01-13 竜の聖地はバグる
「あのー、もしかして、リュミエール様の奥様でいらっしゃいますか?」
あの天然なヴェールの事だ。間違いなく嘘はついていない、に違いないはずだ。
しかしこの洞窟、リュミエールのと違って明るい上に広いな。
これ、岩が光ってるな。どこにも影ができない。黒竜の反対の、白竜だったりするのか?
あっ。物凄いオーラ感じる。間違いなくいるな。
「すいませーん。僕に何かご不満があれば、何なりとお申し付け下さい!最善を尽くしますのでぇー!」
返事がない。もしかして、怒ってる?これから殺されるのか?
「って!あっ!すいません!!すいません!!ちょっと無礼でしたか!?無礼でしたか!!」
周囲の岩が、眩く光出した。眩しい、を通り越し、色が判断できない程に輝いている。
俺の認識だと、このレベルの光を出すには聖属性が必要になる気がする。
周囲の色や形みたいな概念を浄化する感じで。
でも、この光は純粋に光属性を極めた先にあるものだ。
〈貴様は、ローグというのか。〉
くそっ!何も見えない、何も感じない!
「はい!そうです!僕はローグ・セルスフィアです!魔勇者です!!」
せっかく頂いた職業だからな、久しぶりに名乗っとこう。
〈かの邪竜リュミエールを、どう見る?〉
邪竜か。黒竜とは言わないんだな。
「神々しくも、美しくもあります!!言うならば、この光よりも!!」
言っちまったー!!大丈夫か?激怒して殺されたりしないか!?
〈かの竜より、何を感じた?〉
感じる?どういう事だ。ていうか、さっきから質問攻めじゃないか。まず自分が誰だかはっきりさせてくれよ。
パアアン
〈我は白竜モーヴェ。かつて、聖竜として生まれ、光竜として世を渡った者だ。>
独特な音と共に場所が移り変わり、俺の視覚を奪っていた光は、再び五感の情報として認識されるようになった。
そして、目の前には瞳から肌、毛の一本に至るまで、一切の影を許さない輝く竜がいた。
リュミエールの時とは違い、俺の魔族の感性が、この存在に対し、殺意を覚えている。
〈貴様はあのリュミエールに会い、我が子をあの邪竜の元に導いた。〉
「すると、俺は死ぬって事でしょうか。」
〈貴様には、今代の真竜族を知る義務が生まれたという事だ。〉
8歳の少年に、家庭の事情の責任取れってか!!
確かに、スキャンダル好きの人族の心を持ってる者として、他人の事情に顔を突っ込むのは面白いかもしれない。しかし、倫理的にどうなんだ。
〈勘違いをするな、愚劣な魔族よ。我は何も言わんぞ。〉
えぇ。俺、そんな頭良くないし、器用でもないのに……。
「そんな事を言われましても……。」
〈ならば目的をやる。意気地のないテールズを叩け。怯えたルージュを起こせ。惨めなヴェールを救え。孤独なブルを開けろ。家族を浄化しろ。そして、お前はそろそろ、自分に向き合え。>
「いや!そんなアバウトに言われても!!」
すると、今度は全ての光が消えた。
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俺、ここ数日で何回気絶した?
勘弁してくれや、竜さんやぁ。
「ローグ!ローグ、起きたのね!!」
おぉ、相変わらず俺の横には天使がいるんだね。確かに、意味ある気絶なら、悪くないかもな。
「ローグ!!私達ね!!お父さんに会えたの!!途中でお母さんに邪魔されずに、ありがとう!!」
やべぇ。凄い嬉しいな。
「お父さんね、凄く黒かったの!!奥に物凄い魔力があって、でも全く外に漏れてないの!!」
「何か言ってた?」
「ううん。自分からは何も話さなかった。だけど、質問には何でも答えてくれた。」
あの白竜に何かされるのを心配したのかなぁ。でも、これでさらに、二千年ぐらい、孤独死するのが遅れるのかな。
「ありがとう。……うっ……ありがとう……。本当に……ありがとうね……。貴方が来てくれた……おかげで。……ずっと…会いたかったの…。うっ、うう、うわあああああ。」
俺は、俺より一回り大きいヴェールの余りある腕で抱きつかれた。
俺、何かしたっけ?なんで女性を泣かせた罪悪感が溢れるんだろう。本当に何もしてないのに。
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あの後、ヴェールは普段通りだった。俺の場合、訓練に遅れた事、白竜の言葉が頭に響き続けて、大した事ができなかったせいで、ボコボコにされた。
そんな当たり前になるであろう日常の殆どを終え、俺は一人、暗いリビングにいる。
「あぁ、寝れねぇ。」
白竜の曖昧なアドバイスの理解に苦しんでいる。ルージュに関しては、あの内気な態度に対して何かしてやるのは納得だが。しかし、テールズに意気地がないとは、一体どういう事だろうか?
裏に何かあるのかもしれないが、そんな素振りは全くない。もしかして、相当深刻な状況なのだろうか。
困った。
「……ローグ…さん。」
「……!ルージュ君!どうしたんだい、こんな時間に?」
月光がルージュを照らしている。あらゆるシチュエーションにおいて、世界がルージュに味方しているのは一目瞭然だ。
「今日は、その、ありがとう。僕、初めて普通に、父さんに会ったんだ。」
あのコソコソした感じで普通なのか。
「いや、僕、本当に何もしてないんだよ。ただ、ちょっと不幸が重なって、ヴェールさんの両親に会っただけで。」
「でも、ローグさんが来てなかったら、今、まだ、会えてなかったかもしれないから。」
「……さんは止めよう。僕等…、いや、俺達、同い年ぐらいだろ?」
内気なルージュが話しかけてくれたんだ。この機会を逃すわけにはいかない!!
「でも僕、103だよ?」
103?95歳差?
「まっ、まぁ、雰囲気は同じぐらいだろ!!」
どうやら、竜には精神保存の呪いと長寿によって、短命の種族との交流が無ければ、心の成長は酷く遅いらしい、と、後で聞いた。