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第三十九話 地獄絵図 -Julius Side-


 ブレイバー。

 それはラムリース地下に広がる巨大施設〝恵みの大地〟で回収した魔力抽出装置を改良し、王宮守護部隊ガーディアンズに持たせてある対魔族、対アスト用の武器だ。


 アーキノフが、魔王ザングレスの膨大な魔力を好き勝手に出来たのには、魔力抽出装置こいつが大きく関係していた。

 ただ魔力を抽出出来るだけじゃない。改良によって魔力を無力化させる事が出来るブレイバーはまさに神聖なる剣。これぞ勇者の剣と言っても過言じゃない。


 俺自らで神が作ったと言われている導師の力を無力化出来る武器を作ってしまったのだ。


 今の俺は、そう……神。いや、神をも超えた存在だ。

 だから魔族ザコに負けなどしない。



「いいかよく聞け! 貴様らはブレイバーを使い熟せるエキスパート! 王宮守護部隊ガーディアンズは世界最強の騎士、いや勇者だ。その事をよく頭に叩き込んでおけ!」



 俺は今、イヴァーク領の王都イヴァレアから東に二キロ地点の平原にきちんと整列した騎士達と待機していた。


 先頭には隊長のシファーラ。

 この女は、女を捨てた意志が見られる程の短い赤茶色の短髪で化粧も全くしない。胸も小さい。

 砂漠の国、デルメシア出身で茶色い肌をしているなど、本来なら俺好みじゃないんだが、美しい。


 女は色白が一番と思ってるこの俺が、側に置いておきたいと思う程の美貌の持ち主。


 レインベルと同じ魔法剣士で、腕前はシファーラが断然上だろう。

 あいつはアストの力によって魔法剣士の才能を手にしているだけのインチキだからな。


 ゼノス達は俺の後ろに整列して立っていて、リミアは俺の隣にいる。

 シファーラは俺の目を盗んでリミアを気に入らない目で強く睨んでいるのを多々見かけるのは、嫉妬だろう。


 まあ、仕方ない。今の俺が一番可愛がっているのはリミアだからな。

 あれから結局一度も何も出来なかったが、だからこそ攻略しがいがあると言うもの。

 魔族との戦争が終わったら、存分に楽しむ予定だ。



「魔族を葬れるチャンスがあれば、どんな手を使ってでも仕留めろ。貴様らは部隊に所属しているがチームではない! 俺の駒だ。いいか? ただ命令に従っていればいい。その事を肝に銘じて任務を遂行しろ!」


『英雄王ユリウス様の意のままに!!』



 アーキノフが宣戦布告したあの日から、一ヶ月程の月日が経っていた。魔族達は現れこそしなかったが、世界各地で大量の魔素が所々に集まっているのを確認している。


 学者によると、魔素が濃い地点は魔界とのゲートが繋がりやすい場所なんだそうだ。

 その中で一番規模が大きい場所が、世界七大国のイヴァーク国だった。ここに魔族の大群が来ると予想した俺は、王宮守護部隊ガーディアンズを引き連れて来たって訳だ。



 黒い霧の様な魔素がどんどんとある一点に密集していき、バチバチとスパークが走る。

 ははは。流石英雄王ユリウス様だ。俺の予想は見事に的中したぜ。

 黒い霧は渦となり空中に形成されたと思ったら、その中から魔族が勢いよく飛び出したが……たった一体。



「ど、どう言う事だ……!?」



 大きい翼と棘だらけの鋭い尻尾。赤目が特徴的な……こいつ……何処かで見覚えが……。

 魔族が出て来た瞬間、ゼノス達は俺の盾になる様に素早く隊列を整えて身構える。



「お、おい……こいつだけなのか?」



 クウォンの問いかけにゼノスが返す。



「その様だが……クウォン、あの魔族どこかで見た気がしないか?」



 そうだ。俺も同じ感想だ。



「そうですねぇ。見覚えあると言えば私もあります」


「ええ、私もよ。それにしてもとてつもない魔力だわ……」



 みんなこいつに見覚えがあるのか?

 思い出せんが今はそんな事どうだっていい。

 たった一体しか現れなかった事は気になるが、ブレイバーで無力化して終わりだ。



「シファーラ! たった一体だ! 速やかに消せ!」


「はっ!」



 シファーラは直ぐに部下に命令し、魔族を取り囲んだ。



「よう、水色の髪のお前がユリウスだな? ケッケッケ! こんなゴミみてえな魔力しかない奴が、世界の希望か?」


「なんだとぉ!? シファーラ!! 早くこいつを無力化しろ!!」


「御意!」



 シファーラを始めとして、騎士達が次々とブレイバーを引き抜き、空へ向けて掲げた。



「のぐぁ……な、なんだぁ……!? こ、こ……れは……あぁぁ!?」


「くっくっく! よし、いいぞ! 効いてやがるな!」



 魔族の体から緑色の光の粒が、湯気の様に空へと昇りやがて騎士達のブレイバーへと流れて行く。



「お……俺の魔力が……き、貴様ら……ぁぁ!」


「ぐははは! おいどうした? ゴミにやられるぞ?」


「ぐぐぐぐ……す、凄い……抵抗力……だ」



 ん? シファーラの様子がおかしいな。

 初めての魔族にビビってるんだな。

 全く……たったの一体にビビりやがって。



「シファーラ!! 恐怖を捨てろ!! 余計な事は考えず、貴様はただ任務を遂行すればいいんだ!! 分かったな!!」


「ぎょ……御意! はあぁぁぁ!!」


「ぬぅぅぅ……ぐぐぐ……くそぉぉぉあぁぁぁ!!!」



 そろそろか……と、俺の口元が吊り上がろうとした時だった。

 盾となっていたゼノス達が急に隊列を解いて、周りに散らばりやがったんだ。

 こいつらには俺の命を守る事を最優先に頭に刷り込んでいるから、その為の行動なのだろうと理解はする。


 だが、一体何事だ?

 ゼノス、クウォン、ヴァール、リミア、皆無言で空を眺めている。



「おい! お前ら何を」



 そう言いながら俺も空を見上げたんだ。

 黒い雲。

 空が徐々に黒い雲に覆われて行ってるのが目に入った。

 薄気味悪いが所詮ただの雲じゃないか。と、思ったが暫くしてゼノス達が何故無言で眺めていたのか、ハッと気づいた事があった。

 

 そうか、この魔族が雷属性の魔術か何かを仕込んでいたのか。

 魔力を感じ取られずに不意打ちでやろうとしてやがったんだな。卑怯者めが。

 俺のそんな予想が、事実として認識する為脳が反応しようとしたまさにその時だった。


 黒い雲だと思っていたもの、よく見るとそれは数え切れない程の魔族の大群。

 太陽までも覆い隠され、文字通り魔族によって空は暗黒に包まれた。


 何処からあんな大群が沸いて出て来たんだ?

 魔族は魔界からゲートを使って来るはずだろ?

 まさか、小さな魔素からもゲートを作り出せたのか?



「いや……それはない」



 世界で一番規模の大きい魔素から現れたのはたったの一体だけなんだ。

 いくら世界各地に魔素が点在してるとは言っても、あんな大群が一気にゲートから出て来たとは考えられない。



「まさか……あの空の奴らは、ゲート以外の手段でやって来たのか!?」



 人間界ここと次元の異なる魔界からゲートを繋げずにやって来るなんて出来るのか?

 いや、有り得ない。



 ザシュ! ザシュザシュ! シュパァァン!


 突然背後から斬撃音と悲鳴が聞こえて来る。

 違う、そうじゃない。俺が考えてる間にもずっと聞こえてたんだ。

 後ろで王宮守護部隊ガーディアンズが仲間討ちを始めている事は分かってた。


 無力化寸前に追い込んでた魔族の目が赤く光ったかと思えば、騎士達が次々味方を攻撃し始めた事。

 そしてそのキッカケでこの魔族が、世界的に有名なゼクトリアース物語に出て来るガーゴイルだと分かった事。


 空を覆った暗黒の雲が無数の魔族の群れであった事。

 その魔族が放つ魔術が隕石の様に地上に降り注いでいる事。


 信じられない出来事が同時に俺に襲いかかり、何も考えられなくなってしまったんだ。


 世界の希望、英雄王、エスハイム国王、俺が手に入れたものが、全て燃え尽きて無くなってしまう。

 王宮守護部隊ガーディアンズは間違いなく世界最高の騎士達だった。


 だが、まさか魔族の数がこれ程とは思ってもみなかった。

 以前シャドウがエスハイムに押し寄せて来た時の数を大群と思ってたが、まるで比べものにならない。


 今回は空が多い隠れる程の数なんだ……。


 王都イヴァレアから断末魔の様な人の悲鳴が一人一人特定出来ないぐらい、いくつも飛び交っている。

 二キロ離れたここからでも、耳に入って来るぐらいの悲痛な叫び。この国がどうなろうがどうでもいいが、あの数を相手にどう戦えばいいのか……。


 ブレイバーで無力化出来る数じゃない……。


 これは……敗北……なのか?


 もしかしたら、生まれて初めてかも知れない……。

 こんなに体が震え、こんなに心が不安で堪らなくて、絶望と恐怖に殺されようとしているのは。


 俺はただその場に、立って見ている事しか出来なかった。


エピソード1と2合わせて、これで100話目となります。

いつも読んでいただいている方、そして今こうして手を取っていただいた方に感謝します!


本当にありがとうございます!

ブックマークや、いいね、感想なんかもいただければ大変嬉しいです!


よろしくお願いします!

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