01-08 やっぱり勇者の力バグってる
約一週間、小さな村への滞在、野宿を繰り返し、アルスファクト帝国第三都市、べアリオンに着いた。数人の兵士達と一旦別れた後、クレンを近くの診療所に預け、例の勇者に会う予定だ。
しかし……、遠目で薄々気付いてはいたのだが、相当な発展ぶりだ。
というかこの町、異世界っぽくない!
「ローグ、そんなに見上げるの止めろよ。いくら8歳でもヤバイ目で見られるのは避けられないぜ。」
「なぁフィン。異世界ファンタジーの時代設定って、中世だよな?」
「は?」
「ねぇ!なんで高層ビルが建ってるの!!」
おかしい!ここはおかしい!!正直おかしいと思ってた。遠くから既にこのビルが見えたんだ!しかも素直に真っすぐ立つんじゃなくて、一軒家の建物が後から増設されて、めちゃくちゃ歪んでる!
高さ的にはニューヨークのビルに匹敵するんじゃないのか!?
「この町、安全なのか!?」
「おいおいローグ、帝国の技術を舐めんなよ?」
歪んだビルとビルの間には細い道が何本も掛けらてるんだぞ!
それに、道の上には太い鉄骨があって、翼の生えたトナカイみたいなのが人を乗せた箱を引っ張ってる。
まるで空飛ぶ電車じゃないか!
この世界に駅なんてシステムがあるとは!!
明らかに前世の世界の建築技術を上回ってるぞ、これ!!!
「やめろよローグ!お前、今めちゃくちゃ田舎者っぽいぞ?」
「おっ、お前はこれを見て驚かないのか!!ずっと田舎みたいな村に居たんじゃないのか!?」
「一応俺も、路頭に迷う前は、こういう都会で生きてきたんだ。でも、デカい草原に憧れて、出ちまったけどな。」
こいつシティボーイか!!こう見ると、魔界の町って相当遅れてるんじゃないか!?
後、こういうドでかい建造物見て、いかにも慣れてる感出すのって、転生者の特権だろ!!そうだ、エクシズは!?
「ローグ、私も最初は驚いた。心配するな。」
哀れまれてる!!
くっ、後ろで兵士達も笑ってるし!!
「それより、早く会いに行こう。あいつは忙しいからな、もしかするとどこかに行ってしまうかもしれん。」
___________________________________
「恐らくこのビルだな。」
バカなっ!!自動ドアだとっ!!
「あっ、勇王様!!『竜の勇者』様にお会いになられるのでしたら、こちらのエレベーターをお使い下さい。」
「すげぇ、勇王様、ホントに『竜の勇者』と知り合いなのか!」
驚くとこちげぇ!!ねぇ、さっきエレベーターって言った?エレベーターって言ったの!?
おかしい!着く前までに居た村とかだと、全然こんな技術なかったのに!
待て、そいう言えば確か、普通の魔王と普通の勇者との戦いって、2000年近く行われたわけだよな。それに魔帝が召喚されたのが500年前だから、既に2500年以上の歴史があるのか、この人類文明!?
だったらこんな技術があってもおかしくないのか?
ガタンッ
「着いたな、最上階だ。」
ガチャッ
「おっ、勇王様!さっき勇王様が来るって、フロントの人から聞いて、急いで片づけたんです。」
すごい。物凄い勇者のオーラだ。初代勇者の純潔なオーラと違って、色々な力が混ざっている。
「ところで、そこの魔族の少年から禍々しいものを感じるですけど。」
見破られた!?
「まずは中に入れろ。話はそれからだ。」
どうやらこの部屋は円のような形になっていて、中心にエレベーターがあるようだ。半分がリビングで、もう半分は細々とした部屋があるのだろうか?
まるでタワマンの最上階だ!!町と未開発の自然との境界線が美しい。未来都市がそのまま異世界転移したみたいだ。
「例の件ですか?」
「あぁ。彼はローグという。召喚の勇者クレンが魔界から召喚してしまったそうだ。どうやら魔王の十大能力全てに、初代勇者の力を持っている。」
「それじゃあ!……いや。全て理解しました。」
ん?なんか空気重いぞ?俺、そんなヤバイのか?
「この青年フィンと、この少年ローグを鍛えてやって欲しい。こいつらは才能を持て余してる。」
「なるほど。それは大変ですね。……あっ、いや。了解しました。精霊使いと選ばれすぎた者、面白そうです。しっかり鍛えましょう!頑張ろうな!!」
<ほう!!我の隠蔽を見破るとは!褒めてやってもいいぞ!!>
「フェンリル!出てくんな!寒いんだよ!!」
「あの、お名前を伺っても?」
「敬語はいい!!お前のほうが強くなりそうだからな!!俺の名前はテールズ、テールズ・デゥポンだ。」
「「よっ、宜しくお願いします!!」」
デゥポン、俺の滑舌で言えるかな?
「よし、じゃあ屋上に行こう!この町で訓練するのはまずいからな。勇王様はどうします?」
「後で私の部下と合流する。しばらくはここで寛がせてもらう。」
「了解です。」
了解です!?もしかして、結構長い付き合いなのか?そういえば、エクシズの年齢聞いてなかったな。一体いくつなんだろう?
「さぁ、行くぞ未熟者共!」
「「はい!!」
___________________________________
風が強い!それに高い!屋上まで使えるなんて、すげぇいいとこ住んでるな、こいつ。
「じゃあ、移動するか。おいで!!」
ー伝説能力:竜装・竜ー
「「!!??」」
俺はそれを見た瞬間、息を飲んだ。
黒髪が、肌が、発光して橙色へと染まってゆく。
口元や鼻、手足の指が動物の爪の如く鋭利になり、巨大化した。それに伴って、肌はゴツゴツした鱗のようになって行った。
しばらく巨大化を続け、服が破けるかと思えば、服ごと鱗のような皮膚へと変わっていく。
すると、元元筋肉質だった太ももはより肥大化し、腕は小さくなった。
やがて、恐竜を思わせる体型へと変化し、突き出した臀部からは長い尾が生えた。
そして、左右の背中から突起物が顔を出した。それは瞬く間に広がり、膜を伸ばしていった。
そう。まさしく竜である!!元々一人の人間には広すぎる屋上は、このためにあったのか!!
竜の四足歩行の姿勢でも、裕に4メートルは超えている!!
「「!!!」」
「なっ、ななななな、何だこれ!!竜!!竜に変身した!!すげええええ!!」
最近のいかにも威厳があるかのような、見栄を張った喋り方を忘れていた。
驚きで言葉をなくすとは、この事だ!!
<なんだ?そんなに凄いか?あのお喋りな勇王様の事だ。てっきり喋っていたのかと思ったが……。そうか。凄いか!!>
「凄いっす!!テールズ師匠!!いっ一体どうやったんすか!!」
フィン、いい事聞いてくれるじゃねぇか。
<俺は竜装騎士だからな。竜の装備ならある程度作れるんだが、勇者になって魔術の才能にも恵まれてな。試しに装備に対して治癒魔法をかけてみたら、こんな感じになったんだ。>
これがっ、これがこの世界の誇る天才か!!
「すっ、凄いです!!テールズ師匠!!」
師匠の言葉の響きは好きじゃないが、この人を師匠と呼ぶのは大歓迎だ!!
<そうか、じゃあ、喰うぞ。>
「「はっ??」」
___________________________________
『うわあああああああああ』
「ふっ。テールズめ、やはり喰ったか。ローグ、フィンよ、頑張れ。私も最初、お前達と同じ経験をしたものだ。」
コトッ
「……。熱いな。このコーヒー。」