第十二話 罪の沼 -Julius Side-
「なに!? 呪いだと!?」
「左様でございますアーキノフ様。我々が指定された作戦地点に向かえなかったのは、そう言った経緯があったからなのです」
俺は今ラムリース城謁見の間で、国王アーキノフに一部始終を報告していた。
勿論、真実を隠蔽してな。
俺達の現状をそのまま報告したって下手しなくても、罪に問われてしまうだろう。
世界の希望が、ただのクズの集まりだったなんて言える訳がない。
だから〝あいつ〟のせいにしておいた。
俺達は偽りの勇者アストに呪いをかけられ、能力を奪い取られたのだと。
アストは闇の力に汚染されてしまった、と。
より信憑性を高める為に、メンバーにも一芝居打ってもらったんだ。
まぁみんなすぐに了承してくれたよ。
そうだろうな。誰も追放されたくないだろうからな。
腐ってもまだ仲間達は魔王を倒した英雄なんだ。
俺の提案を拒否する奴なんていなかった。
一人を除いては……な。
アーキノフは案の定、アストを討つように王直属の命令を下した。
ラムリース城下町、いつもの酒場に集まり今後の計画を話す。
まず切り出したのが、無口のリミアだ。
こいつアストの事になると急に口数が増えやがる。
「こんな事していいの? 明らかに私達、罪を犯したのよ。
アーキノフ様に真実を話さなくていいの? ねぇ、本当にいいの?」
「うるさいなリミアは。もう決めた事じゃないか。
真実を話してどうなる? 俺達はみんな追放か死刑だぞ。
それに完全に嘘でもない」
「何言ってるのよ! 全部嘘じゃない! アストは勇者を偽ってなかった。私達が間違ってたのよ……それを呪いだなんて」
「君達の能力がなくなったのはアストのせいなんだろう?
リミア、君も言ってたじゃないか。アストがいなくなったら力が衰えたと。それはつまり、アストが君の力を奪ったと言う見方もできるんじゃないか?」
「違う! 奪ったんじゃなく戻ったのよ! それも私話したじゃない! ねぇ、クウォン! ゼノス! ヴァール! どうして黙ってるの!?」
「リミア、俺達の力をあいつは奪いやがったんだ。導師なんて伝説のまた伝説だぜ? おめぇはまだ夢見てんのか?」
「アストは導師に目覚めたのよ。私達は才能がなかった。
でもアストの力で才能を貰っていたのよ」
「君と一緒にしないでくれ。私に才能がないなどと……。
私は聖騎士ゼノスだ」
「申し訳ないが、私もユリウスの提案に賛成です。アストに呪いをかけられたと言うのは嘘です。ですが、導師の力で我々が才能を与えられたと言う事もまた嘘なのかも知れませんよねぇ」
「な!?」
「貴方が勝手に抱いてる幻想なのかも知れないのですよ。私は女性の味方でありたいですが、今回は貴方の肩を持つ気にはなれませんねぇ」
「な、な……なんて人達なの!! 貴方達、最低の人間ね!! 地獄に落ちればいいのよ!! もう付き合ってられない!! 私、アーキノフ様に真実を話す!!」
バンッと勢いよく机を叩いたリミアが、席を立とうとしたが俺の魔法の言葉で一気にクールダウンする事になる。
それを分かってるからこそ、自由に言わせてたってとこもある。
「分かった。じゃあ君は弟を見殺しにするんだな。
折角元気になる見込みがついたのにな。君が真実を告げる事で俺との交渉決裂という事になる」
「……………………」
ほら、静かになった。
「そう、それでいいんだ。
サグニクス病は徐々に体が結晶化していくと言う世界でも四例しか確認されていない死の病だ。
治療には最新の設備と莫大な費用が必要になる。
弟君の病気を治せるのは……」
俺はリミアの耳元で悪魔のように囁いた。
「この俺だけだ」
一千万キャルト。
弟の病気にかかる費用だ。
庶民には簡単には払えん額だが俺には容易い。
このカードがある限り、リミアは大人しくしているだろう。
こいつらが勝手な行動を取られるとやっかいだから、そこだけは目を光らせておくか。
今日は取り敢えず解散する事にした。
ちっ……こんな無能なんだったら他の奴らと組んどくべきだったぜ。
こいつらの無能の原因がアストなんだとしたら、何かしやがったんだな。
「……導師か」
いやいや、それはない。そんな事があってたまるか。
あいつは、かつての仲間から偽りの勇者のレッテルを貼られて頭に来たんだろう。
その腹いせに能力を奪った。どうやったのかは知らんがな。
だが、こっちの方がしっくり来る。
数万年に一人現れるかどうかと言う伝説の救世主、導師……。
仮に導師に覚醒する可能性があるとすれば、間違いなくこの俺なんだ。
あいつじゃない。
「独り言を楽しまれてるところ申し訳ないですけど、まだちゃんと謝ってもらってませんが? どうせ忘れたんでしょうね」
「そ、そんな事ないさ〜タニス! 君にどんなプレゼントを贈れば喜んでくれるのか考えてたんだよ」
「……心の声を聞く事が出来る私に向かって、そんな大嘘をよく話せるもんですね〜!」
タニスはそう言いながら腕を組んでプイッとそっぽを向く。
こいつの機嫌はまだ直ってないらしいが、前回のように暴言を吐くのはやめておこう。
こいつを怒らせてしまうと何をしでかすか分からん……。
「当たり前でしょう? パートナーの私に向かって無能だとか、役立たずとか今度言ってみなさい、今度こそ全部ぶちまけるから!」
「あぁ! もう二度とあんな失言はしない!」
「それはそうとユリウス、なんで今もあいつらと一緒にいるの? 何にしてもパーティーとして機能しないんじゃ、一緒にいても意味ないんじゃない?」
「まあな。だが、奴らにはアストへの恨みがあるんだ。リミア以外はアストは勇者を偽った重罪人だと思ってる。そう言う意味じゃ今後俺の味方になる」
「へぇ〜そこまで考えてたんだ」
「俺もお前に聞きたい事がある」
「何よ」
「私達は元々お互い〝合わない関係だ〟って言ってたが、あれはどう言う意味なんだ?」
と、尋ねた。
おい……俺はそんなに深刻な事を聞いたのか?
タニスは立ち止まり俯いた顔で、それは、と続ける。
「フェアリーはね、自分と適合する人間と魂の契約をして勇者の力を与えるの。本来は適合者同士が魂の契約を交わすんだけど、あなたと私は無理やり契約した。つまり不適合者同士なのよ…………」
「……何かまだ言いたそうだなタニス」
「……あなたは薄々気づいてるかもしれないわ。私達では勇者の力を使い熟せないって」
「まさか……あのゴブリンの時……そう言う事なのか?」
「私の精霊の加護も、あなたの技も本来の力が出てなかったた……つまり」
つまり、俺は勇者にはなれないのか……。
あんな無能なアストには簡単になれて、俺には使い熟せないだと……。
「一度契約を交わしたら、死ぬまで一心同体。私達が不完全だから、勇者の力も不完全なの」
成り損ないの勇者か。
不思議なものだ。相方からこんなに侮辱されているのに今日の俺は恐ろしく気分が良い。
俺にとってそれ以上のものがあるからだ。
酒場でゼノス達と別れた後、俺はあいつの家に向かっていた。
ラムリース城下町の住宅街、あいつの家は花屋の真向かいだったか。
久しぶりに会うんだ。花束でも買ってやるか。
―てめぇ〜!! 何で殺しやがったぁぁ!!?―
「……うぅ!? なん……だ」
頭痛が……。何だ今のは……。
「まさかあなたにそんな人がいたなんてね。誰に花束あげるのよ」
「…………」
「ちょっと? 聞いてるの?」
「ああ……いいから邪魔しないでくれよ。マジで……久しぶりの再会なんだ」
「はいはい分かってますよ」
花屋で大きな花束を買った俺は、真向かいの家で立ち止まり、コンコンとノックをする。
「……………………」
出て来る素振りがないし、留守みたいだな。
「仕方ない、出直すか」
帰ろうとした時、ガチャっとゆっくり家の扉が開く音が俺の背中越しに聞こえてきた。
久しぶりだ。久々の再会に俺は自然と笑みが溢れてしまった。
「久しぶりだな! セシ…………ル」
「あぁ、 あんたはユリウスだね。あのガキ大将がこんなに大きく成長し男前になったなんてね。はぁ〜あたしも歳を取ったもんだね」
「き、キナ婆さん!? 何で婆さんがセシルん家にいるんだよ!」
「あたしが一応親になるからね。あの子のお葬式が終わり、色々と整理をしてたのさ」
「そ、葬式……!? なんだ!? 誰の葬式だよ婆さん!?
ま……まさか……まさかセシルは……」
「つい先日、亡くなったよ」
次の第十三話は8月16日朝20時頃を予定しております。
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