第十九話 誘惑
村の入り口からは、民家らしき家がちらほら見えてる。
特にシャドウの被害に遭った形跡は見当たらないな。
とりあえず、聞き込みから始めるかな。
でもその前に。
「フュリン、まだいける? そろそろ魔力が切れる頃だろ?」
「せやな……ここへ来るまで連戦続きやったからな〜」
「分かった。じゃあフュリンは一旦戻すよ。いつ戦闘になるか分からないから、休んでおいて」
まだ少し余裕があったみたいだけど、僕はフュリンを戻す事にした。
丁度その時に僕達の方にやって来る村人が目に入ったんだけど、真っ直ぐ向かって来てる。なんか……怪しいな。
村人と言っても、シャドウかも知れないからな。
油断だけはしないようにしなければ。
ネファーリアの表情からも、分かってくれてるみたいだし。
「ようこそ、ユド村へ! 旅の方ですね。宿をお探しですか?」
「こんにちは! ちょっと聞きたい事があるんですけど、この村は魔物の被害とかはありませんか? 見たところ、そう言った被害はなさそうですけど」
「そうですね、俺はこの村に二十年前から住んでるけど未だに一度も魔物に襲われた事はないですね」
あの、とネファーリアが尋ねる。
「何か御用でしょうか?」
「え? どうしてですか?」
「こちらに向かって来られたので」
「ああ! 実はあそこの宿屋、俺の親がやってるんですけど、その……最近あまり旅人が来ないので、もしよかったら泊まっていただけないかなと! あ、勿論サービスはしますよ! 地下に酒場があって美味しいお酒もつけます!」
う〜ん……本当普通の人だな。
僕は〝あの少女〟を見分けられなかったから、この人ももしかしたらって疑心暗鬼になってしまってるよ……。
ネファーリアも首を横に振ってるし、今のところは問題なしか。
まあでも時間的にもそろそろ日も暮れるし宿をとるか。
僕達は一通り村を一回りしたあと、宿屋に向かった。
ユド村と言っても民家が五軒、林の中にポツポツと建ってるだけで、これを村と呼ぶのか……。
それにユド村付近は霧が発生していて視界が悪いし、もしかしたら奥にもう何軒かあるのかな?
夜になるともっと視界が悪くなるから出来れば明るい内に探索はしておきたいんだけど。
《特になんも異常なかったなー》
「ネファーリア、何か感じたかい?」
「いえ、臭いは全く感じませんでした」
ビーゲルさんの情報だと、ここで目撃されたって言ってた。
じゃあもしかしたら、もうこの村に潜伏してる可能性があると見ていいかも知れないな。
ただリーベ村と違っているのは、まだ村人が生きている事だ。
ユド村は見る限り被害は無さそうだ。
僕達は宿を借り、部屋で夕食を食べている。
サモンシードを披露してからと言うもの、フュリンの出して欲しい欲求が強い。修行になるしそれ自体は僕も別に良いと思うんだけど、何かにつけてネファーリアと揉めるからその点が召喚に躊躇ってしまう。
「ん〜ま! このアンモニスの唐揚げ!」
「そうなんです! ちょっぴり辛めな味付けが美味しいです! 魔界にアズケハレムと言う魚がいるのですが、それを唐揚げにしたような味と食感ですね!」
「ネファーリア、あんた分かってるや〜ん!」
ふぅ……とりあえず今は仲良くしてくれてて安心したよ。
さて、と本格的に食べようかな。と、僕がアンモニスの唐揚げを口に入れようとした時だった。部屋の扉からコンコンと音がした。
「下の酒場を貸切にしました! アストさん達だけなので、ゆったりできますよ! 是非お越しになって下さいね!」
「貸切だなんて、わざわざありがとうございます」
「あれ? いつの間にか、お一人増えていらっしゃいますね。ではもう一人分を直ぐにご用意させますね!」
「はい、ありがとうございます! 宿泊代は勿論一人分追加で払いますので」
よし、じゃあ気を取り直して……。
「なあなあアスト! 下の酒場せっかく貸切にしてもらったんやから、飲みに行こうや〜」
「ち、ちょっと待ってくれ。僕はまだ何も食べてないんだけど」
「えー! まだ何も食べてへんかったん!?」
「お前がほとんど僕のを食べたんだろ! まったく、そんな小さな体のどこに入ってるんだよ」
「フェアリーは飲み込んだ瞬間に魔力や治癒力のエネルギーに変換されるから、食べよう思ったら無限に食べれるで!
あんたら人間みたいに変形したりせーへんし!」
「へ、変形って」
「んじゃアスト、早よさっさと食べて降りよーや!」
ゆっくり食べたいのに……。
◆
宿屋地下一階に降りて来た。
ここ一室酒場なんだな。思ってた以上に結構広いな。
本当に僕達だけみたいだし、まったり寛げそうだ。
フュリンはネファーリアと楽しく飲んでるみたいだし、僕はカウンターでマスターと世間話をしていた。
小一時間経った頃、酒場のマスターが僕にスペシャルサービスがあると言ってきた。
「貸切でも十分なのに、なんか悪いな……」
「いえいえ悪いだなんて、暫くお客様も見えてなかったし久しぶりのお客様だったので気合い入ってるんですよ!」
マスターはグラスを拭きながら続ける。
「勿論お代はいただきません!
スペシャルサービス受けますか?」
「ありがとうございます。じゃあお願いしようかな」
「畏まりました! ではVIPルームへお越しいただきましょう」
あ、奥の部屋に行くんだな。
ん? 二人は? え、僕一人だけ?
マスターに案内されるがまま、僕はVIPルームへとやって来た。
扉を開けるなり、そこには信じられない光景が目に映った。
「あー♡ アストさんだ♡」
「あ〜ん♡ 超タイプぅ〜素敵すぎるわ〜♡」
「アストさん、こっちこっち〜♡ 早く来て下さいよ〜♡」
その部屋には容姿が整ったスタイル抜群のお姉さんで沢山埋まっていた。
キワドイ服装で、目のやり場がないぞ。
な、なんなんだこの世界観は……。
これがVIPルームなのか…………ってぼーっとしてたらマスターに背中を押されて、部屋の中に入ってしまった。
ガチャ。
この音は鍵がかかったんだな。
つまりこの部屋から逃れられない。
周りのお姉さんに囲まれて、体をペタペタ触られる。
「あ、あのちょ……ちょっと待って!」
「可愛い♡ 私達に緊張してるのかしら〜♡」
うわぁ〜近い近い近いって。
全身色んな所に柔らかいものが当たるんですけど……。
ダメだ。これはある意味地獄だぞ……。
天国のような地獄だ……。
「ねぇアストさんゲームしませんかぁ♡」
「げ、ゲーム……いやぁ……」
「もしぃゲームに勝てたら……アストさんのしたい事……していいよ♡」
「したい……コト……?」
そう言うと、お姉さん達は一列に並び始めた。
あの、僕はまだやると言ってないんだけど……。
僕の目の前に、先頭のお姉さん、その後ろに他のお姉さん達がズラーっと並んでる。
今からどんなゲームが始まろうと言うんだ……。
「うふ♡ じゃあ……まずは私からねん♡」
「え……? 何を……」
「じゃーんけーん……ぽん♡」
「あ、え、あ!?」
「アストさんの負けだよ〜♡ は〜い♡ じゃあ〜罰♡」
そう言いながら僕にグラスを渡して来た。
これを一気飲み? お酒?
お姉さんの言われるがままゴクゴクと飲み干す。
「キャー♡ ステキィ♡」
「じゃあ2回戦♡」
こんな風に僕はお姉さん達とじゃんけんゲームを続けていた。
負けて飲んでを繰り返す事三十六回目。
僕はついにチョキを出してお姉さんに勝利した。
あぁ……酔いが回ってる……気持ち悪い。
「あーん♡ 負けちゃったなー♡」
「じゃあ私達が罰ゲーム、受けなきゃだね♡」
「約束通り、アストさんがしたい事……していいよ♡」
「……帰りたいです」
「も〜分かってるでしょ♡」
お姉さんの群れの中から、一体のお姉さんが近づいて来た。
僕は金縛りに遭ったかのように身動きが取れなくなってしまう。
お姉さんが両手を伸ばして、僕の頬にそっと触れると
「あ〜ん♡ 恥ずかしいから目を瞑って♡」
言われるがままに目を瞑った。
これっていつになったら終わるんだろう。
僕がそんな事を考えてる瞬間、唐突に猛烈な激痛が全身に走った。
「あぁぁぁー!? あがぁぁ……」
全身が激痛と痺れで動けない。何なんだこの痛みは。
視界がぼやーっと、左右にうねり始める。
景色が変わっていってる……何がどうなったんだ。
「これ……デ……ひと……リ……めダ」
「な…………なに……を」
僕が次に瞬きした時には、VIPルーム、宿屋、村などはなく、ただ林に倒れてる自分に気づいた。
目の前には暗い霧のような人型が立っていた。
痺れと痛みで頭がおかしくなりそうだけど、シャドウである事は認識する事が出来た。
しかも、何体いるか分からないけど、取り囲まれている。
「キサマノパターンハ、スデニハアクズミダ。コイツガ、ヨソウデキナイトコロデ、ワナヲハル。ワレナガラ、ミゴトナテヨ」
「ドウシノチカラ、クラワセテモラウ」
取り囲んだシャドウが一気に、僕の体の中へと入ってきた。
「あ……あぁ……」




