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[R-15]ステ=イション祟紡侖~異界の住民が地球に転移してから200年、人間は希少生物になってました~  作者: しるべ雅キ
はじまりの深淵

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第62話【仕組まれた贈り物】

工場区画に侵入したヒカルの救助に向かった鋭時(えいじ)達は、

5体の警備ロボットと対峙していた。

「あれだな……」

 【第15研究室】と書かれた扉を少し開いて覗き込んだ鋭時(えいじ)は、部屋の中を歩き回る金属の棒を持った人型ロボットを確認する。

『何者ダ!』

「見付かった!? 【凍結針(フリーズニードル)】!」

 突然振り向いたロボットが扉越しに声を掛け、鋭時(えいじ)は扉を開けると同時に術式を発動した。


『侵入者ヲ確認、迎撃行動開始』

暴魔(ぼうま)22系「抛磚(ほうせん)(げき)」だって!?」

 金属の棒を構えたロボットが近くの瓦礫を打ち上げて針に当て、戦慄した鋭時(えいじ)はアーカイブロッドを構える。

『速ヤカニ投降シナサイ』

獣魔(じゅうま)1系「(みつ)の歩法」!? どういうカラクリかは知らんけど誉城磑(よじょうがい)の肝煎り、遠い兄弟子って訳か」

 音声ガイドと共に金属棒の中心を片手に持ったロボットが特徴的な動きで距離を詰め、鋭時(えいじ)はロボットの正体に見当を付けて回り込んだ。


『大人シク武器ヲ捨テナサイ』

「もういっちょ、【凍結針(フリーズニードル)】!」

 金属棒を構えたロボットの動きに合わせた鋭時(えいじ)は、タイミングを見計らって針を撃ち出す。

『無駄ナ抵抗ハ止メナサイ』

闘魔(とうま)4系「厄軸(やくじく)の足」か! 背後を取られる訳には……)

「【凍結輪枷(フリーズスネア)】!」

 刀のように金属棒を持ち替えたロボットが針を避けつつ側面をすり抜け、鋭時(えいじ)は咄嗟にアーカイブロッドを突き立てて床を凍らせた。


『無駄ナ抵抗ハ止メナサイ』

暴魔(ぼうま)28系「代僵(だいきょう)(げき)」!? 避けながら氷を剥がすとか、どんな思考ルーチンを使ってんだよ!?)

 凍結の範囲外に下がりつつ一転に力を集中させた金属棒を床に突き立てたAIの判断に驚愕した鋭時(えいじ)は、即座にロボットが砕いた氷が舞い散る中を駆け抜ける。

「だが足さえ止まれば、【瞬間(フラッシュ)……くっ!」

(攻撃を巻き取る防御で相手の動きを(にぶ)らせる暴魔(ぼうま)12系「薪底(しんてい)()」か! ここで動きを止める訳には……)

 振り下ろしたアーカイブロッドを金属棒で受け止めたロボットに吸い寄せられる感覚を覚えた鋭時(えいじ)は、強引に踏み込んでロボットの側面をすり抜けた。


「助かったぜ、星白羽(セイシロウ)……」

「気付イタカ、相棒?」

 安堵のため息をついた鋭時(えいじ)が突然不敵な笑みを浮かべ、スムーズに切り替わった星白羽(セイシロウ)も静かに頷く。

「ああ、低確率を引いちまったようだ……半分貸すぜ、星白羽(セイシロウ)

「任セロ」

 追尾式に意識を集中した鋭時(えいじ)が左手で顔の半分を覆い、左手を降ろした星白羽(セイシロウ)は不敵な笑みを浮かべた。


『行動パターンノ変更ヲ確認、データヲ更新』

 鋭時(えいじ)の変化を観測したロボットは、金属棒を構え直して踏み込む。

「月並みだが、(おれ)達の動きは」

「機械ニ見切レナイ」

 ロボットが繰り出す杖術の技を鋭時(えいじ)が観察しながら予測し、星白羽(セイシロウ)は技を的確に(かわ)し続けた。


『データヲ更新……データ……ヲ更…新……データ……』

「そろそろ追加が来るぞ、星白羽(セイシロウ)!」

 処理の追い付かなくなったロボットの動きが見る見る(にぶ)り、鋭時(えいじ)は右手に握ったアーカイブロッドで金属棒を受け止める。

「慌テルナ。機械刀炎斬(エンザン)、起動」

『データ……ヲ……』

 小さく頷いた星白羽(セイシロウ)が左手でアーカイブロッドから炎斬(エンザン)を抜いてロボットの胸に突き立て、高熱の刃に装甲を貫かれたロボットは膝から崩れ落ちた。


「【圧縮空棍(エアロッド)】!」

『排除!……?』

 アーカイブロッドを掴んだ右手に意識を集中した鋭時(えいじ)は、部屋に入って来た剣を握ったヒト型ロボットの喉まで釣竿状のロッドを伸ばす。

「【瞬間凍結(フラッシュフリーズ)】! 【共振衝撃(レゾナンスショック)】!」

 ロッドの先端に当たる手応えを感じた鋭時(えいじ)が間髪入れずに術式を発動し、瞬時に凍り付いたロボットは衝撃波と共に粉々に砕け散った。


「終わったな……助かったぜ、相棒」

「コレカラ、ドウスル?」

 周囲を慎重に確認した鋭時(えいじ)が釣竿状のロッドを手元に戻し、星白羽(セイシロウ)も警戒態勢を取りながら炎斬(エンザン)をアーカイブロッドに戻す。

「みんなこっちを目指してるし、しばらくここで待とう」

「分カッタ、(オレ)ハ休ム」

「助かったぜ、相棒」

 追尾式を確認した鋭時(えいじ)星白羽(セイシロウ)が軽く頷いて気配を消し、鋭時(えいじ)は胸に手を当てて微笑んだ。



「すまない鋭時(えいじ)、1体取りこぼした!……って、2体とも仕留めたのかよ……」

「これが燈川鋭時(ひかわえいじ)の実力……」

 大声を上げながら部屋に入って来たミサヲがロボットの残骸に気付いて絶句し、続いて入った蔵田(くらた)も言葉を失う。

「運が良かっただけですよ……」

「無事でしたかっ、教授っ!」

 気恥ずかしそうに頭を掻いた鋭時(えいじ)が口を開いた瞬間、シアラが肩で息をしながら部屋に入って来た。


「何とかね……」

「心配したぜ、シアラぁー!」

「うわわっ!?……むぎゅぅ」

 安堵のため息をついた鋭時(えいじ)が微笑むより早くミサヲが抱き着き、驚いたシアラの声は豊満な谷間に吸い込まれた。


「おや? もうみんな集まってたのか」

「ドクも無事で何よりだ。全員揃った事だし、ヒカルさんの救出を急ごうぜ」

 しばらくしてからドクがゆっくりとした足取りで部屋に入り、鋭時(えいじ)は軽く頷きを返してから周囲を見回す。

「ぷはぁ……もちろんですっ! 教授っ!」

「ヒカルさんは隣の部屋にいるみたいだね」

 ようやく谷間から抜け出したシアラが力強く頷き、ドクもTダイバースコープを起動して軽く頷いた。


「よし、分かった! お転婆娘(いたずらこぞう)をとっ捕まえるぞ!」

「うわわっ!?」

「あくまで保護ですよ、姉さ……相曽実(あいそみ)ミサヲ」

 大声を出したミサヲが驚きの声を上げるシアラを抱えて部屋を飛び出し、蔵田(くらた)が慌てて追い掛ける。

「いい勉強になったぜ、兄弟子さん」

「どうしたんだい、鋭時(えいじ)君?」

「何でもない、早く行こうぜ」

 部屋を出る直前に振り向いた鋭時(えいじ)にドクが心配そうに声を掛け、軽く首を横に振った鋭時(えいじ)は早歩きでミサヲの後を追い掛けて行った。



「この先にヒカルさんが?」

「他にロボットの気配は無いし、ひとまず安心だね」

 【第16研究室】と書かれた扉の前に立つミサヲ達に気付いた鋭時(えいじ)が足を止め、Tダイバースコープを起動したドクも安堵のため息をつく。

「何故奈守浪(なかみなみ)ヒカルは、警備ロボットに見付からずにここまで?」

「んなもん、本人に聞けば分かんだろ。行くぞ!」

 鋭時(えいじ)達の合流を確認した蔵田(くらた)が扉を確認しながら首を(かし)げ、軽く首を横に振ったミサヲが蹴破る勢いで扉を開けた。



「ここで何してんだ、ヒカル?」

「うわわっ!? 急に持ち上げないでくれよ、ミサヲお姉ちゃん」

 躊躇する事無く部屋を進んだミサヲが交差した白いベルトを掴み、急に体が宙に浮いたヒカルが振り向いて抗議する。

「それで、何か収穫はあったのかい?」

「暗示装置なら見付けた。データのコピーも終わったし、後は解析だけだよ」

 抗議を無視したミサヲが悪戯じみた笑みを浮かべ、ヒカルは部屋の隅に置かれた椅子のような装置を指差して頷いた。


「教授の記憶はいつ戻るんですかっ、ルーちゃんっ!」

「まだ解析してないから何とも言えないよ。ごめんね、シアラお姉ちゃん」

 ミサヲの腕から降りていたシアラが興奮気味に見上げ、ヒカルは吊るされたまま静かに首を横に振る。

「そうですかぁ……」

「解析はボクも手伝うよ、面白い発見があるかもしれないからね」

 瞳の輝きが薄れたシアラが項垂(うなだ)れ、装置に近付いたドクはTダイバースコープを起動しながら微笑んだ。


「どんな発見があるって言うんだい」

「もしかして以前話していた、ジゅう人独自の文化ですか?」

 呆れた様子のミサヲが茶化して笑い、蔵田(くらた)は遠慮がちにドクに尋ねる。

「ええ、他に目ぼしいものは無いみたいなので」

「他の部屋もだけど、殺風景な部屋だな。よく目当ての品だけ残ってたもんだよ」

 軽く頷いたドクが室内を見回して肩をすくめ、ミサヲは呆れ果てた顔で椅子型の装置に近付いた。


「他の研究室はもぬけの殻、第13研究室なんて部屋ごと消えてたよ」

「大した聖地だよ、まったく……」

 いまだに吊るされたままのヒカルが詰まらなそうに肩をすくめ、ミサヲは周囲を見回して小さくため息をつく。

「第13研究室?……いや、まさかね……」

「どうしたんですかっ、教授っ?」

 周囲のやり取りを聞いていた鋭時(えいじ)が考え事を口に出し、シアラが心配そうな顔で覗き込む。


「何でもない。それよりドク、ここではどんな研究をしてたか分かるかい?」

「さあ、どうだろうね? 手掛かりが少なくては、ボクでもお手上げだよ」

「ふーん、そういうもんなのか……」

 シアラに微笑みを返してから振り向いた鋭時(えいじ)からの質問にドクが静かに首を横に振り、鋭時(えいじ)は大袈裟に納得しながら頷いた。


「それより早く帰ってデータを解析しようよ、鋭時(えいじ)お兄ちゃんの記憶を戻せるかもしれないんだし」

「どの口が言うんだ、ヒカル! 凍鴉楼(とうあろう)に帰るまで大人しくしてろよ」

「勘弁してよ~、ミサヲお姉ちゃん」

 鋭時(えいじ)に無邪気な笑顔を向けたヒカルを掴んだままのミサヲが(たしな)め、ヒカルは兎のような耳を垂れ下げるように項垂(うなだ)れる。

「ミノリ、帰りはさっきの場所に戻って転送してもらえばいいんだな?」

「いや。DMCCC(ディーエムシースリー)によると、ここから凍鴉楼(とうあろう)に転送出来るそうだ」

「へぇ~、便利なもんだね~」

 背中のベルトを掴んで吊るしたヒカルを小脇に抱えたミサヲに蔵田(くらた)がタブレット端末を見せ、ミサヲは立ち止まって大袈裟に肩をすくめた。



「ただいま戻りました、真鞍(まくら)署長」

 凍鴉楼(とうあろう)のテレポートエレベーターに戻った蔵田(くらた)は、転送に気が付いて駆け寄って来た真鞍(まくら)に敬礼する。

「おかえり蔵田(くらた)君、みんなも無事帰って来れて何よりだ」

 敬礼しながら蔵田(くらた)を労った真鞍(まくら)は、後ろの人影にも目を向けて大きく頷いた。


「マスター、お帰りなさいませ」

「やあ、レーコさん。ただいま」

 真鞍(まくら)の横に佇んでいたレーコさんが丁寧な仕草で頭を下げ、ドクは軽く微笑んで手を振る。


「旦那様! 若奥様も……皆様よくご無事で……」

「たっだいっまー、チセりんっ!」

「心配掛けて悪かったよ、チセリさん」

 レーコさんの後方に控えていたチセリが狼のような尻尾を振りながらお辞儀し、シアラと鋭時(えいじ)がそれぞれ挨拶を返す。

「チセリは心配性だな~。ほれ、おみやげだ」

「離してくれよ、ミサヲお姉ちゃん。ぼくは物じゃないってばぁ」

 ひと通り挨拶が済んだ事を確認したミサヲが白いベルトを掴んだ手を前に出し、吊るされたヒカルは手足をバタバタと振りながら抗議の声を上げた。


「おかえりなさいませ、ヒカル様。まずは皆様に」

「分かってるよ、チセリお姉ちゃん。みんな、ごめんなさい」

 再度丁寧にお辞儀をしたチセリが柔らかく微笑み、ようやく解放されたヒカルが頭を下げる。

お転婆娘(いたずらこぞう)は今に始まった事じゃ無いから、あたしは構わないけどさ……」

「この件はだーくめさんが関わるだろうね」

 慣れた様子でため息をついたミサヲが複雑な表情で頭を掻き、ドクも難しい顔で頷いた。


「ドクター・マリノライトの言う通り、今回はDMCCC(ディーエムシースリー)の判断を仰ぐ事案です」

「どういう事だい、ドク?」

 冷製にタブレット端末を操作していた蔵田(くらた)がドクに頷きを返し、釣られて鋭時(えいじ)もドクに顔を向ける。

「工場区画は特別法の管轄だからね、AIが法を基準に判断するんだ」

「その場で裁判するようなものか……」

「まあ、そんなところだ」

 神妙な面持ちのドクから簡潔な説明を聞いた鋭時(えいじ)が呟き、ドクは頷いてから肩をすくめた。


「心配はごもっともですが、結果はもう届いてます。見てみますか?」

 気遣うように話し掛けながらも目を細めて微笑んだ蔵田(くらた)は、AIのメッセージが表示されたタブレット端末の画面を鋭時(えいじ)に向ける。


【今回の警報は【陽影臥器(グリーフインキュベーター)】所有者との合流を確認したので解除します】


「それだけかよ!?」

鋭時(えいじ)君とヒカルさんが離れただけだから、だーくめさんは事件性が無いって結論付けたんだ。入ったのも住民の生活に支障のない場所だったからね」

 メッセージを読み終えた鋭時(えいじ)が短く声を上げ、ドクはAIの判断を説明してから微笑んだ。


「ありがとう鋭時(えいじ)お兄ちゃん、ドクも」

「取り敢えず何事も無くて良かったよ」

 瞳に光を取り戻したヒカルが安堵の笑みを浮かべ、鋭時(えいじ)も安堵のため息をついて微笑みを返す。

「だからって警察に迷惑掛けた事に違いは無いんだ、きちんと謝って来るんだぞ」

「はーい……」

 密かに安堵したミサヲに頭を撫でられたヒカルは、力無く返事をして項垂(うなだ)れた。


「我々の聴取にも協力してもらうぞ、奈守浪(なかみなみ)ヒカル」

「分かったよ……」

「露骨に嫌な顔をしないでくれよ、形式的な聞き取りなんだから」

 真剣な表情で頷いた蔵田(くらた)にヒカルが短く言葉を返し、頭を掻いた真鞍(まくら)は気さくに笑いながらテレポートエレベーターへと歩いて行った。



「さて、あたし達はどうするかな?」

「出来れば【遺跡】で駆除をしたいんだけど」

 警察関係者が撤収したバルコニーを見回したミサヲが軽く全身を伸ばし、鋭時(えいじ)は自分の希望を伝える。

「今からだと昼飯食った後になるけど、いいか?」

(おれ)は構わないけど、シアラは大丈夫か?」

「教授と一緒ならどこでも大丈夫ですよっ!」

 携帯端末を確認したミサヲに軽く頷きを返した鋭時(えいじ)が視線を落とし、目が合ったシアラは満面の笑みを浮かべた。


真鞍(まくら)署長の見送りが終わりました。旦那様、報告をよろしいでしょうか?」

「改まって、どうしたんだい?」

 テレポートエレベーターから戻って来たチセリがお辞儀してから遠慮がちに声を掛け、鋭時(えいじ)は頷きながらも困惑気味に聞き返す。

「先ほど、旦那様の知り合いという方からメッセージがございまして……」

「本当ですかっ、チセりんっ!」

「ん? チセリにしちゃ歯切れが悪いな、何かあったのか?」

 エプロンのポケットから携帯端末を取り出したチセリにシアラが興奮気味に聞き返すが、違和感を覚えたミサヲが真剣な表情に変わった。


「はい……メッセージは凍鴉楼(とうあろう)の管理アドレスに送られたものでして」

「確かに妙な話だな」

 真剣な表情で短く頷いたチセリが携帯端末の画面を確認し、鋭時(えいじ)は小さく頷いて同意する。

「ほえ? 何が変なんですかっ?」

「記憶を失う前の(おれ)凍鴉楼(とうあろう)を知らないのに、知り合いが分かる訳無いだろ?」

 小首を(かし)げたシアラに腕組みしながら頷いた鋭時(えいじ)は、奇妙な点を簡潔に説明してから静かに首を横に振った。


「言われてみればっ! これも罠ですねっ!」

「罠には違いないんだろうけど、こっちの居場所を知られてるのは気味が悪いな。チセリさんにも迷惑が掛かってるし」

 説明を理解して大きく目を見開いたシアラが何度も頷き、同意して頷いた鋭時(えいじ)は困惑した表情をチセリに向ける。

鋭時(えいじ)君に関する情報なら、もう十善教(じゅうぜんきょう)に漏れてるよ」

「おいドク! どういう事だよ!」

 小さくため息をついたドクが涼しい顔で頭を掻き、ミサヲは噛み付かんばかりの勢いで聞き返した。


「難しい話じゃない、真鞍(まくら)署長の警備ロボットは警察上層部に繋がってる」

「ドクター、真鞍(まくら)署長が十善教(じゅうぜんきょう)とつながっているとは……」

 軽く首を横に振ったドクの説明を聞いたチセリは、複雑な表情で苦言を呈する。

真鞍(まくら)署長本人は十善教(じゅうぜんきょう)と無関係だよ、問題は周囲にいる警備ロボットなんだ」

「ロボット……? ログが十善教(じゅうぜんきょう)に送られてるのか!」

 肩をすくめたドクが説明を繰り返すと、ロボットの構造に気付いた鋭時(えいじ)が大声を上げた。


「事務処理にロボットは欠かせないからね、鋭時(えいじ)君の情報を収集するだけで向こうにも情報が渡るんだ」

「だから奴等は、(おれ)の心臓の事も……」

 正解を言い渡すように頷いたドクが漏洩ルートを推測し、鋭時(えいじ)も心当たりを呟きながら頷く。

「さすがにロボット抜きで情報収集なんて出来る訳無いもんな」

「ボクも数日で記憶が戻るものと思い込んでたからね、最初の方に得た情報は全て漏れてると考えた方がいい」

 大きくため息をついたミサヲが不可抗力を理解し、困惑気味に頭を掻いたドクも神妙な面持ちで頷いた。


「でも何で、教授の命が狙われるんですかっ?」

「おそらくは【陽影臥器(グリーフインキュベーター)】のせいだろうね」

 しばらく(うつむ)いていたシアラが悲痛な表情を浮かべ、ドクは小さくため息をついて疑問に答える。

鋭時(えいじ)の持ってる資格に何の関係が?」

十善教(じゅうぜんきょう)にとって【陽影臥器(グリーフインキュベーター)】は抹殺対象そのものなんだよ」

 事態を飲み込めないミサヲの疑問に答えたドクは、遠い目をして静かに首を横に振った。


「じゃあ(おれ)のせいで、みんなを危険な目に……」

「もし旦那様に危害を加えるというのなら、(ワタクシ)達が全力で迎え撃ちましょう」

 複雑な表情で胸に手を当てた鋭時(えいじ)に気付いたチセリは、柔らかくも自信に満ちた笑みを浮かべて眼鏡の蔓に手を当てる。

「でも、それじゃ……」

「奴等は直接ここに手出し出来ないから安心していいよ、その証拠に鋭時(えいじ)君の携帯端末には連絡が来てないだろ?」

「言われてみれば……これはステ=イションで買ったんだったな」

 (うつむ)いて言葉を詰まらせる鋭時(えいじ)に微笑み掛けたドクが肩をすくめ、鋭時(えいじ)はスーツの内ポケットから取り出した携帯端末を見詰めながら頷いた。


「ステ=イション自体が十善教(じゅうぜんきょう)に対抗する為の街でもあるから、信者が街の中に入るのは容易じゃ無いんだ」

「以前旦那様が夢で聞いた『奴等』というのは、十善教(じゅうぜんきょう)の事でしたのね」

 静かに頷いたドクが不敵な笑みを浮かべ、チセリは得心の行った様子で頷く。

「夢? 何の事だ、チセリ?」

「そ、それは……」

「以前……ボク達がトラックの護衛をした日に鋭時(えいじ)君が見た夢の相談を受けた事があったんだ」

 不思議そうな顔をしたミサヲに迫られたチセリが言葉を詰まらせ、ドクは咄嗟に助け舟を出した。


「トラックの……って、かなり前の話じゃないか!」

「貴重だけど根拠が曖昧で情報の扱いも変更した時期だったから、裏が取れるまで内密にしてたんだ。話すのが遅れてすまなかったよ」

 しばし考えたミサヲが大声を上げ、曖昧な笑みを返したドクは頭を軽く下げる。

「ドクにしちゃあいい判断だと思うぜ……っと、ちょっと待ってくれ」

 腕組みして悟ったように頷いたミサヲの携帯端末が突然鳴り出し、ミサヲは手のひらを向けながら携帯端末を取り出す。

「ヒラネか? スズナなら今は病院だ……分かった、庭園バルコニーで待ってる。セイハなら知ってるはずだ」

 何度も頷いて楽しそうに通話したミサヲは、大きく頷いてから携帯端末を耳から離した。


「何かあったのかい?」

「ヒラネが話したい事があるって、ここで落ち合う事にしたぜ」

 通話の終了を確認したドクが声を掛け、ミサヲは微笑みながら片目を(つむ)る。

「ラコちゃん達が帰って来たんですかっ!」

「その通りだ、悪いが午後の予定は話が終わり次第だぜ」

「分かりました、(おれ)も情報を整理したいところだったんで」

 興奮気味に声を掛けて来たシアラに頷いたミサヲが携帯端末の画面に目を向け、鋭時(えいじ)も携帯端末を眺めながら頷いた。



「ようヒラネ、何か収穫はあったのかい?」

「ウラちゃんの居場所が分かったわ。ミサヲお姉様も嬉しそうに見えるけど、何かあったのかしら?」

 庭園型バルコニーの椅子に座っていたミサヲがテレポートエレベーターに向けて大きく手を振り、大きく手を振って返したヒラネも近付きながら聞き返す。

「こっちも鋭時(えいじ)の知り合いから連絡が来たんだ」

「本当なのか!? それでいつどこで会うんだ?」

 腕組みして大きく頷いたミサヲが上機嫌で笑い、ヒラネの後ろを着いて来ていたセイハが身を乗り出した。


「あ……チセリ、ちょっと説明してくれないか?」

「はい、3日後の正午にハクバ居住区正面ゲート前となっております」

 言葉に詰まったミサヲに話を振られたチセリは、眼鏡の蔓を操作してから冷静に答える。

「困ったわね……ソーレイの再開発区にウラちゃんが立ち寄るのも同じ日なのよ」

「こっちから連絡を取れない以上、日時の変更は難しいか……」

 チセリの話を聞きながら向かいの椅子に座ったヒラネが顔を曇らせ、少し離れた場所に座っていた鋭時(えいじ)も難しい顔を浮かべた。


「二手に分けるしか無いな……あたしはヒラネ達とウラホを捕まえるから、ドクとシアラは鋭時(えいじ)を頼めるかい?」

「ウラ(ねえ)ならアタシとヒラ(ねえ)で何とかなる、ミサ(ねえ)王子(おーじ)様を守ってくれよ」

 しばらく腕組みをしたミサヲが隣に座るドクに顔を向け、ヒラネの隣に腰掛けたセイハがスライム体で作った手を大袈裟に広げる。

(おれ)の知り合いを名乗る奴は確実に罠だ、みんなでヒラネさん達を手伝おうぜ」

「罠でも貴重な情報だし、万が一って事もある。王子(おーじ)様は自分を優先してくれよ」

 深刻な表情で決意を固めた鋭時(えいじ)が2人の間に割って入るが、セイハは静かに首を横に振ってから優しく微笑んだ。


「もし記憶を失う前の(おれ)十善教(じゅうぜんきょう)の関係者だったら、まず助けるべきは酷い目に遭わされてるジゅう人なんだ……」

鋭時(えいじ)君が十善教(じゅうぜんきょう)の信者だった可能性は無いよ」

 複雑な表情を浮かべた鋭時(えいじ)が自分自身を戒めるように呟くが、ドクは平然とした様子で最悪の可能性を否定する。

「なんだって!?」

「そもそも十善教(じゅうぜんきょう)の信者はステ=イションには入れないし、【陽影臥器(グリーフインキュベーター)】の資格を渡す事だって無いよ」

 思わず大声を上げた鋭時(えいじ)の胸元を指差したドクは、居住区の構造やIDカードに記載された資格を根拠に再度否定した。


「じゃあ、教授は……」

「もちろん潔白だ」

 ミサヲを挟んで隣に座っていたシアラが目を輝かせ、ドクは自信に満ちた笑顔で頷く。

「よかったですねっ、教授っ!」

「でも、苦しんでるジゅう人がいる事に変わりは……」

 振り向いたシアラが満面の笑みを浮かべるが、鋭時(えいじ)は煮え切らない様子で(うつむ)いた


「あたしが鋭時(えいじ)達の代理で行ってくる、それでいいだろ?」

「ボクの代理でもあるなら、ウラホさんに伝言を頼めるかい?」

 頭を掻いてから小さくため息をついたミサヲが鋭時(えいじ)に優しく微笑み掛け、ドクが反対側から声を掛ける。

「伝言?」

「『キミを覚醒させた人間は必ず助け出す』ってね」

 少し不機嫌を滲ませたミサヲが振り向き、ドクは気に留める事も無く微笑んだ。


「助け……? どういう事だい、ドク?」

「確証が無いから何とも言えないけど、ウラホさんをステ=イションに戻せるかもしれないんだ」

 怪訝な顔をしたミサヲが興味を持ち、ドクは言葉とは裏腹に自信に満ちた笑顔を返す。

「そいつは本当か!?」

「ウラホさんの協力次第だが、希望はあるよ」

「分かった、絶対に伝えるぜ」

 思わず大声を上げたミサヲにドクが頭を掻きながら慎重に頷き、ミサヲは力強く頷きを返した。


「ミサヲお姉様とワタシとセイちゃんはウラちゃん探しに、シアラちゃんとドクはえーじ君の護衛。これで決まりね」

「ウラホってジゅう人は相当な手練れだろ? (おれ)達は行かなくていいのかい?」

 各々の顔を確認したヒラネが頷き、鋭時(えいじ)は心配そうな顔で異を唱える。

「ご心配は嬉しいけど、王子(おーじ)様はもっと自分の欲に忠実になるべきだぜ」

「それに鋭時(えいじ)君の知り合いが十善教(じゅうぜんきょう)の罠なら、全員でウラホさんの所に行くのは得策じゃない」

 複雑な表情で微笑んだセイハが小さく首を横に振り、続いて頷いたドクも静かに首を横に振った。


「戦力の分散に失敗したら、そもそも姿を見せない可能性もあるのか……」

「ああ、現状で考えられるベストの振り分けだ」

 しばらく考えていた鋭時(えいじ)が相手の思惑を推測し、ドクはゆっくり頷いてから肩をすくめる。

「心配するなよ、鋭時(えいじ)。引き際は弁えてるから、さ!」

「うわわっ!?」

 自信に満ちた笑みを返したミサヲに抱き着かれたシアラは、急に浮かび上がった自分の体に気付いて驚きの声を上げた。


「しばらくシアラと離ればなれになるんだし、これくらいいいだろ、鋭時(えいじ)?」

「ははっ……ほどほどに頼みますよ」

 膝に乗せたシアラに頬を寄せたミサヲが悪戯じみた笑みを浮かべ、2人と目が合った鋭時(えいじ)は呆れながらも柔らかい笑みを浮かべた。

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