謎の4人がやってきた②
リオンの剣が白く光を帯び、アヴィリオの体を両断した――…。
「ぐふっ…」
アヴィリオはその場で倒れ、辺りは赤く染まり血だまりはどんどん広がっていく。
「アヴィリオさん!!」
リーユエたちが叫び駆け寄ろうとするが、村人たちを守るようにフェローウルフがその前に立ちはだかる。牙をむき出しにして威嚇するように唸っている。
リオンが剣についた血を払う。キャメロットとエリッサも少しよろけながら合流する。
「けほっ…。もう信じらんない!このキャメロット様を吹き飛ばすなんてー!」
「ふぅ…、強化魔法が間に合ってよかったです」
エリッサが祈るように手を握ると優しい光を放つ。すると、4人の傷が見る見るうちに治っていく。
傷が治るとリオンは村人たちに向き直り叫んだ。
「俺に逆らうものは『ああ』なるのだ!無駄な抵抗はしないのが賢明だぞ。この聖剣はすべてを切り捨てる!」
自信満々に胸を張るリオンの首筋に冷たいものが触れる。
それと同時にそれまで感じたことのない禍々しい気配、吐き気を催すほどの殺気と憎悪が襲い掛かる。4人はゾッと背中を這うような寒気を感じ動けなくなった。
「…聖剣、か…。なるほど、少し油断しすぎたようだな」
その後ろに先ほど両断されたはずのアヴィリオが立っていた。
その手には真っ黒な細長い剣が握られ、その切っ先はリオンの首元につけられている。
リオンが『やられる…!』そう思ったとき、アヴィリオの剣に光の帯が巻き付く。それと同時にダーディオンがアヴィリオに両腕を振り下ろすが、そこには誰もおらず地面が抉れるだけだった。
アヴィリオは攻撃を避け、宙を舞うように村人たちの前に着地する。その体に傷は見当たらないが服が裂けて血が付着し、先ほどの惨劇が現実であることを物語っていた。
リオンはありえないものを見たような顔をしながら怒鳴り散らす。
「なぜだ!!あり得ない!確かに俺はキミを切った!なのに…なぜ生きてる!?」
アヴィリオはフッと笑う。するとその真紅の瞳が光る。
「それは…俺が魔人だからだ」
4人は驚愕し武器を構える。
「<ファイアーボール>!!」
「<―…聖なる剣よ、我が身を守り悪しきものを貫け>」
キャメロットの周りに炎の玉が無数に浮かび上がり、エリッサから光が溢れ大きな剣が現れる。その二つが同時にアヴィリオに向かって飛んでいく。
アヴィリオの周りは砂煙がたつ。さらに畳みかけるようにダーディオンが腰に下げていたサバイバルナイフを2本投げつける。
しかし、ナイフは弾かれ一気に砂煙が吹き飛ぶ。だが、そこにアヴィリオの姿はなかった。
「ぐはっ…!」
一瞬遅れてリオンの腹部に激痛が走る。見ると腹部の鎧が割れている。アヴィリオに蹴られたのだと気づいたのは、吹き飛ばされた後だった。
「なんなの…!?<アクアショット>!」
キャメロットが叫ぶが何も起こらない。
「え…?な、なんで?どーなってんの?!」
「魔法を妨害されただけで慌てすぎだ」
そういったアヴィリオの声はキャメロットの耳元から聞こえる。その瞬間アヴィリオの手から炎が噴き出しキャメロットを覆った。
「「キャメロット!!」」
エリッサとダーディオンが叫ぶ。
しばし燃え続ける炎。その中からアヴィリオに向かって一筋の電撃が放たれる。パチンとアヴィリオが指を鳴らすと風の障壁が現れ、電撃を無効化する。
その隙に炎が吹き飛ばしキャメロットが姿を現す。
キャメロットは炎を受ける寸前に結界で身を守っていたため服が少しこげていたが、ほかに目立った外傷はなかった。
「舐めるなぁ!!」
怒りをあらわにするキャメロットの周りにいくつもの石が浮かび上がり、すべて杭に変わる。そしてそれらはすべて一点に向かって放たれる。「やった!」とキャメロットが笑みをこぼした瞬間、目の前に水の玉が飛んでくる。間一髪で避けたものの体勢を崩す。すかさずアヴィリオが距離を詰め剣を振りぬく。
「させません!」
エリッサがキャメロットの前に飛び出し、光の盾で攻撃を防いだもののそのまま2人とも吹き飛ばされてしまう。
ハッとしたダーディオンがあたりを見渡すがアヴィリオの姿はない。次の瞬間、強烈な一撃が彼を襲う。
「ぐっ…ぅおらっ!!」
2、3歩後ろによろけつつも大剣を握り振りまわす。アヴィリオはそれをも避けると大剣の上に着地する。
「大剣は攻撃のバリエーションが少ないから読みやすい」
「ち…くしょう!」
そういって首を落とそうとした時、背後から気配を感じる。そう思ったのも束の間痛烈な一撃が振り下ろされた。
カキンッと思い切り剣が打ち合い、つばぜり合いとなる。
気配の正体はリオンだった。リオンは真剣な表情をしており少しの怒りをも感じさせる。
そのままリオンが力に任せ振り切ると、そこからは両者一歩も譲らない打ち合いが始まる。傍から見れば何をしているかもわからないほどのスピード。誰もその打ち合いに割って入ることなどできなかった。
しかし、そんな打ち合いも突如として終わりを告げる。
リオンの剣が飛ばされその場に倒れこむ。アヴィリオはリオンに刃を突きつける。
「我が名はアヴィリオ・クライシス。前魔王ルドルゼン・クライシスの仇、ここでとらせてもらう!」
突きつけた刃を振りかぶる。
その時、2人から少し離れたところから声が響く。
「キャメロット!今です!」
「<ファイヤーアロー>!」
アヴィリオの真上から炎の矢が降ってくる。それを後退して避ける。
そして、また前に踏み込もうとした時、背後から猛烈な熱と不自然な光を感じる。振り返ると、村から火があがり村人たちが悲鳴をあげながら逃げまどっていた。
先ほどのファイヤーアローはアヴィリオを狙っただけでなく、村にも十数本の矢が撃ち込まれていた。炎はごうごうと燃え上がる。
アヴィリオはハッとして勇者たちのほうを向き直るがすでに姿はなかった。
ギリッと奥歯を噛み締め、村に急いで向かった。