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[R-15]ステ=イション祟紡侖(すいぼうろん)~異界の住民が地球に転移してから200年、人間は希少生物になってました~  作者: しるべ雅キ
長い試練

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第38話【引き際】

再会したヒラネとセイハに疑似覚醒を解く方法は無いと告げられ、

鋭時(えいじ)は驚き大声を上げてから力無く項垂(うなだ)れた。

「そんなに落ち込まないでちょうだい、えーじ君。説明しなかったのはワタシ達も悪かったと思ってるわ」

「いえ、過ぎた事ですから……逆に2人の人生を変えてしまって申し訳ない」

 肩を落とした鋭時(えいじ)を見て謝るヒラネに、鋭時(えいじ)は力無く乾いた笑みを返す。


王子(おーじ)様が謝る必要は無いぜ、これはアタシ達が決めた事なんだからさ。この街で出逢いが無けりゃ、ウラ(ねえ)みたいに出逢いを探しに行くしか無かったんだし」

「ワタシ達がえーじ君と出逢ってなかったら、ウラちゃんに続いてセイちゃんまで街からいなくなってたところよ……だからえーじ君には感謝しかないわ」

 憔悴した鋭時(えいじ)を元気付けるようにスライム体で作った手の親指を立てたセイハに続き、ヒラネも元気付けるように微笑み掛ける。

「いくら人の役に立てても、それ以上に迷惑を掛けちまったら意味が無いぜ……」

「迷惑だなんて少しも思ってないわよ、人間に出逢うのはジゅう人にとって最高の幸せなんだから。ウラちゃんの件が片付いたら、ワタシ達はえーじ君に全身全霊でお礼をするつもりよ」

「ああ、アタシもそれまでにスライム体で王子(おーじ)様を悦ばせる技を磨いとくぜ」

 感謝された上に励まされて僅かに気力を戻しながらも肩を落とす鋭時(えいじ)にヒラネが握った両手を小さく上げながら真剣な眼差しを向け、続いてセイハも細く伸ばしたスライム体の先端を左右に曲げながら楽しそうに笑みを浮かべた。


「勘弁してくれよ……拒絶回避でどんなケガを負わせるか分からないのに……」

「だから呪いを解くために掃除屋を目指してるんじゃないですかっ、教授っ!」

 既に逃げられないと悟りながらも自身の体質への危惧から額に手を当てた鋭時(えいじ)を見詰めるシアラが、身を乗り出すように顔を近付けて満面の笑みを浮かべる。

「そうだったわね……スズナちゃんに話を聞いたから、ワタシもえーじ君の訓練に協力しようと思ったのよね」

「おかげさまで、訓練もどうにか形になりましたよ……」

 改めて鋭時(えいじ)を取り巻く複雑な事情を思い出したヒラネが落ち着きを取り戻しつつ微笑むと、僅かに赤らめた鋭時(えいじ)は右腕に通した革紐を見せてから軽く頭を下げた。


「それで今、大きな壁にぶち当たってるって訳だろ? チセ(ねえ)の口ぶりで何となく想像は付くけどさ、ゲートの周回はある程度順調のようだな」

「ほえ? どうしてわかったんですかっ、シロちゃんっ?」

 滲み出る余裕を鋭時(えいじ)の態度から読み取ったセイハに、シアラは不思議そうな顔で聞き返す。

「ん? コツを聞かないのが不文律の訓練で相談持ち掛けるのは、自分の確立した戦闘スタイルでそれなりの成果を出してるからだろ?」

「なるほど、確かにZK(ズィーク)の駆除はだいぶ軌道に乗って来たな……」

「でも、駆除出来ずに返り討ちに遭う時が必ず来る」

 シアラの疑問に快く答えたセイハの推測を聞いた鋭時(えいじ)も納得しつつ頷き呟くと、セイハが相槌を打つように鋭時(えいじ)達の悩みを言い当てた。


「シロちゃんすごいっ! なんでわかったんですかっ!?」

「やっぱりそうか、アタシも訓練時代に同じ壁にぶち当たった事があるんだ」

 驚きと尊敬の眼差しで見詰めるシアラに、セイハは自分の予想が的中した安堵を隠しつつ誇らし気に笑みを返す。

「誰もがぶつかる問題なのか……それでセイハさんはどうやって……!」

「その通りだぜ、王子(おーじ)様。その問題を突破する方法こそ、ゲートをクリアするコツそのものなんだ。つまり、王子(おーじ)様もシアラもクリアまであと少しってとこだぜ」

 安堵のため息をついてから目の前の頼もしい経験者に解決法を質問しようとした鋭時(えいじ)がハッと気付いて口ごもると、セイハは大きく頷いてからスライム体で作った大きな手の親指を立てて励ますように笑みを浮かべた。


「あー……やっぱりそうか。じゃあ解決策は自分で考えないといけないな……」

「セイハ様、それでは相談の意味がございません。せめて何か助言はございませんでしょうか?」

「チセ(ねえ)の頼みでもこればかりはちょっとな……」

 気まずそうに頭を掻いて(うつむ)いた鋭時(えいじ)を見かねたチセリが柔らかい物腰で解決法を引き出そうと食い下がるが、セイハは困った様子で口ごもりながらも回答を断る。

「セイちゃんの言う通りよ。えーじ君は南方の魔法使いや檸檬探偵みたいな物語の主人公と違って普通の人間なのよ? 仮に機械刀が手に入っても無理だと思うわ」

「待ってくれヒラネさん。話の腰を折って悪いんだが……機械刀ってのが何なのか教えてくれないか?」

 セイハに同意するように頷いたヒラネがチセリを説得するように鋭時(えいじ)の置かれた立場を説明すると、初めて聞く言葉に興味を持った鋭時(えいじ)が横から質問した。


「機械刀っていうのは文字通り機械仕掛けの刀で、人間の力でもZK(ズィーク)を駆除出来る数少ない武器のひとつなんだ。まあ、噂ばかりで実物なんて見た事も無いけどさ」

(ワタクシ)も学生時代に興味があって調べましたが作成している工房や職人などは既に存在せず、幻の名工居邑真洞(いむらまひろ)の遺作が数振り現存しているとの事でした」

 軽く微笑んだヒラネが答えるよりも先に説明したセイハに、チセリも自らが持つ情報を重ねて説明する。

「機械の知識と剣術の両方が必要な武器だから、昔から使い手も少ないのよ。でも今はそんな武器も必要無いくらいに、人間は危険から遠ざけられてるのよ?」

「ですが旦那様は……いえ、ヒラネ様の仰る通りでしたね。(ワタクシ)は旦那様に無理な期待をしていたのかもしれません」

 2人の説明を裏打ちするように頷いたヒラネが再度説得するように真剣な表情を浮かべると、チセリは口に出しかけた反論を飲み込んでから小さく首を横に振って表情を曇らせた。


「でも(おれ)ZK(ズィーク)を駆除する力を身に付けないといけないんだ……」

「そんなに思い詰めちゃダメよ、えーじ君。シアラちゃんやチセ(ねえ)ちゃんと何があったのかまでは聞かないけど、他の役割がえーじ君にはあるはずよ」

 重苦しくなった空気の中で絞り出すように口を開いた鋭時(えいじ)に、ヒラネは精一杯の笑みを浮かべて説得を試みる。

「ヒラ(ねえ)の言う通りだぜ、王子(おーじ)様。今時ZK(ズィーク)を駆除出来る人間なんて自衛隊にしかいないぜ……っと、それで思い出したけど王子(おーじ)様はこれに見覚えは無いか?」

 ヒラネに同意するように頷いたセイハも説得を試みるが途中で何かを思い出し、スライム体で作ったタキシードの中から短い棒状のものを取り出した。


「これは……? 折れたナイフのようだが?」

「ちょっとセイちゃん! これ、この間の強盗団が使ってたものでしょ!? 何でこんなの隠し持ってるの!?」

 セイハの取り出したものが刀身を強大な力で()し折られたナイフの柄だと鋭時(えいじ)が気付くと同時に、ヒラネもナイフの柄の出所に気付いてセイハに詰め寄る。

「珍しい術具だから、ドクに1本譲ってもらったんだ。何でも、自衛隊で使ってる術具だそうだぜ」

「つまり(おれ)が自衛隊の関係者だったら、この術具を見て何かを思い出せると?」

「そうだぜ、もうドクから見せてもらってるかもしれないけどさ」

 詰め寄って来たヒラネに軽く事情を説明したセイハの言葉から質問の意図を汲み取った鋭時(えいじ)が確認するように聞き返すと、セイハは既に鋭時(えいじ)がドクから同じ質問を受けた可能性に思い至って気まずそうに頭を掻いた。


「いや、初めて見る術具だよ」

「何だって!? こんな重要な手掛かりを忘れるとか、いったいドクは何を考えてやがんだ!」

「落ち着いてくれよ、セイハさん。ドクも色々と忙しかったし、聞く暇が無かっただけかもしれないぜ」

 静かに首を横に振る鋭時(えいじ)にセイハが突然大声を上げ、鋭時(えいじ)は慌てて両手のひらを正面に向けてセイハを(なだ)める。

「好奇心が服着て歩いてるような、あのドクが忘れるなんてね……」

「ドクが何考えてるのか分からないのは今に始まった事じゃないわ。それよりも、自衛隊以外でZK(ズィーク)駆除に関わる人間を考えた方が建設的だわ」

 鋭時(えいじ)(なだ)められたセイハが尚も釈然とせずに呟くと、ヒラネが呆れつつも慣れた口調で視点を変える提案をした。


「確かに一理あるけどさ、アタシもヒラ(ねえ)もロジネル型の事情は知らないだろ?」

「すまない。(おれ)ZK(ズィーク)関連の記憶は漠然としてて、具体的な事はさっぱりなんだ。以前ドクから聞いた、ロジネル型居住区にはZK(ズィーク)を駆除する手段が無いって話も、もしかしたら(おれ)の記憶を探るためだったのかもしれないな……」

 ヒラネの提案に応じつつもすぐさま壁にぶつかったセイハに、鋭時(えいじ)も力無く頭を掻いてから訓練中にドクから受けた説明の目的を推測して呟く。

「その説明は半分本当よ。自衛隊はZK(ズィーク)を駆除する訓練もしてるけど、基本編成は対人戦に主眼を置いてるから【遺跡】に入る事は滅多に無いわ」

「対人?……ラコちゃん、シロちゃん、自衛隊は誰と戦うんですか……?」

 鋭時(えいじ)の呟きに同意するように頷いたヒラネが知る限りの情報を説明すると、顔をこわばらせたシアラが躊躇うようにヒラネとセイハの顔を交互に覗いた。


「そりゃ外から侵略してくる人間とだろ? ジゅう人だと人間への攻撃には色々と制限があるからな……」

「だからって、人間同士で争うなんて……」

 気まずそうに頭を掻いたセイハのジゅう人を取り巻く複雑な事情を絡めた回答を聞いたシアラが沈んだ表情で(うつむ)く。

「ウラ(ねえ)を覚醒させた人間だって、結局アタシ達ジゅう人を通して王子(おーじ)様と利害が対立してるだろ? 争いはどうしても起きちまうんだ」

「人間の歴史は戦争の歴史、これは変えようもない事実だったな」

 自分に言い聞かせるように説明したセイハが小さくため息をついてから鼻の頭を指で掻くと、鋭時(えいじ)は同意するように静かに頷いた。


「何か思い出したんですかっ、教授っ!?」

「いや、本か何かを読んだ記憶が漠然と浮かんだだけだ……すまない」

「わたしの方こそすいませんっ、教授につらい記憶を思い出させてしまって……」

 新たな手掛かりに気付いて瞳を輝かせたシアラに鋭時(えいじ)が気まずそうな表情で頭を掻くが、シアラは深々と頭を下げてそのまま(うつむ)く。

「辛いとは言っても、人類史に争いが絶えないのは変えようのない事実だからな。この程度の記憶は、いつかどこかで思い出してたさ」

「旦那様の言う通りです、若奥様。(ワタクシ)達ジゅう人の先祖も元居た世界での記憶が無いだけで、争いが無かった訳では無いのでしょうから」

 (うつむ)くシアラを気遣うように鋭時(えいじ)が微笑んで軽く肩をすくめると、チセリも自分達ジゅう人の特異な歴史を説明しながらシアラの背中を優しく撫でた。


「人間もジゅう人も……いえ、全ての生物は生きてる限り争いから逃れられないのでしょうね。もちろん争わないに越した事は無いのだけど」

「ヒラ(ねえ)の言う通りだけど、こっちが傷付けたくないと思っただけで、向こうから傷付けられなくなる訳じゃないからな」

「でも国境には結界が張ってあって、外から誰も入って来れないんですよねっ?」

 遠い目をして静かに首を横に振るヒラネと小さくため息をついてから同じく首を振ったセイハに、シアラは国境を取り巻く事情を思い出して頭を上げる。

「確かにドクから国境の結界は向こう数百年張り続けるって聞いたな」

「じゃあ結界がある間は、戦争は起きないんですよねっ?」

「結界を破る技術が外側で開発されないとも限らないから常に備える必要はあると思うけど、たぶん起きないと思うぜ」

 顎に手を当てて同様の話を思い出した鋭時(えいじ)にシアラが詰め寄ると、鋭時(えいじ)は懸念を含みつつも安心させるように極力柔らかい笑みを浮かべた。


「よかった~……」

「ええ、国家間の争いを避けるために結界を張る決定をした当時の政府と、それを実現したシショクの12人には感謝の言葉もございません」

 肩を下ろしながら全身で安堵したシアラに、チセリも胸に手を当て小さく安堵のため息をついてから優しく微笑む。

「人の行き来が無くなったのは残念だけど、どの道ZK(ズィーク)がいるんじゃ戦争も交流も無いだろうからな」

「結局のところ国内のZK(ズィーク)を残らず駆除するまでは海外行きはお預け、アタシ達の世代じゃどうにもなんないから先の世代に託すしか無いのさ」

 ようやく和らいで軽くなった空気を全身で感じるが如く鋭時(えいじ)が肩をすくめると、セイハもスライム体で作った両腕を組んで遥か未来を見据えるように頷いた。


「セイちゃんの言う通りよね。今のワタシ達に出来るのは、1体でも多くのZK(ズィーク)を駆除するくらいかしら?」

「それと、未来を託す子供を育てる事ですねっ!」

 セイハの隣で自分の持つ役割を確認するかのように足元の潜行魔法に目を向けたヒラネに、シアラが満面の笑みを浮かべて大きく頷く。

「育てるか……教えてもらう立場の(おれ)も、いずれ育てる立場になるんだよな……」

「もちろんですっ! 教授がいないと、育てる子供もできませんからっ!」

 訓練の途上にある自身の立場を再認識した鋭時(えいじ)が自分の手を眺めて呟いた瞬間、シアラはヒラネに向けていた満面の笑みをそのまま鋭時(えいじ)に向けて大きく頷いた。


「おーいシアラさん、(おれ)が言いたいのはそういう事じゃなくてだな……」

「そうですよ、若奥様。子育ては(ワタクシ)達で分担しませんと、旦那様の負担が大きくなってしまいます」

 シアラの言いたい事を理解しつつも静かに首を横に振った鋭時(えいじ)が苦言を呈そうとした出鼻を挫くように、チセリが胸に手を当てながらシアラに微笑み掛ける。

「チセリさんも勘弁してくれよ……責任は取らなきゃいけないけどさ……」

「ふふっ、なんだか今から楽しみね。えーじ君とシアラちゃんの子供かぁ、きっと可愛いんだろうなぁ……」

 毒気を抜かれた鋭時(えいじ)が頭を掻きながら遠慮がちに周囲を見回すと、大切なものを見付けたように目を細めたヒラネがシアラを眺めながら小さく呟いた。


「何他人事みたいに言ってんだよ、ヒラ(ねえ)? アタシ達の役割だってシアラと何も変わらないんだぜ?」

「そうね……でも、ワタシは役割を果たす資格が無くなるかもしれないわ」

 横から聞こえて来た呟きに呆れた様子で聞き返すセイハに、ヒラネは目を閉じて静かに首を横に振って返す。

「待ってくれ、アタシにはヒラ(ねえ)が何言ってるのかさっぱり分からないぜ。なあ、王子(おーじ)様からも何か言ってくれよ」

「いや待て、色々と待て。さすがに(おれ)の方から……って、訳にはいかないだろ……どうすりゃいいんだよ……」

 予期せぬヒラネの言葉に驚いたセイハが鋭時(えいじ)に助け船を求めると、鋭時(えいじ)も慌ててヒラネの方を向きながら心底参った表情を浮かべた。


「冗談よ。えーじ君にその気になってもらうために、ちょっと意地悪してみたの。ごめんなさいね」

「そういう事かよ。さすがに冗談きついぜ、ヒラ(ねえ)

「セイハ様の仰る通りでございます、ヒラネ様。そのような冗談は今回限りとしていただけますね?」

 鋭時(えいじ)の慌てる様子を見てから吹き出す振りをしたヒラネが誤魔化すように笑って小さく舌を出し、セイハとチセリが安堵した様子でそれぞれ苦言を呈する。

「ごめんね、セイちゃん、チセ(ねえ)ちゃん。えーじ君とシアラちゃんにも色々と迷惑掛けちゃったわね。ワタシも次の世代を育てる役割、必ず引き受けるから」

「でも……ずっと未来の子供達が大人になったら他所の国と戦争になると思うと、ちょっと哀しいですね……」

 各々に謝罪したヒラネが握った手を小さく上げて決意を示すと、今度はシアラが表情を曇らせて(うつむ)いた。


「避けて通れない道だけど、必ず戦争になるって訳でもねえ。そこは未来の世代に託すしか無いぜ」

「そのためにも軍事力って選択肢は継承し続けないといけないわ、それも飛び切り強力な力をね」

 変えられ得ぬ現実を突き付けながらもシアラを安心させようと微笑むセイハに、ヒラネも同意するように頷いてから決意に満ちた微笑みを浮かべる。

「ほえ? 未来の子供達を守る力はわかりますけど、どうしてそんな軍事力が必要なんですかっ?」

「反撃が手痛いと予測出来ればお互いに手を出さないのは、規模に関わらず交渉の定石だぜ」

「それにもし戦争になっても、早く終わらせる事が出来るでしょ?」

 自分の想像を超える力の必要性に疑問を持ったシアラにセイハが自らの経験から得た教訓を説明すると、ヒラネもセイハの説明を裏打ちする持論の展開をしてから微笑んだ。


「なるほど……世界から戦争は無くならないけど、起きてすぐ終わらせれば無いも同然って訳か……」

「結局は現実主義を気取った理想論に過ぎないけれど、せめてワタシ達の住む国の未来だけでもそうあって欲しいわね」

 強大な武力を持つ意味を納得して呟く鋭時(えいじ)に、ヒラネは自嘲気味に微笑んでから遠い目をする。

「交流するにせよ戦争するにせよ、まずは国内の連携が必要か……」

(以前ドクが言ってた別の目的、(おれ)の記憶の副産物も関係してるのか……?)

 遥かに遠い理想を実現し得る条件を呟いた鋭時(えいじ)は、そのまま黙って考え事を始め出した。


「急に黙り込んでどうしたんだ、王子(おーじ)様?」

「え? ああ、すいません……ちょっと考え事をしてたもんで」

 深刻な様子で顔を覗き込んで来たセイハに驚いた鋭時(えいじ)は、慌てて誤魔化すように笑って頭を掻く。

「教授が口に出さずに考え事をするなんて珍しいですねっ、どんな素晴らしい事を考えてたんですかっ?」

「別に大した事じゃ無い。敢えて言うなら、未来を見据えた準備についてだ」

「わたし達の未来ですかっ!? 準備は万全ですからいつでもいいですよっ!」

 興味津々な顔で覗き込んで来たシアラの質問を鋭時(えいじ)が軽くあしらい誤魔化すと、シアラは嬉しそうに微笑みながら着物の裾をたくし上げる仕草を始めた。


「おーいシアラさん、(おれ)が言いたいのはそういう事じゃ無くてな……どのみち先の話だ、まずは目の前の試験から片付けないと……」

「そういえばワタシ達は、えーじ君とシアラちゃんの相談を聞いてたのよね」

 額に手を当て、もう片方の手でシアラに手を止めるよう促した鋭時(えいじ)に、ヒラネも半ば楽しむように眺めながら本来の目的を思い出して呆れた表情を浮かべる。

「話が色々と逸れちまったから纏めると、物語の主人公みたいに劇的に勝ち続ける事なんて出来ないし、自衛隊のように国のバックアップがある訳でも無いのが今の王子(おーじ)様が置かれた状況だぜ」

「そうか……訓練を続けて少しは記憶を戻せたと思っても、どこまでも(おれ)は普通の人間なんだよな」

 同じくヒラネの隣で呆れていたセイハが鋭時(えいじ)の立場を簡潔に説明すると、鋭時(えいじ)は手応えを上回る困難な道のりに乾いた笑いを浮かべた。


「普通なんかじゃありませんっ! 教授はわたしの特別なんですからっ!」

「落ち着いて、シアラちゃん。えーじ君の特別は戦うための特別じゃないわ。誰にだって引き際があるはずよ」

「それは、そうですけど……っ」

 自分の運命を否定されたかのような不安な表情を浮かべたシアラが立ち上がって真剣な眼差しで鋭時(えいじ)を見詰めるが、ヒラネに諭すように(たしな)められて口ごもる。

「すまないシアラ、そういうつもりじゃないんだ。ヒラネさんもすまない、人間は引き際が肝心だもんな……ん? 引き際……勝てない敵……」

「何か掴んだみたいだな。それが正解なのか、次のゲート訓練で分かるはずだぜ」

 迂闊な発言でシアラ達を不安にさせたと気付いた鋭時(えいじ)が謝る途中で引っ掛かりを覚えて考え込み始めると、セイハは満足そうな笑みを浮かべてスライム体で作った大きな手の親指を立てた。


「準備も色々必要だな……術式と、それに合う杖術の技も探さないと……」

「相談に乗れなかった代わりと言っちゃなんだが、ひとつアドバイスさせてくれ。実戦で型通りに戦える場面なんて稀なんだ、攻撃の軌道も敵の数も毎回必ず変わるからな」

 新たな希望を見出してスーツ右袖に組み込んだ収納術式からアーカイブロッドを僅かに取り出した鋭時(えいじ)に、セイハは身振り手振りを交えて自身の経験を話す。

「それじゃあドクは何のために杖術を(おれ)に……?」

「いくら型通りには使えないからって、大元の型が無ければ動けなくなる。武術は動く基本の骨組みで、ゲートや実戦で得た経験を肉付けして自分の得意な戦い方を見付けてくんだ」

「じゃあシロちゃんも最初は教授と同じ武術を習ったんですかっ?」

 スーツの右袖からアーカイブロッドを半分取り出して訝しむように眺める鋭時(えいじ)にセイハが手のひらに乗せたスライム体を使って説明すると、向かいに座るシアラが興味を持った様子でセイハに質問して来た。


「そういえばシアラは、ミサ(ねえ)からステ=イション式柔術を習ってるんだったな。アタシはヒラ(ねえ)とウラ(ねえ)からステ=イション式杖術を習ったんだけど、今は得物が得物だから闘魔(とうま)の構えがほとんどだ」

「確かに、場合によっては武器が変わる事もあるものな……」

 シアラの質問に快く答えつつ背もたれにスライム体で押さえ付けた大型ケースを親指で指し示すセイハに、鋭時(えいじ)もケースを見ながら頷いて呟く。

王子(おーじ)様とシアラは術式が武器だ、術具次第で戦い方も大きく変わると思うぜ」

「考えてみりゃ(おれ)だって、いつでもこいつが使える訳じゃないだろうからな……」

 鋭時(えいじ)とシアラの顔を交互に見たセイハが励ますように微笑むと、鋭時(えいじ)はスーツの袖から完全に取り出したアーカイブロッドを眺めながら呟いた。


「旦那様、今は術式の確認だけに留め置き下さいませ。午後は散策を取り止めて、ゲートの訓練にいたしましょうか?」

「そうしてもらえると助か……いや、予定通り散策で頼むよ」

 店内でアーカイブロッドを取り出した行為を遠回しに(なだ)めながら微笑むチセリの提案を受け入れようとした鋭時(えいじ)だが、笑顔の奥に潜む底知れぬ気配を察して静かに身震いしてからぎこちなく微笑みを返す。

「かしこまりました、旦那様」

「やっぱりチセ(ねえ)にはかなわないよな~。でもよ王子(おーじ)様、思い付いた術式を今すぐ作ったり試したりしなくていいのかい?」

 要望が受け入れられた喜びを左右に振る尻尾に出しながら立ち上がったチセリが丁寧な仕草でお辞儀をすると、対面でやり取りを眺めていたセイハが呆れた様子で頭を掻いてから予定の変更を再考させるべく鋭時(えいじ)に質問を投げた。


「大丈夫だセイハさん、今のところ手持ちの術式に効果を少し追加するだけだ」

「どんな式を追加するんですかっ、教授っ? ぜひ後で教えてくださいっ!」

 落ち着いてアーカイブロッドをスーツに仕舞いながら自信に満ちた笑みを返した鋭時(えいじ)に、今度はシアラが瞳を輝かせながら身を乗り出す。

「まだ効果を試す前だし、下手に教えてシアラの訓練に支障でも出たら……いや、(おれ)もシアラの術式を(おれ)の魔力で使える範囲で再現したんだよな……」

「そんな術式があるなんて、さすが教授ですっ! 今度見せてくださいっ!」

 自身の未熟が及ぼす影響を案じて言葉を選んでいた鋭時(えいじ)がシアラの期待に満ちた眼差しに押し切られるように自分の考え方を改めると、シアラはますます興奮して見開いた丸い目を輝かせた。


「だから、そんな大したものじゃ……取り敢えず教えられる範囲でいいか?」

「はいっ! よろしくお願いしますねっ、教授っ!」

 反射的に断る悪癖の再発を抑えて気恥ずかしそうに頭を掻いた鋭時(えいじ)に、シアラは満面の笑みを浮かべて大きく頷く。

「あらあら、旦那様も若奥様も心はすっかり訓練に向いてしまいましたね。本日の散策は今のお二方に相応しい場所にいたしましょうか」

「チセりんありがとうっ! どんな所か楽しみですねっ、教授っ!」

「いいのかい、チセリさん? 何ていうか……(おれ)達の都合で場所を変えてさ……」

 目を細めて2人のやり取りを眺めつつ散策の目的地を決定したチセリにシアラが大喜びで振り向くが、鋭時(えいじ)は遠慮がちに質問を返した。


「はい、問題ございません。ご案内するのは旦那様に必要な場所になりますから」

(おれ)に必要……? 記憶が戻りそうとかじゃなくてか?」

 椅子に座りながら確信に満ちた表情で微笑むチセリに、鋭時(えいじ)は前日までの散策と異なる目的に疑問を持って再度質問する。

「これまで旦那様方とロジネル型に住む方々が訪れそうな建物を回り、以前伺った博物館にも何度か足を運びましたが、旦那様の記憶につながる手掛かりは見付かりませんでしたので」

「それでさっきチセ(ねえ)は、アタシとヒラ(ねえ)に相談持ち掛けて来たんだよな?」

「左様でございます、セイハ様。旦那様の記憶を戻せる可能性が高いのは掃除屋と判断した以上、散策する場所も視点を変えようと思った次第でございます」

 沈んだ表情で鋭時(えいじ)の質問に答えるチセリにセイハが腕組みしながら複雑な表情を浮かべると、チセリは胸に手を当てて迷いを振り切ったかのように微笑んだ。


「おや、チセリちゃん。いよいよ鋭時(えいじ)くん達をあの場所に案内するんだね?」

「ええ……本来であれば旦那様の記憶が戻り、繁殖の準備が出来てからご案内する場所なのですが、今のお二方ならきっと有効活用していただけるかと」

「いや待て、色々と待て。その場所は……大丈夫なのか……?」

 様子を見に来たマキナに嬉しそうな笑みを向けたチセリを見ていた鋭時(えいじ)は漠然とした不安に襲われ、思わず大声を上げてからトーンを下げて遠慮がちに質問する。

「はい旦那様、大丈夫と仰いますのは何がでしょうか?」

「繁殖の準備とか聞こえたし、シアラやチセリさんの覚醒が進行すると思ってね」

 唐突な質問にチセリが余裕のある微笑みで聞き返すと、不安の正体を思い出した鋭時(えいじ)は頭を掻きながら慎重に懸案事項をチセリに話した。


「それならご安心ください。本来でしたら繁殖の下準備に使う場所ですが、他にも使いようがございますので」

「大丈夫よ、鋭時(えいじ)くん。チセリちゃんの言ってる事はあたしも保証するよ」

 鋭時(えいじ)の不安を理解して静かに首を横に振ってから微笑むチセリの隣で、マキナも胸に手を当てて自信に満ちた笑みを鋭時(えいじ)に向ける。

「面白そうだな、アタシも着いて行っていいかい?」

「ちょっとセイちゃん!? そんな事したらえーじ君達に迷惑でしょ!」

「迷惑なんてとんでもございません、ヒラネ様とセイハ様にもご一緒していただきたいと思っていたところでございます」

 軽い口調で同行を願い出たセイハをヒラネが激しい口調で注意するが、チセリは落ち着いた様子で静かに首を横に振ってから優しく微笑みかけた。


「いいのかいチセ(ねえ)? なら遠慮なく着いて行くぜ。よろしく頼むぜ、王子(おーじ)様」

「あ、ああ。よろしく……」

 チセリの提案を快く引き受けてから嬉しそうに笑い掛けて来たセイハに、鋭時(えいじ)はぎこちなく微笑みを返す。

「ワタシはお店に戻るから、遠慮しとくわ。そろそろらっぷちゃんとさなちゃんの調整もしないといけないから」

「かしこまりました、ヒラネ様。またの機会に是非よろしくお願いします」

「うん……よろしくね、チセ(ねえ)ちゃん。えーじ君とシアラちゃんもまたね」

 喜ぶセイハを尻目に同行を断ったヒラネに対しチセリが丁寧にお辞儀を返すと、ヒラネは詰まるように返事をしてから精一杯の笑顔を浮かべて席を立った。


「まったねーっ、ラコちゃんっ! わたし達も行きましょうかっ、教授っ!」

 弾むような声でヒラネを見送ったシアラが立ち上がってから鋭時(えいじ)のスーツの袖を掴んで満面の笑みを浮かべる。

「そうだな……チセリさん、案内を頼むよ」

「かしこまりました、旦那様」

 袖を掴んで来たシアラに軽く微笑みを返した鋭時(えいじ)が立ち上がると同時にチセリも立ち上がってお辞儀をし、一行はチセリを先頭に全自動食堂マキナを後にした。



「チセリさん、そっちはテレポートエレベーターのようだけど?」

「はい、本日は凍鴉楼(とうあろう)の中をご案内しようと思いまして」

 店を出たチセリが正面玄関とは反対の方向に歩き出した事に気付いて呼び止めた鋭時(えいじ)に、チセリは立ち止まって振り向いてから今まで見せた事の無いような笑顔を浮かべてお辞儀する。

「そういえば、今まで他の階に行った事が無かったな」

「同じ建物って言っても工場から仕入れた商品を買うだけなら、だいたい同じ階にある馴染みの店で済ませちまうんだ。うちやマキナ母さんの店は外から入ってすぐだから色んな階の客も来るけど、基本は互いに必要以上の干渉はしないぜ」

 散策の目的を理解した鋭時(えいじ)が今までの生活を振り返るように天井を見上げると、後ろを着いて来たセイハが同じく天井を見上げながら自分を含めた凍鴉楼(とうあろう)の住人の生活事情を説明した。


「言われてみれば、マキナさんの所にいた時や乙鳥(つばめ)商店で買い物してた時も、他の客の視線は時折感じたけど話し掛けてくる気配は無かったな……」

凍鴉楼(とうあろう)に限らずステ=イションの住人は大体そんな感じだ、余程の事が無い限り王子(おーじ)様に声を掛けては来ないぜ」

 ステ=イションでの生活に慣れて周囲を見回す余裕が出来た事に気付いて呟いた鋭時(えいじ)に、セイハは豪快に笑ってからスライム体で作った大きな手の親指を立てる。

「そいつは助かるよ、どうにも(おれ)は人と話すよりひとりで考える方が性に合ってるみたいでさ……なのに誰かと話さないと記憶が戻らないから、話さなきゃいけない人の数が少ないのは助かるよ。褒められた話じゃないんだろうけどさ……」

「今はそれでいいと思うぜ。けど、ここには王子(おーじ)様を傷付けようなんてジゅう人はひとりだっていねえ、それだけは忘れないでくれよ」

「ああ……ジゅう人は良き隣人だってのは、今までの説明で理解してるつもりだ」

 半ば安堵しながら自嘲気味に笑った鋭時(えいじ)に対しセイハが励ますように微笑むと、鋭時(えいじ)はしばらく考えてから乾いた笑いを返した。


「良き隣人か……ドクも中々に粋な説明をしてくれたもんだ」

「やっぱりドクの受け売りって分かったか……記憶が戻れば凍鴉楼(とうあろう)の全ての住人と知り合いになれるんだろうか……」

 自分の発した言葉の出どころをセイハにあっさり見抜かれた鋭時(えいじ)は、照れ笑いを浮かべて頭を掻きながら遠い目で天井を見つめる。

「そんなの無理だ、きっとミサ(ねえ)やヒラ(ねえ)でも無理だぜ。凍鴉楼(とうあろう)を全部回った事がある住人なんて、チセ(ねえ)くらいじゃないのか?」

「確かにテレポートエレベーターでどこにでも移動が出来ると思うと、他の階まで見てみようとは思わなかったな。ましてや(おれ)は記憶の手掛かり探しがメインだったから、外を回るのが多かったものな……」

 鋭時(えいじ)の呟きを聞いたセイハが思わず吹き出してから先頭に立ったチセリへと目を向けると、鋭時(えいじ)も自分の置かれた状況を思い返して笑いを堪えながら呟いた。


「ロジネル型居住区から来られた人間が凍鴉楼(とうあろう)の中まで入った記録は、ここ数十年ございませんでした。旦那様の記憶の手掛かりを考えるのであれば、まずは人間の立ち入りそうな外周区の施設を中心に回るべきと考えたのでございます」

「そこまで気を使ってもらったのに、何も思い出せなくて申し訳ない」

 鋭時(えいじ)とセイハの会話が終わるタイミングを見計らって振り向いたチセリに対し、自分の不甲斐無さを痛感した鋭時(えいじ)は頭を下げる。

「教授は何も悪くありませんっ! 悪いのは教授に呪いを掛けた人達ですよっ!」

「若奥様の仰る通りでございますね。旦那様の記憶がZK(ズィーク)を駆除する事で戻せると言うのであれば、(ワタクシ)は掃除屋の集まる凍鴉楼(とうあろう)を案内するまででございます」

 鋭時(えいじ)のスーツの袖を掴んでいたシアラが強い意志を込めた丸い目を見開き鋭時(えいじ)の顔を覗き込むように見上げると、チセリも同意するように丁寧なお辞儀をしてからテレポートエレベーターの操作パネルを手で指し示した。


「マキナ母さんの所でチセ(ねえ)が言ってた場所がそこなんだよな? アタシにも皆目見当が付かないんだけど、どんな所なんだい?」

「それは着いてからご説明いたしましょう、行先は13階のRでございます」

「13階……って自販機街だろ? あんな所に案内してどうすんだい?」

 鋭時(えいじ)を挟んで操作パネルを覗き込むセイハにチセリが行先を伝えると、セイハは顎に手を当てて思い出すしぐさをしてから驚き呆れた表情を浮かべた。

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