【スピンオフ】人外少女の転校生
時は転異歴20年。次元の壁が崩壊した人類史上未曽有の大災害
【大異変】を歴史の教科書でしか知らない高校生の朱神光は、
異世界から来た新人類が転校して来る日を密かに心待ちにしていた……
祟紡侖を全く別の視点から描いた
ノベルアッププラスの中高生新聞SSコンに参加した作品を再編集しました。
強化ガラス製の天井越しに差して来た柔らかな日の光が部屋の窓まで降り注ぐ。
転異歴20年のある春の朝、何かが始まる予感を胸に俺は高校に向かった。
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(結局は何も起きないんだけどさ)
何事も無く教室に入った俺は、窓際の一番後ろの席に座って今朝の高揚感を鼻で笑った。
俺の名は朱神光、ステ=イション第二魔法高校の平凡な高校生。
勉強もスポーツも家事も魔法もひと通り何でもこなせるけど、得意なものも特に無いから高校生活をのんびり送る予定。
そんなとりとめのない事を考えていると中学からの悪友、自称分木実の分木実が2つ前の席にいたから声を掛けた。
「おはよう、分木」
「光殿、拙者の事は分木実で結構でござるぞ」
「またかよ。魔法の才能があるのに、もったいないだろ」
「これも祟紡侖対策でござる」
声に反応して俺の席にまで来た分木実は、【大異変】が起きる以前にいたというオタクの口調を真似て持論を展開した。
分木実がこうなったのは、中二の頃にスイボーロンって人口を人為的に調整する陰謀論に嵌ってからだ。
……いや、前からこうだった。
それでも魔法の腕は確かで、この間も不良を返り討ちにしたらしい。
真面目な人間が強くなり行く時代、不良なんて遠からず漫画の中だけに存在するファンタジーになるだろう。
「おっはよーっ! ひかるー」
「ぐぇ!?」
消えゆく歴史に目を閉じた直後、分木実が女子生徒に突き飛ばされて退場した。
彼女の名は九紗連円、近所に住む典型的な幼馴染み。
「おい円、もう少し配慮ってもんをな」
「え~? 何の事?」
「何でも無い」
「そっか~、ひかるは今日もイケメンだね~」
俺の苦言を軽く流した彼女は、そのまま大きく丸い瞳で見詰めて来た。
女子の世界にはスパダリとイケメンしかいないと聞くし、分木実が目に入る希少生物はいないのかもしれない。
「今日だよね? ジゅう人が転校して来るの」
「【大異変】の時に異世界から来た美男美女だな」
今朝の特別な予感の正体、それが異世界から来た新人類だ。
【大異変】から50年弱、全国民救済宣言から20年だから正確には第二か第三世代になる。
ちなみに【大異変】というのは人類史上未曾有の大災害、生まれる前の話だから教科書でしか知らない。
当たり前の光景になっている居住区の頑丈な外壁やインフラを支える工場区画、そして誰もが使える魔法も50年前には無かったそうだ。
「可愛い幼馴染みの円ちゃんがいるのに、何考えてたのかな~?」
「自分で言うな……別にいいだろ?」
「聞いた話だと、ジゅう人って肉食系の女子ばかりなんだって」
「向こうの風習なんだし、仕方ないだろ」
「そう言う中途半端な理解が一番危ないんだから」
「俺が狙われると? ありえないだろ」
「も~、真面目に心配してんのに」
「先生が来たぜ、早く席に着けよ」
「しゃーない、また後でね~」
思考の海から現実に戻った俺は、幼馴染みとギリギリまで雑談していた。
こんな平和な日常が続けばいいのだけどな。
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「全員席に着いたな~。前にも言ったが、今日はジゅう人が転校して来る日だ」
「久野せんせー、何人ぐらい来るんですかー?」
「うちのクラスは1人だ」
「えー!」「何でー?」
「静かにしろー、色々事情があんだよー」
教室に入るなり質問攻めに遭った担任の久野先生は、いつもの調子で返り討ちにする。
独身で美人だけど苦労も多いせいか少し口が悪い、教師というのも大変だ。
「先生、そろそろよろしいでしょうか?」
「おう、まず自己紹介してくれ」
「はい。凍鴉楼に住むタイプワーウルフの誉城アイです、よろしくお願いします」
「凍鴉楼だって!?」「マジかよ!?」
柔らかな物腰で教室へと入って来た狼のような耳と尻尾を持った美少女が丁寧なお辞儀と共に自己紹介すると、クラスのテンションは最高潮に達した。
まあ、居住区の奥にあるという噂の楼閣が実在したのだから無理もない。
「静かにしろ~。こんな連中だが、仲良くやってくれよ」
「かしこまりました。この中から殿方を1人選んでよろしいのですね?」
「いきなりだなー、問題を起こさないでくれよ」
「ええ。『人間を守り、人間を愛し、そして自由に生きろ』と託されたシショクの願いに誓います」
「そうしてくれると助かる。聞いての通りだ、ここは恨みっこなしだぞ~」
「では遠慮なく。こちら、よろしいでしょうか?」
心底疲れた顔をしつつも担任を全うしようとする久野先生に微笑んだ転校生は、俺の2つ前の席で立ち止まった。
「へっ!? 拙者でござるか!?」
いつまでも続くように思われた沈黙を破ったのは、完全に意識が蚊帳の外にいた分木実の声だった。
「はい、ひと目惚れでございますね」
「ありえない! 祟紡侖対策は……!?」
「興味深いお話ですね。ぜひ今夜、凍鴉楼にてお聞かせください」
獣のような眼光を隠す事も無く微笑む転校生は尚も事態を受け入れない分木実の唇に指を当ててから半分押し退け、寄り掛かるように同じ椅子に座った。
まさか分木実に春が来るとはね、ちょっと期待していた自分がバカみたいだ。
お読みいただきありがとうございました
祟紡侖を完全な部外者から見るとこうなります、
というエピソードも一度は書きたかったので、貴重な体験になりました。
なお、暫定のメインヒロイン「九紗連円」の表記を
ノベプラ版の「久紗連」から変更したのは、
担任の名称を公開直前に急遽久野に変えた事で
双方が「久」で始まる事に気付いたのが公開後になったためです。




