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マイナス100Lvの最強国王  作者: 青浜ぷりん
一章 最強国王の悲劇
8/20

八話 醜態

PV数が励みになっています。新しい生活が始まり忙しい中、少しでもこの作品を覗いて下さり、本当にありがとうございます。

誤字脱字、批評等よろしければ厳しくご指摘下さい。

これからも頑張っていきます。


 城の自室に置いていた黄土色のパーカーと黒のズボンに着替え、俺は城を出た。

 城を出るまで俺を引き留める者は誰一人としていなかった。

 結局、権力を持つ人間はそれを第一に考えてしまうのだろう。

 今ここで俺を引き留めれば、ディエゴを敵に回すことになる。

 そんな立場が危なくなるようなことをするやつは、当たり前だがいなかった。


「あれ……トウゴ様? お一人ですか? 何処へ行くんですか?」

「もしかして、また一人であの村に行かれるんですの? 心配だわ……」


 俺が城を出ると、国民達がいつも部下と一緒の俺を見て不思議そうにそう言った。


「悪いお前ら。俺は国王の座を追われた。もう俺は国王じゃないから、様なんて付けるな」


 国民達は何が何やら分かっていない様子だったが、俺はもう国民に説明する義務はない。

 クズ共が国のトップであるバン王国の国民達に少し同情するが、助ける義務もない。

 俺はレザンス村で借りた馬で街を出ることにした。

 国の裏切り者である俺に、馬車なんて使う権利は当然ない。

 

 門の入り口あたりに停めてあった馬に乗ろうとすると、ザアアア――と雨が降ってきた。


「……最悪のタイミングだ。足場が緩むと面倒くさいな。早くレザンス村に向かおう」


 ――俺はある考えが頭に過った。レザンス村の皆は、何て言うだろうか。

 村の皆に、支配を止めさせると誓った。

 マノンに、肉をいっぱい食わしてやると誓った。

 勇んで村を旅立った結果がこれだ。

 皆の、失意に打ちひしがれる顔は容易に想像出来る。

 

「……考えても無駄だ」


 俺は不安定な青灰色の空模様の中、レザンス村に駆けだした。


 ~◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇~


 暫く濡れた草原を駆けていると、この前来た道と違うところを進んでいることに気が付いた。

 雨から生じた霧のせいで方向感覚を失ってしまったらしい。


「視界が悪い……マズイな。地図なんてないし一旦バン王国に引き返すか。それで前に使った道を辿れば……」


 ――ズシャァァァッ!


 突然不快な音がして、俺は視界が反転した。

 

「……痛ぇ……一体何が……」


 俺が真っ直ぐ目をやると、遠くに馬が四方八方に暴れながら駆けていくのが見えた。

 どうやら馬が足を滑らせ、俺は地面に叩きつけられたらしい。

 馬は混乱してしまったのだろう、暫くすると霧に紛れて全く姿が見えなくなった。


「……最悪だ。馬無しで村まで行かないと……あれ」


 視界が突然水でぼやけた。

 ――雨の雫、ではない。

 涙が目から溢れだしたのだ。


「なんで今更……あんな奴らに裏切られたところで何も悲しくなんか……」


 そう言い聞かせても何故か涙は止まらない。

 ――あいつらに裏切られたことが悲しいのではないと、俺はすぐに悟った。

 只々、自分が情けなかったのだ。


 ――全てを投げ出して東京に行ったあの日から、俺は何も変わってない。

 自分の能力を、さも誰かによって決定されたかのように恨んで、厭世的な思考に陥った。

 この世界に来て王になった日もそうだ。

 100Lvの最強国王なんて慢心してないで、この国の素性を探るなり出来たろうに。

 全てを失い、俺はようやく自分の愚かさに気づいた。

 他人から貰ったものをすぐ腐らせてしまう、自分の愚かさに。

 華麗な国王としての生活も、最強の魔法能力も、マノンの笑顔ももう失ってしまった。


「今死ねば、楽になれるかな……」


 一人そう呟く。


「……駄目だ。最後にやらなければいけないことがある。レザンス村の皆に、謝らないと。ごめん、全部失ったって。お前らを守ることはもう出来ないって、言わないと。俺が起こした事態だ。村を見て回りたいなんて言わなければ、レザンス村の皆に迷惑かけずに済んだのに」


 打撲した足を引き摺っては半歩歩き、引き摺っては半歩歩きを繰り返して村に向かう。

 どうせ明日には命を絶つ。だから俺の体はどれだけ疲れてもいい。

 そう言い聞かせて手探りでレザンス村に向かった。


 ~◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇~


 どれくらい歩いただろうか。

 雨は止み、あたりは暗くなっていた。

 夜になったようだが、まだ村には着かない。


「キシャアアッ!!」


 暗闇に突然二つの赤い点が浮かんだ。

 と同時に、ズバッと鈍い音がする。

 何者かに引っ掻かれたらしい。


「痛ぇッ!! ……なんだこいつ、魔物か?」


 服に紫の体をした海老のような生き物が引っ付いていた。

 赤い点の正体は、こいつの目だったようだ。

 服に引っ付き、鋭利な腕で俺の腹を引っ掻いてくる。


「うわぁッ、止めろ!! 離れろ、このっ……」

 

 何とか手で払いのけようとするも、中々離れない。

 だが、攻撃力はそこまで高くないようだ。

 魔法があれば一瞬で倒せていたのだろう。


「この……くらえッ!!」


 海老目掛けて思い切り拳を振り下ろす。

 

「キシャアアアッ!」


 海老は予想外の反撃に怯んだのか、暗闇へと戻っていった。

 ポタポタと腹から血が滴る。


「痛ぇ……魔物か?そういえば、ベラから貰った魔術本にも、魔法のグレードが高いと魔物に狙われやすくなるって書いてあったな……俺は最上位魔法の因子みたいなのが残ってるから、狙われたのか」


 つまり、魔法を完全に奪われることもなく最上位魔法の因子だけを残された。

 魔法はロクに扱えないのに、グレードだけ高いから魔物に狙われやすい。

 俺は、蛇の生殺しのような状態、正真正銘のマイナス100Lvになったわけだ。

 

「ブオオオオオオオオオオオオオッッッッ――!!!」


 突然、耳を(つんざ)くような咆哮が響き渡った。

 絵の具で塗られたような真っ暗な空の中に、赤い三つの点が浮かび上がる。

 雷雲のようなものに包まれていて姿は視認出来ないが、先程の海老とは違って遥か上空に目が浮かび上がっている。

 突然、ギュルン――と目がこちらに向いた。


「ブオオオオオオオオオオオオオッッッ……」


 これは理解してはいけない生物だ。

 そう脳が警告する。


 (たちま)ち、俺の中にある思いが駆け巡った。


 ――死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。


 腹の奥から湧き出てくるその感情は、瞬く間に俺を支配した。

 なりふり構わず、俺は走った。

 

 涎を垂らしながら、腹を手で押さえながら、涙をまき散らしながら。

 何度も転倒しては起き上がりを繰り返して。

 

「誰かああッ!!! 助けてくれえッッッ!!! 魔物に襲われたんだ!!! 空に魔物がいる!!! おい、ベラ、ソワン!!! 俺を助けろ!!!」


「ブオオオオオオオオオオオオオッッッッ――!!!」


 咆哮が、心臓の奥にズシリと圧し掛かる。

 ――もう村のことなんてどうでもいい。

 マノンのことも、誰かが幸せにしてくれるだろう。

 俺である必要なんて無い。

 村に着いたら、嘘をつこう。油断してたら、超強い魔物が出て負けたって。

 そうでもしないと、俺を助けてくれないかもしれない。

 とにかく、もう嫌だ。もう怖い思いをしたくない。 

 元の世界に帰りたい、元の世界に帰りたい、元の世界に帰りたい。

 

 全速力で駆けていると、次第に咆哮が遠のいていく。

 俺の体は汗と涙と鼻水でグシャグシャになっていた。

 死そのもののように感じた得体のしれない怪物の声が遠のくと共に、身体が少しずつ楽になる。

 暫くすると、レザンス村の灯かりが見えてきた。


 ~◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇~


「た、大変だ!! トウゴ様!!」


 俺は門に着いてすぐに、疲れと傷の痛みで倒れてしまった。

 足はもう折れてボロボロだ。

 幸い、灯りのおかげで俺はトリスタン村長に発見された。


「トウゴ様! 何がありましたか!? 大変だ……今すぐ治療しなければ!」


 門に駆け付けたトリスタン村長は俺を見るなり言った。

 

「あはは……油断してたら魔物に襲われたわ……俺の最強能力があればあんな魔物――」


「マノン! トウゴ様を家に運んでくれ! とにかく傷の治療と、治癒魔法を使おう! 大丈夫ですトウゴ様、必ず助かります」


「うん、おじいちゃん!」


 マノンは必至な形相で俺に肩を貸してくれた。


 ――馬鹿か、俺は。

 何でここまで尽くしてくれる人達に嘘をつけるんだよ。

 全部、事実を話そう。

 それで全部終わりにしよう。


「トウゴ様。もうすぐ着きます、きっと大丈夫ですよ。マノン、じいちゃんは村全体にこのことを報告するから、家でトウゴ様を見ててやってくれ」


「うん、分かった。トウゴ様、頑張ってください、もうすぐです。大丈夫、トウゴ様は死にません。トウゴ様は強い。だから――」


「違うんだ……マノン……」


 女々しい声で言葉を絞り出す。


「俺は強くなんかない……俺、王の座を追われた。能力も失ったんだ。だからもう、この村を守れない。肉を食べさせてあげられない……ごめん、本当にごめん……ッ」


 涙が止まらない。

 悔しい。皆の優しさが、傷に沁みる。

 皆の優しさが、自分の愚かさを一層映し出す。


「……話は後で聞かせてもらいます。今はとにかく、休みましょう」


マノンの戸惑いは声色で分かったが、俺は情けなくて何も言えなかった。

 マノンに運ばれ、俺は家へと入った。


 ~◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇~


「あれ、マノン……」


 意識を失っていたのか。

 マノンが、俺の寝ているベッドの横で椅子に座っている。

 何してたんだっけ、俺。

 確か異世界転生して、国王になって――


「ッ……!」


 思い出した。

 俺はついさっき、全部失ったんだった。

 力も、地位も、名誉も。


「マノン……さっきの話だけど……」


「はい。王の座を追われて、能力を失ったんですよね」


 淡々と、マノンは先程俺が伝えた事実を述べる。


「ッ……そう、なんだ。俺が馬鹿だから、全部失った。俺が悪いんだ。俺が全部招いたことで――」


「違います」


「……っえ?」


「トウゴ様が、全部悪いわけないじゃないですか」

 

 マノンは、笑顔で俺にそう伝える。

 そう思いたい。でも、俺だけが知ってるんだ。

 (テメー)の醜さを。

 マノンは知らないのだ。

 

「……マノン、お前の前ではカッコつけてたんだ、俺は。ここに来る前の俺を知らないよな。全部他人のせいにして、自分は不幸なんだと言い聞かせて全てから逃げてきた。自分をニヒリストだと思い聞かせて、被害者面して、自分にも他人にも一切の期待をしてこなかった。だから、当たり前なんだ。裏切られたのも全部、俺という人間が招いたもので――」


「違いますよ、トウゴ様」


「……何も違わない。俺が全部悪い。だから明日、死のうと思う。死ねば、元の世界に帰れるかもしれないから。最期に謝ろうと思ったんだ。ごめん、俺のせいで――」


「違います。トウゴ様のせいじゃありません」


「ッ――違うわけあるか!! 全部俺の甘さが招いた事態なんだよ!! お前は知らない!! 俺の醜さも、辿ってきた道のりも!! 俺は低劣な人間だ。お前らに頼れる国王面してたよな? あれも他人から貰った力があるからだ!! 何の能力も無しに、ディエゴみたいな化け物を敵に回そうなんて思わない!!」


 自分を卑下することに秀でている俺は、かつてないほど饒舌にマノンに言葉をぶつけた。


「笑えるよな、厚顔無恥のあの面を思い出すと。何が、優しい人間が不当な扱いを受けているのを見ていられない、だ? 正義の味方気取りで、情けねぇ」


 そうだ、俺みたいな行動力のない人間が頼れるやつを演じれたのは、あの力があったから。

 ただそれだけの話だ。

 他人の力で強くなったと錯覚し、弱者を(おもんぱか)るフリをした。

 一番の弱者は、俺だ。

 

「マノン、悪いけどこの村の現状を俺が変えることは出来ない。誰かに頑張ってもらってくれ。頼む」


「トウゴ様、少し私の話を聞いて下さいませんか?」


 突然、マノンはこれまで見てきたどのマノンよりも真剣で、凛とした顔立ちで言った。


「話……俺はもう用なしだろ。この村にとって何の利益もない。ただのお荷物だ。俺がレザンス村の王になるって宣言してバン王国を裏切ったから、お前らは更にバン王国に支配されるかもしれない。レザンス村を引っ掻き回して、状況を悪化させたんだ、俺は」


「私にとって、トウゴ様は救いなんです」


「……こんな時まで慰めてくれるのか。優しいな、マノン。でももういいんだ。俺の事なんか忘れてくれ。もっとしっかりした人間がこの村を救ってくれる」


「いいえ……トウゴ様じゃなきゃ、駄目なんです」


 マノンの言葉がお世辞でないことは、真剣な表情を見れば分かった。

 でも、マノンの言葉の意味は分からない。

 一体俺が、マノンに何をしてあげられただろうか。

 俺じゃなきゃ駄目。

 俺だから、この村は駄目だった筈なのに。

 

「知ってほしいんです。あの日、私がトウゴ様にどれだけ救われたか。あなたに伝えたいことがあるんです」


 マノンは、俺と初めて出会った時のことを話し始めた。



























 



 





 






 








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