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「恋をする」シリーズ

第六王子は敵国のメイドに恋をする(後編)

作者: 雪ノ音リンリン

後編です。




それは、ミハイルがソフィーの元へ向かっているころ。元アクーラ王国玉座の間にて、現在は周辺各国の代表が集まり会議をしていた。


「では、元アクーラ王国の今後について議論していきたいと思います」


ホワール王国の宰相が議長となり、会議を進めていく。


「我がホワール王国は元アクーラ王国を吸収するつもりも、属国にするつもりもありません」

「なにぃっ!」

「ほったらかしにするつもりか?」

「それもおもしろそうだけどねぇ」

「いいえ、我が国からは学園都市設立を提案いたします」

「学園都市?」

「はい、文字通りこの国を完全な中立の学園の都市にしたいと考えています」

「壮大な計画ねぇ。この案は宰相が考えたの?」

「いいえ、我が王が立案されました」

「へぇあの坊やが」


ホワール王国の王を坊や呼ばわりする女傑は、ジルフィン皇国の第一皇女である。


「学園とは具体的にはどのようなものをお考えで?」


手巾で忙しなく額の汗を拭っている小太りな男は、民主主義の国、メドゥーザ国の外交官ある。


「もちろん具体的な案があるから言ったんだろう?」


にやにやと挑発的に笑うこの男は幻の国と呼ばれるカサートゥカ皇国の第三皇子である。


「具体的には、5つの学園を設立しようと考えています」

「5つ、というと?」

「学問、医学、戦闘術、農学、商学の5つです」

「それぞれ5つの国の得意分野を集めたわけね」

「はい」


ホワール王国は学問が、元アクーラ王国は医学が、ジルフィン皇国は農学が、メドゥーザ国は商学が、カサートゥカ皇国は戦闘術がそれぞれ発達している。その知識、技術は門外不出が暗黙の了解だったわけだが。


「それは私たちの持つ知識を晒せ、ということね」

「そうなりますね」

「見返りは?自国の民ならまだしも他国の民にまで知識を与える利点はどこにある?」

「教育とはいわば未来に投資することです。皆さんは停滞を感じたことはありませんか?」

「停滞・・・ですか」

「我々はこれまで他国との関りを最小限にし、自国の中だけで知識や技術を発展させてきた。だが、そこには限界がある。未来を担う子供たちにさまざまな教育を施し、それらを国に持ち帰りより豊かにする。それがこの計画の目的です」

「この話は一度持ち帰らせてもらうわ」

「俺も」

「私も」

「ずっと黙ったままだけど、あなたはどう思うの?エドアルト元国王」

「この国の民の血が無為に流れることなく、子供たちの未来があるというならば、是非もない」



ーーーーーーーーーーーーーーーー



会議の後、長い回廊で元国王が宰相を呼び止める。


「宰相殿!少しお時間よろしいか」

「なんでしょう、エドアルト殿」

「此度の件、本当にありがとう」

「・・・お礼なら、あなたの弟君に。この計画の本当の立案者はあの方です」

「そうか、あいつが。やはり俺の弟は天才だな」

「えぇ間違いなくあなたの弟は天才ですよ。私の見立てでは終戦まで最低でも5年はかかると思っていました。それをたったの2年で終わらせるなんて」

「宰相殿、ここで一つ相談なのですが。天才をこんなところで埋没させるのは世界の損失だと思いませんか?」

「なるほど。詳しくお話を伺いましょうか」

「では、こちらの部屋にどうぞ。紅茶を用意させます」


まるでいたずらを思いついた子供のようだった、と後に紅茶を入れたメイドは語るのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



ソフィーを連れて帰ってきたその日に、エド兄上からとんでもないことを言われた。


「と、いうことでお前が新しくできる学園都市の総括だ」

「何がと、いうわけで、だ!このバカ兄貴!」

「バカ兄貴は新鮮でいいな!」

「まぁまぁミハイル落ち着いて」

「ほら、未来の義妹殿もこう言ってることだし、な?そろそろ兄の胸ぐらをつかむ手を放そう?」


ソフィーに言われて仕方なく手を放す。


「で?なんでそんな話に?まだ学園都市計画も各国の承認待ちでしょう」

「俺にはわかる。この計画は必ず成功する」

「何を根拠に」

「それはお前の兄だからだ」

「・・・意味が分からない」


兄からの全幅の信頼にどう反応していいのかわからない。


「まぁ、総括の話は考えといてくれ。それでな、話はもう一つある」

「我が国の医学の提供の方法、ですね」

「その通りだ」

「知り合いの医者や学者に頼んではいるのだが、なかなかに排他的でな」

「でしょうね」

「何かいい考えはないか?」

「心当たりはあります」

「本当か!?」

「近いです兄上、離れてください」


至近距離に兄の顔が迫り、思わず眉をしかめる。あの距離を許せるのはソフィーだけだ。


「戦場で出会った衛生兵たちです」

「なるほど衛生兵か、盲点だった」

「彼らは医学・薬学の知識に富んでおり、なおかつ新しい知識に貪欲です」

「学園の教師になれば、研究室が与えられると言えばホイホイ付いてくるのではないですか」

「研究室か・・・」


エド兄上は俺と同じ金色の髪に紺碧の瞳を持っている。その人が長い脚を組んで顎に手を添えて思考する姿はなかなかに様になっている。なんとなく、この空間にソフィーをあまり長居はさせたくはない。ということで、面倒ごとは全て丸投げしようと思う。


「外で衛生兵を一人待機させています。衛生兵たちの中心人物ですので、彼が頷けば問題ないでしょう」

「話が早くて助かるよ」

「さっさとソフィーと二人きりになりたいので」

「未来の義妹殿の顔が真っ赤になっているぞ」

「見るな。減る」

「えー。ちょっとくらい・・・」

「いろいろ買いたいものもあるので何かあれば新居のほうに連絡ください」


ジャックとエド兄上に頼んで用意してもらった新居は、王城の奥にある森にひっそりと建ててもらった。家具など生活用品も用意してもらったので、あとは食材なんかを買えばすぐにでも住むことができる。


「いまこの国の民が飢えずにいられるのはお前のおかげだよ」


国の余力をほぼ丸ごと残したままホワール王国に降伏したため、民の生活は敗戦前とあまり変わらない。国力を落とさずに敗戦する、という当初の計画通りだが、この人は一つ大きな勘違いをしている。


「俺はこの国のためでもましてや民のために動いたわけでもありません。俺とソフィーが穏やかに暮らせる国を作るためにしたことです。俺のためにやったんだから感謝なんて不要です」


それに、と言葉を続ける。


「ソフィーと街に買い物に出かけるという目的のためでもありますからね」


俺けっこう有名人になっちゃったんで変装しなきゃいけませんけど、とおどけた口調で兄に言う。


「むしろ無理やり巻き込まれたエド兄上は俺に文句のひとつでも言ったほうがいいですよ」

「お前は素直に感謝を受け取らないよな」


エド兄上が俺の隣に座っていたソフィーに視線を移す。


「面倒くさがり屋だったミハイルがここまで動いてくれた、その原動力は間違いなく君だ。ありがとう、ソフィー殿、弟を選んでくれて」

「どうかお顔を上げてください、お義兄様。ここに来る道中にミハイルから聞きました。ホワール王国に留学できたきっかけは、あなた様の協力があったからだと。私の方こそ、ミハイルと出会わせてくださったこと、心から感謝申し上げます」


エド兄上がソフィーの言葉を聞いて、瞳を潤ませる。そして俺に視線を合わせると、まだ幼かったころに頭を撫でてもらったときのような優しい笑顔になる。


「こんな良いお嫁さんを連れてきて、いつの間にか大きくなってたんだな。ちゃんと、幸せにしてやれよ」

「はい」


ソフィーの手を握って力強く返事をする。いつの間にか自分より小さくなっていた兄は、昔憧れた優しい兄のままだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーー 5years later



「おいルカ!薬品棚の中身空っぽだぞ!ちゃんと働け!」

「あんた俺にだけいっつも当たり強くないですか!?」

「俺はあのとき決めたんだ。お前を馬車馬のようにこき使いまくると」

「俺なんかあんたにしましたっけ!?」

「アクーラ学園都市総括様と呼べ。ただでさえこの医学・薬学の"シェステ学園"は準備が遅れているんだ。2年後の開校までに間に合わなかったら減俸だぞ。ルカ・スミルノフ理事長殿?」

「なんで俺がこんな目に・・・」

「それはシェステ学園の理事長にお前を推薦した元同僚たちを恨め」


終戦からおよそ6年かけてようやくここまできた。各国の承認や、教師集め、都市建設など本当に大変だった。いつの間にか周辺各国代表会議で俺が学園都市総括になることが満場一致で決まっていた。当初の予定ではソフィーと二人、のんびり暮らす予定だったが、まぁこんな生活も悪くないと思っている。


「皆さん、そろそろお昼にしませんか?」

「ソフィー、体は平気か?言ってくれれば俺が迎えに行ったのに」

「えぇ、今日は体調が良かったから」


ソフィーのお腹の中には俺とソフィーの子供がいる。初めての子供なので右も左もわからないが、誕生の瞬間を今か今かと待ちわびている。


「予定日、もうすぐですよね?」

「えぇ」

「元気に生まれて来いよ~」

「おいルカ、お前に娘はやらんぞ」

「まだ娘か息子かもわかってないでしょうが」

「ねぇルカさん。聞いてもいい?」

「はい。なんでしょうか」


ソフィーと俺は以前からルカに対して一つ疑問を抱いていた。以前俺から尋ねたときは途中で邪魔が入って聞き出せなかった。


「縁談の話、断ったって聞いたけど・・・」

「あーそのことですか。なんか気を遣わせちゃってすみません。俺、一生独身って決めたんですよ」


泣きそうな顔をしながら笑う。


「なぜ?女嫌いってわけでもないんだろう?」

「そうですね・・・忘れられない人がいるんです。会ったのはたった一度きり、ほんの数時間程度ですけど、それでも」


忘れられないんです、と辛そうな声だった。


「その人は、いまどこに?」

「風の噂で、亡くなったと聞きました」

「そう・・・辛いことを聞いてごめんなさいね」

「そういうことならこちらでお前の縁談話を断っておく」

「総括が優しいなんて・・・明日は槍でも降るんじゃ」

「そんなに俺に斬られたいのか、お前は。まぁこれでもお前には感謝しているんだ」


お前のおかげで、俺の身勝手な計画の犠牲者が少なく済んだ。


「その女の名は?」

「なぜ、そんなことを?」

「墓の場所くらいは特定できると思ってな」

「・・・彼女の名は、」


その名前が、あのお人好しの護衛騎士の名前と同じだった時には驚いた。そしてこの話から彼女の埋葬されている墓を探し、どこにもないことが判明。その後さらに友に頼んで調査を進めると、彼女が生きてホワール王国の花屋で働いていることがわかった。



終戦から七年後、ルカとラリーサの出会いから実に八年が経過していた。

学園都市邂逅の2か月ほど前に、彼女の居場所が書いてある紙をルカに渡す。


「ここにお前の探し求めていた彼女がいる。開校までに連れ帰ってこい」

「はい!!!」


俺の手から紙を奪い、着の身着のままで飛び出していくルカの背を、ソフィーと2歳の娘とともに眺めていた。


「うまくいくと思うか?」

「大丈夫よ。だって、あなたの計画を狂わせてくれた2人なんでしょう?」

「そうだな。あの二人なら、きっと大丈夫だな」

「だいじょぶ!」


俺たちの真似をして話す娘の頭を撫でながら、家族3人で見送るのだった。




なぜ再会まで8年もかかったのか、それは「赤鬼は死んだ」という噂が流れていたからです。それを聞いてルカは、ラリーサは死んだと思っていました。

「恋をする」シリーズを読んでくださり、ありがとうございます。たまにこのシリーズを更新していこうと考えています。

(追記)5月31日に「恋をする」シリーズ三作品目、「モノクロ王女は薬学教師に恋をする」を投稿します。主人公は本作の主人公ミハイルの妹と、ちらちら出てきている衛生兵のイザークです。

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[一言] よかったです。恋するシリーズまたでたら、読んでみたいと思いました。ありがとうございます。
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