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[R-15]ステ=イション祟紡侖~異界の住民が地球に転移してから200年、人間は希少生物になってました~  作者: しるべ雅キ
はじまりの深淵

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第64話【待ち受ける罠】

鋭時(えいじ)達を呼び出した者達は追憶を重ね、

掃除屋を迎え撃つ策を巡らせた。

「ここがハクバ居住区のテレポートターミナルか」

「はい、この先にステ=イション型居住区登録番号2218、ハクバがあります」

 重厚な金属製の壁が消えると同時に広がる待合室の光景に鋭時(えいじ)が頷き、後ろから飛んで来たレーコさんが微笑む顔を表示してからお辞儀する。


「ありがとう、レーコさん」

「どういたしまして」

「そういえば、いつの間にレーコさんはテレポートターミナルで移動出来るようになったんだな」

 レーコさんと軽く礼を交わした鋭時(えいじ)は、後の壁を意識しながら感心する。

「いえ、最初からですよ?」

「え?」

「ボクが近くにいる時はテレポートで移動出来るように作ったんだ」

 真剣な顔を表示したレーコさんの返答に鋭時(えいじ)が思わず聞き返し、後ろから歩いて来たドクが楽しそうに種明かしをした。


「だからなのか……」

「ところで教授っ! わたし、ここに来た事ありますよっ!」

 再度納得して頷く鋭時(えいじ)にシアラが近付き、スーツの袖を掴みながら満面の笑みを浮かべる。

「へぇ、どんな居住区なんだ?」

「確か農業……再建のモデル地区らしくて、田んぼや畑がたくさんありますっ!」

 目的地に興味を持った鋭時(えいじ)が聞き返し、袖を離したシアラは両手を広げた。


「農業? 歴史の教科書に載ってる食糧生産を?」

「人類史を見れば魔法科学工場はまだ始まったばかりの技術、ブラックボックスも大き過ぎる」

 (かす)かな記憶が頭を(よぎ)った鋭時(えいじ)が首を(かし)げ、既存の技術の問題点を説明したドクが含み笑いを浮かべる。

「だから魔力に頼らない生産を?」

「ハクバは広大な北の大地を拓いた居住区だから、特に期待が高まってるんだ」

 歴史再現の必要性を理解して頷いた鋭時(えいじ)が聞き返し、ドクは再現に適した土地の特徴を説明してから肩をすくめた。


「それにっ、ハクバで売ってる牛乳はおいしいんですよっ!」

「牛乳……それも農業で?」

 入れ替わるようスーツの袖を掴んだシアラが上目遣いで目を輝かせ、鋭時(えいじ)は要領を得ないまま聞き返す。

「『ハクバ♪ ハクバ♪ おいしい牛乳♪』って、テーマソングもありますっ!」

「ははっ……余裕があったら、帰りに見てみるか」

 まるで質問が耳に入ってない様子のシアラが弾むように歌い出し、曖昧な笑みをこぼした鋭時(えいじ)は静かに頷いてから出口に目を向けた。



「あんたが燈川鋭時(ひかわえいじ)だね?」

「ん? (おれ)にこんな知り合いがいたのか?……!」

 ターミナルの出口付近に待ち構えていたスーツ姿のジゅう人に声を掛けられた鋭時(えいじ)は、軽く頷いてから咄嗟に右手のひらを向ける。

「なっ!?」

「こんな事だろうと思ったぜ、【反響索敵(エコーサーチャー)】!」

 乾いた音を立てて落ちた針に驚いたジゅう人が袖に隠した銃から新たな針を撃ち出し、袖からアーカイブロッドを取り出した鋭時(えいじ)は頭を(わず)かに逸らして索敵術式を発動した。


「6人いますっ! 全部……ジゅう人?」

燈川鋭時(ひかわえいじ)を人間に会わせるな!」

 共有式を通じて数を把握したシアラが慎重に身構え、物陰から現れたジゅう人のひとりが号令を掛ける。

「何だって!?」

「彼等は今のところ、キミの知り合いの知り合いではなさそうだね」

 予期せぬ号令に鋭時(えいじ)が思わず聞き返し、ドクは弾丸状に圧縮した空気を撃ち出す拳銃、ソニックトリガーを構えながら落ち着いた様子で頷いた。


「教授は先にレーコさんと行ってくださいっ!」

「そんな事出来るかよ!」

 結界を操作する日傘、メモリーズホイールを構えたシアラが居住区の方向を指し示し、鋭時(えいじ)は周囲に注意を払いながら首を横に振る。

「この程度はボク達で何とかする、でも君の知り合いが本物と確定してない以上は慎重に行くんだ」

「もうこれは行かないといけない流れになってるな……分かった、行ってくるよ」

 自信を持って頷いたドクが後ろの道を塞ぐように移動し、複雑な笑みを浮かべた鋭時(えいじ)は覚悟を決めて頷いた。


「すまないがレーコさん、鋭時(えいじ)君のサポートをお願い出来るかい?」

「かしこまりましたマスター」

 背を向けたままのドクに頼まれたレーコさんは、丁寧な仕草でお辞儀をしてから鋭時(えいじ)の隣に立つ。

「わたしも片付けたら追い付きますね」

「頼りにしてるけど、無茶すんなよ!」

 大きく頷いたシアラが微笑み、釣られて微笑みを返した鋭時(えいじ)は静かに頷いて駆け出した。



「こっちです! 燈川(ひかわ)さん、こっちですよ!」

(おれ)を知ってんのか? じゃあ、あんたが?」

 居住区のゲートから離れた隔壁前でスーツ姿の男に声を掛けられた鋭時(えいじ)は、足を止めて慎重に近付く。

「ええ、そうですよ……【高速石弾(ストーンバレット)】!」

「おっと……分かりやすくて助かるぜ、【反響索敵(エコーサーチャー)】!」

 軽く頷いた男が腰から取り出した警棒型術具を構えて術式を発動し、飛んで来た石弾を難無く(かわ)した鋭時(えいじ)は術式を発動しながら後ろに跳んだ。


「オレは乾側是貫(ひしきこれみち)、お前に引導を渡す人間の名だ!」

「人間?……今回はジゅう人じゃないのか……?」

 乾側(ひしき)と名乗った男が溢れ出す殺意そのままに術具を構え直し、鋭時(えいじ)はアーカイブロッドを構えながら疑問を呟く。

「何をブツブツ言ってやがる、裏切り者が!【高速石弾(ストーンバレット)】!」

 鋭時(えいじ)の態度に殺意の抑えが利かなくなった乾側(ひしき)は、激しい言葉と共に術式を発動した。


「いや待て、色々と待て。裏切り者って何の事だ?」

「とぼけるな! まあいい……今さらどうでもいい事だ」

 石弾を軽く(かわ)した鋭時(えいじ)が思わず聞き返し、一瞬激昂した乾側(ひしき)は小さく息を整えてから静かに首を横に振る。

「話が通じそうにねえな……十善教(やつら)は何を吹き込んだんだ?」

 乾側(ひしき)の様子を観察した鋭時(えいじ)は、距離を取ってから呆れた様子で呟いた。



「【火炎矢(ファイアボルト)】!」

「【魔凝土壁(アースウォール)】!」

 ターミナル近くの廃ビルへと逃げ込んだジゅう人のひとりが足を止めつつ術式を発動し、シアラはヒツジのぬいぐるみを手に取って土壁を作り出す。

「【高速石弾(ストーンバレット)】!」

「うわわっ!?」

 土壁から様子を窺おうとしたシアラは、別のジゅう人が発動した術式に気付いて顔を引っ込めた。


「シアラさん、彼等の動きに気付いたかい?」

「ええ、マーくん。明らかに足止めが目的ですね」

 Tダイバースコープを起動したドクが眉を(ひそ)め、シアラもぬいぐるみから手鏡を取り出して頷く。

「多少迂闊に動いても命の危険は無いけど、鋭時(えいじ)君の援護が遅れてしまうね」

「狙いが教授なら、ゆっくりなんてしてられませんっ!」

 軽く肩をすくめたドクが静かに頷き、手鏡をぬいぐるみに戻したシアラは激しく首を横に振った。


「だね、まずは2人組の術師から片付けよう」

「わかりましたっ! ツォーン、黒モードですっ!」

 軽く頷いたドクがTダイバースコープの分析結果を土壁に投影し、大きく頷いたシアラは腰のぬいぐるみに手を当てて着物を黒いドレスに変える。

「その服は確かマジックキャンセラーを破る為のものだったね?……いったい何をする気なんだい?」

「無力化しますっ! 時間がありませんからっ!」

 Tダイバースコープに過去の記録を表示させたドクが怪訝な顔で聞き返し、強く頷いたシアラは黒ネコのぬいぐるみから黒い日傘を取り出した。


「分かった、念の為に援護するよ」

「援護、ですか……まあ、いいでしょうっ!」

 興味を隠さずに頷いたドクがソニックトリガーを構え、静かに含み笑いを返したシアラは意識を集中し始める。

「ご理解感謝する!」

 静かに頷いてTダイバースコープを操作したドクは、土壁から半身を乗り出してソニックトリガーの引金を引いた。


「うわっと!?」

「こっちが足を止めてどうすんだい!?」

 男女2人組の男の方のジゅう人が足元で破裂した空気弾に驚きの声を上げ、女のジゅう人が叱りながら物陰に隠れる。

「分かってるよ、ちょっと驚いただけだ」

「いいから早く術式を撃つんだよ」

 軽く膝を払った男のジゅう人が続けて物陰に隠れ、女のジゅう人は呆れた様子でナイフ型の術具を構えた。


「【光粉散霧(フラッシュミスト)】!」

「しまった!?……何も起きてねえぞ?」

 2人組が体勢を立て直す隙を突いたシアラが術式を発動し、思わず身をすくめた男のジゅう人は銀色の粉が舞い散るだけの周囲を不思議そうに見回す。

「次が来る前に【火炎矢(ファイアボルト)】!……きゃぁ!?」

「ぐぁ!?……目がぁ!」

 ナイフ型術具を構えた女のジゅう人が発動した術式が銀色の粉末に触れた瞬間に閃光を放ち、2人組のジゅう人は同時に悲鳴を上げた。


「複数の術式を結界内で同時発動させたのか……これは理屈が分かっても、すぐに真似出来る芸当じゃ無いね」

「マーくんっ、目と耳を塞いでください!【爆音閃光(クラッカーフラッシュ)】!」

 Tダイバースコープを眺めながら頷いたドクに警告を発したシアラは、2人組に黒い日傘を向けて術式を発動する。

「ここで追い討ちとは……」

「生きてるから大丈夫ですっ!」

「はは……っ、キミが味方で本当に良かったよ……」

 強烈な閃光と爆発音に驚き呆れるドクにシアラが手にしたウサギのぬいぐるみを通じて2人の生存を伝え、ドクは頬を指で掻きながら力無く笑いを返した。


「そんな事より、残りは4人ですねっ!」

「ここはボクが引き受けるから、シアラさんは鋭時(えいじ)君を……」

 小さく頷いたシアラが追尾式の確認をしながら周囲を見回し、軽く頷きを返したドクは元来た道を指差した。

「マーくんが危険なままだと、教授が心配しますっ!」

「仕方ないな……2人ずつ片付けよう」

「わかりましたっ!」

 大きく首を横に振ったシアラに根負けしたドクが廃ビルの奥を指差し、シアラは力強く頷いた。



「あいつら、やられたのかよ!」

「ふむ?」

 後ろを振り向いてから物陰に隠れたスーツ姿のジゅう人がニードルガンの引金を引き、奇妙な気配に気付いたドクは足を止める。

「……よし!」

(流石に鋭時(えいじ)君のようには行かないか……これは麻酔針とは違うようだが……)

「なるほど……ではこちらも、ペイント弾!」

 サングラスを取り出したジゅう人を確認したドクが服に刺さった針にも気付いて密かにため息をつき、Lab13(ラボサーティーン)から取り出したリニアショットTTRの引金を引く。


「あ!? やりやがったな!」

(消すにしても対処が早いな……なるほどね)

 大声を上げたジゅう人が物陰に隠れ、Tダイバースコープを眺めたドクは静かに頷いて刺さった針に手を当てた。



「もらった!……!?」

 しばらくしてサングラスを掛けたジゅう人が針の光を目掛けて飛び出すが、壁の亀裂に挟まった針に気付いて動きを止める。

「針の蓄光塗料を目印にスタンガンを当てる……面白い手だが、ペイント弾!」

「しま……っ!?」

 背後に回り込んだドクがリニアショットTTRの引金を引き、衝撃を背中に受けたジゅう人は慌てて体勢を立て直して暗がりに逃げ込む。


「これなら消せないね、インジェクトフロート!」

「ぐぁ!?」

 Tダイバースコープを通して見えるペイントに狙いを定めたドクがLab13(ラボサーティーン)から注射針の付いた漏斗(ろうと)を飛ばし、麻酔薬を打ち込まれたジゅう人は短く悲鳴を上げて倒れた。


「残りは3人……」

「【捕縛縄(バインドキャプチャー)】!」

 空飛ぶ漏斗(ろうと)を回収したドクが軽くため息をついた瞬間、別の物陰に隠れていたジゅう人が術式を発動する。

「これは油断したかな……だが!」

「ぐぅ!?」

 魔力を帯びた縄が首に巻き付いたドクが物陰へとホーミングギャロットを投げ、機械仕掛けの糸が首に巻き付いたジゅう人は小さく呻き声を上げた。


「これ以上続けたらキミの首も絞まるよ、投降してくれるとありがたいんだけど」

「誰が出来損ないの口車に……!」

 余裕の表情を浮かべたドクがホーミングギャロットを(わず)かに引き、術式に意識を集中していたジゅう人は険しい顔で睨み付ける。

「仕方ないな……」

「な!?」

 小さくため息をついたドクが(くさび)の付いたフックをホーミングギャロットに通して振り、(たわ)んだ糸と連動して大きく回転した(くさび)に縄を切られたジゅう人はバランスを崩して後方によろけた。


「スタンウェッジ。本来は防御術式を貫くものだけど、こういう使い方も出来る」

「ぐぁ!?」

 軽く目を閉じたドクが糸を振って天井に刺した(くさび)から電気を流し、宙に吊られたジゅう人は糸からの電流に何も抵抗出来ずに気絶した。

「こっちは終わりかな?」

 糸を手繰り寄せると同時にジゅう人が床に落ち、Tダイバースコープを起動したドクはジゅう人の生存を確認して安堵のため息をついた。



「【捕獲網(キャプチャーネット)】!」

「おっと!」

 廃ビルの奥まで逃げていた大柄のジゅう人が振り向きざまに術式を発動し、追い掛けていたシアラは素早く(かわ)す。

「ちょこまかと!……【捕獲網(キャプチャーネット)】!」

「うわわぁ!」

 再度大柄のジゅう人が発動した術式を(かわ)したシアラは、2本の柱をつなぐように広がっていた魔力の網に当たった反動でバランスを崩した。


「【捕獲網(キャプチャーネット)】!……よしっ!」

「しまったっ!?」

 隙を逃さずに大柄のジゅう人が術式を発動し、両端を柱に付けて広がった魔力の網がシアラの両手を絡め取る。

「少し大人しくしてろよ!」

 深く息を吸い込んだ大柄のジゅう人が近くの階段から手すりを引き抜き、シアラ目掛けて大きく振り下ろす。


「マフリク、黒モードっ!【磁鋼滑軌(グライドレール)】!」

 ヒツジのぬいぐるみを取り出したシアラが白い軍服を羽織ったボディスーツ姿に変わり、術式で作ったレールガンを床に突き立てて手すりと共に大柄のジゅう人を両足で蹴り返した。


「くっ!? 往生際が悪いんだよ!……!?」

 蹴り飛ばされた大柄のジゅう人が激昂して手すりを投げ付けるが、網から脱したシアラは持ち上げたレールガンの銃口で手すりを受け止める。


「【捕獲網(キャプチャーネット)】!」

「しまっ……!?」

 間髪入れずにシアラが術式を発動し、魔力の網に捕まった大柄のジゅう人は柱に括り付けられる。

「これで終わりですっ!」

「ぐぅ!?」

 狙いを定めたシアラがレールガンの銃口に入った手すりを撃ち出し、魔力の網が絡まった腹部に手すりを撃ち込まれた大柄のジゅう人は呻き声を上げて気絶した。


「【反響索敵(エコーサーチャー)】……残るはひとりですね……!」

「あんたの口振りからして、向こうの2人もやられたようだね」

 発動した探索術式を確認したシアラが咄嗟に振り向き、物陰から女性ジゅう人が姿を現す。

「その通りですよっ? 今なら見逃しますけど、どうしますかっ?」

「冗談じゃない! 仲間を見捨てて逃げられるもんかい!」

 余裕の表情を返したシアラが降伏を促し、激しく首を横に振った女性ジゅう人は腰から抜いたナイフ型術具を逆手に構えた。


「では仕方ありませんね、ツォーン……!?」

「【多重炎弾(バラージショット)】!」

 軽く首を横に振ったシアラがネコのぬいぐるみを手にした瞬間、女性ジゅう人が術式を発動して多数の火の玉を撃ち込む。

「びっくりした~……」

「骨まで焼き尽くす術式なのに、牽制にもならないか! ならば!」

 着物姿に戻ったシアラが傷ひとつ無い顔で安堵のため息をつき、女性ジゅう人はナイフ型術具の振り上げながら駆け出した。


「マハレタっ、お願いします」

「くっ!?」

 袖からヘビのぬいぐるみを取り出したシアラがしゃがみながらナース姿になり、目標がずれた女性ジゅう人はシアラの上を跳び越える。

「【夢幻泡耀(ミラージュバブル)】!」

「これは!?」

 立ち上がったシアラが敵の着地に合わせて術式を発動し、女性ジゅう人の視界は無数の泡に閉ざされた。


「【瞬間移動(テレポート)】!」

「はっ!?」

 注射器型の杖、シュラーフェンアポテーケを取り出したシアラが術式を発動し、光を乱反射する泡に翻弄される女性ジゅう人の背後に立つ。

「【睡眠接触(スリープタッチ)】!」

 シュラーフェンアポテーケを女性ジゅう人の襟首に当てたシアラが重ねて術式を発動し、女性ジゅう人は崩れ落ちるように倒れた。


「こっちは……終わりですね」

 静かに寝息を立てる女性ジゅう人を確認したシアラは索敵術式の追尾式に意識を集中し、安堵のため息をついて廃ビルの出口に向かった。



「【高速石弾(ストーンバレット)】! この程度なら【圧縮空壁(エアシールド)】を使うまでも無いって事かい!」

「ったく、分かりやすいんだよ……」

「向こうの狙いは、鋭時(えいじ)さんの魔力切れのようですね……」

 石弾を放ってから物陰に隠れた乾側(ひしき)が大声を上げ、廃ビルへと逃げ込んだ鋭時(えいじ)に壁から顔を出したレーコさんが声を掛ける。

「っと、レーコさんか……取り敢えず罠が確定したし話も通じないから、(おれ)の方で何とかするよ」

「分かりました。必要な時は、いつでもお呼びください」

 足を止めて安堵のため息をついた鋭時(えいじ)が不敵に笑ってアーカイブロッドを構え、微笑む顔を表示したレーコさんは壁の内側に身を隠した。


「その時になったら遠慮はしないよ、まずは身の安全からか……」

「回避ハ任セロ……分析ヲ頼ム」

 壁に向かって手を振った鋭時(えいじ)が胸に手を当て、スムーズに切り替わった星白羽(セイシロウ)が入口を睨み付ける。

「やっぱり相棒も気付いてたか、魔力切れを狙うにしては少々お粗末だ」

「何をひとりでブツブツ言ってやがる! 出て来やがれ!」

 元に戻って不敵な笑みを浮かべた鋭時(えいじ)が静かに頷き、乾側(ひしき)は廃ビルの入口付近を警棒型術具で叩きながら声を荒げた。


(途中でレーコさんに隠れてもらってて正解だったな……)

(おれ)はこっちだ!【気絶針(スタンニードル)】!」

 乾側(ひしき)の認識を再確認して密かに安堵した鋭時(えいじ)は、入口から見える位置に移動して術式を発動する。

「そこか!【高速石弾(ストーンバレット)】!」

「おっと……いい加減降参したらどうだい?」

 警棒型術具を構えた乾側(ひしき)が術式を発動し、軽く(かわ)した鋭時(えいじ)はアーカイブロッドで肩を叩く仕草をしながら降伏を促す。


「まだ言うか! 裏切り者が!」

「だから(おれ)が何をしたって言うんだよ!」

 激昂した乾側(ひしき)が声を荒げて術具を構え、鋭時(えいじ)は大声で反論しながら廃ビルの奥に走って行った。



「【高速石弾(ストーンバレット)】!……!?」

(魔力切れか?……罠の可能性もあるな……)

 しばらく術式の発動を続けていた乾側(ひしき)の術具から出て来た石が砂となって崩れ、好機と見て踏み込もうとした鋭時(えいじ)は直前で踏み止まる。

「【魔力閃光(フラッシュ)】!」

「くっ!?」

 アーカイブロッドを構え直した鋭時(えいじ)が閃光を放つ術式を発動し、乾側(ひしき)はスーツの袖で目を庇いながら近くの部屋に逃げ込んだ。



「やっぱり罠じゃないか、魔晶盤なんか持ち出しやがって……」

鋭時(えいじ)さん、これは何を?」

 別の部屋に身を隠した鋭時(えいじ)乾側(ひしき)を警戒しながら手近なガラクタを漁り、異変に気付いたレーコさんが壁から顔を出す。

「ちょうどいいからレーコさんも協力を頼めるかい?……と言う事なんだけど」

「分かりました、やってみましょう」

 安堵のため息をついた鋭時(えいじ)が悪戯じみた笑みを浮かべ、レーコさんは真剣な顔を表示して静かに頷いた。



「【高速石弾(ストーンバレット)】!」

「【圧縮空棍(エアロッド)】!」

 部屋から出て来た人影に気付いた乾側(ひしき)が術式を発動し、難無く(かわ)した鋭時(えいじ)は返す刀で釣竿型のロッドを伸ばす。

「な……!?」

「かかったな!」

 大きく踏み込んで釣竿型のロッドを消した乾側(ひしき)に思わず驚きの声を上げた鋭時(えいじ)が足を止め、乾側(ひしき)鋭時(えいじ)の頭を黒い布で包んで警棒型術具を投げ捨てた。


「これで!」

 腕輪に組み込んだマジックキャンセラーの出力を最大にした乾側(ひしき)が腰から拳銃を取り出し、鈍く重い銃声と共に布に大きな風穴を空ける。


「……な、なんだぁ!?」

 腕輪の機能を停止させた直後に布で包んでいたはずの鋭時(えいじ)の頭が瓦礫に変わり、乾側(ひしき)は理解が追い付かずに愕然と立ち尽くす。


「ソコダ!」

「【気絶接触(スタンタッチ)】!」

「ぐぁ……!?」

 背後へと回り込んでいた星白羽(セイシロウ)が懐の収納術式から取り出した外套で乾側(ひしき)の頭を包むと同時に鋭時(えいじ)がアーカイブロッドを当て、乾側(ひしき)は呻き声を上げて倒れ込んだ。



(おれ)に化けたレーコさんがここまで誘導してから気絶させる……まさか、ドクからもらった外套にこんな使い道があるとはね……」

手札(カード)ハ全テ使ウ、ソレガ掃除屋ダロ?」

 簡単に作戦を思い返した鋭時(えいじ)が左手に握ったA因子を遮断する外套を呆れ気味に眺め、切り替わった星白羽(セイシロウ)が不敵に笑う。

「違いねえ、【知覚反射(ミラーマインド)】も使っといて正解だったな……」

「コレヲ避ケルノハ、(オレ)デモ難シカッタ」

 静かに頷いた鋭時(えいじ)が自分の座高まで積み上げた瓦礫に目を向け、星白羽(セイシロウ)乾側(ひしき)が被せた布を眺めながら静かに首を横に振った。


「一歩間違えれば、(おれ)の頭に風穴が空いてた訳だ」

「コレカラドウスル?」

 瓦礫を貫いた穴を眺めた鋭時(えいじ)が血の気の引いた顔で静かに頷き、軽く深呼吸した星白羽(セイシロウ)が周囲を見回す。

(わたくし)がマスターを呼びに戻りましょうか?」

「そうだな……頼めるかい?」

「分かりました、少々お待ちください」

 微笑む顔を表示したレーコさんに鋭時(えいじ)が軽く頷き、レーコさんは丁寧にお辞儀をしてから壁に消えた。



「しばらく待つか……」

(オレ)ハ、少シ休ム」

 レーコさんを見送った鋭時(えいじ)が近くの柱に寄り掛かり、星白羽(セイシロウ)は意識の奥に戻ろうとする。

「たまには報告を手伝ってくれてもいいだろ?」

(オレ)ハ相棒ダ、女房ハ別ダロ」

 冗談交じりにため息をついた鋭時(えいじ)に引き止められた星白羽(セイシロウ)は、静かに首を横に振って意識の奥へと消えて行った。


「気を使ってるなら随分不器用な話だ、いったい誰に似たんだか……」

 完全に沈んだ星白羽(せいしろう)の意識を確認した鋭時(えいじ)は、小さくため息をついて自嘲気味に笑みを浮かべた。



「お待たせしました、鋭時(えいじ)さん。間も無くマスターが……」

「教授ーっ! ご無事でしたかっ!……うわわっ」

 しばらくしてから戻って来たレーコさんの柔らかい声を遮るように声を弾ませたシアラが抱き着こうとするが、鋭時(えいじ)が無意識に(かわ)してバランスを崩す。

「またやっちまったか……大丈夫か、シアラ?」

「大丈夫ですっ、それより教授は何か思い出せそうですかっ?」

 ばつが悪そうに頭を掻いた鋭時(えいじ)が曖昧な笑みを浮かべ、体勢を立て直して頷いたシアラは鼻息荒く鋭時(えいじ)に迫る。


「今んところ空振りだ……取り敢えずこいつに聞いてみるか」

「待って、鋭時(えいじ)君。これは(オレ)が運ぶから、場所を変えようか?」

 軽く肩をすくめた鋭時(えいじ)が気絶したままの乾側(ひしき)にアーカイブロッドを向け、遅れて合流したドクが制止して含み笑いを浮かべた。

次回の更新は8/11(金)の予定です

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