00-02 転生場所バグってる?
「……!ぁぁ!」
俺はいつの間にか意識を得ていた。
おそらく、自我の芽生える時期になっていたのだろう。記憶に関しては生前のものを受け継いでいるようだ。
良かった。転移だと、あの満足できない能力、容姿で異世界ライフを送る所だった。
「おぉ、ローグ!起きたか!パパだぞ!ほらっ。笑って笑って!」
!!!!!!!!!!
あっ、あっ、あっ。頭に角が!こいつ頭に角がある!
まさかっ!魔族!魔族に転生したのか!俺っ!
黒い角や尾がある辺り、こいつは悪魔系だな。でもこういうのって結構忌み嫌われるタイプだよな……。
「あ……。」
眩い太陽、歪な木々、心が透き通るような灰色の大地、見惚れるような、ゴツゴツした地形。不毛だ。それに手前には、発展した町並み。それも歪んだ建物で構成されている!
ここは魔界だ!絶対魔界!そして俺の感性魔族になってる!!
もしかして、転生場所もバグってる?いやでも‟魔”勇者とか、魔王の加護とかって言ってたし……。
「あうあうああああああぁぁぁぁ!!」
ちぃくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!
イケメンの王道系主人公がよかったぁぁ!
「おぉ~!大丈夫大丈夫!大丈夫だよ!ローグ!大丈夫だよ!」
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あれから4年、俺は5歳になった。さすがに2、3歳の頃は体が言う事を聞かないし、思考もなんかぼやっとしている。今もまだ生前得た言葉とかを生かして、それらしい事を考えてるけど、ちょっと微妙だ。
そして俺は、ローグ・セルスフィアという名前らしい。
どうやら俺が最初に自我が芽生えたのは1歳頃で、それまでの間に言語の大半の理解能力はついてるみたいで、これには助かった。
ご都合主義と言えば確かにそうだが、さすがにここら辺はちょっと有利になっていてもいいだろう。
だけど、最近はちょこちょこ勉強的なのはあって、いわゆる「古の歴史」なんてのを習った。
例えばここは魔大陸とかじゃなくて正真正銘魔族の支配する「魔界」という所だそうだ。過去に1000年以上生きた魔王が二世代に渡って戦争をしていたが、今代の魔王が魔神に土下座して、この「魔界」を作って頂いたとか。
でも魔王と言えば、俺も職業として同じ「魔王」を持ってるし、それに対になる「勇者」も持ってる。そこら辺はどうなんだろう?
それに堕落した人類からどうたらこうたらと……。
もしかして、この世界の中心は魔界か?
「ローグ!こっちに来なさい!食事だよ!」
この「魔界」は魔族には甘すぎる環境のようで、食事はある種の娯楽として扱っているようだ。この家庭では1か月に一度だけ。
ちなみに彼は俺の父,エクス、セルスフィア。なんか名前勇者っぽいなと思った。
幸い体型は純粋な人型で、肌は紫がかってるが、許容範囲内だ。この豪邸に住むあたり、何か重職にでもついているのではと思っていたが、よく分からない。
「今いくぅー。」
食卓での座り方は、父エクスが俺の向かい側、母ライラが俺の隣。
ライラは灰色の肌でそれ以外はエクスと一緒だ。恐らく、同じ系統の魔族だ。ちなみに、胸が中々大きい。異世界ファンタジーのヒロインみたいに胸を半分丸出しにしていないのが幸いだ。
……そして……、目の前には禍々しい食事。
こっちはチーズのようなとろとろ感を持つくせにどす黒くくすんでいて、喰えば少なくとも喉が腐ってしまいそうだ!
あっちはなんか丸焼きみたいだけど、生き物の死に顔がありありと浮かんでる!あとこれもどす黒い!多分この世界、この色が極上の証拠なのかもしれない。
どれもこれも、息を止めて味を消しても溢れ出るオーラまでは消せない。
この世界に転生して数々の修羅場という名の「食事」を経験してきたが、慣れない!記憶と感覚の差は!
俺の視覚はこれはうまいと認識している!
俺の嗅覚はこれはうまいと認識している!
しかぁし!俺の記憶は生前の感性では!これは有害だと言っている!
ゲテモノ以上汚物以下っ!
「わぁ~。うまそぉ~!」
体が勝手に!体はこれを欲しがってる!
これは決して言葉にはできない!してはならない!一片たりとも、この物体の情報の処理を終えさせてはいけない!
こんなつぶらな瞳をした父と母の目の前では吐けない!
既に数十回と「食事」を切り抜けてきたが!このイベントそのものを切り抜ける方法は分からない!
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現状最大の修羅場、心と体の戦いである「食事」を終えた。
すると……。
「なぁ、ローグ。もう5歳だし、魔術とかやりたい?多分ローグお前、オーラ的に天才だから、すぐ出来るよ。」
おぉ~!遂に来た!魔法!いや、魔術って言ってたか?
これぞ異世界転生!いいね!それに俺天才だって?だろうな!だって「魔王」でも「勇者」でもあるし。
これで来るのか?俺の無双展開が!
「やる!やりたい!」
「じゃぁ、おいで。能力確認するから。」
「能力確認?レベルとか?ランクとか?」
えぇ~。そういう系?俺、具体的すぎる能力表記嫌なんですけど……。
「いやいや、そんなの計れないよ。秘められてる才能とか、今できる事とか、そんなもん。」
なるほど、それなら許容範囲内だ。
ギギギィー
それにしてもデカいなー。俺の家。未だに構造把握しきれてない。まるで魔王城。もしかしてほんとに魔王だったりして。
「お早う御座います。エクス様。今日も散歩ですか。」
「いや。今日は教会。息子の能力判定だよ。」
ひえー。視線がキツイ。
みんな体の色が暗いから怖いんだよな。それに結構獣人以上に獣っぽい姿の魔族もいるし。
ていうか、薄々思ってたけど多分エクスって有名人だな。歩くだけで声かけられるとか羨ましいな。でもまぁ、今の俺じゃぁ、話しかけられても、二度と話しかけられなくなるだけだからなぁ。
魔界の街はどても独特だ。細菌やらホコリがいわゆる「魔素」ってやつのせいで自然消滅してしまうせいか、掃除いらずで、常時清潔だ。
イメージとしてはパリの街並みが上方にグレた、といった感じだ。
建物は、全部五階建て以上で、一階分がすごく高いから、めちゃくちゃ都会感がある。もしくは俺が上流階級に位置しているからなのかもしれないが。
なんて見とれていると、教会らしき場所についた。どうやらこの世界は魔神と仲がいいみたいだから、魔神を崇拝してたりするのだろうか。宗教的習慣は感じなかったけどな。
「ローグ。ここ。さぁ、入って、入ったらお辞儀な。」
一応なんらかの敬意か礼儀なるものは払うらしい。
「よぉ。エクス!おっ。もしかして息子の判定か!お前の息子だからな!歴史に残りそうだな!ハハハハハハハハ!」
にぎやかな奴だ。デカくてねじ曲がった左右非対称の角が二本、左右から生えている。肌はエクスより濃い紫で、同じ位の悪魔だと思う。エクスやこいつと同じうようなのはあまり見ないから、もしかすると高位だったりするのだろうか。
それにこいつは何度か俺の家に来てる奴だ。
普段は私服だったから分からなかったが、協会にいる魔族と同じ服を着ているし、ここで働く奴なんだろう。
他に連れもいないし、父さんもこいつを名前で呼ばない癖に、やけに好意的で、どういう奴なのかよく分からん。
「さっさと準備してくれよ。さぁ、ローグ!ここに立って。」
生前でいう、地球儀に似たオブジェクトが天井からつるされていて、中にはうっすらと目玉みたいなのが見える。
もしかして!魔神のだったりする!?
『全てを見通す目。魔神眼!それを前にしては如何なる隠蔽もが無に帰す!』
とか!?かっけぇー!!
すると、俺の立っている台座が輝いた。といっても、魔族の好む輝きである、紫と黒の蛍光色である。
まずは中心の複雑な魔法陣の刻印に魔力が注がれ、ひたすらに広大な教会内部に魔法陣が拡大していく。
すごい!文字や絵より、己の視覚で見る事にこそ価値がある!あぁ、「己」だなんて。
「結果がでましt……!なっ!なんだこれは!エクス様!テイラー様!これを!」
「これは!」
「エクス!これは異常だぜ!」
なっ、なんだ!そんなにすげースキルとか持ってんの!?見たい!
「パパ?結果は?」
「大丈夫だ。ちょっと待っててね。息子を頼みます!」
なんだ?もしかして、歴史に残る感じ!?そいうことか!?
「ローグ様、こちらです。」
俺は教会の人に連れられた。
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あれから数十分、俺はおもちゃで遊んでいた。人形を使って、いわゆる「戦いごっこ」をしていた。
そう!「いた」!のだ!俺は物凄い事に気付いた!職業とは何をもって定義するのか?仮にゲーム的な感じだとすると、その職業に従事するにはそれに見合った能力が必要だ!その職業が専門的であればある程、その能力もより高度である必要がある!
そして!俺は先天的に職業を得た!つまり!俺には今!「魔王」と「勇者」の力がある!
まずい!まず過ぎる!勇者って、魔族の天敵じゃね!?
さっきからこころなしか、後ろに座る教会の人から圧を感じる!もしかして、俺死ぬ?俺は死ぬのか!?
なっ、なんとか、こいつの監視から離れ、父さん達の話し合いに参加しなければ!