第十四話 レベル上げ -Zenos Party Side-
「ぐぉぉーー!!」
「ゼノス! 無理すんじゃねぇ! もう今の俺達は初心者レベルなんだからよ!」
「ぐぅ…………まさ……か、これほどのダメージを受ける事になろうとは……」
「集中攻撃でいくしかないわ。私は治癒術に専念する、ヴァールも攻撃はやめてゼノスとクウォンのサポートに回って」
「分かりました。弱体を優先に入れていきますかねぇ。
まぁ……今の私では選択肢は少ないですけど」
ゼノス、クウォン、ヴァール、リミアは失った力を取り戻す為、ラムリース城付近の草原で最下級ランクのゴブリンと戦っていた。
アストから才能を与えられていたこの四人は、アストが〝収穫〟した事で恩恵が無くなってしまったのだ。
「サンキューヴァール! よっしゃあ! ゼノス、俺が背後から一発お見舞いしてやっから奴の憎度管理、しっかり頼むぜー!」
「了解した。聖騎士の心得その一、聖騎士は仲間を守る盾となれ。敵の増度を私に集中させよう」
ゼノスは巨剣を両手で構え高く掲げた。
すると剣の先から赤い線がにゅっと伸びてゴブリンへと繋がった。
その瞬間、ゴブリンのターゲットがゼノスに変わる。
増度管理、これは聖騎士の基本中の基本のスキルであり憎しみを増幅させてゼノスへ向けさせるのだ。
「グギィィ……ギィギギィ!」
「いいぞゼノス〜! そのまま頼むぜ! そんじゃあ〜いくぜ! 俺の技を食いやがれ! チャァァァァジブロォォォォー!!」
クウォンの魔力を込めた拳がゴブリンの背中に炸裂し、吹っ飛んでいった。
「ガギィィィィ……」
「ヴァール、私達でトドメを刺すわよ」
「任せて下さい。この前のようなミスはしませんよ」
口元に笑みを浮べたヴァールは杖を振りかぶりながら詠唱する。
「氷結波!!」
杖に冷気の魔力を凝縮し、それをビームのようにして放つ氷属性初級魔術。
初級魔術とは言ってもビームを食らった相手は食らい続けると、行動力を鈍くさせる〝鈍足〟にしてしまうと言う強力な効果がある。
現にゴブリンはスローモーションのように行動が鈍くなった。
「さぁ、マドモワゼル」
「月精裂光刃」
リミアの抜刀術でザンッと切り抜くと、凍結したゴブリンの体を粉々に粉砕された。
皆、ぜぇぜぇと荒い息を吐き、ゴブリン一体にこんなに時間がかかる事、また自分達の弱さを改めて知る。
「はぁはぁ……おい、なんとか勝てたぜ」
「まずは、はぁはぁ…………はぁはぁはぁ……一勝か」
「本当に…………はぁはぁ……全くのゼロからなんですねぇ」
「でも、私達勝てたのよ。これは正真正銘私達だけの力で勝った。いい感じだから、もう少し続けましょう」
「いや……私はやめておこう」
「どうしてよゼノス!?」
「また一から修行に励むと言う事自体は私も賛成だ。
しかし、私はどうしても私の力を奪ったアストが許せないのだ。こんな事をしているよりもアストを追いかけるべきなのだ。勇者を偽っただけではなく、我々の才能や能力まで奪って行ったのだからな」
「奪ったんじゃないの、どうして分かってくれないのよ」
「俺達からすれば、どうしておめぇは分かるんだよ。おめぇはアストの事が好きだからなんだろ?」
「す、好きとかそんなんじゃなくて、タニスも言ってたじゃない! アストが導師なのは嘘じゃないって」
「私はこの件で君と言い争うつもりはない。君もさっさと目を覚ました方がいい」
そう言うとゼノスは巨剣を背中に直し、ラムリース城へと歩いていく。
寂しげな目で、特に引き止める事もなくただゼノスの背中を見つめているリミア、その彼女の視界にクウォン、ヴァールが入って来て、ゼノスの後に続いて歩こうとしていた。
「クウォン! ヴァール! どうして……どうしてみんな」
「悪いなリミア」
「ゴブリンは私達四人が全力を出してやっと勝てた相手です。一人で戦おうなんて思わないで下さいねぇ」
「ヴァール……私」
「恋は盲目……ですよねぇ」
「え……?」
「それではごきげんよう」
クウォン、ヴァールもいなくなり、リミア一人となる。
アストが導師であると言う自分の感覚を信じていた。その根源にあるのはもしかしたらアストへの恋心だったのかも知らない。
〝アストを信じていたい〟と言う思いで幻想を抱いているだけなのか、リミアの心は激しく揺れ動いているのだった。
「アスト、貴方は何者なの……?」
次の第十五話は8月17日朝8時頃を予定しております。
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