第三十話 追いかけろ!
「う……うぅ……」
「気がついたかい?」
「アスト……」
目を覚ましたネファーリアは起き上がると、辺りに目を配る。
大丈夫、あの赤いシャドウなら倒したよ。
傷も回復してるみたいだし、問題なさそうで良かった。
フュリンはまだ眠ってるのかな。
と、思ったらヒュンッと目の前に出てきた。
このフュリンは色がなく透明だから精神体。
《アストー! あたいも今起きたとこやでー!》
「元気そうで良かったよ」
《魔力がまだ回復してへんけどな。それよりアスト、シャドウがあんたの中におった経緯が分かったで!》
「本当か!」
フュリンの話だとユド村に入ってすぐに僕はシャドウに取り憑かれ倒れたらしい。
村周辺に霧が漂ってたのを覚えてるんだけど、その霧の正体こそシャドウそのものだったんだ。
シャドウは人間に化けてるって思ってたけど、違ったんだ。憑依して操ってたんだよ。
フュリンが分析したところによると、僕に取り憑いたシャドウは全部で三十体。
ネファーリアの霊神術でほぼ消滅し、最終五体が耐え切れずに僕から出て行ったって訳なんだ。
だから宿屋でご馳走を食べた事、酒場でお酒を飲んだ事、あとは……スペシャルサービスの件……も。
そもそも村人はおろか、民家も朽ち果て鬱蒼と茂る草木しか見当たらなかった。
あれは全てシャドウが見せた夢、幻覚だったんだ。
「でも、フュリンやネファーリアは取り憑かれなかったんだよな。なんでだろう」
「恐らく魔族やフェアリーには憑依する事ができない、バリア見たいなものが備わってるのでしょう」
《うそやろ……》
「いや嘘じゃないと思う。人間は他の種族に比べて圧倒的にそういう力に対する抵抗力みたいなものが低い。だから、一番抵抗力の少ない人間の僕を狙ったんだ」
《ちゃうちゃう! アスト! あれや! あれ!》
フュリンが指差す〝あれ〟の方に目を向けてみると、空中に漂う黒い霧が一点に向かって集まっているのが見えた。
まさかシャドウか!?
フュリンもネファーリアも同じく、僕に確認する。
「この威圧感……あの赤いシャドウのもので間違いありません!」
《な、なんでや〜! 赤鬼はアストが倒したんちゃうんかいな〜!》
「うん、倒した。間違いなく手応えはあった」
《ってアスト今や今ー! 今攻撃すれば完全に》
「いや……霧状のあいつには攻撃が通らないんだ」
さっきの戦いで分析した時に分かった事だ。
《なんなんやこいつ……不死身なんかー!?》
「仮に不死身だとしたなら、わたくし達がリーベ村で倒したあのシャドウも生きているという事に……」
「そうだよ、ネファーリア」
復活した。
赤いシャドウが、僕達の頭上に浮遊し腕を組みながら見下ろしている。
そうか……物理的破壊じゃダメなんだ。
霊的なレベルまで干渉して消滅させないとこいつは死なない。
僕はすぐにネファーリアに向けて戦巫女のシードと霊神術士のシードを飛ばした。
フュリンいけるか?
《まだ完全やないけど、召喚して! 三人で戦えば絶対勝てる!》
「サモンシード!」
さて、フュリンには賢者で召喚して分析士のシードを与えて、これで三対一。
あのシャドウの動きについていけないと思うから二人とは後方支援で、連携を取る事にしよう。
「ワタシは無駄な戦いはしないんだよ。キミの強さはよく分かったからね。だから、一旦お別れだ」
「な、なんや……」
すると、赤いシャドウはササッと消えていなくなってしまった。
いや、東に向かって逃げて行ったな。
ここで逃すと被害が出てしまうし、今追いかけるべきだ。
「僕についてきてくれ!」
「分かった!」
「分かりました!」
僕達はすぐに後を追いかけた。
あいつは東に向かって行った……東には何がある?
知能がある分、何か罠が仕掛けられてるかもしれない。
そう思って作戦を考えた方がいいかも知れないな。
僕達は走りながら会話を続ける。
「特に街も村もなーんもない、ただ森が続いてるだけやわ」
「人を襲いに行った訳ではなさそうですね」
「じゃあ、ただ逃げてるだけなのか」
アスト、と呼びながら目つきが鋭くなった。
ネファーリア、何か感じ取ったか!
「この先、とても強い魔素が広がってます。もしかしたら……魔素を吸収して自分を強化しようとしているのではないでしょうか?」
「十分あり得るな」
「とは言え、魔素だけでは劇的に強くなる事はないと思います。どんなに大量に魔素を吸っても、今のアストに勝てる程のレベルにまで到達する事はないでしょう」
ん? 魔力を感じる。シャドウの動きが止まったんだ。
僕達はあいつの魔力が感じる地点までやって来る。
五十メートル程先に、赤いシャドウの背中が見えた。
「見つけた!」
「あたいの魔術でー!!」
シャドウは僕達を気にしながら、何かをブツブツ詠唱して
いる。
なんだ? 何か攻撃をしようとしてるのか?
なら無闇にあいつの間合いには入らない方がいい。
僕はフュリンに一旦待つように指示を出す。
すると次の瞬間、何の前触れもなくシャドウの頭上に大きな黒い渦がグルグルと渦巻いた。
「な、なんだあれは……」
「あんな魔術は見た事ないわ」
「あれは魔術ではありません。あれは……」
赤いシャドウがまたチラッと僕見ると、その渦の中に飛び込んで行った。
まるで追いかけて来いと言わんばかりに。
「あれは……ゲートです」
「ゲート? どこへ通じてるんだ」
「恐らく魔界だと思います。どうしますか? ゲートは暫く維持してますが長くは保ってません」
魔界へ通じるゲート……。
どうする? あのシャドウをこのまま逃していいのか。
明らかに追いかけて来いと言ってる気がする。
「罠の可能性がプンプンやでアスト! 追いかけるんか?」
「……うん。追いかけよう!」
「わたくしやお父様の領域外の可能性も十分あります。魔界と言っても、多数の支配領域がありますので……」
いや……ここは逃してしまったらダメだ。
追いかけて今倒しておくべきだ。
「ネファーリア、追いかけよう! 放っておく訳にはいかない!」
「お人好しスキル発動! やでー」
「からかうな。よし、行こう!」
僕達は黒くうねる渦の中に飛び込んだ。
第三十一話、本日中を予定しております。
間に合わなければ明日の朝7時に更新させていただきますので、どうぞご了承下さいませ。
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