00-03 能力バグってる
この魔界では、汚物は体内で自然消滅する事がほとんどであり、食事も頻繁には行わない。つまり排泄行為はほとんどないのある!
つまり!トイレに行きたいは通じない!ならばどうするか!簡単だ!
「あのぉ。手、洗ってきていいですか?」
「手?えぇ、良いですよ。こちらです。案内しますよ。」
やはり一人ではいかせてはくれないな。しかし、現状の進行方向はまっすぐ!父さんの行った方向もこっち!この人の目を盗んで、父さんの所に行く!俺の生死がかかってるんだ!結果だけ聞かされてさようならは嫌だ!
今だ!行くぞ!
「あっ、ローグ様!」
ー下級能力:身体強化ー
ー中級能力:隠密ー
なっ!体が軽い!そしてエネルギッシュな感じになってる!いける!
確か、あの茶色の扉を真っすぐ進んだ先にある部屋に行ったはず!
「……!……?……のか!?これは明らかに異常だ!魔王の十大能力を全て持っている!かの初代魔王様も7つであったというのに!」
どうやら話の一番いい所にありつけたようだ。
「しかし、この部分を見てみろ。初代勇者の力だ。上位魔族たる悪魔に勇者の力が備わったとなれば……。」
「しかし!お前の言う上位魔族である悪魔が最も欲する魔王の力も持っている。それも完全な状態で!これは逸材だ!」
この声は例のうるさい奴だな。
「勇者の力が必ず魔王の力を拡張するとは限らない!その逆もあり得る!」
残念、神父(?)さん。俺の職業は魔勇者。共存しているんだな!これが!
「俺の息子がどうなるかは俺の息子自身が決める。俺達が考える事ではない。ローグ!出てきなさい!オーラを隠せてないよ!」
バレてる!でもなんか、殺される流れではなさそうだ。
「訓練もなしに能力を併用するとは……。不安だ。エクス、お前も出来なかったのに!」
「失礼します。」
「エクス!息子が勇者の力持ち、それも強力とあらば、お前の権威失墜だけでは済まんぞ。」
「あぁ。久しぶりの隠し事だな。」
やっぱり!勇者って魔界だと世間体良くないんだな。
「ローグ、ごめんな。どうやら、お前も俺みたいに、強くなる以外の選択、消えちゃったな。」
「えっ?」
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朝だ。
チュンチュン
と、可愛らしい小鳥のさえずりの代わりに、長時間に渡る身体強化能力の使用と、純粋な訓練の成果が、心と体の泣き声として響く。
あれから5年。「食事」という名の修羅場を潜り抜け続けてきた俺であるが、さらなるドギツいイベントを知る事になった。
訓練である!
よくわかんない上級能力とかで魔力は切れないし、一般的なよくわかんない下級能力重ねまくって体力は尽きない。
だけどっ!!疲労は重なる!年齢二桁になったばっかりなのに!時間の概念ないかのようにひたすら訓練!!きっつい!そして!!
体が痛ぁい!!
「シャドーストーム!」
「違ぁう!違う違う違う!!そうじゃない!それじゃ空気に闇属性を含ませただけだ!闇属性を使う時は、眩い光を想像するんだ!闇を凝縮させるんじゃくて、光で照らして闇を目の前に追い詰めるイメージをするんだ。」
「父さん!!『シャドーストーム』は魔法じゃない!具体的な理論に基づく魔術だよ!!魔法の時みたいな抽象的な表現じゃあ出来るもんも出来ませんよ!」
「魔王の『闇属性適正』と『全闇属性魔術習得』持ってるだろ!!なんとかできねぇのか!!」
「『出来る』って事と『得意』って事は違うんだよ!!」
「ローグ!お前の駄々は聞き飽きた!俺の持つ魔王ノ能力『魔剣』と!お前の持つ勇者ノ能力『聖剣』で勝負だ!!勝ったほうを正義とする!!」
「やってやらぁ!!魔王!!勇者の名のもとに!成敗してくれるわ!」
「はぁ。あんたたち、馬鹿ねぇ。」
「「母さん!それはこの後の勝負で言って!」」
修練場に来た。
これでやっと父にこの怒りをぶつけられる!!
5年間、剣の練習と魔法の練習をしてきた。
剣術は繰り返しやればよかった。
魔法は超常的なものだから、大した理解は必要なかった。それに、魔王ノ能力で『闇属性適正』『全闇属性魔法習得』があったから、正直ぬるすぎた。
だけど!だけどっ!!俺、学ぶ才能がない!!
「魔王ノ能力!!『魔剣』!!」
ー固有能力:魔剣ー
これまでの自分自身に対する鬱憤!晴らさせてもらう!覚悟しろ!エクス!!
「勇者ノ能力!!『聖剣』!あれっ。そういえば『聖剣』と『魔剣』、性質同じだよな。どうやって使い分けるんだ?」
ー固有能力:聖剣ー
ー固有能力:魔剣ー
「あれっ!同時発動してるみたい!」
ー固有能力:奇跡ー
「はぁ!!ローグ!止めろ!!クソっ!」
ー特殊能力:能力動止ー
「ローグ!『止めたい』と考えろ!……いけるかっ!!」
ー固有能力併合ー
ー超越能力:超越剣……
「……!!」
「止っ、止まった。」
「ローグ!大丈夫か!……今のはなんだったんだ!」
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『魔剣』は闇属性魔力を魔剣を変換、または剣を魔剣に変質させる能力だ。
対して『聖剣』もまた、聖属性魔力を聖剣に変換、または剣を聖剣に変質させる能力だ。
しかし、それらが『勇者』と『魔王』の双方の資格を持った者のもとで同時に発動し、さらに勇者の固有能力『奇跡』によって、本来、聖属性とは対を成すはずの闇属性とが絡まり合った。
「にわかには信じられんな。」
「しかし、今この場ではっきりと能力名が表記されている以上、信じるしかないだろう!」
「超越能力:超越剣 …か。超越‟級”ではなく、‟超越”とはな…。いくら俺の息子とはいえ、度が過ぎるな。」
5年前の、神父(?)、テイラー、エクスの、お馴染みの3人である。
テイラーとは例のうるさい奴の名前である。どうやらエクスと同世代だそうだ。「数多の戦場を共にしてきた」なんて言っていた。
ちなみに、ここ魔界では、能力に序列があるようだ。
低級、中級、上級、特殊、固有、究極級、伝説級、超越級、だそうだ。
ひぃー。体がむず痒くなる命名だぁ。
ちなみに究極級より上の三つはあくまで、それに匹敵するというニュアンスで、究極能力、伝説能力、超越能力に分類される、三大元祖能力なるものがある。
そして、俺の得た能力が……、
「三大元祖能力とはねぇ。ローグがこんな大きな存在になるとは。」
あの女神様。今喚いてるのかなぁ。