十九話 クッキーのある風景
「いただきまーす」
少女は朗らかな声で言う。
「召し上がれ。アラタも」
「いただきます」
デミグラスソースで作られた野菜ゴロゴロシチューをまず口にする。どこかなつかしい味がして、市販のルーを使っているのではなく、最初から煮込んで作っているのだろう。素人レベルの料理ではなかった。
「ウマいな! フェイト、これはプロレベルだよ。金を出してもいい」
「お世辞はいいわよ。何万皿もこのシチューを作っているから自慢の一品ではあるけど」
「あい、クッキーを食べてごらん?」
僕は少女に言った。
「うん!」
少女は満面の笑みで目を輝かせながらクッキーを一つ取って口に入れた。
「どう、かしら、あい」
不安げな声色でフェイトは少女に尋ねた。少女の目は輝きを増し、満面の笑みで少女は言った。
「おいしいよ! フェイト!」
「よかったわ。喜んでもらえて」
「お客さんも食べて! えーと」
「ルイだよ。早波瑠衣」
「ルイも食べて。フェイトの料理はね、すっごーくおいしいの」
僕は塩味のクッキーを口にする。
「すっごくおいしいでしょ?」
少女は言う。僕は自分の提案で塩味にしたクッキーを食べる。
『お母さんの料理はね、すっごーくおいしいの』
そんな少女の声がこだまする。まるでデジャヴのように。
「? ルイ、ないてるの?」
少女の指摘でハッと我に返ると、自分が泣いていることに気が付いた。
「本当だ、涙が出るほどおいしいよ、フェイト」
『本当だ、母さんの料理は何でもおいしい』
今日が初対面のはずなのに、思い出のように脳裏によぎる、フェイトとあいと僕の三人の食卓の風景。僕は涙を抑えきれず、嗚咽しながらシチューを平らげた。