第十七話 決別 -Julius Side-
第十七話は、視点変更を多用してるのでご了承下さい。
「毎度の事ながら、本当にかたじけない」
「へ、へへ……俺もだ。あんたのおかげで助かってるぜ!」
「ユリウス、貴方がいなければ我々は路頭に迷っていたに違いありません。この恩は必ず返します。因みに女性なら何人か紹介できるのでねぇ」
「ふん」
またか……こいつら、また今日も金を借りに来やがった。
魔王討伐報酬は貰ってるはずだが、まさかもう使ったのか……豪遊しすぎだろ。
まったく、これだから貧乏人は困るんだよ。
使い方も知らんクズが金を持つとこうなるんだよ馬鹿が。
まあいい、俺には腐る程金がある。
ここで借りを作っておいた方が後々、こいつらも役に立つかも知れんしな。
と、俺はすぐそばのテーブルに腰掛けていたタニスがじっと何かを見ている姿が目に入る。
普段はタニスが何を見ようが気にしないが、何となく気になってしまったんだ。
どうしたタニス、と何気なく聞いてみると
「タキシードのお爺さん、こっちに向かって歩いて来てるんだけど、まさか私達に用なのかしら」
「タキシードのお爺さん?」
ほらあそこ、とタニスが指差した辺りに目をやる。
「ん? あれは…………セバンじゃないか」
「セバンってあなたの執事だったかしら?」
そうだ。俺の家で雇われてる執事セバンだ。
俺の身の回りの世話や、金の支払いを任せてる。
セバンの様子が明らかにおかしいのは分かってた。
普段は俺が呼びつけでもしない限り、自ら俺の所に来るなんてあり得ないからな。
何かトラブルか……?
「ぼ、ぼっ……ちゃん! 一大事で御座います!!」
「あぁ、そりゃお前の顔を見れば分かるよ。話して見ろ」
「ぼっちゃん、落ち着いて聞いてください……! 旦那様が所有する全ての物件を売却なされ、奥様と失踪致しました!」
「はぁぁ!? 失踪だと!?」
「それだけじゃありません! ぼっちゃんこれをお読み下さい!!」
セバンが震える手で一通の手紙を渡して来た。
まさか親父達からか!?
手紙には、七百億キャルトと言う金額と
借金を肩代わりすると書いてあり、俺の名前が書かれてある。
な……な、な七百億!?
親父の借金を俺が肩代わりだとー!?
「おい! ふざけんなよ!! こんな紙切れなんか何の効力もない!! 第一俺はこんなものにサインしてないんだよ!」
「ぼっちゃん……大変申し上げ難いのですが恐らく旦那様は計画的になされたと思います。 何週間も前から綿密に計画され、ぼっちゃんになすりつけようと思ったのでしょう……」
は? ちょっと待て……。
俺は無一文になっただけじゃなく、七百億の借金まで背負ったって事なのか……。
違う。こんなの効力はない。
と言うかどんな親なんだよクソッタレが。
「おいぃぃ!! どうすんだよこれからぁぁぁぁ!」
「それではぼっちゃん、確かに伝えましたので私はこれで……」
「あ!? おいセバン!! まさかお前逃げるんじゃないだろうな!!」
「え、ええ……もちろん逃げませんとも……。ぼっちゃんを置いて逃げるなどと……」
と、言いながらもそそくさとこの場を去った。
「ゆ、ユリウス……おめぇ大丈夫か?」
「大丈夫な訳ないだろ!!」
もう……人格が壊れそうだ。
俺は親に見捨てられ、執事にも見捨てられた。
無一文の上、七百億と言う死んでも返せん額を背負ってしまった。
「このままだと、金に殺される……何か考えるんだ」
「ユリウス、俺達半分返すぜ」
「そんなの何の足しにもならないんだよ!」
「ぬぅ……私達に能力さえ戻れば」
「俺達は魔王を倒した英雄だってのに、アストの野郎……!」
魔王を倒した英雄……それだ!
金を手に入れる画期的な方法を思いついたぞ。
へっへっへ……我ながら天才的な発想で自分が怖いよ。
「おい! 作戦会議だ! お前達も金が欲しいんだろ? だったら協力しろ!」
◆
-Rimia Side-
私には七つ離れた弟がいる。名前はケイレヴ。
ケイレヴはサグニクス病って言う重い病を患ってるの。
世界でこの病気を治せるのは治療費が払えるお金持ちだけ……。
私が十四歳の頃に両親は魔物に襲われて死んじゃってからケイレヴの親代わりとして育ててきた。
家族はもうこの子だけなの。
私のかけがえの無い家族……。
「ケイレヴ君の治療費についてなんですが、四ヶ月前からお支払いいただけてません」
「す、すみません……」
「いつお支払いいただけますか?」
「それは……」
私はユリウスと取引をしたの。
ケイレヴの治療費を出す代わりに、口裏を合わせろと。
もう助からないと思ってたところに、ユリウスから話を持ちかけられて、私はケイレヴの病気が治るならと承諾してしまった。
病院で先生に話を聞いてきたら、病気の進行が早まったそうなの。
それと、治療費が四ヶ月前から滞ってる事を知った。
ユリウスに直接確かめた方がいいと思って今、城下町の酒場へやってきた。
「あれ? 今日は集まってるはずなのに」
酒場にユリウス達の姿はなかった。
皆一緒にいるはずなのに。
「リミア様! 御一行は中央広場に向かわれましたよー!」
振り返るとカウンターの所からマスターが、そう言った。
中央広場? 何でそんな所に……?
すぐそこだし、私も中央広場へ行ってみる事にした。
その道中、気になる会話を聞いたのよ。
〝勇者の演説をやってる〟とか。
ユリウスが演説してるって事? でも何でまた演説なんて……?
中央広場までやってくると、人波に溢れていた。
広場の中心には、ユリウス、その直ぐ隣にタニス、それと後ろにゼノス、クウォン、ヴァールが並んでる。
みんな……何やってるの?
「凄い人……進めない」
「みんな! 集まってくれてありがとう! 俺はユリウス! フェアリーに選ばれし勇者だ!」
「勇者様ー!」
「勇者ユリウス様!」
「ユリウス様って超イケメンじゃない?」
「あ! 今ユリウス様と目が合ったわ♡」
す、凄い人気ね。
あいつの本性を知ったらこの子達どうなるのかしら。
「偽りの勇者がこの国を追放された事は、まだ記憶に新しいと思う! みんなの希望である勇者を偽った事はただ嘘をついたという事じゃない!」
そうだろう? と、民衆を煽るユリウス。
「罪人アストは、みんなの純粋な心を弄んだ! 君達を裏切り! 己が罪も認めず! 我々の目を欺き! 罪を逃れる為、導師であるなどと吐いたんだ! これは遥か古の時代に活躍された導師様への冒涜と言っても過言じゃない!」
「そうだー! 冒涜だー!」
「そんな罪人は消えればいいんだよ!」
「ユリウス様が本物の勇者よー!」
「真の勇者ユリウス様ー!!」
「罪人アストは追放で済ましてはダメだ! 我々を騙した罪人は、今もどこかでのうのうと生きてるんだ! こんな事が許されて良いはずがない! 罪人に自由を与えてはならない! 永久禁錮で地下牢にぶち込むべきなんだ!」
そうだそうだ、と歓声に混じって聞こえる。
「我々は罪人アストに、ある呪いをかけられた! 力を吸い取られ、本来の力が出せないばかりか、放っておくと死が待っている! 呪いを治療するには、膨大なる資金を必要とする! しかし、我々だけでは中々難しいのが現実なんだ」
溜息をついてまた続ける。
「君達の支援が必要だ! ラムリースの民よ! 治療を受けさせてくれ! 力を貸してくれ!」
「分かってるぜー!」
「俺達の金を使ってくれー!
「罪人なんかに負けんなよー!」
「「「「ユゥ〜リウス! ユゥ〜リウス! ユゥ〜リウス!」」」」
信じられない……。民衆からお金を騙し取るなんて。
ましてや全部嘘じゃない。
「なんて人なの……!?」
◆
-Julius Side-
「どう言うつもりなの!?」
「悪かったリミア、俺も滞ってる事を知らなかったんだ!
でもほら! さっきの演説でこんなに金が手に入ったんだ! これで、治療費を」
「要らないわよ! 騙し取ったお金なんて!」
このアマァ、金をはたき落としやがった。
騙し取ってる訳ないだろうが、お前もちゃんと見たよな?
俺達を応援してくれてるんだよクズが。
向こうの方から好意で募金してただろうが。
俺は騙してなんかない。それに、この金を拒否してもいいんだなリミア。
「弟の治療が出来なくなるぞ。助けたかったんじゃなかったのか?」
「もう沢山よ! 私はアストを探しに行く!」
「おいマジかよリミア!」
「アストなら弟の事きっと何とかしてくれる! もっと早くこうすべきだった! 嘘をついて欺いてるのは、貴方達よ!」
縛った紐を持ち袋を肩にかけると、俺の耳元まで近づいて来た。
「安心していいわよ。アーキノフ様には黙っといてあげるわ。私もまだやる事があるから捕まりたくないの」
さよなら、と一言残して俺達の前から去っていった。




