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第十話 シャドウ

お読みいただきありがとうございます。


○○Sideとなってるのは、そのキャラ視点と言う意味で基本は主人公アスト視点ですが、他キャラ視点でも書いております。


 僕達はリーベ村から更に西に位置するトリークと言う大きな街に来ていた。

 ラムリースの方では、大きな街にはギルドがあり周辺地域の治安維持を行なっていた。

 だからエスハイムにもあるはずだと思ったけど、やっぱりあった。

 僕達はトリークのギルドに赴き、リーベ村で遭遇した魔物について聞いてみる事にしたんだ。

 

 ゲストルームと言う応接室へ通されて、大きなソファーに座らされた。

 暫くして応接室の扉が開き、ギルド長が入ってきた。

 ガタイの良い山賊のような出立ちの大男だ。

 左目が失明している。

 顔の傷跡から恐らく刃物で斬られたんだろう。

 対面のソファーにズガンッと豪快に座り「ギルド長のビーゲルだ」と自己紹介したあと、溜息を漏らしながら話し始めた。



「……間違いねぇ。そいつは〝シャドウ〟だな」


「シャドウ?」


「エスハイムは今、シャドウの被害が多発しているんだが、リーベ村にも現れたか……」


「あの、リーベ村の村人達は来ませんでしたか?」


「いや……そんな報告は受けてねぇな。リーベ村にシャドウが現れたんなら、もう全滅してると見た方がいいぜ」



 そう言うとビーゲルさんは俯いて目の前の机をドンッと叩く。



「くそ!! 奴らとんでもねぇ強さなんだ!!

人間に化けやがるし、気づいた時にはみんなやられてる現状でよ!」



 ビーゲルさんは何度も机をドンッドンッと叩いた。

 机に叩きつけた震える拳を見ると伝わってくる。

 シャドウの好きにさせてる事への悔しさを。きっと多くの仲間を失ったんだろうな。

 シャドウは本性を現すまでは、人間と見分けがつかないところが非常にやっかいだ。

 現に僕も少女だと思い込んで接していたからな。

 そう言えば、ネファーリアはどうやってシャドウだと気づいたんだろう。

 僕が彼女に質問しようとした時、丁度彼女が口を開いた。



「シャドウかどうか、わたくしなら見分けられると思います」


「本当か嬢ちゃん!!」


「ネファーリアです」


「ネファーリア! あんたはアストだったな! 頼む! 力を貸してはもらえねぇか? 旅人のあんた達を巻き込んじまう事は、本来ならしねぇがこれはエスハイムの危機だ! 死んじまった仲間の為にも……。なあ! 頼む! この通りだ!」



 ビーゲルさんは床に頭を乱暴に擦りつけて僕達に土下座を見せた。

 貴方はそこまでこの国の事を、仲間の事を思ってるんですね。



《このおっちゃん、ええ人やなぁ……。なんか泣けてくるわ》


「断る理由はありませんよ! 協力します!」


「すまねえな! 恩に着るぜ!」



 するとビーゲルさんは、「ちょっと待っててくれ」と言って立ち上がり、僕達を残して応接室を出て行ってしまった。

 


「さっきの話だけど、シャドウを見分けられるのかい?」


「はい。シャドウは魔物とは異なる臭いがあり、わたくしはそれを嗅ぎ分けられるのです。恐らく魔族なら誰でも分かると思います」


「あの少女もそれで見分けられたって事?」


「わたくしと二人きりになった瞬間、臭いが強くなりました。人間はこのような臭いはしないので魔物だと思ったのです。わたくしを殺そうとした時に強くなったのでしょう」


「臭いか……」


「待たせてすまねえな」



 戻ってきたビーゲルさんは、机に地図を広げこの辺の地域の事を教えてくれた。

 所々に赤くバツ印が書かれてある。



「このバツ印は?」


「シャドウに遭遇した場所だ。トリークを囲うようにして 遭遇してるのが分かるだろ?」


「リーベ村のような小さな村にもバツ印がついていますね。既に被害があったのですね」


「あぁ……。アシア、ニーゼン、シュラト、そんでリーベだな。奴ら小さい村から襲いやがるんだ」



 小さな村……人数が少ない所から狙ってると言う事か。

 地図の遭遇場所を見ても、明らかに計画的に狙ってる。

 シャドウは高い知能を持ち、言葉を話す。

 魔物と連携なんて取られたら益々やっかいになってくるな……。

 おまけに見た目は人間と見分けがつかないし、この戦いはネファーリアの〝嗅ぎ分け〟が勝利の鍵を握る。


 僕達はこの後、ビーゲルさんとシャドウ討伐の作戦を立て決行日を三日後に決める。

 これは僕の我儘でビーゲルさんに提案した事なんだけど、僕はここまで息継ぎなしに進んできて正直疲れていたし、色々と整理もしたかったし、一番大きいのは導師としての力をもっと追求したいと思ったんだ。

 

 シャドウは間違いなく強敵だ。今回は運良く勝てたけど、次も勝てるなんて思わない。

 幸運にもネファーリアがいてくれた事で希望を持てたけど、今後の為にも僕が持てる力で出来る事をやっていきたい。



《なんや、カッコええ事言うなーアスト! 惚れてまうやろがー♪》



 からかうなよフュリン。

 君には感謝してるよ本当に。

 勇者の力を失った時から今日まで、ずっと励ましてくれたよな。

 君がいなかったら、僕は生きていたのかも分からないよ。



《アスト……。アストはなーんも悪ないんやで! あたいの事を救ってくれたんや! ほんまに、ありがとう!》



 まだ確実じゃないから言えないけど、実は色々と試してる事があって

 その内君に恩返しの意味も含めてプレゼントしたいものがあるんだ。

 受け取ってくれるかい?



《プレゼント!? ほんまにぃぃ!? やたぁぁ♪ もちろん! 受け取るに決まってるやんかー! ははは!》


「……それじゃあそろそろ僕達は失礼しますね」


「おう! 分かったぜ! 三日後に例の場所でな! アスト! ネファーリア!」



 僕達はコクッと頷き、ギルドを後にする。



「夜までまだ少し時間があるけど、先に宿を取っておこう」


「野宿が続きましたからね」



 宿屋に向けて僕が歩き出すとその後ろをネファーリアがついて歩く。

 僕は常に彼女の表情を気にしながら、好きなのか嫌いなのかを感覚でだけど確かめてたりする。

 ネファーリアってハッキリと言う時もあるけど、言わない時は言わなかったりするんだよな。

 

 例えばトリークのような大きな街は人も多いから、そんな中にいる事に不快な思いをしてないのかな? とかね。

 生活を共にする事で魔族の生活を知る事になった訳なんだけど

 本当魔族だと忘れるくらい、なんら人間と変わらなかった。


 食事も人間と同じものを食べても美味しいものは美味しいと言うし、嫌いなものもあったり。

 魔族の食生活ってもっとドロドロした吐き気のするものをイメージしてたって彼女に言ったら、どんなイメージを持ってるんだって笑ってたな。

 

 そんな事を思い出しながら、気がつくと宿屋に着いていた。

 すぐにチェックインして部屋に案内される。

 値段の割には大きい部屋だった。

 寝室も二つあるし、プライベート空間は確保できそうだ。

 暫く野宿だったからフカフカしたベッドが天国のように感じるぞ。


 その後僕達は食事を済ませてそれぞれの寝室に入っていった。



「明日からみっちり修行だ」


《頑張りや! アスト!》


次の第十一話は本日12時頃を予定しております。

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