第一話 国外追放
久しぶりの新作です。
気に入っていただけるように頑張ります。
「勇者アストよ、貴様は追放だ!」
一分、二分……どんなに時間を与えられても、追放される理由なんて浮かんで来ない。
僕の名はアスト・ローラン。
半年前に勇者選定の儀式により選ばれた勇者だ。
僕は仲間達と共に数々の困難を乗り越えて魔王ザングレスを討伐した。
そして母国、ここラムリース王国へと無事に帰還。
国王であるアーキノフ様に一刻も早く知らせたかったから、家族や大切な人よりも先に謁見の間に急いで来たんだけど……。
「……アーキノフ様、どう言う事ですか?」
「仲間から聞いておるぞ、偽りの勇者め」
偽りの勇者……この言葉には心当たりがあった。
勇者選定の儀式とは、選ばれし者はフェアリーと魂の契約をし勇者としての力を得る。
魂の契約とは勇者として使命を果たせるまで、死ぬまで一心同体となる事。
僕は〝フュリン〟と言うフェアリーに選ばれ、無事魂の契約を結んだんだけど、事故が起こったんだ。
契約完了直後に突然空から巨大な獣にフュリンは襲われて、瀕死状態になった。
早く助けなきゃと思って必死だったから、どうやってその魔物を倒したのか覚えてないんだけど、気づいたら僕はフュリンの精神体を自分と融合させていた。
それが原因なのか、勇者としての力が失われてしまったんだ。
勇者にしか装備する事が出来ない伝説の武具も装備できなかった。
つまり、僕は勇者としての力を失ったまま魔王ザングレスと戦ったって事。
旅立って最初のキャンプで仲間にこの事を話したんだ。
偽りの勇者と言うのはきっと、この事を言ってるんだろう。
「確かに、勇者の力は失われました! でもその代わりに別の力を身に付けたんです! この力を使って仲間を支えて来ました!」
「別の力だと?」
「はい、その力は……」
「そんな力はありませんよ、国王」
僕が説明をしようと立ち上がった時、背後の扉が開きズカズカと入ってきた者達がいた。
その大きな筋肉を纏った巨躯は足音も重く、重装備で身を固めた聖騎士ゼノス。
ゼノスとは逆に、小柄な拳聖クウォンは己の拳と肉体強化の魔術で鎧も身につけずに能力のみで勝負すると言うスタイル。
彼の攻撃は正に目にも止まらぬ速さだった。
賢者ヴァール、普段は女を口説く事ばかり考えてる遊び人なんだけど、いざ戦闘になると破壊力抜群の一発をお見舞いしてくれる魔術の天才だ。
戦巫女のリミア、口数が少なくあまり自分の事を話したがらない。 だから正直彼女の事はよく分かってない。
けど、巫女でありながら刀を振るい攻撃と治癒術の両方に優れていた。
攻撃の要はいつも彼女だった。パーティーで唯一の女性。
魔王ザングレスを共に倒した仲間……のはずなんだけど。
「先程もお伝えしたように、アストは勇者の力を失ったばかりか戦闘に参加しようともせず、後ろから指示を出すのみ。ハッキリ言って今回の討伐作戦には足手纏いでした」
ゼノスが僕の横に立ち、一度僕の顔を見るとアーキノフ様に向かって深々と礼をして跪いた。
残りのメンバーもゼノスから少し下がった所で同じように跪く。
「ゼノス……確かに僕は勇者としては何も出来なかったかも知れない。でも、みんなで力を合わせれば大丈夫って言ってくれたじゃないか!」
「……ったく! どこまでも甘ぇヤツだな! そうでも言わねぇと、やってられなかったんだよ! おめぇは俺達がいたから死ななくて済んだんだ! 何の役にも立たなかったくせによ! 少しは俺達の事も気遣えよバーカ!」
と、クウォンが今にも殴りかかりそうな勢いで声を張り上げる。
まぁまぁとクウォンの肩をポンポンと叩いたヴァールはニヤニヤしながら口を開く。
「まあ、魔王ザングレスを倒せたのは、間違いなく私達が優秀であったからだと言う事です国王様。私達は最初から四人分の戦力だった。荷物持ちも務まらず、本当何の為にいるのか……ねぇ」
「アスト……貴様と言う奴はどこまで愚かなのだ。その上、自分には別の力があるとまた嘘を重ねるか」
「アーキノフ様! 嘘は一切言ってません! 分かりました、今ここで証明して見せます! 新たに身についた能力、フェアリーのフュリンは〝導師〟の力だと言ってました」
「導師!? 導師の力だと!? 貴様の様な人間が軽々しく口にするな! 愚か者め!! 追放を免れたいからと言って、言うに事を欠いて導師とはな!」
「アーキノフ様! 話を聞いて下さい! 今力を……」
「もう良いわっ!!」
アーキノフ様は、立ち上がると謁見の間の扉前に立っていた衛兵に合図を送る。
その指示を僕も視線で追いかけ、また目の前のアーキノフ様に戻す。
アーキノフ様の表情はとてつもなく怒りに満ちている。
〝導師〟と言う言葉がそんなにまずかったのだろうか。
……何の合図だったんだろう。 物凄く嫌な予感がする……。
その嫌な予感は見事に的中する事になった。
謁見の扉が開いて衛兵と共に連れられて来たのは……。
「せ……セシル!?」
「うぅ……アスト……」
紫色のウェーブがかったふんわりした髪。
そして今にも消えそうなくらい透明な肌。
僕の恋人のセシルだ。
青く澄んだ綺麗な瞳から頬に伝っていく涙。
あぁ……神様……お願いします……と祈り続ける。
お願いだからどうか、どうかセシルに何もしないでくれ。
でも全くこの状況が飲み込めない。
どうしてセシルがここに連れられて来たんだ?
「どうしてセシルを!?」
「勇者を偽り、くだらん嘘をついた挙句に、導師の力に目覚めたなどと抜かしおったから、貴様には重い罰を与えねばならん!」
「僕は勇者を偽ってはいません! 現にフュリンは今でもこうして……」
「見た事ないわ」
ずっと沈黙していたリミアが一言ボソッと言った。
「そうだぜリミア! 俺達は一度もこいつのフェアリーを見た事がねぇ! いつまでも嘘を突き通せると思うなよ!」
「クウォン! 説明しただろ? フュリンは瀕死になって僕の意識と融合したって!」
「魂の契約をした直後に見た事もない大きな魔物に襲われた……ですか? 何と言う偶然なんでしょうねぇ」
「ヴァール……信じてくれないのか」
「アスト、これが最後のチャンスだ」
するとアーキノフ様は衛兵にまた合図を出すと、セシルの首に刃を当てた。
まさか……まさか本気じゃないですよねアーキノフ様。
僕は仲間と力を合わせて魔王ザングレスを倒した。
勇者としてではなかったけど、新しく目覚めた力を使って仲間を最大限にサポートしてきた。
そして勝ったんだ。
僕が話した内容全てに嘘なんてないんだ。
「今ここで罪を認めろ。 そうすれば最悪の事態は避けられよう」
「罪……?」
「勇者であると偽り、また導師である事も偽った。勇者偽証の罪で貴様は国外追放となるであろう」
まさかアーキノフ様がセシルにこんな事をするなんて。
何がどうなってるのか今の状況でさえ把握しきれない。
もう……認めるしかないのか……。
勇者偽証? やってもない事をやったと言わなければならないのか?
「アスト、貴方は貴方の正義を貫いて」
「セシル……それって……」
セシルは信じてくれてるんだ。
僕の事を、自分がどうなるかも分からないのに……。
くそぉ……!!
「さあ、もう待たんぞ。答えを聞かせろ」
「………………認めます」
言いたくはなかった。嘘をついた自分を心の底から憎んだ。
ごめんセシル。君が言ってた自分の正義を貫く事は出来なかった。
正義を貫けなくなる辛さより、君を失う事の方が辛いから。
僕は国から罪人として追放される。もう君とは二度と逢えないかも知れないけど、元気で生きてくれたら僕はそれでいいよ。
「そうか……やはり嘘だったのか」
「全て認めます。セシルは解放して下さい」
「…………殺せ」
「な!?」
アーキノフ様……いやアーキノフに命じられた衛兵は、セシルの首に当てていた刃をスッと引いた。
僕の……目の前で。
体が震える。 今起こった現実を受け入れようとすればするほど、呼吸が荒くなる。
セシルはまるで糸が切れた人形のように、地面へと倒れていった。
「……あ……あ……ぁ……あぁ……。アァァァァキノフ!!!」
殺してやる。 殺してやる。
僕の頭の中は目の前のアーキノフの事しか考えていなかった。
周りにいるゼノス達に取り押さえられつつも、強引に引っ張り突き進む。
例え目を潰されようが、例え腕が引き裂かれようが、お前の首を圧し折るまでは絶対に諦めない。
一歩、そして一歩アーキノフとの距離を縮めていく。
僕が近づくごとにお前の寿命が減る。
「お、おい! 何してる!? 早く取り押さえんか!」
「わ、分かってます! こ、こいつ……どこにこんな力が……」
クウォンを始め、みんな僕の歩みを止められない事に驚いているようだけど、そんな事はどうでもいい。
アーキノフを殺せれば、死んだっていいんだ。
「よくも……アァァーキノフ!!」
「アスト!」
扉が開き、背後から僕を呼ぶ声が聞こえた。
この声……まさか。
振り返ってみると、そこには貴族のように整った容姿の男が立っていた。
水色の綺麗な長髪に切長の目、僕の親友のユリウスだった。
まさかこんなタイミングでこいつに会うなんて。
「ユリウス……どうして君がここに……?」
「アスト」
ユリウスは僕の方へゆっくり近づいてくる。
聞いてくれユリウス、アーキノフが……セシルを……。
そう言おうとしたんだ。でも言えなかった。
セシルが死んだなんて認めたくなかったからだ。
そんな僕の心情を分かってくれたのか、ユリウスは僕の肩をポンッと叩く。
「アスト…………悪いな」
「……え?」
何が? と、聞く暇もなく僕はユリウスに一発殴られる。
ユリウス……何でなんだ。
彼はとても悲しそうな表情をしていた。
あぁ……瞼が降りてくる……力が抜けていく。
気を失う最後の瞬間、ユリウスの口元が吊り上がった。
「……ユリ」
「悪いなアスト」