【スピンオフ / o・ヮ・ヽ】幕間にうどんを食べたのは、魔法使いを追う新人類
ノベルアップ+のうどんコンテスト小説参加作品を再編集しました、
本編に出て来た伝説の人物、南方の魔法使いを取り巻くジゅう人娘の物語です。
「ダメだ、クオン。ZKの影も形も無いぜ」
「分かったわ、ミナ。降りて来て」
蝙蝠のような羽で力強く羽ばたくメイド姿の女性が首を横に振って後ろに結んだ髪を揺らし、クオンと呼ばれた黒い和服を着た長髪の女性は静かに手招きする。
「あいよ、クオンの糸はどうだい?」
「こっちも反応なしよ、コヒナはどう?」
ミナと呼ばれた女性が着地と同時に聞き返し、首を振って返したクオンは指から伸ばした細い糸を手繰り寄せる。
「ZKのにおい、どこにも無いの」
「ここら辺の異界の潜兵は、ご主人様が全部駆除したんだろうな」
クオンにコヒナと呼ばれた黒とピンクに色分けしたジャンパーを着た犬のような耳をした少女が項垂れ、ミナは呆れた様子で頭を掻いた。
「ダーリンったら、こういう時だけ手が早いんだから」
「ドクターが情報をくれたのに、とんだ空振りだよ」
頬に手を当てたクオンが呆れてため息をつき、ミナは不満を振り払うかのように大きく伸びをする。
「こういうのは空振りじゃなくて素振り、パパが言ってた」
「ダーリンらしい言葉ね」
「ご主人様の言葉なら訂正しとく、スカッとする素振りだったよ」
静かに首を横に振るコヒナにクオンが納得して頷き、居心地悪そうに頭を掻いたミナは物を握るよう構えた両手で振り抜く仕草をした。
「ミナはいい子、これはパパの代わり」
「ありがとよ、コヒナ。クオン、何か連絡来てないか?」
キュロットスカートの後ろから伸びる犬のような尻尾を嬉しそうに大きく振ったコヒナが手を伸ばし、屈んで頭を撫でさせたミナはクオンに情報を尋ねる。
「ちょっと待って、ドクターからメッセージが届いてるわ」
「ドクターは何て?」
「逢良クオン、彌浦ミナ、織杜コヒナの3名は最寄りの居住区にて食事をしてからレポートを送るように、との事よ」
携帯端末を取り出したクオンは、興味津々に近付いたミナに文面をそのまま読み上げた。
「ん? どゆこと?」
「ワタシ達ジゅう人が地球の生活に馴染んでるか確認したいんですって」
頭上に疑問符がいくつも浮かんだような顔をしたミナが首を傾げ、クオンは続く文面を読み上げる。
「そう言う事なら分かった」
「撮影する時は、これの起動を忘れないで」
得心の行ったミナが頷き、密かに安堵したクオンは携帯端末を操作する。
「なにこれ? はんぺん?」
「今後ワタシ達が使うトレードマークよ、これもドクターの指示ね」
携帯端末を取り出したミナが山とネコを組み合わせたようなキャラクター画像の受信を確認し、吹き出すのを堪えたクオンは誤魔化すようにウィンクした。
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「ふわぁ、マジックドールがいっぱいなの」
「この居住区建造には、ドールマスターが深く関わったと聞いたわ」
街を行き交う人の姿を模した数多くの魔法人形をコヒナが赤と黄色の瞳を輝かせながら眺め、クオンは来歴を簡単に説明する。
「クオン、ぶっかけなんてどうだ?」
「えっ!?……うどんの事ね。いいんじゃないかしら?」
先頭を歩いていたミナが立ち止まり、思わず聞き返したクオンは息を整えて店の看板を確認した。
「コヒナもうどん好き」
「凍鴉楼にいた頃には、よく食べてたもんな」
瞳を輝かせたままのコヒナが犬のような尻尾を楽しそうに振り、ミナは懐かしむようにコヒナの頭を撫でる。
「おやっさん、元気にしてるかな?」
「あの店は全自動ですもの、心配なんて無いわよ。さあ、入りましょう」
嬉しそうに目を細めたコヒナが僅かに顔を沈め、優しく微笑んだクオンは先頭に立って店に向かった。
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「何でドクターはボク達を気に掛けんだろ?」
「あの人達の思惑なら知ってるわ、ダーリンを英雄に仕立てたいのよ」
注文を終えたミナが携帯端末を眺めながら首を傾げ、向かいに腰掛けたクオンは小さくため息をつく。
「ボク達も含めて、か」
「人間とジゅう人の共存モデルも含まれてるから当然ね」
軽く頭を掻いたミナが複雑な表情を浮かべ、クオンは渋々頷いた。
「メイドならチトセの方が優秀なのに」
「でも無理よ、ドクターから直々に依施間の姓を賜ってるもの」
目を逸らしたミナが不満そうに唇を尖らせ、クオンは軽く首を横に振る。
「確かに役割が管理人では、街の外には出られないものな」
「コヒナ達を助けてくれたのはドクター、少しでも恩返しするの」
肩で笑って同意したミナが軽く頭を掻き、隣に座るコヒナは鼻息荒く頷いた。
「異世界から飛ばされたボク達を保護してくれたのがドクターだったな」
「何も記憶が無いワタシ達に地球の事を色々と教えてくれたわね」
「それに、ボク達の種別が地球では何て呼ばれてるのかまで教えてくれた」
コヒナの頭を撫でたミナが腕組みし、目を細めて懐かしむクオンに大きく頷きを返す。
「ええ、蜘蛛の糸を出せるワタシがタイプアラクネで」
「力強い羽と尻尾を持つボクがタイプドラゴン」
「遠くのにおいが分かるコヒナはタイプオルトロス」
周囲を見回したクオンが和服の後ろから突き出た黒い球体を軽く動かし、畳んだ羽と尻尾を軽く揺らしたミナに続いてコヒナが犬のような尻尾を振った。
「地球にもボク達そっくりな生物がいて助かったよ」
「ドクターの言葉を借りれば、麒麟を名乗るジラフなの」
懐かしむように安堵を噛み締めたミナが軽く肩を回し、コヒナは何度も小刻みに頷く。
「時々おかしなことを言うけど、今も助けられてるわね」
「それでいて恩返しはいらない、だなんて太っ腹過ぎるよ」
携帯端末の画面を見詰めていたクオンが複雑な表情を浮かべ、ミナは呆れて肩をすくめた。
「でも大事な願いを託されたの」
「『人間を守り、人間を愛し、そして思うまま自由に生きてくれ』ね」
静かに首を横に振ったコヒナが微笑み、クオンは音声を再生するように託された言葉を口にする。
「それでZKを駆除する仕事に就いたら、理想のご主人様に出逢えた」
「パパにはコヒナ達をママにしてもらうの」
「時々逃げ出す悪い癖があるけど、そこがダーリンの可愛いところなのよね」
幸せを噛み締めるように微笑みながらメイド服の袖を振るミナに続いてコヒナが満面の笑みを浮かべ、静かに頷いたクオンも陶酔したような笑みを浮かべる。
「うどん、来たみたいなの」
「無性にご主人様にご奉仕したくなった、早く食べようぜ」
「食べる前に写真、忘れないでね」
漂ってきたつゆの香りに気付いたコヒナが瞳を輝かせ、舌なめずりをしたミナをクオンが手にした携帯端末を振りながら窘めた。
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「「いただきまーす」」
同時に手を合わせた3人は、手にした箸を各々のどんぶりに入れる。
「さっぱりしてて美味しいわね」
つゆに浸した大根おろしを絡めてうどんを啜ったクオンは、続けて潰した梅干をうどんに絡めて爽やかな酸味に目を細める。
「どれだけ食べても飽きないよ」
大きなどんぶりを手にしたミナがエビ天やスライスしたゆでたまごなどを合間に頬張りながらうどんを啜り、満足そうな笑顔を浮かべる。
「おにく、うまうまなの」
数回うどんを啜ったコヒナが甘辛く煮付けた薄切り肉を口に入れて頬を緩ませ、3人は各々の好みに合った食事を黙々と続けた。
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「近々大規模な作戦があるって話だけど、ボク達は参加しなくていいの?」
「さっきも言ったけど、ダーリンという英雄の喧伝がワタシ達の役割よ?」
しばらくしてミナが思い出したように口を開き、クオンは口の中のうどんを飲み込んでから複雑な笑みを返す。
「英雄なら尚更参加しないと」
「作戦の目的は国境外への脱出、空を飛べるジゅう人以外は片道切符」
釈然としない様子のミナの袖を掴んだコヒナは、静かに首を横に振る。
「コヒナの言う通りね、ダーリンは国内に残ってもらわないと」
「確かにボクひとりでみんなを運ぶのは難しいな」
静かに頷いたクオンが小さくため息をつき、ミナは曖昧な笑みを返しながら頭を掻いた。
「もう編成も決まってるから、今からワタシ達が参加するのは無理よ」
「タイプサキュバスは残らず脱出組、国境の外は賑やかになるの」
「逆に国内の繁殖はかなり出遅れるのか」
悪戯じみた笑みを浮かべたクオンに続いてコヒナが含み笑いを浮かべ、頭の後ろで手を組んだミナは複雑な顔で天井を見詰める。
「仕方ないわよ、未来の事は後進に決めてもらうしかないわ」
「そのためにもボク達が頑張らないとね」
「コヒナもがんばるの」
静かに首を横に振ったクオンにミナとコヒナも賛同し、3人は食事を再開した。
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「腹ごしらえも済んだし、ご主人様を探しに行きますか」
「パパのにおい、あっちからするの」
食事を終えて居住区のゲートに当たる大鳥居を抜けたミナが大きく腕を伸ばし、続けて出て来たコヒナは数回鼻を動かしてから瞳を輝かせて道の先を指差す。
「よくやった、コヒナ。飛ぶのはボクに任せてよ、捕獲はクオンに任せた」
「ええ、ダーリンにはきっちりと南方の魔法使い伝説を演じてもらうわ」
コヒナの頭を優しく撫でたミナが背中の羽を大きく広げ、クオンは嬉しさを堪えながら大きく頷いた。
お読みいただきありがとうございました。
タイトルが電子天女のサブタイフォーマットに似ているのは、
同時期に電子天女の下書きを進めていたからです。




