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村の危機!燃え盛る村に現れたのは…

村の入り口広場まで行くとリーユエが消火しながら避難誘導をしていた。村人も数人で消火活動している。

「リーユエ!」

「アヴィリオさん!大丈夫ですか?」

「俺のことは良い。お前は避難誘導を優先しろ。火は俺が何とかする」

 リーユエは頷くと声を張りながら、走っていった。

 アヴィリオは指笛を鳴らす。すると数匹のフェローウルフがすぐに駆け付けた。

「お前たちは子どもを優先的に村の外に連れ出してくれ」

 フェローウルフは頷くと、二度遠吠えをして駆け出した。

 それからすぐにアヴィリオは村全体に雨を降らせる。しかし、魔法で発火された火はそう簡単には消えなかった。雨を降らせながら、特に火の勢いの強いところには別の魔法で補ったりしているが完全鎮火には至らない。

「くそっ…!」

 このままでは村がほとんど焼け落ちてしまう。そんな焦りがアヴィリオの判断力をどんどん鈍らせていく。

「アヴィリオさん!避難おおむね完了しました。あとは…」

「おーい…」

 少し離れたところから声がする。2人は急いで声のする方へ向かうと、未だごうごうと燃え盛る家屋から一人の男性がトーマスを背負って出てきたところだった。

「先生!おじいちゃん!」

 リーユエが駆け寄ろうとしたその時。家が崩れ燃え盛る柱が男性たちをめがけて倒れる。リーユエは必死に手を伸ばすが届かない。アヴィリオも咄嗟に魔法を発動することも間に合わなかった。誰もが「もうだめだ」と思った瞬間、先ほどまで燃えていた家が一瞬について凍り付いた。

 全員何が起こったのか分からずその場で呆然とする。しかし、いち早くハッと我に返ったアヴィリオが叫んだ。

「リーユエ!」

 その声にハッとしたのか驚いて倒れこんだ男性の所に駆け寄った。

「先生!しっかりしてください!村の外に出ましょう!」

 男性はコクリと頷くと立ち上がって走っていった。

 その場に残ったアヴィリオの背後に歩み寄る一つの影があった。

「……まさか来るとは思わなかった、…オリビア」

 そこには銀色の髪の少女、オリビアが立っていた。オリビアはにこっと微笑んでいる。

「駆け付けるって言ったでしょう?」

「ほかにも駆け付けるタイミングはあったと思うが……。まあ、いい。さっさと鎮火しよう」

 そういうとさらに魔法を展開しようと手を伸ばす。しかしオリビアがその手に触れる。

「ここは私に任せて。これだけ雨を降らせてくれたのだから、ここからは一人で大丈夫よ」

 そういうと不敵に微笑む。

アヴィリオはスッと手を下ろすと、パチンと指を鳴らして雨をやませた。

「……まかせた」

「ふふ、はーい」

 オリビアは目を閉じ、村の範囲を探る。これは全体的に魔法をかけるときに必要な範囲を確定し魔力を無駄に浪費しないために必要なことだ。

 村の全体を把握すると、目を開く。そして彼女の周りに雪が舞い落ちる。

「――…凍てつきなさい」

 そう唱えた瞬間、オリビアを中心に村全体が凍り付く。炎は完全に消え、わずかに冷気が漂っている。

 アヴィリオはその光景を興味深そうに眺めていた。

「…やっぱりすごいな。流石『史上最強の天才』」

「褒めても何も出ないわよ?」

 ふふん♪と上機嫌に答えるオリビア。それから両手でパンッと打ち鳴らすと、村全体の氷が解ける。そこには火で焼け落ちた家屋や焦げた畑、木々だけが残っていた。

 アヴィリオはその光景を苦虫を噛み潰したような顔で見ていた。

それから静かに口を開く。

「……みんなのところに行こう」

 そういって歩き出すアヴィリオのあとをオリビアは続いて歩き出した。


 村の中心に村人たちは集まっていた。変わり果てた村の姿に呆然とする者、泣き崩れる者、力なくうなだれる者、様々だった。

 アヴィリオは村人たちの前まで歩いていくと、深々と頭を下げる。

「…俺のせいですまなかった。俺がもっとちゃんとしていればこんなことにはならなかっただろう。本当にすまなかった」

 それに続けてオリビアも頭を下げる。

オリビアはアヴィリオを通してずっと村の様子を見ていた。だからもっと早く駆け付ければこんな被害はなかっただろうとか、元はと言えば勇者と戦闘してるときに来ていればとずっと考えていた。

 村人たちは慌てて顔をあげるように促す。

「アヴィリオのせいじゃねーよ!どう考えたってあの勇者たちが悪いだろ!」

「そうよ!あんたは悪くないわ!」

「むしろ守ってくれたじゃないの!大怪我までして…」

 村人たちが口々にアヴィリオの擁護を口にする。

アヴィリオは嬉しさを感じながらも口惜しさと申し訳なさで顔をあげることができなかった。そんなアヴィリオの肩にオリビアで優しく触れる。それから、ゆっくりと顔をあげた。

 村人たちの奥からリーユエが歩いてくる。

「アヴィリオさん!火を消してくださってありがとうございました。……そちらの方は?」

 そういうとオリビアのほうに視線を送る。

 オリビアはにっこりと微笑むと美しい所作で一礼をする。

「初めまして、私はオリビア。彼と同じ魔人よ」

「そうですか…初めまして、リーユエです。ご協力感謝します」

「いえいえ。……そうだ、怪我をした人はいる?たいていのものは治せると思うから手伝うわ」

「え…いいんですか?それはありがたいんですが…」

 リーユエは一瞬アヴィリオのほうを見た。初対面のオリビアを少々警戒しているようだった。アヴィリオはその視線に気づくと静かに頷いた。それを見て安心したのかリーユエはオリビアのほうを向き直る。

「…失礼しました、ありがとうございます。あちらで手当てしてます、案内してあげてください」

 リーユエが近くにいた人に案内を頼むと、オリビアは足早に向かっていった。

 オリビアが見えなくなるとリーユエはその場にガクンと座り込んだ。その表情は今にも泣きそうだった。

「ど、どうすればいいんだろう…。こんなことになって、なにからすれば…明日からもどうやって……」

 ぼそぼそと小さい声で呟き、顔色は次第に悪くなっている。

 突然の出来事でリーユエも気が動転しているようだった。周りの村人たちも不安の色が滲んでいる。

「リーユエ、怖くともいい。自信がなくともいい。ただ、それを態度に出すな。お前はこの村の長だろう?不安は伝染する。上に立つ者は周りの者に不安を気取られてないけない」

 ただまっすぐ見つめ、少し厳しい口調でアヴィリオは話す。リーユエはそれを黙って聞いていた。

「わからないなら話し合え。不安なら虚勢でもいいから声を張れ。泣きそうなら逆に笑っていろ。空元気も元気のうちだ。長だからといって一人で抱える必要はない。声をかければ、村の者たちは手を貸してくれるだろう」

 グスンと鼻をすする音が聞こたが、すぐに乱暴に目をこするとリーユエは立ち上がった。

「わかりました、ありがとうございます!…アヴィリオさんにはいつも助けてもらってばかりですね…」

 リーユエはそういいながら苦笑いをこぼす。それから村の人たちを話し合うと言って走っていった。

 少しすると治療を終えたオリビアが戻ってくる。しばし2人は並んで村人たちを眺めていた。

すると突然アヴィリオが口を開く。

「オリビア、治療のあとで悪いが手伝ってくれるか?」

「……断ったら?」

「一人でやる」

「そんなの断れないじゃない。…断る気もないけど、ちゃんと加減するのよ」

「ああ」

 2人の会話を終えて、アヴィリオはリーユエのもとへ向かう。

 リーユエたちは寝床をどうするかなどいろいろ話し合っていたようだった。

「もう一度、村の外へ出てもらえないか?」

「何をするつもりだ?」

 話し合いに参加していた中年の男性が訝し気に聞いてくる。


「村を、修復する」


 その場にいた全員が弾かれたように驚いた顔をした。修復する魔法はとても難しく、範囲が広くなればなるほど膨大な魔力が必要となる。村を丸々一つとなればいったいどれほど必要なのかわからない。

「しょ、正気か?!」

 一人の男性が取り乱したように中央に置いてあったテーブルをバンと叩く。

 リーユエも信じられないといった表情をしていた。

「俺一人なら無理だが、今はオリビアもいる。大丈夫だ」

 その場にいる者たちはざわざわしていた。疑いと少しの期待の声が混じっている。それはアヴィリオの実力を見たからだろうか。

 リーユエはしばらく考えた後、ゆっくりと顔をあげた。

「……わかりました。ただし、今回はあなたの『ご厚意』ではなく、村からの正式な『依頼』とさせてください。報酬も払います」

 そういうと深々と頭を下げる。

「村を…直してください」

 その姿勢に、周りの人たちは一瞬顔を見合わせたあと同じように頭を下げた。

 アヴィリオは自信に満ちた笑顔を浮かべる。

「まかせておけ」

そう言いと、踵を返して村の入り口に向かった。



村の入り口にはすでにオリビアがいた。フェローウルフと共に子どもたちをあやしているようだった。

よく見るとオリビアたち以外にもう一人いるのに気づく。その姿を見てアヴィリオは大きく目を見開く。

「トーマス、怪我はもういいのか?」

 トーマスはアヴィリオに気付くとにかッと笑って元気そうに手を振った。

「おう!もうピンピンしておるよ!このお嬢ちゃんのおかげじゃ」

 話を聞くところによると、トーマスは本当に危険な状態だったらしい。誰もがあきらめた時、オリビアが駆け付け回復魔法をかけてくれたおかげで助かったらしい。

「すごかったんだよぉ!おねえちゃんのね、手からね、きらきらーってひかってね!」

「そうなの!とってもきれいでね!みんなあーっという間になおったんだよ!」

 周りの子どもたちが興奮気味に話し始める。

 アヴィリオは「そうか」と言って子どもたちの頭を優しくなでた。

 そんな様子を見ながらオリビアが少し真面目な表情で、「話はついたの?」と問いかけた。アヴィリオは静かに頷く。

 それからオリビアはため息をひとつつくと、子どもたちに村から出るように話をする。「どうして?」と首を傾げている子どもたちに説明する。

「これからね、お姉さんとこのお兄さんで村に魔法をかけるの。とーっても綺麗だから外から見ててね」

 そういうと子どもたちは目をキラキラさせて元気よく返事をした。

 それから間もなく大人たちも村の中から歩いてくる。リーユエが説明して全員を連れてきたのだ。全員、アヴィリオたちを見ると深々と頭を下げた。

 村の中に人がいなくなったことを確認し、2人は少し距離を置いて立つ。それから一瞬顔を見合わせ、正面を向き直ると両手を伸ばす。2人が意識を集中させ始めるとアヴィリオの手が赤く光り、オリビアの手が真っ白く光りはじめ、同時に唱える。


「思い出せ 本来の姿を 侵略の炎に影を落とし 真なる水面に映したまえ」

「遡れ あるべき姿に 神聖なる光に過去(ゆめ)過去を溶かし 真なる水面に映したまえ」


 2つの光が混じり合い村全体を包む。そして光が村から消えるとすっかりと元通りに戻っていた。

 村人たちは感激の声をあげ、走って燃え落ちたはずの自分の家へと戻っていく。その時の顔は喜びに涙を流し、眩しいくらいの笑顔だった。リーユエとトーマスもゆっくりとその場から村を眺め、リーユエは涙をにじませトーマスは嬉しそうに何度もうなずいていた

 アヴィリオはその光景を見て安堵したとき、その視界が大きくゆがんだ。

 ドサッ。アヴィリオの体はその場に力なく倒れる。傍にいたオリビアが慌てて肩を揺らし呼びかける。近くにいたトーマスたちや村人たちもその状況に気付いたのか駆けよってくる。

「アヴィ!しっかりして、アヴィ!!」

「アヴィリオさん!」

 その声を遠くに聞きながら、アヴィリオは意識を手放した。


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