なるほど、これが条件なんですか」
「まあそんなところだ。見事優勝出来たら今回の件は全て水に流そう」
《優勝が条件かー! 中々面倒臭いなー!》
「ちなみに、優勝出来なかった場合は……」
ライミフォンは腕を組み、ゆっくりと目を閉じた。
「その時は、ネファーリア・ミリエティリス・ラアダ。キサマの領域を貰う」
第三十四話、本日19時頃を予定しております。
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