01-12 竜の聖地のバグり始め
「いててて。」
「テールズさん!なんでこんなに叩いたんですか!8歳ですよ!それも人族の!成長に影響が出ちゃいます!」
ー上級能力:超回復ー
「全くね。」
ー上級能力:超回復ー
「いやいや、めちゃくちゃ素晴らしい治癒魔術をお持ちじゃないですか?」
「でも!痛い事には変わりないでしょ!?」
「あぁ。やばい、痛ぇ……ブルさん、ありがt――」
「フィン、何故私の名前を呼んだの?」
ー下級能力:打撃ー
バコンッ
「ぐはっっつ!!!…ぐっ、テールズ師匠のより効いたかも……。」
「お姉ちゃん!!『全くね』、なんて同情してて、何よそれ!」
フィン、今のお前の痛みが俺を幸せにしている事を忘れるな。
「じゃあ俺は、ルージュに会ってくるから。訓練はここで終わりだ。」
言われなくても、もう無理だよ。
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その後、テールズ師匠の早とちりによって、疎かになっていた家紹介をしてもらった。
1階の手前にはリビング、奥には洗面所やトイレ、風呂場があり、2階、3階は各々の部屋となっている。
そして…、
「はい!今日は素敵なステーキです。皆さん、訓練お疲れ様でしたぁ!」
ヴェールさんが食事を作ってくれた。そいういえば、夕食抜けてね?
「おおおおお!!」
てか、食事は温かいけど、喋りは寒いな。あっ、こんな感じの台詞、聞いた事があるぞ。
「ちょっとヴェール、寒いじゃない!つまんない事言わないで。」
「え?どういう事?……あっ!もしかして、ステーキ駄目だった!?」
おぉ!天然来た!!
「違うわよ。」
「そう?……じゃあ、じゃあ頂きます!!」
「頂きます!!」
あれ、皆元気ないな。
もしかして、皆ヴェールさんの食事好きじゃないのか?
フィンに関しては初めてなのに……。
あっ。分かったぞ。
正直、この野菜が何なのか、この肉が何の肉なのか、このタレは一体どのように作られているか、この味はどうのようにして出来ているのかも分からないんだ。
というか、見た目も悪い、味も良くない、衛生的にどうなのかも微妙だ。
だけど、俺の人としての欲求と、俺の魔族としての欲求の妥協点が、正にこの食事にあるんだ!
人と魔族の混血である‟ハーフ”ならこんな気持ちにはなれないだろう。
何せ俺は、人と魔族の混沌体である、‟トゥワイス”なんだから!!
「……うっ。ローグ、美味しそうに食うんだな……。」
人間しか経験した事のないフィンと、いかにも味馬鹿な竜にしか変身できないテールズ。
そりゃぁ、この食事の素晴らしさが分からないだろう。
「なんだよ、まるで俺が不味い物を食わされてるかのような物言いだな、フィン。」
「なっ!そんな事言ってねぇだろ!!」
〈そんな事より、これだけは食うな。食おうとして殺されるか、喰わずに死ぬか選べ。〉
食事の様子を見かねたのか、久しく顔を見せていなかった氷の精霊フィンリルが出てきた。
「何だよ!!竜のオーラはきついから、って、ずっと黙ってたくせに!!こういう所で誤解を招く事すんなよ!!」
〈誤解だと!!貴様の五感は、例の魔王の時に次ぐレベルでハラハラしているだろう!!>
感覚共有されてるのか。かわいそうだな。
「もしかして、口に合いませんか?」
あっ!天使の笑みが消えた!!
「おいフィン、フェンリル!そしてついでに、口元にスプーンを近づけたまま静止してるテールズ・デゥポン!!謝罪しろ!ヴェール様に!!」
「なっ、なあヴェール……。料理、これからは、皆でやろうな。人も増えたんだから…。」
「デゥ・ポォン!!てめぇ、身分が上がり過ぎて、食の有難み忘れてんじゃねぇのか!!お前は特に謝罪だ!!」
「まっ、まあ落ち着て下さい。私も頑張りますから!」
駄目なんです、ヴェールさん、貴方の怠慢は皆を幸せにする、しかし、貴方の努力は僕の楽しみを奪ってしまう!
「うるっさいわよ!!あんた達!!」
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「ご馳走様でした!!」
「「「………ごちそうさまでした……。」」」
素晴らしい(地獄の)食事の後、各々は用意された自分の部屋に戻った。
素晴らしい時間だったな。
どうやらそれぞれの部屋には本があるそうだから、読んでみようかな。
そういえば、この人間界に来て碌に文字を見てないな。
勇者伝説ー英雄の悩みー
第一魔王戦争の謎と矛盾
失われた文明ヴュラミムの興亡
魔王のない世界では
中々良さそうなのがあるな。
あれ?待てよ。
あまりに今更過ぎるけど、何で本の題名が読めるんだ?
それに、何で言葉が通じてんだ!
違和感無さすぎて考えてなかった!これって常識なのか!?
コンコンッ
「ローグ君?入っていい?」
!!
「は………はい。どうぞ。」
ガチャッ
「ローグ君。」
「はい………。」
なっ、なんだよ、どうしちゃったんだ、ヴェールさん!!
「もしかして、お父さんに会った?」
!
「………。」
「えっ?……いや、ごめんなさい。……本読むの、邪魔しちゃったね………。」
やっぱり、邪竜に会ったのはヴェールさんの仕業か。
「『お父さん』って邪竜、じゃなくて、黒竜リュミエール様の事ですか!?」
「黒竜!!会えたのね!!会えたのね!!お父さん、なんて言ってた!!なんて言ってたの!!」
凄い食いつきだ。やっぱり、親に会いたいのは、種族関係ないか。
「ずっと1人だったみたいで、皆さんに会いたそうな感じでしたよ。」
「そうなの!?それは本当なの!!?」
「はい、本当です。」
「そうよね、やっぱりそうよね!!会いたいに決まってるわ!!………はっ!」
あら、赤面してらっしゃる。美女の前では、恥も恥にならないなぁ。
「ごめんなさい…。つい興奮しちゃって!でも、きっとお父さんも会いたいよね!会いたいはずだよね!!」
「えぇ、それはもちろんそうですけど……確か『妻が血眼になってこっちを見てる』みたいな事いってたので……。」
「それでも!!会いに行く!!」
大丈夫かなぁ。
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翌日。あからさまに健康に悪そうな食事を、フィンやテールズ師匠の苦悶する様子を背景に、楽しく、美味しく頬張った。
しばらくして、テールズ師匠と訓練するため、例の広場に向かっていた。
ちなみに、家を出る前、
「私達が、皆さんの行きたい所に行けるようにしておいたので、適当に歩いてて大丈夫ですよ!」
あの邪竜リュミエールと同じ事を言っていた。
どうやらここ、「竜の聖地」では、破壊防止だけでなく、高度な認識阻害や認識誘導がかかっているらしく、周辺の竜の意志がないと、どこにも行けないそうだ。
いつか、将来立てるかもしれない秘密基地とかに使えるよう、教えてもらいたいな。
「なぁ、フィン。やっぱり便利だよなぁ。竜の聖地の仕組みって。」
俺は、リュミエールのいた岩山とはまた違った所に向かって、話していた。
「あのぉ、すいません!僕、フラグ建築系主人公になった覚えがないんですがぁー!」
世界は言っている。この洞窟に入れ、と。