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[R-15:本編完結済]ステ=イション祟紡侖(すいぼうろん)~異界の住民が地球に転移してから200年、人間は希少生物になってました~  作者: しるべ雅キ
外伝いろいろ

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【月下氷人の後日談】ハクバで永遠(とわ)に

例えこの幸せが絶望だとしても……


復讐に敗れ囚われの身となった乾側是貫(ひしきこれみち)は、

待ち受ける運命に折り合いを付ける覚悟を模索していた。


本編の第63話【追憶】~第65話【月下氷人】後編の後日談として

ノベルアッププラスの『馬』投稿フェアに書いた作品を再編集しました。

「拝啓 寒冷の侯……やっぱりガラじゃないねぇ~」

 机の前で便箋(びんせん)にペンを走らせていたオレは、あっさり断念して畳に寝転がる。


 見上げた天井には、飽きるほど何度も数えたシミが広がっている。


 今いる六畳一間の和室がこのオレ、乾側(ひしき)是貫(これみち)の牢獄にして(つい)棲家(すみか)


 そんなつまらない感傷に浸っていると、(ふすま)の向こうにある扉が開く音が聞こえて来た。


「旦那様。そろそろお時間ですが、よろしいでしょうか?」

「ああ、どうぞ」

 扉を開けた妻の柔らかな声が(ふすま)越しに聞こえ、オレは寝転がったまま声を返す。


「お手紙ですか? どちらへお出しに?」

「ん? コマリの親友の亭主にな……」

 (ふすま)を開けた妻が机に近付き、起き上ったオレは言葉を濁しながら頭を掻いた。


 妻のコマリは馬のような耳と尻尾、そして艶やかな黒髪に埋もれてなお存在感の強い2本の角を【証】として持っているタイプバイコーンのジゅう人。


 いわゆる人外娘だが、【証】を除いた見た目も仕草も人間の女性と変わらない。


 馴れ初めに初夜、翌日から段階的に紹介された()()に至るまで全てが最悪以外の表現は浮かばないが、逃げ場が無い以上は折り合いをつけるしかない。


「でしたら(わたし)が代筆いたしましょうか?」

「それじゃ意味無いんだよ、オレの言葉で書かないと」

「まあ、差し出がましい事をしてしまいましたね」

「すまないな、オレの我儘(わがまま)に付き合わせちまって」

「どうかお気になさらず。殿方のこだわりは可愛らしいと、(わたし)()()も申しておりましたから」

 裏表のない笑みを返したコマリが当然のように世話を焼き、オレは必死に最後の砦を守った。


 嬉しそうな含み笑いを浮かべたコマリを見れば、砦の死守を果たした代償が高くなったのは言うまでも無いだろう。


「こういうところは(かな)わないね~。そろそろ見回りの時間か」

「はい、参りましょうか」

 逃げられない運命から目を背けながら携帯端末で時間を確認したオレは、静かに頷きを返すコマリの肩を抱いて部屋を出た。



「よしよし、今日もよろしくな~」

『ブルルッ』

 部屋のある宿舎から出て隣の厩舎に入ったオレは、白馬の首を優しく撫でる。


 今のオレはハクバ居住区にある第四試験牧場、【大異変】より前にあったという酪農の再生を目的とした施設に住んでいる。


 牧場自体は機械化と完全覚醒したジゅう人女性の働きで事足り、男だけど人間のオレに出来る事は彼女達を労うだけ。


「今日も旦那様が手綱(たづな)を握りますか?」

「ああ、少しでも慣れておきたいからな」

 厩舎から出した白馬の(あぶみ)に足を掛けて(くら)へと(またが)ったオレは、そっと差し出して来たコマリの手を取って後ろに乗せた。


 乗馬の再現試験を兼ねた夕暮れ時の見回りは、唯一オレが牧場と関われる貴重な時間となった。


 計測アプリを起動した携帯端末をポケットへと戻したオレは手綱(たづな)を緩め、白馬はゆっくりと歩き始めた。



「よーし、よしよし……いい調子だ」

「だいぶ、お上手になりましたね」

「もう、ひと月にもなるからな」

 手綱(たづな)を握ったオレは白馬をひたすら歩かせ続ける。


 しばらくしたら少し速度を上げる、映画やドラマのように走らせるのは見回りの最後にコマリが担当する。


「初めてお逢いしてから、もうそんなにも経つのですか」

「オレが真実を……ジゅう人を初めて知った日でもあるな」

「初めてをいただけない(わたし)が、初めてをいただけたなんて」

 後ろから手を添えて来たコマリは、そのままオレの背中に体重を預けながら抱き着いて来た。


 防寒着越しにコマリの柔らかな感触が、耳元には温かな息遣いが伝わって来る。


 ロジネル居住区で浮名を流して来たオレでさえ、胸の奥を締め付ける少年時代の郷愁のような感覚に襲われる。


 人間の女が歯牙(しが)にも掛けない男がこんな具合で迫られたら、抵抗なんて出来ないだろう。


「タイプバイコーンの本能だったか? 難儀なものだね~」

「そういえば、地球(こちら)のバイコーンは2本の角を持った馬だそうですね」

「ああ、あのいけ好かないドクターがそんな事を言ってたな。あくまで空想の産物らしいけど」

「もし(わたし)が馬の姿なら、旦那様を背中に乗せられましたのに」

「そいつは面白い発想だね」

 渦巻く感情に飲み込まれそうになったオレは、片手でコマリの角を軽く撫でる。


 伝承やら創作に出て来る魔物に近い特徴を持つジゅう人の不思議なところだが、コマリの角に触れていると気分が落ち着いて深く考えるのをやめてしまう。


黄昏(たそがれ)逢魔(おうま)が時……今だけは旦那様を乗せる馬になれそうな気がします」

「なかなか魅力的な提案だけど、オレは今の方がいいな」

「時々、今のこの時間がいつまでも続けば……なんて思う時もあるのです」

「色々あったけど、コマリには救われてる。どうせなら、いい夢も見せてくれよ」

「はい、ハクバ(ここ)永遠(とわ)の幸せを築きましょう」

 無邪気さと計算高さの入り混じった笑顔を返すコマリから目を逸らしたオレは、慌てて前を向いて手綱(たづな)を握り直す。


 ジゅう人としての生を受けなければ水子にもなれない魂、そんなコマリにどんな感情で向き合えばいいのかなんて今は分からない。


 それでも全人類の敵になってしまったオレにとって、コマリはどこまでも心強い味方だ。


 何となく明るい未来が見えたオレは、手綱(たづな)を軽く振って白馬の歩みを速めた。

お読みいただきありがとうございました。


ジゅう人と結ばれた人間の顛末を書きたいと思っていたところに、

このイベントと巡り合えました。


具体的な描写は避けましたが馴れ初め以降に何があったかは、

本編65話の月下氷人にいくつかヒントがありますので色々と妄想してください。

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