第二十八話 赤鬼 -Nephalia Side-
残り二体となった時、突然一体がもう一体を食べたのです。
その瞬間に眩い光を放ち、シャドウが包まれました。
光の中から現れた者、それはこれまでのシャドウの容姿ではなかったのです。
曖昧で特定出来ない影のような存在から、ハッキリとした顔立ち、赤い肌をした肉体、その肉体に黒い模様が浮かび、頭髪はなく、額にツノが見えます。
容姿だけでもとてつもない威圧感を感じます。
そう……それは鬼のようでした。
「ふむ。なるほど、そういう事か」
「こ、言葉が!?」
「ちゃんと喋れてる……!?」
鬼のようなシャドウは、ウォーミングアップのようにトンットンッと軽くジャンプを始めました。
容姿こそ鬼ですが、言葉遣い、行動は人間です。
前のシャドウとは違い、明らかに進化してる様子。
「ネファーリア、あれって……共食いしたから?」
「そのようですね。前とは遥かにパワーアップしているようです……」
わたくし達がボソッと会話をしたこの瞬間に、鬼のシャドウはわたくしとフュリンの間を疾風の如く通り抜けました。
わたくしの認識では本当にただ通り抜けただけ、でした。
しかし、その後すぐに鉛のような重い衝撃が体のありとあらゆる場所で、まるで爆発が起こったかのような激しい痛みに襲われました。
「あ……ぁ……」
「共食いなんてやめてくれよフュリン」
「な…………な…………にした……んや」
体が……動きません。
わたくしの目には物凄いスピードで駆け抜けたようにしか見えませんでした。
攻撃されたと言う認識も……出来なかった。
ダメージが重い……体に力が入らず中々立ち上がる事も出来ない……次の攻撃に耐え切れるか……恐らくフュリンも……。
「これは進化だ。なあそうだよな、ネファーリア」
「つ、つよ……過ぎるわ」
「く…………アス」
アストの方に目をやると、なんとも言えない表情で歯を食いしばっておられました。
分かってますよアスト。貴方はそのままシードを生み出す事に集中して下さいね。
わたくしは誓いました。貴方のメルトナになった時から、どんな事があっても貴方を守ると。
アスト……わたくしは……わたくしは命に代えても貴方をお守り致します。
「ネファ……ごめん魔力が……」
「フュ…………リン」
サモンシードで召喚されてるフュリンは、ただ存在してるだけで魔力が消耗されるのですよね。
フュリンが、光の塊になってアストの方に飛んで行きました。
よく頑張りましたねフュリン。
「あと……は、わた……くしに!!」
「言っとくが、ワタシはお前達を見逃しはしないぞ」
「……!?」
呼吸を整える間もなく、わたくしの背後に一瞬で現れました。
振り返ろうとすると既に首を掴まれてしまいました。
片手で首を持ち上げられ、成す術がありません。
「アスト……だったか? 何故助けに来ない? ワタシの絶大なるパワーに怖気付いて、足がすくんだか?」
「あ……ぁ…………が…………」
「お前の仲間、死んじゃうぞ」
アストの事を気にし始めましたね。
邪魔はさせませんよ。
わたくしは魔界最強と謳われた魔王ザングレスの娘です。
「わ……たく……しには、お父……さ……まの血が流れ……てい……る……のです!」
首にかかったシャドウの手首を両手で掴み、魔力を込めて振り解きます。
「ほう……」
「はぁぁぁぁぁ!」
よし、抜けました!
わたくしはそのままバク転で距離を取……
「捕まえた」
「うぐぅ!?」
なんと、シャドウは再び超高速でわたくしの背後に回り、腕で首を完全にロックされ身動きが取れません。
赤い鬼のシャドウ、早すぎるのです。
まるで次元が違う……わたくしでは動きを捉える事すらままなりません。呼吸が出来ない……。
「ネファーリア、悲しいな。アスト、助けに来ないって」
「…………ぅ…………ぃ」
「じゃあ、ネファーリアから食べちゃお」
シャドウの顔が大きな口に変形し、わたくしの頭上から
パクっと全身を覆い被さり、わたくしは……。
あれ? わたくしは……?
「うん?」
わたくしの両目には赤い鬼のシャドウが映ってました。
大きな口で確かに食べられたと思ってましたが、まるで瞬間移動したかのように……。
「時間がかかってしまってごめんな、ネファーリア」
「あ……アスト」
「おお、凄い。今のはワタシにも見えなかった」
わたくしはアストに抱き抱えられているようなのですが、こんな幸せな状況にも関わらず、意識が遠退いて行く感覚がします。
強烈な眠気に襲われ、アストを見ていたいのに瞼が勝手に……。
「ネファーリア、フュリンもよく頑張ってくれた。このシャドウは僕一人でなんとかするから、二人は少し休むんだ」
世界を救う勇者、戦士に力と希望を与える導師……。
本当に貴方は救世主なのですね。
人間に限らず、魔族にとっても希望です。
アスト……頑張って下さい。




