第十八話 魔王の娘vs妖精の娘
「いよいよ作戦決行だ」
トリーク南門には、僕、ネファーリア、トリークギルドのギルド長ビーゲルさん、そしてギルドに所属している戦士たち六名。
この人数でシャドウ討滅作戦を決行する。
ビーゲルさんが言うには一応エスハイム城下町のギルドにも声をかけたみたいなんだけど、あっちはあっちでシャドウの被害が出て現在対処中との事、人員をこっちに割けなかったようなんだ。
トリークから南へと南下して行くと、〝キューレイス〟と言う港町があり、シャドウが目撃された場所はトリークとキューレイスを繋ぐトリーク・レイス街道の丁度真ん中にある〝ユド村〟らしい。
「こちらは九人でなんとかやり切るしかねぇ! とは言え、俺はトリークを離れる訳にはいかねぇから残りのお前達で向かえ! ここは俺一人で」
「ビーゲルさん」
ビーゲルさんの話に割って入った。
「ユド村へは、僕とネファーリアだけで向かいます」
「なに? あんた達だけでだと? そりゃあシャドウを倒した腕前があるのは知ってるが、次も一体で現れるとは限らねぇぜ?」
「分かってます。僕達なら大丈夫です。この三日間で色々と戦術も考えて来ましたし。それよりもトリークに攻め入られた時が心配なんです。大きな街なので、いくらビーゲルさんが強くても一人じゃ手が回らないのは明白です」
続けてくれとビーゲルさんが頷く。
「街人に混ざってしまうと、見つけるのにも時間がかかります。なのでビーゲルさんと、他六名の方は街への侵入を何としても防いでもらいたいんです!」
「いくら人間に化けても、外から街へ入らないように注意して監視すれば、防げるでしょう」
と、ネファーリアが続く。
「分かった! そう言う事なら、ユド村へはあんた達だけで向かってくれ。くれぐれも注意してくれよ!」
「はい! 貴方達も!」
ビーゲルさんと、かたい握手を交わした後、僕達はユド村目指してトリーク・レイス街道を進む。
《今回あたいのナビは要らんわー。この街道をずっと真っ直ぐ進んでいけばええだけやから》
「そうなんだ、魔物に警戒しながら進んで行こう!」
「…………」
「ん? ネファーリアどうかした?」
「え? あ、いや……い、行きましょう!」
《ふ〜ん…………なるほどな〜》
何がなるほどなんだ? お前も何か悩み事があるなら遠慮なく僕に言ってくれていいからな?
《ならアスト、サモンシードであたいを召喚してくれへん?
あたいの魔力で滞在時間が決まるんなら、魔力量を増やす事も大事やけど、魔力消費を抑える事も大事やと思うし》
確かに。戦闘時だけじゃなく常日頃から召喚しておく事もフュリンの魔力レベルを向上させる修行になるんだ。
僕はサモンシードでフュリンを召喚する事にした。
「そうだな……今回は聖騎士で頼むよ。サモンシード!」
地面に手をついて、魔法陣を描く。
キュイィィィィン。
魔法陣からフュリンが光と共に飛び出して来た。
「きゃは⭐︎ 魔女っ子フュリンちゃんやでぇ〜♪」
召喚されるなり、お尻をフリフリしながら僕の顔の前で踊らないでくれ。
それに……。
「今回は聖騎士だからな。魔術は使えないぞ。サモンシードがちゃんと機能してるなら、シードを感じるはずだから分かってるはずなんだけど」
「なんや〜今回は脳筋フュリンちゃんかいな〜」
「フュリンの言葉遣いは独特ですね。フェアリーは皆さんこのように話されるのですか?」
「あ〜あたいだけかも知らん……あはは! じぃちゃんがこんな喋り方やったから、こうなっただけやねんな〜」
「そうなのですね」
「ん〜? ……ネファーリア、なんか雰囲気変わった?」
「わたくしですか? 何も変えてませんが?」
「あ〜や〜し〜。あんたら、あたいが寝てた間になんかあったやろ〜」
「な、なななな何もないですよ! ね、ねぇアスト」
「どんだけどもんねーん! て、綺麗につっこめるわ! 分かりやすい反応でごちそうさまやでネファーリア〜!
アスト、さ〜白状せ〜い!!」
「え? あ、うん。僕達メルトナで結ばれたんだよ」
「…………は? はぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!?」
な、なんて馬鹿でかい声なんだよ……。
せっかく今快適にユド村に進んでいるって言うのに、魔物が寄って来るだろ。
なんだ、そんなに驚く事なのか?
ネファーリアの戦力アップに協力しただけだよ。
「驚くような事じゃないって」
「あ、あほかあんた〜!! メルトナって人間で言うたら、け」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁー!? あ、そうそうアスト!! アストにシャドウの事で聞きたい事があるのです!!」
二人して何なんだ一体………大きな声出して。
その後暫く、言い争いの火花をバチバチと散らしてたみたいだけど、終わる素振りもないから止むを得ず間に入ったらやっと収まったよ……。
「ネファーリア、あとで二人だけで話そ」
「分かりました。望むところです」
まあ……とりあえず静かになってよかったよ。
と、僕が溜息を吐いていたら突然前方から魔物が現れた。
ポイズンアントの大群だ。
せっかく快適な旅だったのに……この遭遇は二人のせいだぞ。
◆
-Nephalia Side-
わたくし達は難なくポイズンアントの大群を撃破しました。
先程フュリンとは喧嘩していたのですけれど、戦闘となればそこは気にせず、頼り頼られで連携も上手く決まり無事倒しました。
「治癒玉光!」
「おぉ〜! 凄い治癒術やな! 確か光癒手の上位ランクの治癒術?」
「はい、そうです。光癒手は直接触れなければ効果はありませんが、回復力は高いです。治癒玉光の方は回復力は劣りますが、離れた所に飛ばす事が出来る治癒術なのです」
「戦巫女は治癒術にも長けているからな。治癒術もちゃんと勉強していたんだね、ネファーリア」
「あ、は……………………はい」
や、やりました。
わたくし、アストに褒められました。
褒められるとまるで、翼を優しく撫でられているかのような…………恥ずかしい。
「………なぁーに照れてんねん。なぁアスト! あたいも聖騎士! どうやった? 今回初脳筋やったんやけど♪」
「うん、君もしっかり敵の憎度を管理出来ていたし
前に立って僕達を守ってくれて、凄く動きやすかったよ。
武器がないから、攻撃スキルの殆どが使えなかったと思うけど、良く動いてくれたよな!」
「やた〜♪ 〝ネファーリア!〟より一杯褒めてもらったぁ!」
「いえいえ、そんな事ありません! わたくしの場合は気持ちがこもっていらっしゃいました! よく頑張ってくれたと、まるでわたくしの翼を優しく撫でられ…………あぁ……」
「ただの言葉でそこまで妄想出来るんやな魔族ってのは!」
「か、感受性が豊かなのです! ただの言葉などと、なんて酷い……! アストが心を込めてお褒めいただいたお言葉なのですよ! フェアリーは人間の心をそのように感じてらっしゃる種族なのですね……あぁ悲しいのです」
「あほ! そんな意味ちゃうわい! このペチャぱい!」
「ぺ、ぺちゃ……!!? あ、貴方よりはあります!」
「ちょいちょい! フェアリーと比べてどないすんねんなー!
そもそものサイズがちゃいますがな、お姉さん! あたいだって、同じ背丈やったらあんたよりあるで!」
「今の姿は戦闘モードですから、非戦闘モードなら」
「それは本来のあんたやない! ズルです!」
「魔力を抑えただけで、姿を作り変える事はしませんし出来ません! なのでズルでも何でもなく、正真正銘この姿も本物のわたくしです!」
「柔らかさはあたいの方が柔らかいで!」
「いえいえ、わたくしの方が!」
「あの……そろそろ行かないか? こんな事してたら日が暮れてしまうぞ……」
第十九話は8月18日8時頃を予定しております。
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