第二十話 現実か幻か
「あぁ……ぁ…………ぐ……ぅ……ぁ」
体の中にシャドウが入ってるのが分かる。
心臓が抉り取られてるようにぎゅうぅぅっと締め付けられる。
寒い……寒い……それ以外の体の感覚が無いんだ。
下半身の感覚が無い。まるで消えて無くなったかのように寒くて、それに恐怖もある。
視界はもう何も映さない。音も聞こえなくなった。
呼吸の頻度が減っていくのが分かる。
呼吸なんてしない方が心地良い気がして来る。
あれ……僕は……誰だっけ?
「……ト……ォ……!!」
どこ? だれかが、ぼくを……よんでる?
「……すト! …………め……さい……!」
きいたことがある……こえ。
きみは……だれ?
「……スト! ……目を……さまし」
そう……そうだ。ぼく……は。
「アスト! やめて……下さい!!」
え……?
視界に光が戻って来る。
そうだ、僕の名前はアスト・ローラン。
名前を思い出したよ。
君は…………誰?
「手をはな……して」
手を?
その時だった。気がついたら僕は両手で思い切りネファーリアの首を絞めていた。
ぼ、僕はなんて事を……。
直ぐに手を離したけど、ネファーリアは倒れてしまった。
「あぁそんな……ネファーリア!!」
ネファーリアを抱きかかえて体を揺らしながら、何度も名前を叫び続ける。
僕はネファーリアを殺そうとしていたのか……?
何で? どうして?
何度揺さぶっても、名前を呼んでもネファーリアは目を覚さない。
「うそだろ……息をしてない」
絶望の二文字が魂に刻み込まれ、精神が虚無空間に落とされても、悲しいはずなのに涙も流れない。
僕はただただ、周りの流れに流されるままに落ちていく。
「偽りの勇者め! 出て行け!」
僕の背後から声が聞こえた。
「お前はラムリースの恥だ! この国から出て行け!!」
また背後から違う声が聞こえて来る。
何なんだここは……。過去の場面が次々と現れては消える。
僕に石を投げつける大人や真似する子供達。
頭がおかしくなりそうだ。
「アス……ト」
「セシル!?」
紫色のウェーブヘアに透き通った肌。
忘れる訳がない、セシルだ。
僕の目の前でニコッと微笑んでいる。
と、思っていたらアーキノフが現れ、衛兵に殺すように命じ、セシルの血がゆっくりと飛ぶ。
何度も何度も巻き戻され、再生される。
もう……やめてくれ。
「たの……む」
「ア……スト……」
「やめてくれぇぇぇーー!!!!!」
「アスト! わたくしが分かりますか!?」
次の瞬間、僕の目の前にはネファーリアの姿があった。
ネファーリア……無事だったのか?
「ネファーリア!!」
「あ……アスト」
「よかった……無事で」
僕は思わずネファーリアを抱きしめてしまった。
じゃああれは……夢、或いは幻だったのか?
改めて辺りを見渡すと、宿屋もなければ民家もない。
ただ林の中に僕とネファーリア、少し離れてフュリンが立っていた。
頭が痛い……起き上がろうとすると足に力が入らずに立ち上がる事も出来なくなってる。
「お休み下さい。
少しぐらいこうしていても、罰は当たりませんよ」
「ネファーリア……」
「う〜ん、やっぱり〝霧〟が原因かも知らんわ〜。
アストが倒れ……」
フュリンは辺りを調べてくれてたんだな。
お前にも迷惑かけちゃったな。
って……凄い形相で僕達を睨んでるけど、どう言う事だ。
僕が気を失ってる間にまた喧嘩でもしたのか。
「びぇぇぇ〜ん!! ひざまくらぁぁぁぁ!!」
「な、なんで泣くんだよ」
「あの、あの……アストが歩けないと、お、おお仰られたので!」
「え? そんな事言ったっけ?」
「は、はいぃぃ! 仰られましたよぉ〜!」
「むぅぅ〜! あ〜や〜しぃ……」
◆
「そうか、僕はずっと倒れてたんだな」
「はい。
村の入口地点に到着するや否や、急に気を失われ倒れてしまわれました」
ネファーリア達によると、僕はユド村に着いたとほぼ同時に倒れたらしい。
その原因は恐らく〝霧〟だとフュリンが言った。
この村周辺には霧が発生していて、霧の中の成分に幻覚を見る作用があったのかも知らない。
詳しい検証を行う事が必要だと僕は強く思った。
その時、ここで初めてシードを生み出す感覚を得る事に成功する。
「そうか!
必要だと心から思った時にシードは生まれるんだ!」
「アスト、どうしたん? もしかして導師の力?」
「ああフュリン! 鍵が外れた!」
本当に必要だと感じた時にシードを生み出せるんだ。
その為の条件は〝実際に経験する事〟
つまり、身を持って毒を食らわなければならないと言う事だな。
そして心から必要だと思う事。
これで謎がまた一つ解決した。
よし、生み出せそうだ。早速シードを生み出すとしよう。
「アスト、ほんまに……大丈夫?」
「ごめん、少しの間話しかけないでくれ。
イメージが固まりそうなんだ」
詳しく情報を調べる為の力。
その情報を仲間に拡散し共有出来る力。
新たなシードのイメージが出来上がってくるのが分かる。
少しでも違う事を考えるとフワッと消えてしまいそうだから、目を瞑って集中しないといけないんだ。
そしてなんとか僕はイメージを完成させた。
僕が初めて生むシード……その名は。
「出来た…………〝分析士〟だ」
よし、早速これを……って待ってましたと言わんばかりにネファーリアとフュリンが並んで前に立っている。
あぁ……なんか、嫌な予感がする……。
「アスト! 分析はあたいに任せて!」
「いいえフュリンは少しお休みになって下さい!
ずっと周りを調べていただいたので、お疲れだと思います!」
「大丈夫! フェアリーは丈夫に出来てんねん!
こう言う繊細な仕事は、あんたには無理やわ!
あたいに任せとったらええよ!」
「繊細こそ、わたくしの得意分野ですよ!
元より見極める為に同行したのですからね!」
「それは人間限定の話で」
「二人とも、いい加減にしてくれ!!」
二人とも猫のように驚いて、しゅんとなってしまったな。
僕だって怒りたくないんだよ。
何が原因か知らないけど、仲良くしてくれ。
「分析はフュリンにやってもらうよ。
頼めるかな?」
僕は【分析士】のシードをフュリンに与えた。
「いよっしゃぁぁ! アスト任せとき!
ほな、ちょっと調べてくるで!」
「そ、そんな……」
「ネファーリアにもやってもらいたい事があるんだ」
「は、はい! なんでしょう!」
「シャドウは僕の中に必ずいる」
「どうしてそのような事が、お分かりになるのですか?」
僕は夢か幻覚かの中でシャドウに囲まれ、体内に入り込まれる記憶を思い出す。あの感覚、夢なんかじゃない。
そしてシャドウの一体が、導師の力を食らうと確かに話してたんだ。
その事をネファーリアに伝えた。
「それってつまり、憑依されていると言う事でしょうか?」
「うん、そう思ってもらって構わないよ。前に霊神術士のシードを君に与えたのを覚えてる?」
「はい、今もわたくしに宿ってます」
「霊神術には、浄化効果のある術が存在するんだ。シャドウみたいな霧タイプの相手には抜群の効果を発揮すると思う」
「アストもお分かりかと思いますが、霊神術士は他のシードと違って最初から全ての術を所有しているので発動すること自体は可能なのです。しかし、術のエネルギーに耐えられるかどうかが問われます。わたくしの魔力で上手く制御出来るかどうか……」
「自信持っていいよネファーリア。君は信じられない程、膨大な魔力を持ってる。僕との修行でさらに伸びたんだよ」
「…………自信はありません」
「ネファーリアは、僕のメルトナだろ?」
「!?」
「大丈夫」
「は……はい!」
ネファーリアは瞳を潤わせながら、霊神術の詠唱をし始める。霊神術は対象以外は全く無傷だから、被害は全くない。
だから安心して思いっきり撃ってきてくれ。
さぁ、あとは僕自身が霊神術に耐え切れるかどうかだ。
下手すると消えてなくなってしまう……。
だけど絶対に大丈夫。自分でも感じるんだよ。
どんどんと、急加速度的に力が馴染んできてるのが。
僕は……導師だ!
第二十一話は本日19時頃を予定してます。




