01-03 女神がバグってる
ガラガラガラッ
馬車ってこんなに尻痛くなんのか。これは想像以上だ。一応10人ぐらい人が乗ってるのに。いとも簡単に揺らすとは、馬車の衝撃吸収能力の低さ!恐るべし!
「ローグ。お尻痛い!」
「はいはい。ちょっとの辛抱だから。」
かわいいな、リアは。年齢が近いし、俺もまだ小さいから、お兄さんぶる事は出来ないけど。
「魔勇者ローグよ。質問の前に1つ、聞かせて欲しい事がある。」
「なんだ?」
兵士がざわついてる。
「お前は、無宗教か?」
「勇王様!!その話は御止め下さい!」
宗教関連か。これは答える方も慎重になるべきだな。
「あぁ、無宗教のつもりだが?」
一応魔界で、魔神を崇拝する協会に行ったけど、俺は特に気にしてないからな。あながち間違いでないはずだ。
「私は魔帝を倒した後、女神共を天界から引きずり堕したいと思っている。」
女神を?なぜ?
「私は恐らく、女神に殺された。」
俺は今試されているのか?
魔王の因子的なのを持ってる奴なら答えられるとか?
「私は転生者だ。」
転生者!?こいつが!?
「異世界から女神に連れられ、この地に生れ落ちた。しかし、私は私の居た世界で死んだ記憶がないのだ。それに、女神は酷く機嫌が悪かった。焦ってもいた。」
異世界転生の話に女神が出てくる。転生者ならではの話とも言えるが、この世界でどんなファンタジーが描かれているのかは分からない。嘘をついているかもしれない。一先ず知らないふりだ。
「転生……。にわかには信じられないな。それに、女神を引きずり堕としたいという願望と、どう関係するというんだ。」
「私に職業選択を迫ってきた。聖女と勇者だ。」
職業選択!仮にこれがこいつの体験でないとしても、少なくとも裏には本物の転生者がいそうだな。
「この世界には、あってはならない力を持った者がいると言っていた。この二つの職業はそいつに対するものだと言っていた。」
‟あってはならない力”。俺の事を言ってるのだろうか。
だとすると、俺はこいつの存在理由における、敵ってわけか。
「で、私はどうやら、『勇者』を複数回選択したらしい。それで『勇者』の1つ上の職業、『勇王』になったようだ。」
天界の職業選択システムバグってんのか!
しかし、俺の仮説は間違っていたのか。エクスの言う通り、職業は1つしか存在出来ないわけではなかったようだ。
「すると女神は叫びだした。理由はよく分からん。」
まさか、俺の時と同じ女神か。
俺を殺すために、送り込んできたのか。
急ぎでバランスを保つため、転生できる人間を殺した。
「あの女神がまともであれば、私は死ぬ事はなかった。女神の言う『あってはならない力を持った者』がいなければ、私はこの世界に来ること、つまり死ぬ必要はなかった。私はこいつらを必ず殺す。これが、私の目的だ。」
俺は、人1人の人生そのものを狂わせた。
俺にこう思わせるのも、こいつを転生させた理由か?
「ローグ、今度はお前の番だ。」
「あぁ。」
「ローグ。大丈夫?」
「大丈夫だよ、リア。」
「まず始めに、俺とリアは魔族だ。」
おそらく、俺とリアが人間になったのは、俺の何らかの能力によって人間へと種族が変わった。
さぁ。感じるんだ。自分の能力を!…………これだ!!
ー特殊能力:種族変換ー
ドムッ
「「「「「「!!」」」」」」」
「本当に魔族だったのか!!すると、魔王の息子だというのも本当なのか!?」
「勇王様!!魔王の力を持つ上に、魔族であるというのは!!」
「いや、待て。確かお前の父は、エクス・セルスフィアと言ったな。エクスは第三代魔王、人と魔族との諍いを無くした英雄だ。魔帝の作り出した魔王どもとは違う。」
「あぁ。もちろんだ。魔王には十代能力があるのを知ってるか?」
「存在だけは知っている。」
「俺はその十大能力全てを持っている。」
『魔剣』に関しては『聖剣』と一緒に消えちゃったし、全部は使えないけど。
「勇王様!!彼は危険です!!早急に……。」
「ローグ、今度はお前の持つ勇者ノ力について説明しろ。」
これを説明すれば、俺が「あってはならない力を持った者」だと思われるかもしれない。しかし、さっきから騒いでるこの兵士達、勇者のオーラがかなり強い。戦闘は避けたい。
「これに関してはお前も感じているだろうが、俺は初代勇者の力も全て持っている。」
「…………。」
おそらく俺は今、疑われている。
俺がその「あってはならない力を持った者」ではないのか、と。
仮に戦いになったとしたら、リアを守る事が出来るとは限らない。
ここは、嘘をつくしかない。
「俺の誕生は予言されていた。堕落した人類から魔族を守る救世主だ、と。しかし、今分かった。その堕落した人類とはすなわち、魔帝を生み出した者、紛い物の魔王ノ力に見せられ、堕落した者を断罪するためだと。つまり、魔王ノ力は魔族を統べ、堕落した人類を断裁するために、勇者ノ力は俺が多くの人間に対し、魔族の一人として有効な存在であると示し、希望となるためだった。」
「……。」
「俺は魔界が、魔神の消失により滅んでしまわないようにするため、人間界に渡ろうとした。しかし、俺の役目はそれだけではなかったようだ。人間と魔族の深い溝を払拭し、共存を目指す。これこそが、俺の真の役目だったようだ。」
「…………。」
「今1度名乗ろう。俺はローグ。古を生きた英雄、三代目魔王エクス・セルスフィアの息子にして、全ての魔王ノ力と真の勇者ノ力を受け継ぐ者、魔勇者ローグ・セルスフィアだ。俺は貴方方、魔王討伐隊に協力する事を誓う!!」
……いけるか?人が嘘をつく時は話が長くなるんだ!!
「運命は嫌いだ。しかし、お前の言いたい事は分かった。よかろう!私はお前とともに魔帝を滅ぼす!!」
「「「おお!!」」」
「一介の兵士の身ではあるが、感服したしましたぞ!!いやぁ!疑うような真似をしてすまなかった!!貴方の信念を聞く事が出来、一切の疑念は晴れました!!これから宜しくお願い致します!」
「クレアよ!!彼、ローグを召喚してくれた事、心から感謝する。それに、お前の召喚能力が世界の境界をも超える事が分かった。その能力に対する認識を改めよう!!」
「……。ん?何?私が何って?私がすごいって事!?」
「フィン。そんな悲しい顔するな。きっとお前も多分、恐らく、もしかしたら、凄い能力があるかもしれないんじゃないかと思ってる。この魔勇者ローグが保証する!」
「くそっ!惨めだと思うなら話しかけるなよ!!」
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「よし、食事も終えた事だ。今日はここで一夜を過ごす。では!」
「エクシズ、話がある。リアの事だ。こっちに来てくれ。」
「なんだ?」
木々の隙間から、焚火の明かりが漏れている。
ここら辺りでいいだろう。
「リアはまだ幼いんだ。いや、俺が少々早熟だったのかもしれないが。リアには親が必要だ。友達も必要だ。どこか安全な、人と関われる所に居てほしんだ。」
「……。」
「リアには特殊な力があるから、価値が全くないわけではないから……。1人の友達として、中々無責任な話だが……。」
「それに関しては既に考えてある。次の町で、護送車でも呼ぶ。行き先は決まってる。」
「……ありがとう。」
「ローグ、お前は、……。」
「……。」
「何でもない。」