【前日譚】我が復讐、ぬるま湯のように気付かれず2/5【定義を考えよう】
【大異変】をきっかけに緋河纓示と名を変えた男は、
己が計画を実現するための仲間を選別した。
1/5の続きです
「こいつは平和的かつ人道的な絶滅計画、人間に直接危害を加えるつもりは無い」
円卓に座って本題を切り出した直後、俺を囲う5人の目……いや、ひとりは理解しているからドクターを除く4人の目が点になる。
「なあ纓示、もうちょいと詳しく教えてくれないか?」
「俺達異能力持ちは異形者なんて化け物扱いされた一方で、政府はZKから人類を守る手段を確立するよう命令してきやがっただろ?」
「ああ、さすがに身勝手な話だぜ。理由としては充分だ」
真っ先に我に返って質問を切り出した久守は、俺が返した質問に納得をしたのか腕組みをして頷いてから肩を震わせて笑い出した。
異能力で考え方を継承したのが功を奏したのか、言わんとするところを理解してくれる人がいるのはありがたい。
「だが、それだけで罪の無い者達まで見捨てるのは目覚めが悪いですぞ」
「分かってる、そもそも今のままでは人員が圧倒的に足りないのも事実だ」
「それで以前、纓示殿が話していた人工生命体の出番と言う訳ですな」
続けて磑も重々しく口を開いたが、俺達が今現在直面している問題を突きつける事で納得してくれた。
異能力を継承させる人間を選別した以上、人手不足は避けて通れない問題だ。
「ZKを駆除する能力を持った人工生命体、人間に従いながらも獣のように奔放な自由人、名付けてジゅう人。こいつらに人間を守ってもらいながら滅ぼしてもらうつもりだ」
培養漕がずらりと並んだ研究室の様子を円卓の中央に立体映像で浮かべた俺は、この日の為に纏めて来た言葉を並べ立ててから円卓の面々を見回す。
「そいつは面白そうだが、この別嬪さん達がどうやって人間を滅ぼすんだ?」
「説明の前に絶滅の定義から考える必要があるな」
食い入るように映像を見ていた久守が理解出来ない様子で聞き返し、俺は今まで温めて来た考えを慎重に出すべく深呼吸した。
「定義?」
「子供の頃からさ、特撮に出て来る悪役の効率の悪さに不満があった」
眉を顰めた久守がオウム返しに聞き返し、俺は子供の頃の記憶を少しずつ話してみた。
「そりゃ特撮だからだろ?」
「人類の滅亡を目指す組織の怪人が町で暴れても全体の1%も減らせない、しかもすぐにヒーローが止める始末だ」
理解出来ないといった様子で久守が視線を上に向け、俺は気にせず話を進めた。
「仕方ないだろ、ヒーローに殴る口実を与えるのが悪役なんだから」
「でも俺は、それが不満だった。だから何をすれば人間が絶滅するか考えてた」
尚も理解出来ない様子で久守が首を振ったから、俺も首を振ってから本題を切り出す。
「それで、どんな結論が出たんだ?」
「今を生きる命を奪わなくても、子どもが生まれなくなれば種は絶滅する」
考えるのが苦手な久守らしい質問に心の中で感謝した俺は、細かい過程を省いて計画の要点を答えた。
「だからあの娘達にはケモ耳や尻尾があるんですね」
「人間をケモ耳娘に上書きしても絶滅という訳か」
ずっと立体映像を眺めていたアイリスが何度も頷き、トウカも隣で腕組みをして頷く。
「出生率で人間を上回れば、いずれ淘汰されるからな」
「随分と気長な計画だね~」
「相手は人間と言う種そのもの、早々に結果は出せないよ」
2人の方を向いて頷いた俺は、呆れ混じりに口を開いた久守に途方も無い標的の巨大さを諭して肩をすくめた。
「でもよ、人工生命体に淘汰されると知ったら警戒されないか?」
「だから異世界からの難民だとでっち上げて、お人好しな国民性を逆手に取る」
一応は納得した久守が口走った当然の懸念に俺は、溢れ出そうになったドス黒い感情を抑えながらこれまで練り上げて来た策を説明する。
「それで上手く行くのですかな?」
「偽装難民でさえ助けるんだ、『本物の』難民だって助けるさ」
今度は磑が口を挟み、俺はドス黒い感情を呑み込もうと捲し立てた。
「幸い、不法移民を贔屓して儲かる利権は【大異変】で全部無くなったからね」
「魔法科学工場で嗜好品を大量生産したのは、利権に仕立てるためだったのかよ」
入れ替わるように説明したドクターが俺に目配せし、久守は全く気付かないのか呆れてため息をつく。
「一般人が直接触れるのは実際に働くジゅう人だから、利権や癒着なんて切っ掛け程度だよ」
「わたし達の生体データを使ってますから、すぐに仲良くなれますよっ!」
涼しい顔を浮かべたドクターが立体映像を指差し、太陽みたいな笑顔を浮かべたアイリスは興奮気味に身を乗り出した。
「しかもジゅう人同士の出生率は人間同士の出生率を極端に下回るから、表向きは淘汰の心配も無い」
「人間とジゅう人が結ばれた時の出生率のみ人間同士を大きく上回る件にだけ目を瞑れば、まさに模範的かつ理想的な移民だね」
ようやく落ち着きを取り戻した俺は人間側が持つであろう懸念を払拭する対策を明かし、ドクターは含み笑いを浮かべながら何度も頷く。
「人間があぶれない限り、淘汰の心配は無いさ」
「ジゅう人は非モテ男のA因子に惹かれる、なんて嘘をでっち上げてよく言うぜ」
「まだ前例の無い机上の空論だ、人間の愛と絆に期待するしかないぜ」
実現不能な回避策を口走った俺は、計画に忍び込ませた仕掛けに気付いて呆れる久守に返す言葉に含みを持たせた。
もし本当に愛や絆があるのなら人間絶滅計画は失敗する、これは紛れの無い俺の本心だ。
「アポトーシス因子か、随分と皮肉の籠った名前だよ」
「人類をひとつの生物と見立てた場合、人間が子孫を増やさないのは細胞の自死も同然だ」
片眼鏡型のデバイスに計画書を表示させたであろうドクターが肩を震わせながら笑い、俺は持論を展開して肩をすくめる。
「纓示君も趣味が悪いな~」
「しがないネット作家の頃に考えてた設定だが、まさか現実で試す機会が来るとは思いもしなかったよ」
更に幾つかの資料を読み込んだであろうドクターが呆れ気味に頷き、俺は自分の身に降りかかった数奇な運命を鼻で笑った。
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3/5に続きます




