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第57話【短所は長所】

偽研修生を各個撃破する作戦を取った鋭時(えいじ)達だが、

各々に合わせた対策を立てて来た偽研修生達に苦戦を強いられた。

「なんの!……しまった!?」

 目の前に迫る鎖の軌道を確認した鋭時(えいじ)が落ち着いて右手のひらを鎖に向けるが、水を纏って軌道を変えた鎖は鋭時(えいじ)の脇腹を打ち据えて防御術式を消し去る。

「高密度の【圧縮空壁(エアシールド)】を使える指輪も知ってるゼ! オレっちの術式には当たらないけどナ!」

 鋭時(えいじ)の不自然な動きからリッドリングを見破ったドウシュウは、歯を剥き出しにして笑いながら手元に鎖を戻した。


「【圧縮空壁(エアシールド)】! マジで参ったな……」

 ネクタイに手を当て全身を覆う防御術式を張り直した鋭時(えいじ)は、ドウシュウの鎖に巻き取られて遠くに飛ばされたアーカイブロッドに目を向ける。

「考える暇なんか与えるかヨ! 後で仲間も送ってやるゼ!」

 にやけた笑いを浮かべたままのドウシュウが鎖を振り、鎖は鋭時(えいじ)の構えた右手をすり抜けて顔面を強打した。


「くっ!【圧縮空壁(エアシールド)】! どうすりゃいいんだよ……」

 間髪入れずに破られた防御術式を再度張り直した鋭時(えいじ)は、ドウシュウの持つ鎖に意識を向けつつアーカイブロッドに目を向ける。

(みんなの命がヤバい以上、こいつを迂闊に使う訳には……)

 リッドリングに視線を落とした鋭時(えいじ)は小さく首を横に振り、即座に意識を前方の敵に向けた。



「きゃっ!」

 乾いた発砲音が響いた瞬間に合わせ、シアラは素早く横に跳ぶ。

「よく避けたねー、でも術式無しにどこまで逃げられるかな!」

 初弾を外した苛立ちを隠して平静を装ったシュウゴは、余裕の表情を作りながら拳銃を構え直した。


「うわっ!」

 次の発砲音に合わせて再度シアラが跳ぶが、勢い余ってバランスを崩して片膝をつく。

「勢い余って転ぶなんて無様だね、早く逃げないと次を撃っちゃうよ!」

 勝利を確信したシュウゴは歪んだ笑みを浮かべ、シアラに銃口を向けて引き金を引いた。


「わわわっ!」

「ホントすばしっこくてしぶといな~、早く諦めてくれよ」

 慌てて立ち上がったシアラが紙一重で銃弾を(かわ)し、苛立ちを隠す事無くため息をついたシュウゴは狙いを定め直す。

「誰が諦めるもんですかっ……!」

「ゴーレムがある限り術式は使えないし、効果範囲から逃げれば【遺跡】の中だ。死ぬのは時間の問題だよ!」

 毅然とした顔でシアラが無意識に腰に手を当て、鼻で笑ったシュウゴはマジックキャンセラーを搭載したゴーレムを指差してから拳銃の引金を引いた。


「そんな事は……っ!」

 慌てて銃口に意識を集中したシアラは、チャンスを信じて銃弾を避け続けた。



「冷却弾に徹甲弾に炸裂弾! これならどうかな?」

「無駄だと言っている!」

 リニアショットTTRに試験管を複数装填したドクが引金を引いたまま銃身の下を何度もスライドするが、劇場の床から吹き出す炎に薬品も液体金属も阻まれる。

「ふむ……これでも通らないか……」

「そろそろ手詰まりだろうけど、逃がしゃしないよ!【火炎焼壁(ファイアウォール)】」

 冷静に頷くドクに余裕の表情を浮かべたヒロナが鉈を振り、ドク達が入って来た劇場の出入り口が炎の壁に塞がれた。


「いよいよ覚悟を決める時かな……」

 退路を断たれたドクは目を閉じ、ため息をつくように深呼吸した。



「フンッ!」

「っと……そのグローブ、何か仕掛けがあるな?」

 跳ねるような軽いフットワークで踏み込んだソラキのパンチから大きく距離を取って避けたミサヲは、ソラキの手を覆う金属製のグローブを睨み付ける。

「なるほど、相手の力量を見極める冷静さは持ってるのか」

 感心したように軽口を叩いたソラキは両こぶしを持ち上げて構え直し、ミサヲの隙を(うかが)うように距離を詰め出した。


「伊達や酔狂で狙撃手してる訳じゃないからな」

 鼻で笑って軽口を返したミサヲは放電銃、ミセリコルデを構えてソラキの死角に回り込むべく慎重に足を動かす。

「それで、オレの強さの秘密は見破れたのかい?」

 ミサヲに余裕の表情を返したソラキは、パンチを打ち出す構えを取ったまま肩をすくめた。


「時折聞こえる圧縮空気の抜ける音……こいつは内側に着るパワードスーツだな」

 慎重に距離を詰めていたミサヲはミセリコルデを構えたまま耳を澄ませ、即座にソラキの手の内を推測する。

「正解だ! タイプ鬼と正面から殴り合うなら、これくらいの準備は必要だ!」

 脚のバネを溜めたソラキが自分を鼓舞するように大声を上げ、勢いよくミサヲに向かって踏み込んだ。


「そいつは準備のいい事で!……だが!」

「稼働限界まで逃げるつもりなら()めとくんだな、バッテリーはほぼ無限だ」

 大きく後ろに跳んでパンチを(かわ)したミサヲが更に数歩下がり続けるが、ソラキはその場で軽くステップしながら釘を刺す。

「なるほど、だからあたしにはタイプ雷獣を送り込んだ訳か」

「ああ、適材適所ってやつだ!」

 小さくため息をついたミサヲが呆れた様子で足を止め、その隙を逃さずソラキは踏み込む。


「ちっ! このままミンチにされて堪るか!」

 (わず)かに回避が遅れたミサヲは、咄嗟に手近のコンクリート片を拾って投げる。

「おっと……パワードスーツが無かったら、こっちに風穴が空いてたぜ」

 前方から凄まじい殺気を感じたソラキは足を止め、飛んで来たコンクリート片を金属のグローブで弾く。


「分かってたけど、この程度じゃダメかい!」

 無傷のソラキを確認したミサヲが再度近くのコンクリート片を拾って投げるが、今度のコンクリート片は途中で粉末となってソラキの周囲に広がった。


「これは煙幕? いや……コンクリ片を粉にするとか、大した馬鹿力だ」

 突然視界を遮られたソラキは冷静に煙幕の正体を分析し、呆れて肩をすくめる。

「逃げたか……まあいい、袋のネズミだ」

 煙幕が晴れると同時に近くの廃ビルへと駆け込んだミサヲを確認したソラキは、余裕の笑みを浮かべてゆっくりと歩き出した。



「何とか撒いたけど、すぐに追い付かれるな……」

 機械室の跡らしき小部屋に入ったミサヲは安全靴を履いた足で近くの壁を蹴り、散らばったコンクリート片を手当たり次第に握り潰す。

「上手く引っ掛かってくれよ……」

 入り口を警戒しながら部屋の奥まで移動したミサヲは、ミセリコルデを降ろして床板を剥がした。



「こいつは……また煙幕か!?」

 しばらくして機械室跡に入ったソラキは、立ち込めるコンクリートの粉末に顔を(しか)める。

「ようワン公、粉塵爆発って知ってるか?」

「何!? そんな小説みたいな手に引っ掛かるか!」

 警戒しつつ部屋に入った途端ミサヲの声が響き渡り、ソラキは両手のグローブを構えながら周囲を見回した。


(粉の中に可燃物は無いな……馬鹿め、粉なら何でも爆発すると勘違いしたか)

 数回鼻を動かしたソラキは安全を確信し、心の中でほくそ笑む。


「爆発から逃れるつもりなら……そこか!」

 目を凝らしたソラキが隅の床下から覗く銃口と赤いサテン生地を見付け、素早く踏み込んでパンチを打ち込む。


「な!? どこに行きやがった!?」

 だが床下の空洞にはミセリコルデとジャンパーしか無く、ソラキは慌てて周囲を見回す。

「こっちだ!」

 入口近くの天井に手足を伸ばして張り付いていたミサヲは、脱いでいた安全靴を投げ付けながら飛び降りた。


「くっ!?」

 不意を突かれたソラキは慌てて振り向きながら体勢を整え、飛んで来た1つ目の安全靴をグローブで弾く。


「なんの! どこだ!?」

 続けて飛んで来た2つ目の安全靴を弾いたソラキは、靴と共に降りてきたはずのミサヲを見失った。


「もらった!」

「ぐぅ!?」

 着地と同時にしゃがんでいたミサヲが立ち上がると同時に片足を蹴り出し、喉を指で挟まれたソラキは小さく呻き声を上げる。

「おりゃ!」

「がぁ!?……」

 力任せに足の指を動かしたミサヲが掴んだ喉笛ごと首の骨を折り、ソラキは短く悲鳴を上げて床に倒れた。


「足だから手加減出来ないんだわ、迷わず成仏しろよ」

 ソラキの死亡を確認しつつ安全靴を履き直したミサヲは、床下からジャンパーとミセリコルデを拾い上げた。



「ありゃりゃ!? ホーミングギャロットも駄目か……」

 投げ飛ばした機械仕掛けの糸が灼熱の壁に焼き切られ、ドクは慌てて残った糸を手元に戻す。

「これで13……どうやらネタは尽きたようだね?」

 右手に鉈を持ったヒロナが左手で取り出した携帯端末を確認し、勝利を確信した表情を浮かべてドクを睨み付けた。


「やはりLab13(ラボサーティーン)を収納数って本歌取りしたんだね、念の為に本を見せてて正解だったよ」

「はあ? 何言ってやがんだ?」

 安堵のため息をついたドクが静かに頷き、ヒロナは苛立ちを隠さずに聞き返す。

「ボクがLab13(ラボサーティーン)を使うたびに、キミはこっそり携帯端末を使ってたからね」

 余裕の表情を浮かべて肩をすくめたドクは、ソニックトリガーに取り付けている懐中電灯を外した。


「ライトを外してどういうつもりだい? 少しばかり軽くなってもあたいの術式は貫けないよ!」

 目の前の奇行を警戒したヒロナが鉈を向けるが、ドクは気に留める事無く外した懐中電灯を右手に持ち替える。

「本命はこっちだよ。機械刀(スバル)、起動!」

「しまった!?」

 静かにパスワードを発したドクが懐中電灯をヒロナに向けて振り、懐中電灯から伸びた光の刃は炎が噴き出す前にヒロナの鉈を切断した。

 

「やはり鉈はデコイで、【融解焼壁(メルトウォール)】を維持する術具だったんだね?」

 懐中電灯を振って光の刃を消したドクは、切り落とした鉈の先端を観察しながら構造を推測する。

「ご名答さ。でも、切り札を見せてもらったよ!」

 苦い顔をしたヒロナが渋々頷き、そのままドクの持つ懐中電灯を睨み付けた。


「あの術式を維持するには相当な魔力が必要だ……キミ、半覚醒してるね?」

「くっ……だから何だって言うんだい!?」

 起動したTダイバースコープを眺めていたドクが興味津々に振り向き、絶句したヒロナはすぐさま我に返って声を荒げる。

「出遭った不運は仕方ないけど、外道の手先にしとくのが惜しいくらいだよ」

「あの人は悪くない! あんた達さえ消せばあたいはあの人と……」

 大袈裟に肩をすくめたドクが心底残念そうな顔をしてため息をつくと、ヒロナは激しく首を横に振ってから徐々に声のトーンを下げて(うつむ)いた。


「窓越しの出逢い、か……奴等の考えそうな事だ」

「知った風な口を! あんたの手の内は全部見たんだ、勝負は預けるよ!」

 呆れた様子で呟くドクの言葉を大声で遮ったヒロナは背を向け、舞台袖に空いた穴に向かって跳び上がる。

「機械刀夜天光(ヤテンコウ)……起動」

「がぁ!? まだこんなのが……」

 静かに呟いたドクがLab13(ラボサーティーン)から金属の棒を取り出して軽く振り、棒から伸びた細長い糸が舞台に跳び乗ろうとしたヒロナの両脚を切断した。


「言ったはずだよ? Lab13(ラボサーティーン)の13は収納数じゃないって」

「ならここで全部引き出してやるよ!」

 両腕で這うように舞台を目指していたヒロナは、呆れた顔で近付いて来たドクを睨み付けながら懐に手を入れる。

「ちなみに収納可能な数はざっと計算して64兆の4乗だよ、流石に全部は埋めてないけどね」

 ただならぬ殺気を感じたドクは足を止め、そのまま涼しい顔で肩をすくめた。


「どういうつもりだい……?」

「せめてもの(はなむけ)だよ。ボクはキミの命を奪うしかないからね」

 愕然とした表情で聞き返して来たヒロナに複雑な表情を浮かべたドクは、小さくため息をついてから顔を上に向ける。

「見てんだろ? ボクは手の内を明かした、次の刺客はそれを踏まえる事だね」

 周囲を見回して静かに深呼吸したドクが苛立ちを含んだ声を上げ、Lab13(ラボサーティーン)からアーカイブロッドと同じ形状の杖を取り出した。


「すまない……」

 腕に入れる力も尽きたヒロナは、視線を舞台に向けながら既に椅子の無くなった観客席に倒れ込む。

「何も言うな、手元が狂う。機械刀刹那(セツナ)……起動」

 慎重に近付いたドクはパスワード発して杖から刃を抜き、ヒロナの首へと静かに振り下ろした。


「ミスがここまで響くとはね……流石にへこむよ」

 刃を軽く振ってから杖に戻したドクは、静かに首を横に振ってから壊れた劇場を後にした。



「うわっと! やっと見つけましたよっ、ツォーン!」

 転がるようにして銃弾を避けたシアラは、道端に落ちていたネコのぬいぐるみを拾い上げる。

「は? 何かと思えば服が消えたドサクサで落ちたぬいぐるみか」

 シアラの行動を確認したシュウゴは鼻で笑い、余裕の表情を浮かべて拳銃を構え直した。


「これはただのぬいぐるみじゃありませんよっ!」

「知ってるよ、ねーちゃんの術具なんだろ? でも今さら何になるんだい!」

 ネコのぬいぐるみを抱き締めながら睨み返したシアラに対し、シュウゴは自分の作り出したゴーレムに目を向けてから引き金を引く。

「ツォーン、黒モードですっ!」

 弾丸を避けたシアラが叫ぶと同時に白ネコのぬいぐるみが黒く変化し、シアラも鳥かごのように膨らんだスカートに多数のフリルをあしらった黒服に包まれた。


「なっ!? あんな服データに無いぞ! あれも結界なのか!?」

 突然黒服を身に纏ったシアラに驚いたシュウゴが引き金を何度も引くが、銃弾は全てシアラの結界服に阻まれる。

「無駄ですよ……【炸裂光弾(バーストスパーク)】!」

「うわっ!?」

 シュウゴに黒い日傘を向けたシアラが術式を発動するが、日傘から撃ち出された光弾はシュウゴの手前で音も無く消え去った。


「は?……ハハッ……仕掛けは知らないけど、術式が使える程度じゃ無意味だ!」

 腕で顔を庇っていたシュウゴは気が抜けたように笑い、段々と余裕を取り戻して歪んだ表情を浮かべる。

「出来れば使いたくありませんでしたけど、仕方ありませんね……」

「式を展開? どんな大技使う気か知らないけど、無駄だよ!」

 小さくため息をついたシアラが日傘を広げ、展開した2枚の光学紋様を警戒したシュウゴはマガジンを入れ替えてから拳銃の引き金を引いた。


「くそっ! なんて硬い結界なんだよ!?」

「無駄ですっ! 逃げるのなら今のうちですよっ!」

 全ての銃弾が結界に阻まれて驚愕の声を上げたシュウゴに対し、シアラは広げた日傘越しに警告する。

「どうせここは通れないんだ! ドーチンが人間を殺すまで足止めしてやるよ!」

 ゴーレムに目を向けて余裕の笑みを浮かべたシュウゴは、引き金から指を離して銃口を下に向けた。


「ハハッ!……どうした? 早く式を構成しないと、人間を助けに行けないぜ?」

 肩をすくめたシュウゴが顔を突き出して挑発するが、シアラは2枚の光学紋様を交互に見ながら意識を集中する。

「黙りなさいっ!【熔滅結界(プロミネンス)】!」

 2枚の光学紋様を閉じたシアラが術式を発動した瞬間、ゴーレムの足元から炎が噴き出した。


「う、嘘だろ!? おいらのゴーレムが……」

 アーチを描いて地面に消えた炎と共にゴーレムが跡形も無く蒸発し、シュウゴは呆然として立ち尽くす。

「もう逃げられませんよっ! 大人しく投降してくださいっ!」

「これはさすがに分が悪いかな?……なんちゃって!」

 軽く深呼吸したシアラが日傘を向け、シュウゴは観念したように頭を掻いてからシアラの背後に視線を向けた。


『『ギギー!』』

「【炸裂光弾(バーストスパーク)】! 何でZK(ズィーク)がここに!?」

 背後から迫って来た殺気に光弾を撃ち放って消し去ったシアラは、警戒しながら周囲を見回す。

「ようやく来やがったか! 全く冷や冷やしたぜ……」

「どうして再開発区に……まさか!?」

 ZK(ズィーク)の出現を確認したシュウゴが安堵のため息をつき、しばらく考えてから振り向いたシアラの視界に車止めの柵が入って来た。


「ご名答、その柵はおいらが小型ゴーレムで奥に動かしといたのさ。もちろん餌も忘れてないよ」

 自慢するように頷いたシュウゴが余裕に歪んだ笑みを浮かべ、懐から蓋の開いた小瓶を取り出す。

「あのゴーレムと同時に起動してたなんて……」

「タイプサキュバスなんて化け物を相手にするんだ、何重も策を用意しないと命がいくつあっても足りないよ」

 密かに【遺跡】まで誘導されていたと理解したシアラが呆れて呟き、シュウゴは静かに首を横に振ってから肩をすくめた。


『『ギギー!』』

「うわわっ!?」

 新たなK型ZK(ズィーク)の出現に気付いたシアラは、慌ててナイフのような鉤爪を(かわ)す。

ZK(ズィーク)はあれで終わりじゃないんだ! これだけの数を前に生き残れるもんか!」

 攻撃を外したZK(ズィーク)を不機嫌そうに睨んだシュウゴだが、【遺跡】の奥へと視線を向けてから満足そうに頷いた。


「お願いっ、マハレタ! 黒モードですっ!」

 素早くしゃがんだシアラが拾った白ヘビのぬいぐるみが黒くなり、腰に付けると同時に裾が膝までの長さしかない黒い着物姿へと変わる。

『ギーッ!』『ギギッ!?』

「無駄ですっ!」

 5体を越えるK型ZK(ズィーク)が一斉に襲い掛かるが、シアラの全身を膜のように覆った水の結界が全ての鉤爪を受け流す。


「【霧葬暗器(ミストリッパー)】!」

『『ギギャァ!?』』

 結界を圧縮して作った二振りの短刀を手にしたシアラが鉤爪を受け流す水結界を維持しながら駆け回り、シアラを囲むK型ZK(ズィーク)達は首を刎ね飛ばされて崩壊した。


「何だよ、あの化け物は!? くそっ、【魔凝土壁(アースウォール)】!」

 慌てて懐からナイフ型術具を取り出したシュウゴが術式を発動し、巨大な土壁が【遺跡】と再開発区の境界を塞ぐ。

「まだそんな手を!」

「【魔凝土壁(アースウォール)】!【魔凝土壁(アースウォール)】! これで戻るには迂回するしか無くなったな!」

 境界の異変に気付いたシアラが振り向くが、シュウゴは土壁を重ねて再開発区の入口を完全に塞いだ。


『『ギギー!』』

「また来ましたかっ! しつこいですよっ!」

 【遺跡】の奥から新たなZK(ズィーク)の群れが現れ、シアラは振り向いて短刀を構える。

『『ギャギャッ!?』』

「ハハッ……迂回すら出来ないか。おいらはドーチンと合流するよ、じゃあね」

 短刀を振りZK(ズィーク)の首を刎ね続けるシアラに対し、シュウゴは震えを押さえた声で壁越しに挑発した。


「させませんっ! 黒モードですっ、マフリク!」

 ZK(ズィーク)を駆除したシアラが懐から取り出したヒツジのぬいぐるみの顔が黒くなり、腰に付けると同時に黒いボディスーツで全身を包んでから白い軍服を羽織る。

「【磁鋼滑軌(グライドレール)】!」

 地中に結界を打ち込んで対物ライフル型の銃を2丁取り出したシアラが引き金を引き、電磁誘導により絶え間無く撃ち出された無数の石弾が土壁を粉砕した。


「な、なんだあ!? おいらの作った壁が何で……」

 背後からの轟音に驚いたシュウゴが振り向き、愕然として足を止める。

「逃がしませんよっ! ヴィーノ、黒モードで交代ですっ!」

 シュウゴを見付けたシアラが手にした黒いウサギのぬいぐるみを腰に付け、白いフリルがスカートのように揺れる黒いレオタード姿へと変わった。


「それがあんたの本当の姿って訳か! 今さら何が出来るもんか!」

 新たなシアラの姿に息を飲んだシュウゴはすぐさま呼吸を整え、再度背を向けて走り出す。

「【飛翔気流(フライトストリーム)】! 逃がすもんですかっ!」

 逃げるシュウゴの背中を睨んだシアラは蝙蝠のような羽を広げ、術式を発動して空に浮いた。


「なっ!? 速い!」

「これでどうですっ!」

 一瞬にしてシュウゴを追い抜いたシアラは、急旋回してシュウゴを蹴り飛ばす。

「ぐぁ!?」

「形勢逆転ですねっ! 降参してくださいっ!」

 吹き飛ばされたシュウゴが数回転がってから止まり、シアラは少し離れた場所に着地して投降を促した。


「まだだ! スピードには驚いたけどパワーは大した事無い!」

「もうあなたの攻撃はわたしに通じませんよっ!」

 押さえた頭を数回振ってから立ち上がったシュウゴが拳銃を構えるが、シアラは静かに首を横に振る。

「そいつはどうかな? 今のあんたをあの人間が見たらどう思うだろうね?」

「どういう意味かしら?」

 拳銃を向けて歩き回るシュウゴが悪意に満ちた笑みを浮かべ、シアラは不機嫌な様子で眉を(ひそ)めた。


「追い詰められるまで【証】を隠してたんだ、あの人間も知らないんだろ?」

「あー……そういう事でしたかっ」

 確信した様子で顔を更に歪ませたシュウゴを見たシアラは、余裕の表情で得心の行った頷きを返す。

「澄ましてんじゃねえ! このまま人間にあんたの姿を見せてやるよ! ハッタリじゃないぞ、おいらには地下移動の術式があるんだ!」

「そこがどこか、まだわかってないようですねっ!」

 声を荒げたシュウゴが転がった拍子に落としたナイフ型術具を見付けて拾おうとすると、シアラが突然大声でシュウゴの背後を指差す。


「なに!?」

『『ギッ! ギッ!』』

 ただならぬ気迫に思わず振り向いたシュウゴの目の前に、奇怪な音を立てながら迫るZK(ズィーク)の姿があった。


「まさか……待て! おいらは敵じゃ……しまっ!?」

 倒れている車止めの柵が視界に入ったシュウゴが慌てて懐に手を入れ、血の気の引いた顔で周囲を見回す。

『ギギーッ!』

「がぁあ!?」

 先頭のK型ZK(ズィーク)がナイフのような鉤爪を振り下ろし、探し物に気を取られていたシュウゴは肩口から噴き出る血飛沫を押さえながら悲鳴を上げた。


『ギーッ!』『ギギッ!』

「ぎゃあぁ! やめろ! 助け……死にたく……」

 後続のZK(ズィーク)が次々と鉤爪を振り下ろし、悲鳴を上げていたシュウゴの声が徐々に弱まっていく。

「生け捕りは無理ですね……そんな事より教授ですっ!」

 鉤爪を振る手が全く止まらぬZK(ズィーク)を見て軽くため息をついたシアラは【遺跡】に背を向け、元来た道へと走り出した。


「無事でいてくださいっ、教授っ……【空間観測(エリアグラスパー)】!」

 背後から何も聞こえなくなった辺りで立ち止まったシアラは、背中の羽に意識を集中して探索術式を発動する。

「よかったぁ……【飛翔気流(フライトストリーム)】! 早く教授のところに行かなきゃっ!」

 鋭時(えいじ)の生命反応を見付けて安堵のため息をついたシアラは再度背中の羽に意識を集中し、纏った風に乗って飛び立った。



「【圧縮空壁(エアシールド)】! このままじゃジリ貧だぜ……!」

 ネクタイに意識を集中して防御術式を発動した鋭時(えいじ)は、肩で大きく息をしながら周囲に目を向ける。

「そろそろ魔力も尽きる頃だロ? とっとと灰になっちまいなヨ!」

 焦燥する鋭時(えいじ)に気付いたドウシュウが歯を剥き出しにして笑い、水を纏った鎖を大きく振り回してから投げ付けた。


(おれ)の心臓の事も知られてんのかよ……おっと! あぶねー……」

 漏洩した情報量に呆れて大声を出した鋭時(えいじ)だが、同時に無意識のまま鎖を(かわ)して安堵のため息を漏らす。

「ちッ! 運のいいやつだゼ!」

 攻撃が外れて舌打ちしたドウシュウは、腕を振り上げて鎖を手元に戻した。


(拒絶回避が動きに慣れて来たからって、向こうもあれで終わりじゃないはずだ。いったいどうすれば……)

「頭ヲ借リルゾ、燈川鋭時(ヒカワエイジ)

 水を纏った鎖に注意を向けながらも打開策が見付からない鋭時(えいじ)の耳に、突然謎の声が聞こえて来る。


(なんだ? どこから声が……!?)

 謎の声が自分の口から出ていた事に気付いた鋭時(えいじ)が慌てて口を塞ごうとするが、既に自分の意思では指先ひとつ動かせない状態となっていた。

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