01-07フィンがバグった
魔王ギアレスが謎の能力により、巨大な魔剣を使用してから30分。
下級、中級、上級問わず、瞬く間に勇者達はやられた。
後退に後退を重ね、俺が超越剣による反撃、防御を行っている内に、魔王城の半分は既に消えた。
各階の勇者を総動員し、戦っているが、状況は芳しくない。
「ローグ!!魔力の残りは!!」
「もうカスカスだ!!」
変質させる元となる剣は既に消えた。それにより、剣そのものを魔力で作る形となっている。
更には、常に最大出力で剣技を放っている事もあり、『超魔力』では誤魔化し切れない程に魔力が減っている。持って後10分というところだ。
「魔法師、魔術師は二手に分かれ、左翼、右翼を攻撃!!地面に叩き落せ!!」
あらゆる属性の攻撃を浴びせるも、巨大な魔剣がその殆どの効果を削ぎ落す。
が、とはいえ相手も魔王の力を持っただけの人間。全身に擦り傷、打撲を負い、手足は震えている。服装によって、辛うじて保たれていた威厳はどこにもない。
「ははははははははっっ!!体に限界が来たみたいだあああああ!!!!じゃああああ!これでどうだああああ!!!」
ー特殊能力:狂乱ー
ー上級能力:超身体能力ー
ー上級能力:?身体能力ー
ー上級?力:超身体能力ー
ー?級能力: 身体能力ー
ー??能力:超身体 力ー
ー能力一時進化ー
ー??能力:身体能力無視ー
「更に動きが早くっ!!?」
超越剣により主攻撃を散らし、剣士が攻撃、タンカー十数人で後方を守る。魔術師、魔法師は複数属性による最大火力攻撃を繰り返す。治癒術師と支援担当は永遠と前線部隊を治癒、または援護する。残りの人間は怪我人を魔王城より連れ出すか、後退の際に邪魔となる魔物、障害物の撤去を行う。
事実として、俺を除いた多くの人間は、大した力を持っていなかった。
俺の超越剣を失えば、剣士、タンカー、術師の順に崩壊していく。
畜生!!何が序列最下位だ!!
ー究極級能力:万象凍結ー
ー究極級能力:万物凍結ー
「来たぜ!!勇王様!!ローグ!!」
「魔王が……。止まった!?」
フィンの登場とともに、魔王は止まった。それも空中で。まるで時間が止まったかのようだ。
「フィン!!どうやって!?」
「ローグ!とどめはお前にやる!!やれ!!」
「よし!!最後の一撃!!超越剣!!」
ー超越能力:超越剣ー
身体強化能力は、断続的に魔力が流れる事によって起きる。
全てが止まった魔王には、一切の身体強化はかかっていない。
そして、超越剣が魔王の体に直に辺り、跡形もなく消えた。
「「「「「「勝ったぞぉおお!!!」」」」」」
俺を含めた、その場にいる勇者だけでなく、魔王城付近にいた勇者もまた、歓声を上げているのが聞こえた。
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序列25位へと上がった魔王ギアレスを倒し、残りの魔王は24人となった。
しかし、現実はそう単純ではない。
体の一部を失い、勇者として生きるのを諦めざる負えなくなった者が23人、死者が15人。
本来なら歓声に包まれながら通るであろう町の道を、町人の冷たい目線に包まれ、後ろには沢山の共に戦った者の死体を積み、通ったのであった。
魔王城が失われ、町の重要な財源が絶たれてのである。
「ローグ、リアは予定通り、ベクトリア王国の学校に通わせられる事になった。別れの挨拶でもしとけ。」
「ローグ。もう会えないの?」
「いや、そんな事ないよ。すぐに会える。今度はきっと、父さんや母さんと一緒にね。」
涙目だ。これ以上リアに、涙を我慢させたくはない。そのためにも。
「リアちゃん!また会おうね!!」
「おい、クレン!動かない方がいいだろ!」
クレンは馬車の中、腹に沢山の包帯を巻かれ、仰向けの状態になっていた。
その隣にはフィンが。
「何よフィン、私を見て?あっ!何も出来なかった私を責める気!!やめてよ!こんな怪我したんだから!!」
どうやらクレンの呼び出した精霊をフィンが使役する事になり、身の丈に合わない魔力量と能力を得たとか。
そういやこいつら、そこそこ長い付き合いだったな。
こいつら、もしかして脈ありか?
質問は控えてやろう。
〈ふん!小僧、お前は情けない奴だな!〉
「黙れよ!!使役された分際で!さっさと俺の体の中に入れ!!」
が、隣にいるもの凄いオーラを放った存在に対し、質問を控えるのは中々苦労する。
〈はぁ。そこのローグとやらに使役されれば、我も喜ぶだろうに……。〉
「くっ!言いたい放題言いやがって!!」
「じゃあねローグ。それと、クレンさん、フィンさんに……。エクシズさん?」
「おう!……あの件、ありがとな!」
「じゃあね!」
「あぁ。達者でな。」
「リア。学校でも頑張れよ!!」
「うん!勇者さんたちも、ばいばあい!!」
「……!!さようなら!!」
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イルーナの町を出てから、勇王率いる俺達の馬車と、リアや、その他の勇者達の馬車とは別れた。
「なぁエクシズ。そいういや、ベクトリア王国って言ってたけど、お前の苗字、ベクトリアじゃなかったっけ?」
「ん?そうだが?私はベクトリア王国国王の娘だ。あの過保護な親が気に食わんかったから、勝手に出て行ったがな。」
「え!?エクシズってそんなに偉い人間だったのか!?」
「ローグ!!お前知らなかったのかよ!!こんな所でクレンの無知を超えてくるのか!!」
「おいフィン!今私を侮辱したのか!?」
勇者の王にしてベクトリア王国王家、とんだ肩書だ。俺はそんな人間をお前呼ばわりで……。
「お前は魔王の息子だろう?それに、別の種族にまで敬意を払えなどとは言わ。そのままで結構。」
くっ。そいういや俺、人間界に来て1ヶ月も経ってないな!なっ、なら仕方ないか!
「所で、今どこに向かってるんだ?」
「ここ、アルスファクト帝国には『竜の勇者』がいる。現状、彼が最強の勇者だ。お前達にはそこで特訓してもらう。それに、私はやはり弱すぎる。」
どうやら勇王ってのは、他者を勇者にする力があっても自分はなれないそうだからな。無力感を感じているのだろうか。これほど威厳に満ち溢れた人間にも、悩みはあるんだな。
「「『竜の勇者』様に会えるんですか!!」」
おっ。凄い食いつき。
「なぁ、ローグ!!お前、『竜の勇者』がどんだけ凄いか知ってるか!」
「いや、知る訳ないだろ。」
「『竜の勇者』ってのはな!あの上位職業の竜装騎士だったんだ!それに剣王の称号も持ってて、冒険者を目指すなら誰もが憧れる存在なんだぜ!!」
なんか、また作品になってそうな人生送ってる奴来たな。
ていうか、「召喚の勇者」とか、「氷の勇者」とか、さらには「竜の勇者」なんてのも出てきちゃって。
職業:勇者 、めちゃくちゃになってんな。
でも、俺結構好きだな。