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真・地獄転生リベリオン  作者: 木村さねちか
真・無職転生 新百合好きな僕は異世界に転生するときに可愛い女の子にしてもらいました。
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 十三話 豚耳エルフと理想郷

 僕がシンイチロー先生との打ち合わせに使っている洋食屋に到着すると、シンイチロー先生はもうパスタを食べていた。ついでに言えばビールも飲んでいた。

「先生、ビールは経費では落ちないんで」

 僕はそう言いながら座り、カプチーノを注文した。

「ビールだとなぜ駄目なんだ?」

「経理に訊いてください。というか常識的に考えてアウトでしょ。会社の金で飲むのは」

「次からは気を付けよう」

 そう言いながらシンイチロー先生はビールを一気に飲み干し、アイスコーヒーを注文した。

「お前もなんか食えば? 早波」

「いや、僕はいいです。打ち合わせに入っていいですか?」

「いいよ」

「ミスター・ソックスの着地点についてですけど」

「ああ、コウは心臓病で死ぬよ。で、チームは準決勝、ドイツ戦で負ける」

「変えられませんかね?」

「文句があるのか? コウの心臓病設定は一巻からでてる伏線だぞ?」

「だからと言って死ぬのは読者的にショッキングというか。死ぬにしてもそれでチームが奮起して優勝するとか」

「夢物語だな。他の作家がそんな原稿はいくらでも書く」

 シンイチローは譲らない。

「キャラを殺すのは作家としてもリスキーだと思うんですが」

「リスキーじゃない作品に存在価値はないな。俺の中には」

「……」

「……」

 睨み合う事数秒、シンイチローの意思の硬いことを悟って、僕は折れた。

「わかりました先生。その線で作業に入っていいです。正し、上から言われたなら直してください」

「五木編集長が言うならな。作家は所詮下請けみたいなもんだしな」

「そこまで卑屈にならんでも。僕らも作家性は尊重しますから」

「すまんね。趣味で書くタイプの作家で」

「趣味でもなんでも売れればいいんです。残念ながら先生は売れてない」

「ラストドラゴンは古いとお前にも編集長にも言われたからな。俺は目新しさで売ってない。古くても良いものは良い。評価されないのは俺が無名だからだ。同じ原稿を進撃の鎌田先生が書けば別の評価を受ける。分母が違うからな」

「趣味と言えば趣味丸出しの無職転生リベリオンはどうするんです?」

 シンイチローは顔をしかめて言った。

「あれはミスター・ソックスの最終巻が書きたくなくて書いたものだから、別に全没でいい」

「強引な展開とコンプライアンスの問題が解決するならプロットを読みますよ?」

「そこまで考えてない。コンプラはあれか、去勢がまずいと」

「そうです。もうちょっとソフトに、魔法で女子化させるなら僕は通します」

「俺はPTAに向けて書いてるわけじゃないんだがな。あと、もう一本企画があって、タイトルだけは出来てる」

「事実上ほぼ何もできてないと。一応次回作の企画書とプロットと設定資料用意してください。で、それのタイトルは?」

 シンイチローは決め顔で言った。

「豚耳エルフと理想郷」

「タイトルは悪くないですね」

「お前にそう思われる程度なら売れそうもないな」

「お世辞じゃなしに。締め切りは切らないで置くんで当面、ミスター・ソックスに専念してください」

「判った。ピザ食うか?」

「まあいいですよ。女房もちじゃないからここで済ませても」

 僕とシンイチロー先生はマルゲリータピザをつつきながらミスター・ソックス最終巻の打ち合わせをする。元々、ミスターソックスは単巻で書くつもりだったらしく、それの続きを書かされるのが相当苦痛だったと見える。打ち合わせは午後七時まで続き、僕はそこの領収書を切ってカバンにしまった。するとシンイチロー先生は言った。

「この後、時間あるか? 直帰だろ? 会社は」

「まあそうですけど」

「ミスターソックス完結祝いに飲むか? 俺のおごりで」

「僕で良ければ」

「バーとキャバクラ、それとスナック、どこがいい?」

「バーでしんみり飲みますか。ミスターソックスは事実上こちらで打ち切った作品ですし」

「そうか? 俺は気にしてないけどな。ラストドラゴンの続きを書かないのは、今の俺じゃあ書けないと思ったからだ。だから無職転生リベリオンなんて思いつきを書いた。ラストドラゴンは失敗したくない」

 そういうシンイチローの顔はいつもよりも精悍だった。

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